Re:ゼロから始める鬼狩りの異世界生活   作:タロ芋

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4 もはや貴様を捨て置けぬ

「…………ふむ、軽い凍傷と切り傷だな。この程度ならすぐに治るだろう」

 

「そ、そうなの? 良かった……」

 

「まったく。誰かが話を大人しく聞いてくれればこのような事にはならなかったのだがな」

 

「いやー、ごめんねハナヨ〜。リアが勘違いしちゃって〜」

 

「まったく、親ならこの間違いを正して欲しいものだ」

 

「あはは〜、耳が痛いよ〜」

 

「うっ、ごめんなさい」

 

 余波でズタボロになった3人を華代が診察し、エミリアが治療する。気絶から目を覚ました3人から話を聞き、誤解をようやくとくことが出来た。

 

 3人組曰く、見たことの無い格好の目つきの悪い黒い髪の男に気絶させられたのことだ。

 自分たちがいかに善良で無害な存在かを強調し、そしてその男がいかに悪いかを身振り手振りで純粋な少女、エミリアに話し彼女は真摯にその話を聞いて、男に向けね怒りを露わにしていた。のだが、残る華代と謎の生物パックはこのチンピラたちが正反対のことを言ってるかを理解していた。というか華代自身、こいつらの被害にあった。

 

 ということで至って紳士的に──パックは氷柱を突きつけ、華代は切っ先を向けた──聞きただすと、チンピラたちは顔を真っ青にして「す、すいませんしたー!!」と叫んで走り去って言ってしまう。

 

 尚、その嘘に見抜けなかったエミリアはショックを受け見事に方を落としていた。

 

(それにしても、変な格好に黒い髪か……。もしかしてアイツか?)

 

 裏路地に入る前にちらっと見たけ1人の人物を思い出し、意外と武闘派ということに驚いていると、パックが浮遊しながら華代に近づいてきた。

 

「それにしてもハナヨってば加護もない普通の人間なのに強いね〜。どこでそんな剣術を学んだの?」

 

「ん、私の故郷の技術だ。鍛錬を積めば誰もが岩くらい容易く切り捨てることが可能だ」

 

「へぇ、それは凄いね〜。さっきの独特な呼吸もそれに関係してるの?」

 

「そこについては黙秘させてもらおう。それよりも、私はまだ許した訳では無いぞ?」

 

「……ごめんなさい」

 

 肩を竦め、それとなく探りを入れてくるパックの問答をかわしつつ、華代は先程から同じことを言うエミリアをなんとも言えない目で見る。

 

「はぁ、エミリアといったか? 頼むからそんな顔で私見るな……」

 

「……ごめんなさい」

 

「パック……、君の娘をどうにかしてやれ。さっきから同じことばかり言っていて会話にならないのだが?」

 

「あはは、リアは絶賛罪悪感の真っ最中だね。

 君が言ったみたいに人の話を聞かずに悪い人認定したのがだいぶ効いちゃってるみたい」

 

 話を聞けば、どうやらこの謎生物は人の心をある程度理解することが可能のようだ。つまりは最初から気がついていて、あえて何も言ってなかったのだ。

 その話を聞いた瞬間、思わずコイツ叩き切ってやろうか? と思ったが「だって、リアに教える前に君ってば攻撃してきただろう? ならまずはおしおきが必要だと思ったんだよね。それに、君ってば無傷だからノーカウントってやつさ」と悪びれることも無く釈明し、青筋を浮かべつつも平常心を保って華代は刀を握る手を下ろすのだった。

 

 そして、顔を真っ青にしてこちらの顔色を伺う少女を見て、怒るに怒れず溜飲を飲み干す。

 

「はぁ、エミリア。私はもう怒っていないし謝罪は必要ない。君の性格はとても善良で心の優しいというのは分かるが、少々決めつけがすぎる。確かに、今回はそうなってしまうも分かる。だが、何事もまずは先入観に囚われず、相手の話を聞いてきちんと理解してからやるんだ。わかったな? 君はまだ若い。子供とも言えるだろう。私も二児の子を持つ親だからな。

 子供はその失敗は次に生かし、そして糧とするんだ。いいな?」

 

「うぅ、ごめんなさいハナヨ……」

 

「だから謝罪はいらないと……はぁ、もういい。私は用事があるから先に行く。もう会うこともないだろうがな」

 

「あ、待ってハナヨ! その、私が手伝えることがあるならなんでも……」

 

「ない。…………ちょっとまて、そんな捨てられた子犬のような目で見るんじゃあない。私が悪者みたいではないか」

 

 エミリアの提案を即切り捨てると、この世の終わりとばかりに絶望した表情を浮かべ、華代はいたたまれない気持ちになる。

 

「ンンッ、とにかく。私に構ってる暇は無いのだろう? たしかあの少女に盗まれたものがどうとか言っていたようだが」

 

「あ、忘れてた!! 早くあの子を捕まえなきゃ!」

 

 華代言われ、慌て始めた彼女を見て本当に忘れていたことが分かり、額に手を当てて頭痛がする頭を抑える。

 

「うぅー、お詫びができないなんて申し訳ないわ……

 そうだ! もし何かあったらここに来て。力になれるはずだから!」

 

 そう言って彼女に何か書かれたメモ用紙を渡される。だが、この国の文字の知らない華代は聞き返す。すると、どうやら紙面には「メイザース領 エミリア」と書かれているらしい。

 

「ふーむ……。一応、もらっておこう」

 

「うん、じゃあハナヨさようなら」

 

「ばいばーい」

 

「ああ。出来れば今度はもっとマシな出会いを期待するよ」

 

 ということで、彼女たちと別れて貧民街へと向かおうとしたのだが……

 

「……君たちはなぜ着いてくるのだ?」

 

「僕達も用があるのが貧民街なんだよねぇ」

 

「だって、あの子が逃げていった方向がこっちなんだもの」

 

 てなことがあり、別れるのはまだ先になるのだった。

 

 

 〇

 

 

「ハナヨってここだとあまり見ない格好してるけど、どこから来たの?」

 

「ん、日本という所だ。島国だが四季があり、風情ある素晴らしいところだ。あと私の妻と子供がいる。これが一番だ」

 

「そういえば君ってさっき二人の子供の父親って言ってたね〜」

 

「ああ。とても可愛い娘たちだ。もちろん、妻も愛らしい女性だ自慢の家族でもある」

 

「惚気てるねぇ。でも気持ちはわかるよ僕のリアもとっても可愛いからね」

 

「そこについては同意しよう。君の娘はとても可愛らしく、心の優しい子だ」

 

「パ、パック! ハナヨ!」

 

 パックと共に自分の家族を自慢をし、本人を前にして聞いていたエミリアは顔を赤くして声を上げる。

 二人と1匹はそんな会話をしつつ、裏路地を進む。どうやら、彼女たちも進む先は本当に同じらしく最初は無言で歩いていたが、さすがに居心地が悪そうに何度も華代と会話をしようと口を開いたり閉じたりしていたエミリアを見て、思わず口を開いてしまったのだ。

 

 なのだが、土地勘のない華代はともかくエミリアも貧民街までの道を知らなかったのは予想外で何度も道を引き返したり行ったり来たりを繰り返してしまう。

 

 刻一刻と逆行する時間へと近づいていき、それに釣られて華代の足も早くなる。

 既に日差しは傾き、空も夕暮色へと変わっていく。

 焦燥感が次第に強くなっていき、残り時間が数少ないことをヒシヒシと感じながら足取りを進めていくと、とある建物をみつけ足を止める。

 

「あれか……?」

 

「ん、あの子のマナが感じられるね。見た感じ盗品蔵かな」

 

「ハナヨも同じ場所を目指していたのね」

 

「なぜ君が嬉しそうなのかはよく分からないがね」

 

 それは外観は寂れているが、周囲の建物とはちがってしっかりとした造りになっている酒場だった。

 だが、今は光は点っておらず酒場として機能しているかは不明だ。

 

 あの建物の中からは、あのおぞましい気配が感じ取られ、生き物の気配は1つしか分からない。

 心の中で警戒心を強め、刀の柄へ手を添えて近づいていく。

 

 その間に、おぞましい気配とは別に嗅ぎなれた臭い(・・・・・・・)に気が付くと、華代は鬼殺の剣士としての顔を見せる。

 

「あ、待ってハナ、ヨ……?」

 

 鬼殺の剣士は酒場へと歩み寄り、エミリアがそれに声をかけようとした。が、道中での雰囲気とは大きく変わった1人の戦士としての空気に気圧され、それに追随することは出来なかった。

 

「…………」

 

 扉の前に立ち、静かに扉を開ける。立て付けが悪く、ギィ……と音を伴いながら、地獄の釜の蓋があくかのごとく薄暗い内部を外気へと晒す。

 それと比例し、おぞましい気配と甘ったるい匂いに血の匂いが混ざり会い、嗅覚が麻痺しそうになるほど不快な臭いが鼻腔を刺激した。

 

 しかし、それ以上に目の前の光景で理解していたとはいえ言葉を失う。

 

「ッ……」

 

 3つの人影が力なく倒れ、それぞれからとめどなく赤い液体を流し、酒場の床を赤く濡らす。

 そして、死角からはヌラリと血に濡れた凶刃が現れ、無防備なその首筋へと振り下ろされ────

 

「!!」

 

 ───る、事はなく寸前に抜き放たれた日輪刀がその刃を弾き飛ばし、その下手人へと蹴りを放つ。

 酒場の壁をぶち破り、常人ならば内蔵が破裂し即死しかねないほどの強さで攻撃されたというのに、その黒い人影は華代とエミリアの間に転がりながらも獣のように4本の手足で着地する。

 

「あらあら、とても力強い挨拶ね。フフ……、それと精霊もいるなんて素敵だわ」

 

 女だった。黒い露出度の高いドレスに身を包み、同色の外套を纏う妖艶な女性。

 何も無い時であったのならば、ただの美しい女性程度としか思わないが、今はその手には血に濡れた不釣り合いな大きさのククリナイフが握られ、先程の不意打ちに口から血を垂らしているが対して気にしておらず、あまつさえ舌なめずりをして恍惚な声を漏らすさまには嫌悪感を覚える。

 

「ねぇ、彼女って君の知り合い?」

 

「そんなわけが無いだろう。こんな知り合いがいてたまるか。それと、初対面だが既に私は彼女のことが嫌いだ」

 

 自分の開けた大穴から出てきた華代にパックからそんな軽口が飛んでくるが、不快感を隠そうともしない声で答えた。

 

「あら、なら今から知り合いね。あなたのその力や精霊使いも魅力的。フフッ、素敵な出会いに感謝するわ」

 

 そう言うと、女は自然体でエミリアへと接近し、その細い首筋にナイフを振るうが、

 

「はい、ダメー!」

 

 パックが氷の盾を作り出し、甲高い音を響かせ防ぐとお返しとばかりに氷柱を射出。

 女を貫こうとしていた三本の氷柱だが、それを難なく女は後ろへと跳ね、軽やかにかわす。

 

「つれないわ。そこの彼と同じように挨拶をしただけなのに」

 

「はぁ、そういう挨拶は狂人同士にしてくれるかな。リア、君が襲われてるんだからしっかりしないと」

 

「あ、う、うん。ごめんなさいパック。でもハナヨ、どうしてこんなことに?」

 

 混乱の真っ只中にいたエミリアはパックからの言葉──その発言では、華代も狂人の枠組みに入る──に動揺しながらも、戦闘態勢へと入り両手を女に向ける。

 エミリアからの問に華代は刀を構え、対応できるよう警戒を緩めず返答した。

 

「私たちと同じようにあの酒場に用があり、そしてあの惨劇を生み出した。違うか?」

 

 華代の推察を聞くと、エミリアはハッとした顔となり大穴の空いた酒場に視線を向けた後に女に向ける。

 女は肩を竦め、苦笑すると答え合わせをするかのような気軽さで述べた。

 

「別に強奪しようとはいかなかったのよ? 私はただの依頼主。けど、あの子はそれを出来ずに、あまつさえ不備があったのよ?」

 

「その程度であんな子供を殺すというのか貴様は?」

 

「ふふっ、交渉というのはとてもシビアなものなの。

 私は本職は違うのだけれど、あの子は欲張りで別の取引相手を用意して釣り上げちゃったの」

 

「それって、もしかしてあの女の子のこと……?」

 

「あら、知ってるのね。ええ、天使様に合わせたあげたわ」

 

「ッ!!」

 

 あっけらかんに言う女の言葉に、エミリアは言葉を失い肩をふるわせる。

 そのことで、あの少女含め関係者全てが既にこの世を去っているのを察し、義憤に燃える瞳が女を射抜く。

 

「たとえ人だとしても、もはや貴様を捨て置けぬ。今ここで斬り捨てる」

 

 目の前の存在を人ではなく、鬼と同様の異形と見定め華代はその切っ先を向けた。

 

「フフフ、素敵よ。なんて素敵な視線なのかしら。昂ってしまうわ!」

 

 そして、女が外套をはためかせ華代へと斬りかかり戦闘が始まろうとした所で───

 

 

 世界が

 

 空が

 

 時間が

 

 歩 み ヲ、

 

 と め た

 

 

「なっ、まだ夜では────!」

 

 最後まで言い切る間もなく、一瞬で世界を甘い匂いが包み込み華代の意識だけを残して巻き戻していく。

 

 もう一度、己の歩みが全てゼロへと返される様を見せつけられるのはひたすらに神経を逆撫でし華代は抵抗するすべもなく見つめるだけしかできない。

 

 2度目となっていても、なれることの無い拷問は続く。

 エミリアとの出会い、チンピラたちを治療したこと、会話をしたことや少女と、目つきの悪い男との邂逅も全てが無に返す。

 

 

 永遠にも等しい拷問は最終的に、華代だけを残し全てがゼロへと戻り、同じ位置で少しの間立ち竦むことになった。

 

 

 〇

 

 

 日陰に座り、道行く人々を見送りながら出来事を反芻する。

 気分を紛らわすため、その手には近くの果物屋から拝借したリンゴがあり、それを齧りながら思考をめぐらす。

 

 逆行する時間は夜のはずだった。だが、2回目は夕暮れ時に変わった。理由はなんだ? 

 1回目と違うことをしたからか? 

 

 原因は恐らくはあの酒場だ。

 そして、自分かもしくは別のことが引き金となって逆行が始まる。

 

 しかし、だとしたら途端に規則性がなくなり予測もくそもあったものでは無い。

 

 逆行の原因となる存在が同じことをしたければ、それだけで難易度は跳ね上がる。だが、変わらないことは一つある。

 それは『黄色い髪色の少女がエミリアからとあるものを盗む』『エミリアがそれを追い掛ける』『そして、盗品蔵にたどり着く』という流れだ。

 

 着くならばそこしかない。ならば、善は急げとばかりにリンゴを食べ終え、立ち上がると華代は心は痛むが迷子の女の子を無視し貧民街に向けて足を動かす。

 その時、

 

 

「ま、待ってくれサテラ───!!」

 

 憔悴し、動揺し、後悔の混じった声が往来から響く。

 それにより、場が一瞬で静まり返り静寂が場を支配した。

 

(なんだ?)

 

 視線を向けると、その騒ぎの中心には酷く懐かしく感じる服装の目つきの悪い黒髪の少年と、言葉を交わし短いが友好を結んだ白い少女、エミリアが立っているという光景が目に映るのだった。

 




異世界こそこそ噂話
華代が戦った上弦の鬼は堕姫・妓夫太郎の前任。
能力は死角から死角へと瞬間移動し、物量とオールレンジ攻撃で反撃も許さず攻め落とすゴリ押しなタイプ。
攻撃に使うのは大気中や地中にある物質を結晶化させたもの。これは金剛石によく似ており、硬さも目を見張るものがある。

厄介な敵であったが、華代の「千里眼」と上弦に成り立てだったことによる油断と慢心を付け込まれ、彼と相打ちにもっていかれて頸を跳ねられることになる。

見た目は僧侶の服をまとった若い女で、涙のような化粧をしている。
コイツの結晶で作られた像は無惨が気に入っており、コイツが華代に倒されたと聞いた時は下弦の鬼に八つ当たりまがいのパワハラをかました後に、堕姫・妓夫太郎が上弦の陸に繰り上がった。哀れ下弦の鬼たち。
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