湯上がりで艶のある濡れた髪にシュシュだけ巻きつけて、血色のいい肌をお揃いのシンプルなパジャマで覆った二人が上がってきた。これも雪ノ下がピンクで由比ヶ浜が青の単色だ。由比ヶ浜は少し恥ずかしそうに雪ノ下の陰に隠れて、普段お団子を作ってる辺りの髪を手櫛で梳いている。
「比企谷くん、着替えは脱衣かごに入れているから。バスタオルとタオルも出してあるし、見れば分かると思うの。シャンプーやボディーソープは好きに使ってちょうだい。今着ているものは洗濯機に入れておいてくれればいいわ」
「分かった。まあ、すぐに上がるつもりだ」
「急ぐ必要はないわよ。今日は誰の邪魔も入れさせやしないから」
「…………おう」
なんてことはないやり取りのはずなのに、どう考えてもシャワーのことのはずなのに、ギリギリまで答えの模索に藻掻き続けることを許されたのかと一瞬だけ錯誤してしまった。雪ノ下の浮かべた優しい笑みと、二人が上がるまで続けていた別解探しのせいだろうか。
――本当に、度し難い。
「ああ、そういえばバスルームの場所知らないわよね。こっちよ」
そう言ってふいと背を向け、先導する。思索に気を取られて反応の遅れた俺に、由比ヶ浜は照れながらも微笑みかけて促してくれた。この内心が漏れぬよう注意して、雪ノ下に付いていく。
由比ヶ浜も雛鳥のごとくとてとてと俺の後ろに付いてきた。すぐそこなんだから要らねえだろと思いつつも、離れないでいようとしてくれることが嬉しくもあった。
二人の美少女に見守られながらバスルームに入る目の腐った男という中々にシュールな図式が今ここに。手早く服を脱いで洗濯機に放り込もうと蓋を開けると、中にさっきまで二人が着てた服らしき色彩の上に半透明な洗濯ネットのようなものとそれに包まれた何かが視界に入って脊髄反射で閉じよゴマ。音を立てて閉じた蓋が洗濯機内部の空気を圧搾して、そこに篭った二人の匂いがこぼれてくる。さっき見えたものと甘やかな匂いが頭のなかで繋がって、顔が茹で上がるのを止められない。
待って。え? 雪ノ下洗濯機に入れとけって言ってたよね? 聞き違いじゃないよね? どういうことなの。さっき力尽きるまで抱き合ったからかなり汗掻いてるよ俺。どうしようこれ。
全裸で脱いだ服を片手に固まること暫し、着替えが詰まった脱衣かごを洗濯機前まで引っ張ってきて、着替えの代わりに入れることにした。……選んでとは言われたがまさか下着からパジャマまでSMLXL各種取りそろえているとは思わなかった。いやSサイズはないだろさすがに。しかしここまで用意してくれたのに、脱いだ服をグシャグシャにぶん投げておくのも気が引けた。せめて畳んで入れておこう。
そうやって洗濯機に気を取られていたのがまずかったのだろう。脱衣所から風呂場に続く曇りガラス張りの折戸を開き無思慮に踏み込むと、熱気と湿気で強まった二人の残り香に包まれた。
先刻に倍するむせ返るような甘い香りが脳髄を直撃し、ここにいない彼女たちを強く意識させてくる。むしろ目の前にいないからこそ、嗅覚だけが歪に強く二人を感じている。
そうして今更になってここが風呂場であり、少し前まで彼女たちがここで一糸まとわぬ姿でいたという当たり前の事実を認識した。それを掻き消すためにシャワーを全開にして頭から打たれ、多湿の空気を深く吐く。考えるべきじゃない。考えちゃいけない。こうやって三人で過ごせるのは今日が最後かもしれないんだから。そこに邪な感情は持ち込むべきじゃない。何よりあれだけ真剣に決着を付けたいと告白した雪ノ下の決意を汚すことは許されないし許さない。
激しい音を立てる湯を浴び続けながら、勢いのまま流れていくそれをじっと見つめる。淀んだ感情はきっと、こうもさらりと流れてはくれないのだろう。