「さて、話を戻すことにしようかスバル」
「ア、ハイ。あのー、ハナヨさん……? あいつら死んでませんよね?」
「少なくとも当分は目を覚まさんな。むしろそうしてくれないと困る」
「デスヨネー」
手のホコリを払い、幾分かスッキリした顔色の華代。
その背後では全身を滅多打ちにされ、白目を向いて立ったまま気絶しているチンピラ3人組がいた。
哀れにも、この3人は度重なる逆行によるストレスにより爆発寸前となっていた華代の逆鱗に触れた罪で、立ったまま気絶するほど殴られ続けたのである。
その時ばかりはスバルもチビりそうになった。というか少しだけ下着が湿った。
「(やべぇよこの人、何がやばいって最初にトンを殴った時に踏み込んだのは見えたけど、早すぎて移動した瞬間見えなかったし、あの巨体を5mくらい上空にぶっ飛ばしてたぞ!?)」
その細い体のどこからそんな力が出るのか、スバルは戦々恐々としつつ頼もしさも感じているのだった。
「それにしてもコイツらをどうしたものか……。転がしていくのもいいが、似たような連中に追い剥ぎされると些か後味が悪い」
「自分でやってそれ言う!? ……いえ、なんでもないです! だからその目が笑ってない笑みを向けないでくださいませう!」
「ならイチイチ茶化すんじゃあない。はぁ、表に寝かしておけば、誰かが衛兵に突き出すだろう」
ため息を吐き出し、伸びてる3人組を表のとおりに放り投げようと近寄ると。
「なにやら騒がしく思ってきてみれば……、こればどいうことかな?」
凛とした声が聞こえた。そちらに顔を向ければ、圧倒的な存在感を放つ存在がいた。
目を惹くのは、燃え上がる炎のように赤い頭髪。
その下には真っ直ぐで、勇猛以外の譬えようがないほどに輝く青い双眸がある。異常なまでに整った顔立ちもその凛々しさを後押しし、それらを一瞥しただけで彼が一角の人物であると存在が知らしめていた。
すらりと細い長身を、仕立てのいい黒い服に包み、その腰にシンプルな装飾──ただし、尋常でない威圧感を放つ騎士剣を下げている。
そして、今はその瞳には困惑の色が滲んでいた。
「誰だ、貴殿は?」
華代が尋ねると、その赤髪の青年は名乗るのが遅れたね、と言うと胸に手を添える。
「僕は"ラインハルト"。初めまして、見慣れぬ方々」
青年、ラインハルトは爽やかな笑みと共にそう名乗った。
〇
とりあえずは華代はラインハルトにかいつまんで事情を説明する。
「───なるほど。確かに襲われて抵抗したのは構わないが、自衛もいき過ぎれば罰になる。
彼らからしたら命を取られないだけで儲けものだが、次からは衛兵などを読んで欲しいね」
「反省はしている。だが、後悔はしていない」
「ちょ! すんません、ほんとにすんません! 今度は止めさせるんでほんとすんません!」
「スバル、いくらお前自分の頭が下げるくらいの価値がくそほど安くても、そんなペコペコやるんじゃない。男なら上を向け」
「誰のせいだと思ってんだコノヤロウ!」
「ハハハ、とりあえずはあの3人は僕が詰所に連れていくよ。ところで、スバルとハナヨは珍しい服装に名前だね。2人はどこから来たんだい? 」
「どこからかって言われると答えづらいんだよな。東の小国って設定はダメ出し食らったから……」
「日本だ」
「ちょぉい! なんでそんなあっさり言うのかね!? ここは隠れ里的な感じでさ」
「別に出身地を遠回しに言う必要ないだろう。極東の小さな島国だラインハルト殿」
そんな漫才な会話を繰り広げつつ、彼を見ると意外にも顕著な反応を返す。
「ルグニカより東……まさか、大瀑布の向こうって冗談かい?」
「大瀑布?」
「この大陸の四方を囲む巨大な滝だ。詳しいことは私も知らん」
と言っても詳しくは知らないが、華代は初めて聞くと言った感じのスバルにそっと耳打ちする。
「うーむ、そう考えると異世界でも同じ場所でばっかひきこもってんのか、もはや天性のもんだぞこれは……持ってるな、俺」
「それはなんとも救いようがないな」
「息を吐くように罵倒しないでくれませんかねぇ!? なまじ声がいいから俺が女だったらゾクゾクしてたわ」
「ハハハ、妻や子からも私の声は好評だ」
「オマケに子持ち!? イケメンで子持ちとか人生勝ち組かよ……」
スバルは隣に立つ存在がいかにリア充かを感じ、勝手に精神的ダメージを喰らって膝を着く。控えめに言って反応がいちいち大きいからやめてくれ、と華代は1人思った。
「誤魔化してるってわけでもなさそうだけど、そこはいいか。とにかく、王都の人間じゃないのは確かみたいだけど、何か理由があってきたんだろう? 今のルグニカは平時よりややこしい状態にある。幸い、僕は今日は非番でね。僕でよければ手伝うけど……」
「いや、必要ない」
「なっ、おいハナヨ……」
ラインハルトからの提案を断り、スバルが抗議の声を上げた。
少しの間、その蒼い双眸と紅い双眸が見つめ合い「そうか」とラインハルトは落胆することなく、答える。
「──確かに、1人であの3人を相手にできるのなら僕が注力する必要は無いかもね。
でも、僕は王国の民でなくても無辜の人々を守る騎士だ。何かあったら、僕は必ず駆けつけて見せよう」
「すまないなラインハルト殿。貴殿に幸あらんことを」
ラインハルトは3人を縛ると、そのまま引きずっていき華代はそんな彼を見送る。
「なぁ、別にラインハルトに手伝ってもらっても良かったんじゃないか?
アイツがどれだけ強いかは分からないが、この先だってアイツが……」
「確かに彼がいれば楽に済むだろう。それだけの力を彼は持っている。お前が心配する相手のこともだ。だが、お前と私が向かう場所では彼のような法の元に生きる者がこれからやることを見過ごすと思うか?」
「……それは、そうだけどよ。悪い案じゃないと思うぜ?
アイツは俺と違ってアンタみたいなイケメンだし。性格もいいしイケメンだし。これから何か縁を使っておいたほうが御の字だと思うぜ。あとイケメンだし」
「どれだけ顔にこだわるのだお前は……。あとひとつ言っておくぞ、人は顔ではなく内面を見ろ。私からの助言だ」
「そういうアドバイスするのはだいたい顔が良い奴なんだよなぁ」
「そこはまぁ、うむ……」
華代からしたら彼と共に行くのは構わなかった。なぜなら雰囲気からでも分かったが、彼は自分以上の力をその身に秘めているのがヒシヒシと伝わってきたからだ。
だが、これからやることに彼のような不確定要素はできる限り排除したかった。それに、あの殺人鬼は幾ばくが剣を交えたが、自分でも対処可能だと良そうしている。
「はぁ、安心しろスバル。私はこう見えても所属していた組織ではかなり腕の立つ方だからな。私の目の届く範囲ならばお前を守りきってみせるさ。なに、子供を守るのも大人の務めだ」
「おう、じゃあお言葉に甘えるぜ。先に言っておくが戦力外通告ウケるくらい俺は弱いからな。頼りにしてるぞハナヨ先生」
「……自分で言っていて悲しくならないのかそれ?」
「……何も言わないでくれ」
そんな軽口を言いつつ、2人は昼の太陽に照らされた盗品蔵の前に着くのだった。
異世界こそこそ噂話
華代がスバルくんにたいしてこんな対応なのは、スバルくんも大概失礼な対応をしてるからだ!
多分、アホなことや空気読めない発言を無くせばだいぶ優しく相手してくれる。