負けを認めた私たちはスタンリー達に拘束され、皆船の甲板へと移動させられた。
一度思いっきりロープで締め付けられ呻き声をあげたが、杠が辿々しい英語で私が"病気"であると伝えてくれたらしく、他の人間より拘束は緩い。多分顔色も悪そうだし、嘘だと思われなかったのだろう。
次々に集められてくるメンバーの中にはルーナとフランソワがいて、私は二人と目を合わせると笑って頷く。私は大丈夫だからなんて言ったところで千空がいない今、医者扱いであるルーナを手放すなんて自殺行為に等しいとニッキーと南あたりが許してくれなそうだけれど、そんなこと言ってる場合ではない。あの二人にはここから離れてもらわないといけないのだ。約束を果たしてもらわなければならない。
もしかして私の怪我が悪化する未来があるかもしれないけど、それでもあの二人が千空の側にいてくれなきゃそれこそ先に精神的に終わる気がするし。
チラチラとこちらを伺うルーナに何度も視線を向けて、フランソワには"約束""千空お願い"と声を出さずに伝える。
どうにも渋々頷いてくれたような気もするフランソワではあったが、私の熱意が伝わったのかカセキも連れてこの場から逃げ出してくれた。本当にできた執事に私は一生頭が上がらないだろう。
私は一度小さく息を吐き、ぐるりと辺りを見渡す。ペルセウスに残っていたメンバーはもれなく拘束されていて、その中で何となくだが現状を把握しているのはニッキーと南を含めた何となく英語がわかるメンバーが少々。みんな私より英語を聞き取る能力があるようで、彼らの会話の単語を拾ってはコソコソと話しているのが見て取れる。とはいったものの私同様に英語がわからない人達もいるわけで、そちらの顔色は大変悪い。モズや石神村の人間はまだしも、現代人、もとい旧時代民は自分たちが捕虜であり人質である認識はあるのだ。
「─だいじょ、ぶ。へいき、へいき」
気楽に行こうぜ、とは言えないけれど命の危険はないよとにっこり笑ってみれば、ほっと息を吐かれる。こんな時だからこそ軽口叩かなきゃやってらんないよねと、自分にも言い聞かせるように大丈夫だと何度も声に出して笑った。
そのせいあってから不安そうにしていたメンバーからも前向きな言葉が出てきたし、本当に科学王国民のメンタルは強いものだと羨ましく思ってしまう。
ま、我らが千空さんの民ですから強いのは当たり前なのかもしれないけれど。私もその最強メンタルが欲しかったななんて、ないものねだりをしてみたり。
「……茉莉、平気かい?」
「ん、へい、き」
スタンリー達が視線の先で話し込んでいる姿を見ていればいつの間にか隣に杠とニッキーがいて、少し荒くなってしまった呼吸に気づかれてしまった。
いくら強めの痛み止めを飲んでいたとしても、どうにもピキピキ響く肋骨の違和感は取れることはなく。もっと言ってしまえばこの状況が精神的にも非常に良くないのだ、そりゃあ呼吸も悪くなる。
私のような凡人に、銃をこさえた人間らの人質が務まるわけがないのだ。それをこっちに向けるな。もう早く、平和協定を結んで欲しい。
だけど、私が知ってるのはそこまでだ。
ゆえに、その先の不安は見てみぬふりをするしかない。
とまぁそんなことを考えていればジジジと通信機がなり、そこから聞こえてきた声は誰でもない千空のもので。機械越しに聞こえた千空の声に、私のせいで変わってしまったものはなかったのだと心底安堵した。
もしこれで私の知る世界と逸脱したものになってしまっていたら、死んでも死にきれないものだっただろう。
私の知っていた通りに千空の流暢な英語で人質交換、ではなく復活液のレシピは伝えられ、これでここに残るもの達の安全は保証されたものとなる。
だがしかし、会話の途中に私の名前が含まれていた気がするが気のせいだろうか?
こんなところで出てくるような人間ではないのだが?
「──あぁ任しときなアタシらに、コーンの街も茉莉のことも」
「……ニッキ、ちゃ?」
どうしてそこで、私の名前が出る?
ドユコト? 誰か通訳して?
「よー、何だこれ。俺らで話し合えっつー話??」
「言葉通じねぇじゃねぇかよ、アイツらよ!!」
「英語ついていける人って……」
「わたし、むり」
「一応記者なんで、私とあと──」
「カタコトだけどね」
千空お得意の人任せスキルで南とニッキーが交渉の場に着くことになったのだが、どうもそこの会話にも私の名前が差し込まれるし。本当にドユコト? 何したの、千空さん。ほんとやめて、そゆことするの。オーバーキルって知ってらっしゃる? 私のキャパはもうゼロよ。
カタコトしか喋られないと言っていたニッキーが怒鳴るように相手に返答し、そしてそこに現れる私の名前。本当に勘弁して。
けれどもまぁ相手さんもニッキーの腹の割った話し方が気に入ったのが声を上げて笑い、そして『オーケー』と言った。
つまりはこれにて平和協定の成立なわけだ。
そのおかげでグルグル巻きにされていた拘束はとかれ私達は自由の身になったわけだが、そこで聴きたくもない声を私の耳は拾い上げた。
それは他でもないスタンリーの憤った声だ。
彼にしてみれば殺した人間が生きていたようなもので、そのせいでゼノの思い描いていた道筋を壊した張本人。
私が強い人間だったらしてやったり! とか思うんだろうけど、今はただスタンリーの視線に入らないようにマグマの背中に隠れ込む。庇ったのが私だとバレたら絶対にヤバい扱いになる気しかしない。故にバレるわけにはいかないのだ。
コソコソと背中に隠れて居ればマグマの眉がピクリと動くだけで、何故かそこに金狼も加わり私の姿を隠すような壁ができた。
まさか庇われるかのような行動をされるなんて思っていなくて首を傾げれば、無理はするなと金狼は言ってくるし。何となくだが彼らにも心配をかけてしまったのだなと今更ながら思い知る。
思いかえしてみれば、そりゃ同じ釜の飯を食ったやつが大怪我ともとれる怪我をしたのだ。あのマグマだって心配だってするだろう。案外いいやつだもんね、マグマさん。
マグマに庇われた事実に感動していれば上流から千空達が乗っているだろう船が現れて、それを守るために杠が知恵を働かせてみんなで叫んで逃げる。
「キャアアァァア! 石化光線が来るゥ! 逃げんぞ──!」
船から降りたメンバーはわざとらしく両手をあげて走り出し、私はヒョイっとマグマに抱えられて逃走。
だがしかし、その揺れのせいで白目剥くほど胸が痛んだ。わがまま言えないのは分かってるけど、もっと丁寧に扱って欲しい。本当に。
アメリカ組も石化光線から逃げようと川に飛び込んだが、スタンリーは軽々しくメデューサを撃ち落とすし。
ま、そのわずかの隙のおかげで千空達は海の方へ抜けて行けたのだけど、過ぎ去っていく船を眺めながら私は下唇を噛み締めた。
遠目で見えたその人に、千空に。辿々しく腕を掲げて別れを惜しみ。
そしてこれから訪れる私の知らない"未来"に希望と、恐怖を託して。
「──バイバイ、せんく」
寂しさよりもわずかな解放感が勝った私は、薄情者なのだろう。
多分次の話は千空サイド。