風呂上がり、落ち着くためにも時間を掛けてきっちりと水気を拭う。大した効果も出ないまま、雪ノ下が用意してくれた服を着てリビングまで戻る。結論から言うと、風呂場でまともな考え事はできなかった。そりゃそうだ。
扉を開けると、二人の視線が俺に向く。リビングでは雪ノ下と由比ヶ浜が穏やかに談笑していた。母親の膝に寝そべりながら話をせがむ幼い娘のような構図に、自然と頬が緩む。俺ら全員同い年なのになあ。
「悪いな。待たせた」
「急がなくていいと言ったはずよ。何か飲む?」
テーブルを一瞥して、尽きていないジュースの瓶に目星をつける。一応どれも僅かながら残ってはいるようだ。
「そうだな、みかんジュース貰えるか」
酒は駄目なんで。……これ、平塚先生と材木座しか分かんなかったっけなあ。
「あたしつぐよ」
横座りした雪ノ下の腰にもたれかかった由比ヶ浜が、雪ノ下の身体を伝って起き上がり瓶を手に取る。そのまま黄色のティーカップに注ぎ、瓶が空になる。
「ありゃ、なくなっちゃった。ゆきのんは何飲む?」
「そうね……林檎にするわ」
「じゃああたしぶどうジュースにしよっかな」
由比ヶ浜がりんごジュースの瓶を手に取ると、雪ノ下もぶどうジュースの瓶に手を伸ばす。二人がお互いのティーカップにお互いの液体を流し込んでいる間に俺も元の位置に座った。
綺麗に全部の瓶が空になり、各自がティーカップを手にする。
「あたしが青、ゆきのんがピンク、ヒッキーが黄色。ジュースもだ!」
「……いや、りんごジュースは黄色だろ。みかんジュースも黄色というより橙だし」
オレンジ色っていうくらいだろ。まあ食いすぎると手は黄色くなるけど。
「いいの! りんごって赤いじゃん。それに、みかんだって赤よりは黄色いよね?」
「いいのかよそれで……」
「理屈も何もあったものじゃないわね」
「あたし、ヒッキーにこれ貰ってから青色が好きになった気がするんだ。それにゆきのんがピンクなものを付けてるとなんか嬉しくなるの」
「むぐ……」
言葉に詰まる。この子はまたなんつー事を嬉しそうに……。
「そうね……」
と、雪ノ下も由比ヶ浜の発言に反応してぽつりと零す。
「去年のクリスマスから、ピンク色に少し目が行くようにはなったかもしれないわ。それと、由比ヶ浜さんの青色にも」
俺に流し目を送りながら、雪ノ下はシュシュを巻いた髪を一房、軽く指で擦り上げる。
「……そか」
視線の重圧に耐えられなくなって、ティーカップを呷る。酸味のある甘い液体が喉を滑り落ちていく。二人に見せつけるように一つ大げさに息を吐いて、話の区切りだと言外に主張する。
由比ヶ浜と雪ノ下は目を見合わせて苦笑し、一息に飲み干した。
ただ、俺も今日から少しだけ黄色が好きになれそうな、そんな気はした。
「歯磨きして寝ましょうか」
「おう」
「うん」
雪ノ下は立ち上がってキッチンに向かい、程なく三人分の歯ブラシを持ってくる。洗面所を交代で使い、就寝の準備が終わる頃には四時を回っていた。
いざ寝る段になって、はたと気付く。
「雪ノ下、俺はどこで寝ればいいんだ?」
何の気なしに聞くと、雪ノ下は目つきを鋭くして真正面から俺を見る。想定外の反応に面食らっていると、雪ノ下は浅く息を吸って吐き、また吸って。
「私のベッドよ」
そう、答えた。