Re:ゼロから始める鬼狩りの異世界生活   作:タロ芋

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感想、評価、あざますなのだわ


8 貴様も知っていたのなら言っておかぬか戯けェ!!

「よかった、いてくれて。……今度は逃がさないから」

 

 踏み込んで来たエミリアと、後ずさるフェルト。

 ここからはその表情は見えないが、苦虫をまとめてかみ潰したかのような苦々しい表情に歪めていることは想像にかたくない。

 

「ホントに、しつっこい女だな、アンタ」

 

「盗人猛々しいとはこのことね。神妙にすれば、痛い思いはしなくて済むわ」

 

 エミリアの声の温度はひどく冷たく、背後には複数の氷柱が浮いておりその先端はフェルト、ロム爺、スバル、華代に向いていた。

 

 部屋の気温が急速に下がりだし、スバルはカタカタと身体を震わせ吐き出す息は白くなっている。

 

「うむ……、ご馳走様でした」

 

「なぁ、こんなピリピリした場面でマイペースすぎねぇ? ていうか俺の分くらい残してくれても良かったじゃん……」

 

 そんな空気の中で寒さにより、二の腕を擦りながらスバルは席に座って料理に舌鼓をうっていた華代に弱々しく突っ込む。

 

「食える時に食っておくことは大事だぞ?」

 

「だからって時と場合をだな……。いや、俺が言えるギリじゃねぇけどさ。だぁー、というかアレか? 彼女は俺がいなかったらこんだけ早くたどり着けたってことかよ…………」

 

「やったなスバル。お前の役立たずぶりが証明された訳だ」

 

「クソッ、何も言えねぇ自分が情けねぇ」

 

 時空を超えてスバル自身の役立たずぶりが証明されてしまい、追い討ち度ばかりに華代の言葉がクリティカルとなってガクリと肩をおとすが、そんな彼を置き去りに自体は進行していく。

 

「私からの要求はひとつ。──徽章を返して。あれは大切なものなの」

 

 エミリアは自分の要求を告げ、応じなければその氷柱がどうなるかは想像にかたくない。

 万事休すとばかりにフェルトはロム爺へと視線を向けるが、

 

「クソッ、ロム爺……」

 

 カウンターにたっていたロム爺はいつの間にか、その手に棍棒が握られているが、どうにも頼りない。

 その視線はエミリアに向けられ、華代は彼から怯えの感情を感じ取る。

 

「動けん。厄介事を厄介な相手ごと持ち込んでくれたもんじゃな、フェルト。

 それと、嬢ちゃん。アンタ────エルフじゃな?」

 

 ロム爺の問いにエミリアはしばし瞑目、それから小さく吐息して、

 

「正しくは違う。──私がエルフなのは、半分だけだから」

 

 その答えに強く反応を示すのは、フェルトとロム爺の2人のみ。スバルと華代はそれが何を示すのか分からず、首を僅かに傾げるしかできない。

 

「ハーフエルフ……それも、銀髪!? まさか……」

 

「他人の空似よ! ……私だって、迷惑してる」

 

 そこで、華代は前回の世界でスバルがエミリアに向けて嫉妬の魔女の名で呼んだことで引き起こした騒ぎを思い出す。

 

「(…………なるほど、銀髪のハーフエルフが嫉妬の魔女と言うやつと強く関係しているわけか)」

 

 とりあえず、立てかけていた日輪刀を回収しようと手を伸ばすが、その寸前で目と鼻の先ともいえる地点に氷柱が出現した。ついでにスバルにもだ。

 

「ッ……」

 

「いぃ──!?」

 

「え、パック?」

 

 銀髪の髪のなかからひょっこりと現れた灰色の毛玉生物パックがその小さな手を掲げていた。

 エミリアの反応を見る限り、どうやらアレの独断らしい。

 

「ほら、そこ。余計なことをしないでね。痛いのが刺さっちゃうから

 リア、警戒すべきはあの薄紅色の子だよ。見たところ人間だけど、気配が普通じゃない」

 

「そうなの?」

 

「うん。それに、なんていうかマナも変わっている……。混ざってるっていえばいいかな?」

 

 そういえばこんなのいたな、厄介な存在を思い出し華代は抵抗の意志を見せず僅かに両手を掲げる。

 

「(それにしても、コイツ今なんと言った? "混ざっている"とはどういうことだ……)」

 

 一同の視線が突き刺さり、ため息を吐いて口を開く。

 

「生憎、私は君の盗まれた品物とは関係ない」

 

「そ、そうそう……。ついでに言えば俺も盗みにゃ関係ない。

 おいフェルト、命あっての物種だろ? ここは大人しく徽章を返しちまえよ。そんでもって、君も早くこっから出ていく。もう盗られたりしないようにな?」

 

「なんで親身になってくれてるのかわからなくて釈然としないんだけど」

 

「納得いかねーのはアタシも一緒だよ。兄ちゃんたちどっちの味方だ!? というか黒髪の兄ちゃんの方は滅茶苦茶徽章欲しがってただろ!」

 

「私はただの付き添いというか、巻き込まれただけだから何も言わん」

 

「ちょぉい! ここで見捨てますかねぇ!? ゲフン、まぁ、俺の目的はなんていうか、彼女に徽章が返ってきたら達成ていうかなぁ」

 

「……? どういうこと? あなたたち、仲間なんじゃないの?」

 

「あれだよリア。小悪党一味によくあるピンチの時の仲間割れ。見苦しいよねぇ」

 

 中々に場面が混沌とする中、華代とスバルは黒い影がエミリアの背後へと忍び寄るのが見えた。

 残像が見えるほどの速さで華代はフォークを掴むと、それを勢いよく投擲し、スバルはパックに呼びかける。

 

「──パック、防げ!!」

 

 ──快音からの金属音。

 

 息を呑んで少女が振り返るのと、夕日に輝く銀刃が振り下ろされるのは同時。

 

 しかし声に気づいたパックがいち早く展開した氷の盾がその一撃を阻み、同時に華代が投げたフォークがその刃を弾き飛ばし、続けてナイフがはなたれる。

 

 侵入者はその反撃を事も無げに踊るように躱すと、驚く一行と離れた場所に着地した。

 

「ふぅ、間一髪だったね、ナイスフォローだよ。そこの君もありがとね」

 

「助かったのはこっちだ。あんがとよ」

 

「別に礼には及ばんさ」

 

 グッとパックとスバルの2人は親指を立て、華代は肩をすくめる。

 そして、まんまと奇襲を防がれた形になった襲撃者は、

 

「──精霊、精霊ね。ふふふ、素敵。精霊はまだ、殺したことがなかったから」

 

 ククリナイフを顔の前に持ち上げて、切れた頬から流れる血を舐め恍惚の笑みを浮かべるのは嫌なことに見慣れた殺人鬼──エルザだった。

 その唐突な出現に警戒するスバルと華代、エミリアの3人。しかし、彼女に対してアクションを起こしたのはその3人でもなかった。

 

「おい、どーいうことだよ!」

 

 叫び、前に踏み出して怒声を張り上げるのはフェルトだ。

 彼女はエルザに指を突きつけて、自分の持つ徽章を懐から取り出すと、

 

「徽章を買い取るのがアンタの仕事だったはずだ。ここを血の海にしようってんなら、話が違うじゃねーか!」

 

「盗んだ徽章を、買い取るのがお仕事。持ち主まで持ってこられては商談なんてとてもとても。だから予定を変更することにしたのよ」

 

 怒りに顔を赤くしていたフェルトが、その殺意に濡れた瞳に見つめられて思わず下がる。そんなフェルトの恐怖を、エルザは愛おしげに見下し、大人が子供を諭すように言う。

 

「この場にいる、関係者は皆殺し。徽章はその上で回収することにするわ」

 

 そう述べ、場に緊張が走る。だが、それを破るのは武器を持たないスバルの叫びだ。

 

「てめぇ、ふざけんなよ──!!」

 

「こんな小さいガキ、いじめて楽しんでんじゃねぇよ! 腸大好きのサディスティック女が!! そもそも出現が唐突すぎんだよ、外でタイミング待ってたのか!? ホラー映画のジェ〇ソンとかマ〇コーにいちゃんかっての! 

 うまくいくかもとかぬか喜びさせやがって、超恐いんだよマジ会いたくねぇんだよ! いくら同類が見つかって、そいつがすっげぇ頼もしくたって、俺がどんだけ痛くて泣きそうな思いしたと思ってやがんだ! 刃物でブッスリやられるたんびに小金貰ってたら今頃俺は億万長者だ! それは言い過ぎた!」

 

 色んな感情の込められた無様な叫び。聞くに絶えないソレは全員の注意を引き、あのエルザもその顔には驚きの色が見えた。

 そして、華代はそんな彼の意図を読み取り独特の呼吸音を上げる。

 

「ということで、時間稼ぎ終了! ───やっちまえお前ら!!」

 

「いきなりの出来事で驚いたけどやっぱり? 唐突すぎて気が狂ったのかと思ったよ。でも利用させてもらおうかな」

 

「まったく、奇行はほどほどにしておけ。見苦しいぞ?」

 

 パックはそう言い、いつの間にかエルザを包囲していた氷柱が彼女へと殺到する。

 逃げ場のないそれは容赦なくエルザへと降り注ぎ、しばしの間破砕音が鳴り響く。

 

「やりおったか!?」

 

「おいそれフラグ!!」

 

 お約束とばかりに、ロム爺の叫びとそれに突っ込むスバルの叫び。

 白煙を切り裂き、現れたのは外套が無くなり衣装が顕となったエルザだ。その手に握りたナイフが光を反射し、エミリアへと飛びかかるが。

 

 桜の呼吸 弐ノ型

 

「───"華刻(はなどき)"」

 

 上空に現れた華代がその手には髪と同色の美しい刀が握られ、空中で体をひねると計3回の水平方向への真空の刃を伴う回転斬りを放つ。

 

「ッ!!」

 

 エルザが咄嗟にナイフを間に滑り込ませるが、耳をつんざくほどの凄まじい金属音が轟き、床へと叩き落とされる。その威力は凄まじく、床板をぶち抜き周囲に煙が充満した。

 

「ワオ、なかなかやるね」

 

「チッ、あの一撃で終わらせようと思ったのだがな。間一髪防がれた」

 

 刀を振り、手応えが思ったよりも浅かったことに華代は下を打ちながらパックへとそう返す。

 

「貴方たちが何をしたいのかはまだわからないけど、今は共闘ってことでいいの?」

 

「あぁ。今はあの殺人鬼を切り捨てることが最大の目的だ。それに、ふりかかる火の粉は払うものだろう? 

 それに、怪物退治は私の領分だ」

 

「うんうん、とても頼りになる前衛に後衛。哀れにも相手はやられちゃう感じかな。

 それじゃ、サクッと終わらせて用事も済ませちゃおっか」

 

『柱』という鬼殺隊の最強の称号をもつ剣士と精霊術師エミリアとの前衛、後衛と理想的な即席のコンビがここに結成した。

 

 エミリアを狙おうとすれば即座に華代の斬撃とパックの氷が。

 かと言って彼を狙おうにもエミリアの氷が飛んでくるという極悪なコンビにさしものエルザと冷たい汗がでる。

 しかし、それとは裏腹に彼女の下腹部には熱が灯った。

 

「フフ、フフフフ……。いいわ、とても滾ってきたわ

 まさかここまで楽しめるなんて思いもしなかった。

 是非とも貴方たちの腸を私に見せてちょうだい!!」

 

 華代の一撃によひ、ヒビの入ったナイフから新品のナイフを取り出したエルザは狂笑をあげ、強敵へと立ち向かう。

 

 

 〇

 

 

「うへぇ、おっかねぇな……」

 

 氷が飛び、斬撃が机や床を切り裂き、破砕音が鳴り響く。

 凄まじい戦闘を目の前で繰り広げられ、スバルはカウンターから頭を出して、冷や汗を流しながらそんな感想を漏らす。

 

 空中に氷の塊が出現した、それを足場に空中を華代が縦横無尽に駆け周りすれ違いざまにエルザへとを腕力だけで風を起こし、無数の剣戟を叩き込む。

 華代の攻撃をどうにか受け流し、エルザは偽サテラへと肉薄するが多重展開された氷の盾がナイフの一撃を防ぎ、一撃を防がれたエルザは即座にバク転で後ろへと回避。

 それを追うように地面に突き刺さるのはパックによる氷柱で、背後からは先程とは違った呼吸の音を響かせる華代が炎のような闘気を漲らせ、上から下へと弧を描くように刀を振る。

 

「3人がそれぞれをカバーしあってやがる……

 ほんとに出会ったばかりなのか? 

 うわ! 氷の槍が飛んでエルザの奴がかわしたと思ったら華代がものすんごい速さで斬りかかったのか!? おお! 斬撃を飛ばしたァ! すっげぇ、流石にあれは死んだか!? うっそだろ! 自分の腕を犠牲にして防ぎやがった!!?」

 

「うぅむ、精霊術師だけでも厄介だと言うのにアヤツ……、本当に人間か? 明らかに人間の動きを超えておるぞ」

 

「あの兄ちゃんアタシの加護並の速さで動いてるけど本当に加護を貰ってないんだよな、目つきの悪い兄ちゃん。

 だとしたらデタラメすぎるぞ?」

 

「いや、ハナヨはふつうの人間のはずだ。なんか"鬼"とかいうヤツらと戦うためとかなんかで鍛錬してたらしいが……。〇牙天衝みたいに斬撃飛ばすのを見たんじゃ、言い切る自信がねぇ。というかロム爺なにしてんだ?」

 

「機を見て、アヤツらの助太刀をな。まだ向こうの方が話がわかりそうじゃ」

 

「待て待て待て待て待て待て待て! やめとけーって! 絶対、足引っ張るだけだから! 右腕と首を切られてやられんのがオチだ、ジッとしてよう!」

 

「具体的な負け予想するでないわ! なんでか本当に切られた気がしてくるんじゃ!」

 

 実際2度切られてるところ見てるし、そんなセリフを飲み込みつつ目の前の戦いを見守っていると。

 

「ガッ────!!」

 

「うぉ!?」

 

「わひゃあ!」

 

「なんと!?」

 

 エルザに吹き飛ばされ、カウンターの裏側に華代が落っこちてきた。

 3人が予想外の出来事に悲鳴を漏らし、スバルが駆け寄る。

 

「おい無事かハナヨ!?」

 

「ツツツ、あのイカレポンチめ。針を通すような正確さで私を投げ飛ばしやがった……」

 

 額から血を流した以外は目立った怪我はなく、悪態をつく様子の華代をみてスバルは安心する。

 

「それで、大丈夫なのかハナヨ?」

 

「ん? ああ、まだ時間はかかりそうだ。それと、あまり顔を出すなよ。死ぬぞ」

 

「は? どういうことだよ兄ちゃん!?」

 

「説明をしろ若造!」

 

 フェルトとロム爺が吠えるが、聞く耳を持たない華代はカウンターを蹴ってエルザの元へと突撃を敢行。

 そのすぐ後に飛んできた氷柱がスバルの頭のすぐ上の辺りに突き刺さり、華代が行ったことの意味を理解した3人は大人しく縮こまっていることにするのであった。

 

 いままで様々な鬼と戦い、打ち倒してきてはいたが目の前の存在は鬼と同じように自分の体を犠牲にしながらも、時に障害物を利用、最小限の動きに普通では考えないような逃げ道で攻撃を交わすという純粋な技術を用いての戦い。

 

 彼女の体術や、華代絡みても目を見張るナイフ捌きを見ればかなり優秀な暗殺者なのは理解出来る。

 そんな彼女が何の勝算もなしにこの不利な戦いに挑むのか? 

 そしてここまで致命傷になるものではないものの、彼女は傷を負い続けている。このままではジリ貧だと彼女ほどの手練なら分かっているはずだ。そう……

 

「(まるで、強敵を前に朝まで耐え忍ぶ鬼殺隊の剣士のように……)」

 

 訝しげな目になりながらも、刀を振る手はとめず型を連続して放つ中でとある声を華代の耳が捉えた。

 

「あ、マズイ。ちょっと眠くなってきた。むしろ、今ちょっと寝ながら戦ってた」

 

「ちょっとパック! しっかりやってよっ」

 

「……はっ! 寝てない! 寝てないよ! ボク、全然寝てないよ!」

 

「何をやっているお前らは!? 無駄口ならこれが終わってからにしろ!! というか、戦いながら寝るなんて言う無駄に器用だな!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ごめーん、ふわぁ、ねむい〜」

 

 思わず叫び、隙にならない程度にエミリアとパックに視線を向けると、毛むくじゃらの生物がうつらうつらとしてる姿に、焦った様子のエミリアが見えた。

 

「ふわぁ……、ごめんリア。僕もう無理……」

 

「ゲェ!? もう夜か! なぁパック、頼むから残業とか出来ねぇ! 残業代は俺がだすから!!」

 

「君が何を言ってるか良く、わかんないけど……ふあわぁ。

 頑張ったけど、これが限界だねぇ……」

 

「ありがとね、パック。あとは私とハナヨがどうにかするから今は休んで」

 

「君になにかあれば、ボクは盟約に従う。──いざとなったら、オドを絞り出してでもボクを呼び出すんだよ? 

 それと、そこの君ももし僕の娘になにかあったら覚悟しておくんだよー」

 

「は───?」

 

 慌てて視線むけなおすと、全身を淡く光らせた後に虚空へと消えたパックをみて唖然とする。

 

「す、すまない……、パックはどこに行ったのだ?」

 

「え、えっと……今はこの胸のペンダントの中で……マナを蓄積してるの

 大体夜になったらマナ切れになって、朝までこの中で眠るのよ。……言ってなかったかしら?」

 

「初耳だ馬鹿者!? スバル! 貴様も知っていたのなら言っておかぬか戯けェ!!」

 

「ご、ごめんなさい!! てっきり知ってるのかと思って……」

 

「すまねぇ華代! あまりにエルザに対して一方的だったから忘れてたわ!!」

 

 初耳すぎる出来事に堪らず叫び、2人の謝罪の声が響き予想外の出来事からか呼吸が乱れかける。

 しかし、それを隙として出さないのはさすがという一方で、エルザがこれを待っていたということに気がつく。

 

「残念、精霊のお腹を開くのを楽しみにしていたのだけれど……

 でも今は精霊術士の子と綺麗な剣士さんで我慢しましょうか」

 

 黒いドレスを血でどす黒く染め、体にはいくつもの傷が作られているが、その顔には苦痛は一切なく恍惚といった笑みが浮かんでいた。

 その余りのイカレっぷりに嫌悪感を隠す様子もなく、華代は険しい視線を向ける。

 

「貴殿、パックが居なくても戦えそうか?」

 

「う、うん。すこしだけ火力は下がるけど、まだやれるわ。

 大技を使うとなると、マナを節約しなくちゃいけないけど……」

 

「ならばいい。はぁ……、ここからは少し本気を出すか。スバル!」

 

「な、なんだ!?」

 

「邪魔な連中をさっさと退けろ。死ぬぞ?」

 

 口調が荒々しいものへと変わり、目つきも鋭くなった華代の声を聞きスバルはコクコクと頷く。

 

「よし、お前らハナヨダイセンセーのお言葉がかかったから早く逃げるぞー。スタコラサッサだ!」

 

「お、おい! ケツまくって逃げろってのか!?」

 

「黙って従うんじゃフェルト。悔しいがワシらには今すぐここから離れることが最前じゃ」

 

 命令に従い、スバルが2人を連れて裏口から出ていこうとする。しかし、それを止めようとエルザがナイフを投げるが、

 

「やらせないんだから」

 

 寸前でエミリアが作り出した氷の盾がそれを防ぎ、子気味いい音を立ててナイフが床へと落ちる。

 

「あら、別にあれで殺そうだなんてしていないわ。

 足を停めさせて、お腹を開くだけだから」

 

「それを含めてやらせないって言ってるの! 

 それで、ハナヨ。どうするの?」

 

「なに、ちょっとした俺の必殺技をぶちかましてやるんだよ」

 

「ハナヨ……、痣が────?」

 

 両手をしっかりとエルザに向け、華代に視線を向けると彼の右頬から首筋にかけて、花びらのような痣が浮き上がっていた。

 

「───何を見せてくれるのかしら?」

 

 跳ねるエルザの問いかけに、華代は応じる。

 

「俺の使う『桜の呼吸』には5つの型がある。だが、今からお前に見せるのは6つめの最後の技だ。喜べ、その試金石にしてやるよ」

 

 キンッ……、そんな音が微かに聞こえた。

 

 華代の身体からは濃密な闘気が放たれ、エミリアはその背に見たことも無い華が舞い散るのを幻視した。

 

 ゆっくりと構え、エルザは目の前の剣士から迸る圧に口角を釣りあげる。

 

「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」

 

「鬼殺隊『桜柱』歌風 華代」

 

 エルザの名乗りに、華代は静かに応じる。

 そして、

 

「ッ────!!」

 

「桜の呼吸 陸ノ型」

 

 華代の体が掻き消え、次の瞬間にはエルザの背後に回っていた。

 

 キンッ……、なにかが弾かれる音が響く。

 華代は静かに、技の名を紡いだ。

 

 

 ────"散華"

 

 

 瞬間、エルザを中心に斬撃の嵐が顕現する。

 

 床や柱、天井が乱雑に刻まれ、真空の刃同士が弾きあい、それが更に斬撃となって範囲を拡大し米粒よりも細かく物質を切り刻む。

 

 そして、盗品蔵の大半を残骸へと変え終え、月光を背に華代は呟いた。

 

「ようやく、完成したな」

 

 刀を鞘へと納める横顔はどこか嬉しそうにも見える。

 

 

 〇

 

 

「なにが『怪物退治は私の領分だ』だよ! お前の方がよっぽど化け物だぞ!? 

 見てみろよ、見るも無惨な状態になった自分の店を見てロム爺が凄い顔になってらぁ」

 

 事が済み、月明かりが照らす開放感溢れる改築の完了した盗品蔵を前にしてスバルたちが戻ってきた。

 ロム爺は背をフェルトに撫でられて戻ってきたことから、相当のショックがあったように見える。

 

「死ぬよりは断然マシだ。生きていれば何度もやり直せるさ。それに、あんなので化け物呼ばわりされてたまるか。私よりも強い剣士はゴロゴロいるぞ」

 

 華代はスバルに告げ、懐から取り出した筒状の何かを盗品蔵へ投げつけた。

 

「スバル、耳を塞いでおけ」

 

「え────?」

 

 閃光、からの爆発。からのさらに続けての大爆発。

 あまりの衝撃にスバルはその場でひっくりかえりフェルトやロム爺も何事かと華代を見た。

 

「殺るならば徹底的にだ。それと、事前にあの中にはあちこちに爆薬をしかけていたからな」

 

「やりすぎだ馬鹿野郎!!」

 

 目の前で燃え盛る炎を見つめ、淡々と告げる華代。 そして、フェルトとロム爺の絶叫が貧民街へと響き渡る。

 

「やりすぎだろ兄ちゃん!? みろよロム爺の店を! 残骸通り越して更地にする気か!!?」

 

「わ、ワシの店がァァァァ!!? ───アフン……」

 

「ろ、ロム爺ぃぃぃい!!? あまりの出来事に気絶しちゃったぞ!? おい起きろロム爺! しっかりしろよ! 傷口は浅い! ……とは言えないけど、目標が少し遠くなっただけだ! ロム爺、ロム爺ぃぃぃいい!!!」

 

 騒がしい声をバックに、エミリアはどこか疲れた様子の剣士とスバル向けてその紫紺の瞳を向ける。

 

「えっと、その終わったの?」

 

「ああ、ホントの意味でどうにかな」

 

「さすがにアレで生き残っていたら困る」

 

 肩を竦め、2人は息を漏らす。

 スバルは銀の髪を揺らし、瞳に不安げな色を浮かべたエミリアをしげしげと見つめた。

 

「じろじろと、どうしたの? すごーく失礼だと思うけど」

 

「手足はもちろん、首もちゃんとついてるよな」

 

「……当たり前でしょ? 恐いこと言わないでくれる?」

 

 スバルの感想は彼女には意味がわからなかったのだろう。

 じと目でこちらを睨んでくる彼女にスバルは親指を立てて歯を光らせ、

 

「そうだな、当たり前だよな。もちろん、俺の手足もついてるし、背中にナイフが生えてもいなけりゃ、腹にでかい風穴が開いてたりもしないぜ! あ、でもたんこぶはできてるわ」

 

「生えてたり開いてたりした時期があるみたいな言い方するわね」

 

「そっとしておいてやれ。多分頭の病気だ」

 

「酷くね!?」

 

 そんな会話をしつつも、エミリアがこちらに視線を向けていたフェルトに気が付き、スバルは慌てた様子で取り繕う。

 

「タンマタンマ! アイツは生きるためにこんなことをしてたんだし、結果的には全員生き残ったんだから氷の彫像の刑に処すのは勘弁してやってくれ!」

 

「もう、そんな事しないわよ! でも、徽章は返してもらうわ」

 

「まぁ、残党ではあるな」

 

「言われなくても返すっつうの。はぁ……、ついてねぇや。完璧赤字だ」

 

「それについてはあんな依頼人を選んだ自業自得としか言えねぇな」

 

「うっせー!」

 

 フェリトはやけくそ気味に叫び、大きなため息を吐き出して項垂れる。

 

 そんな彼女にスバルはなにやらゴソゴソと懐を漁ったかと思うと、の肩を叩き無理やり手にナニかを置くのだった。

 

「そんなお前には俺からのプレゼントだ。売っぱらって生活の足しにしろよフェルト」

 

「兄ちゃん、これって!」

 

「ハハ、別にこんなのあってもここじゃ役に立たねぇし、色々といい勉強になったからな。これはその授業料ってやつだ」

 

 それはスバルのガラケーであった。フェルトは驚いたようにスバルを見上げるが、彼は照れくさそうに鼻を擦るだけで、呆れたように一同は笑う。

 

「……なんつうか、兄ちゃん損してるな」

 

「それは私も思う。損しているわ」

 

「まったくもって損しているな」

 

「まさかの3人揃って言います!? 別に俺は渡したいから渡したんですー!」

 

 顔を周知で赤く染めるスバルに対して、3人は笑う。

 腰抜け、空気読めない、無能という評価をしていた華代であったが、幾らか上方修正し最初よりも彼に対して好印象を抱いていた。

 大円団とまさに言える状況であるが、喉に小骨が引っかかるような違和感が華代にはあった。

 

(エルザは倒し、死ぬはずだったもの達は全員生き残った。だが、根本的な問題の解決には至っていない……)

 

 逆行現象の原因は未だ解明していない。

 時刻は既に夕方を超え、空には星々が瞬いている。ならば、結局何が原因だ? 思考に没入しそうになった瞬間、華代の背筋に悪寒が走る。そして直ぐに、その正体が判明した。

 

 瓦礫が弾け飛び、そのなかからは全身に裂傷と炭化した傷跡をつくり、所々には白いナニカが見えているエルザが飛び出した。

 

 動けるとは思えないようなダメージを受けていながら、その手にはひしゃげたナイフが握られ、瞳には凄絶な狂気が秘められており、その視線はエミリアに注がれていた。

 

「なっ───!?」

 

 もはや鬼と変わらない生命力に華代は絶句する。

 だが、直ぐに妨害しようとするが、動揺から僅かに動き出すのが遅れ、エルザが漸く気配に気が付き、振り返ろうとしていたエミリアへとその凶刃が──

 

「狙いは腹狙いは腹狙いは腹ぁぁぁぁぁぁぁっ!! だーらっしゃあ!!!」

 

「スバル!?」

 

 届く前に、彼女を押し倒したスバルがいつの間にか保持していた棍棒を引き上げ、腹を守るための盾とする。

 

 ──衝撃音からのナニカが吹き飛ぶ音

 

 グルグルと宙を舞い、吹き飛んでいき瓦礫へと激突。慌ててエミリアが駆け寄っていく。

 

「チッ、この子はまた邪魔を───」

 

 ぶっ飛んで行ったスバルを見て、エルザは舌を鳴らしエミリアをみるが華代がその視線を遮るように間に立つ。

 

「やらせると思うか?」

 

 深紅の瞳がエルザを居抜き、エルザは戦闘続行を不可能と判断。

 ひしゃげたナイフを華代目掛けて投擲するが、難なくそれを弾き飛ばし、彼には当たることは無かった。

 

「いずれ、この場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい、腸を可愛がっておいて」

 

「ふん、貴様こそ今度こそ私に頸を落とされないようにしておくのだな」

 

 だが、廃材を足場に跳躍するのには充分過ぎるほど時間を稼ぎ、エルザはそう言い残し闇夜へと消えていく。

 軽やかに飛んでいく背を見送り、華代は追うのを無駄と判断すると、スバルの元へと駆け寄った。

 

「ちょっと大丈夫!? 無茶しすぎよっ」

 

「お、ぉぉお……ら、楽勝楽勝。あそこってば無茶する場面だべ? 動けんの俺しかいねぇし、あいつがとっさに狙う場所もこっそり当てがあったし」

 

「だからといって良くやるわ馬鹿者!」

 

 華代は直ぐに服を捲りあげ、腹の様子を確認。

 幸い、切れてはいないが大きな打撲痕と内出血により変色した肌を見てスバルは気持ち悪そうに呻く。

 

「今度こそ、完璧にいなくなった……よな?」

 

「ああ。気配は完全に消えている。だが、先の出来事は完全に私の不手際が招いたことだ……済まない。どう詫びたらいいか」

 

「い、いやいやいや! 別にいーって! お前に助けられてあまつさえこの子の命も救ってくれたんだから、顔上げてくれよ!!」

 

「そう、か……」

 

 土下座しかねない勢いの華代を慌ててスバルが宥め、痛みに顔を顰めながらもよっこらせと立ち上がる。

 その顔はなにか覚悟を決めたようで、スバルは立ち上がり自分を見下ろすエミリアを見つめた。

 

 立ち上った彼女を前に、スバルは瞠目しエミリアが何かを言う前にその指を天高く指す。

 

 驚く周りの視線を完全に意識から除外して、スバルは高らかに声を上げる。

 

「俺の名前はナツキ・スバル! 色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのはわかっちゃいるが、それらはとりあえずうっちゃってまず聞こう!」

 

「な、なによ……」

 

「俺ってば、今まさに君を凶刃から守り抜いた命の恩人! ここまでオーケー!?」

 

 

「おーけー?」

 

「よろしいですかの意。ってなわけで、オーケー!?」

 

 なにやら気色の悪い動きをするスバルにエミリアは僅かにひきつった顔で「お、おーけー」と言う。

 そんな彼女の態度にウンウンと頷くと、畳み掛けるよう続けるのだった。

 

「命の恩人、レスキュー俺。そしてそれに助けられたヒロインお前、そんなら相応の礼があってもいいんじゃないか? ないか!?」

 

「……わかってるわよ。私にできることなら、って条件付きだけど」

 

「なぁらぁ、俺の願いはオンリーワン、ただ一個だけだ」

 

 指を一本だけ立てて突きつけ、くどいくらいにそれを強調。

 そのあとに指をわきわきと動かすアクションを付け加えて少女の不安を誘い、喉を鳴らして悲愴な顔で頷く彼女にスバルは好色な笑みを向ける。

 

 華代はそれを見てたしなめようとしたが、彼からは邪気を感じ取れず無言で見守ることにした。

 

「そう、俺の願いは──」

 

「うん」

 

 歯を光らせて、指を鳴らして、親指を立てて決め顔を作り、

 

 

 

 

 

「君の名前を教えてほしい」

 

 

 

 

「(そういえばこいつに彼女の名前を教えていなかったな……)」

 

 なんとも言えない目でスバルを見つめ、華代はそんなことを思う。

 

 呆気にとられたような顔で、少女の紫紺の瞳が見開かれた。

 しばしの無言が周囲を支配し、決め顔を維持するスバルは静寂の中でかすかに震える。

 

 羞恥による感情を押え、スバルは彼女からのアクションを待つ。

 

「ふふっ」

 

 そして、沈黙していた空気に少女の笑い声が微かに響き、華代は肩を竦めて口を閉ざすことにした。

 

「───エミリア」

 

「…………え?」

 

 笑い声に続いて伝えられた単語に、スバルは小さな吐息だけを漏らす。

 彼女はそんなスバルの反応に姿勢を正し、唇に指を当てながら悪戯っぽく笑い、

 

「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル」

 

「…………っ〜!!! まったく、ほんっっっっつとに割に合わねぇ!! けど─────」

 

 くっそ可愛い!! 

 

 記憶にその笑顔を焼き付け、スバルは笑いエミリアの出された手を握るのだった。

 

 

 

 

「まったく、肝が冷えたわ。よく無事だったなスバル」

 

 少年と少女の空気を邪魔しては悪いと、口を閉ざしていた華代は文句を言いつつスバルが攻撃を防ぐのに使った棍棒を見つめる。

 

「ああ。そいつがなかったら危うく俺の上半身と下半身は真っ二つだ」

 

「そうだな。これが無ければ────」

 

 華代はスバルの言葉を同意しつつ、その棍棒を拾い上げると…………

 

「なぬ……」

 

 その手の中で、棍棒は滑らかな切断面をさらして鈍い音を立てて落ちた。

 ど真ん中で二つに切り落とされ、その役目を完全に終えているのは容易く理解出来る。

 

 ゆっくりと、華代がスバルの方を切なげな目で見た。

 

 スバルもその視線に従って、嫌な予感を感じつつもジャージの裾をまくる。胴体は先ほどと同じ、真紫の打撲で超変色状態だが、そこに変化が生まれた。

 

 ───横一文字に赤い線がはしる

 

「あ、やばい、この後予測できたわ」

 

「……南無」

 

 瞬間、鮮血が傷口からほとばしり華代は静かに合掌。

 

「───ちょ、スバル!?」

 

 慌ててぶっ倒れたスバルにエミリアが駆け寄り、その両手に光の波動を出現させると、治療を始める。

 

「ッ、ダメ! 私じゃこの傷の深さは!」

 

 だが、すぐにエミリアの悲鳴が轟き華代もスバルの元へ駆け寄り羽織が血に濡れるのも構わず傷口を確認した。

 幸いにも内蔵には傷はない。だが、スバルは既に気を失っており血も体力に流れていることから顔色も蒼白だ。

 

 華代は舌をうち、直ぐにエミリアへと指示を出そうとした瞬間───

 

 あのおぞましく、甘い気配がスバルの体から立ち込める。

 

「ッ!!」

 

 思考を鈍らせる香りが充満するが、周囲の面々はそれには気がついた様子はない。

 その臭いは刻一刻と強くなり、比例してスバルが弱っていく。その事からようやく、華代は理解した。理解してしまう。

 

「(スバル、お前がこの現象の原因か……)」

 

 エミリアに指示を出しながらも、その瞳は冷たい色へと変わっていく。

 鬼を見る目とかわらないソレにはエミリアは気が付かず、スバルの傷を癒していく。

 

 

 目的のために、何度も世界をやり直す少年ナツキ・スバル。

 世界の逆行に巻き込まれた無辜の人々を守る鬼殺の剣士歌風 華代。

 

 

 本来、交わるはずのない2人が複雑に絡み合い、紡ぐ物語が今《ゼロ》から始まるのだった。

 




異世界こそこそ噂話
『不味い豆と肉の炒め物』
まず、盗品蔵にある不味い豆と何の肉か分からない肉を用意します。
そして、携帯品にある各種調味料で味を整え、それらと和えて簡単に炒めればはい完成。
濃いめの味付けはご飯に合うぞ!味は華代の奥さんが、保証します
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