凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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千空サイドその2。


104 解釈の違い。

 

 

 

 千空曰く、ペルセウスに残っているメンバーはもれなくアメリカ組と外交をしてもらうこととなる。となれば残ったメンバーをまとめ上げられるのは一体誰になるのだろうか。

 そう考えた時司とコハクの脳内にすぐ現れたのは他でもない茉莉の姿であった。

 

 千空を守ったため怪我をした彼女にこんな事を任せるわけにはいかないと思いつつも、村やかつての司帝国とされる場所で皆の信用を勝ち取ったのは他でもない茉莉。今いるメンバーでどちら側の人間でも素直にいうことを聞く人間が誰かと問われれば、十中八九彼女の名前が上がるだろう。

 まぁいくらそんな事をコハク達がここで思ったところでペルセウスにいるメンバーにその考えが届くわけはなく、けれど一人を選べと言われればきっと彼らは彼女を選ぶだろうと予想はすることはできた。茉莉がどう考えているかは知らないが、彼女ほど皆に気にかけている人間はいないのだから選ばれるのは必然だ。

 茉莉にしてみれば同じモブだから仲良くしようね! と行動していただけだが、それを知らない人間にとっていい様に解釈されてしまえばそれまでなのである。

 

 そんな事を考えていれば、アメリカチームとの初の外交で千空は司も氷月も驚くほどに、さも当たり前かの如く茉莉の名前を口にした。

 

「復活液のレシピはアルコール+硝酸のナイタール液だ! 詳しくはそっちにいる茉莉先生にご教授願いやがれ! 何てったってソイツはおありがてぇことに復活液作りのプロだからな、コーンができりゃ大量生産してくれる! ぜ〜ひ仲良く協力しあってとりま人類100万人!! コーンの巨大シティを建造する! そこだけは目的一致してんだろ??」

 

 千空とて自分の身代わりに撃たれた茉莉に鞭を打ち、それでも働けと言いたいわけではない。むしろその逆だ。

 少なくともあちら側に医者がいるかわからない現状で茉莉を必要以上に働かせるつもりはない。ならどうやって自分の目の届かないところで体を休ませるかを考えれば、あちら側に茉莉の状態そのものを認識させれば事足りる。少なくともただでさえ復活者が少ない状況で、完治すれば役に立つ人間に無茶をさせる事はないだろう。

 仮に茉莉なしで他のメンバー達と協力しあっても復活液は作れるが、誰が一番手慣れておりあの面倒な工程をこなせるかと問われたら大抵のメンバーは茉莉の名前を出すはずだ。そして科学王国民ならば誰しもが彼女の完治を願い、無理な行動させぬ様より目を配るだろうとも千空は画策してもいた。

 それに何より些細な情報ではあったが、自分と今まさに通話している人間ならば怪我人を無理矢理、それこそ死の淵に立たせる覚悟で働かせることはないだろう。

 ある意味一種の賭けとも言えたが、ここはもうクロムとゲンの勘を信用するしかない。

 

『戦争しながら同盟組んで? 仲良く建国しようってか?? マジで頭いかれてるぜお前ら……!』

「俺らはソッコーで先進まなきゃなんねぇんでな! 実際街作る連中と日米首脳会談やってくれ!」

 

 あとは任せるとペルセウス側に通話の主導権を渡した千空であったが、会話はきちんと耳に入れている。アメリカ側の、ブロディと南のやり取りでは劣勢だったものの、ニッキーがそこに加わればブロディはその勢いにのまれ言葉が詰まっていた。

 

『いいからとっとと縄解きな! アタシのじゃないよ、全員のだよ!!』

『いずれそうすることになるがな、その前に復活液は作りのプロとやらに話を──』

『茉莉と話をさせろって!? あの子は英語喋れないんだよ!? あんたが日本語喋んな!! そしてすぐに縄を解けって言ってんだよこの耄碌ジジィ! ここまで来たら駆け引きもへったくれもないんだよ!!』

 

「クク、確かに茉莉は英語からっきしだから話せねぇわ。授業なんて碌に受けてねぇし、サボりの常習犯だっつの」

 

 え、なにそれ。茉莉ちゃんって不真面目っこだったの!? 

 と、思いがけないところでぶち込まれる茉莉の新情報に色々突っ込みたくなるゲンや羽京であったが、今はまだそこに触れている場合ではない。触れていいなら深掘りしたい話でもあるが、笑いながらも眉間に皺を寄せた千空の険しい顔から察するに面白い話ではないのだろう。

 実際のところ茉莉の中学時代は授業に顔を出しているだけの状態で、教科書の陰でサバイバル本を読み漁るのがデフォである。何故それを千空が知ってるかと問われれば、クラスが一緒であったり家が隣だというだけでお節介をしてくる教員のせいであったり。今でこそ懐かしい記憶ではあるが、当時の千空にとってはいい迷惑でしかなかったものだ。

 

 そんな過去の記憶はさておき、大切なのはいまなのだ。

 アメリカと日本が手を取り合わなければいけないかの状況で、南でなくニッキーだからこそブロディとの対話は成立している。そのお陰で人類百万人復活の平和特区の存在を協定されられたが現状は何一つ変わってやしない。

 ゼノを連れてせいぜい必死に逃げろと、スタンリーは止められないとブロディは千空たちへ告げ、通話は途切れた。

 

 千空は乗っている船の舳先にメデューサを取り付け、ペルセウスの後ろから追い抜く様に加速する。こちら側に気づいたスタンリーが船へと銃を向けていたのが確認できたが、狙い撃たれたのはメデューサのみ。そのお陰で怪我人を出すことなくペルセウスを追い越す事はできたが、それはすなわち別れを意味している。

 一瞬ではあったが追い越して行ったこちら側に向けて、片手をあげ声を上げている奴らの中に茉莉の姿は見つけられなかった。こんな事になり離れてしまうのであれば、一目だけでも無事を確かめておきたかったと千空は一人小さく息を吐き出した。

 

 これが正しい選択だったか、それは自分自身でさえ分かりはしない。ただ一つ言えるのは、あそこに戻ったとして人類復活を目論むのはほぼ不可能になるという事。今でさえゼノを人質にとっているからこそできる逃避行であって、まともにやり合って勝ち目がある存在ではないのは既に理解できてしまっている。ましてや銃を量産してるゼノ達に対し、科学的アドバンテージもなく勝てる可能性はないに等しいだろう。何せこちらには戦闘のプロはいない。戦うことがきる司や氷月であっても、対人戦に、それこそ命のやり取りに長けているスタンリーや軍人達と対等だと思えるわけがない。

 故にこれが、二手に分かれることが一番良い策なのだと半ば強制的に納得するしかないのである。

 

「ククク、俺らはこっからスタンリー達と全力で追いかけっこをしながら地球を回るっつうわけだ」

「そうだ、そして次の目的地こそ──」

「行くぞ南米!! 数千年前人類を石化させたあの光線発信の地に──!!」

 

 これが最善策だったのだと己を奮い立たせてそう口にすれば、もはや後悔なんてしていられない。道を違えたのならば、あとのことは残ったメンバー達に任せるしかない。

 ゲンからこの船とメンバーで進む事にやや不満の声は上がるが、相手になんてしていられない。ペルセウスがまだ動かぬうちに距離を取ろうとさらに船を加速させ、少しでもこの場から離れるのが最良の選択なのだから。

 

「──一つ、疑問を投げかけてもいいかい、千空」

「あ"? まー、答えられる範囲なら答えてやるよ」

「それはありがたいね、どうにも気になって仕方がなかったんだ。千空、君が無傷でいられたその理由を」

 

 一瞬、千空の動きが静止する。そしてゆっくりとゼノに向けられた瞳はほの暗く濁って見えた。つい先程までペルセウスに向けられていた瞳とは全く違ったソレに、ゼノは微かに目を見開いた。

 

 ゼノとて千空達の話を聞いていなかったわけではない。ルーナが現れた時憤った千空はもちろん見ているし、日本語で話されていたことも理解できている。それでもやはり納得できやしなかったのだ。

 千空が他のメンバーや茉莉を信じているのと同様に、ゼノはスタンリーに絶大な信頼をおいている。だというのにあのスタンリーからの狙撃に対して全くの無傷という事は如何に。対面で、千空やその他大勢が銃を認識していた場面で庇われていたのならまだしも、スタンリーがそんな生やさしいことをするとは考えづらい。ならばどうやってその人間は千空を庇えたのだろうと。

 

「……んなもん、庇われたからとしか言いようがねぇな」

「そこが謎なのだよ。何故その人物は君を庇えたんだい? 如何なる状態であったとしても、スタンが気づかれたとはどうしても僕には思なくてね」

「そりゃそうだわな、普通に考えりゃ。俺にだってわかりゃしねぇ。でもな、あいつはどうしようもねぇくらいにビビリでな。おありがてぇ事におたくの狙撃手様はばかすか船に撃ちまくってくれてたお陰で、アイツはアンタらが人殺しを躊躇わない連中だって考えたワケだ。そんなとこにルーナなんかが現れりゃビビリで疑い深い茉莉センセェからしてみりゃ不審人物でしかない。あとは行動を見張ってりゃいい」

「──ただそれだけで君を救えたと」

「実際そうなんだから、そうなんだろ」

「それだけで、スタンの行動を読めたとでも?」

 

 ありえない。

 そんな話でゼノが納得できるわけもなく。

 

「その茉莉という人物は、軍人か何かなのか?」

「いや。ただの……、ただの俺の幼馴染だ」

「ただの君の幼馴染に、僕の計画は邪魔をされたというわけか」

 

 本当に納得できやしない。まだ千空が一人で何とかしたと言われた方が信じられる話でもある。

 しかしながらいまだに険しい顔をしている千空から察するに、その話は真実に近いのだろう。

 互いに幼馴染には恵まれたものだなとゼノはスタンリーを思い描き、そしてもし会える機会があるのならば千空を庇った"茉莉"に会ってみたくもなる。銃撃されると知っていながら千空を守った幼馴染がどんな"男"なのだろうと勝手に思い描いて、自身の幼馴染が男だからそうなのであろうと勘違いして、ゼノはいつか会うであろうその人物にある種の期待さえしてしまっていたのである。

 

 

 




補足。
茉莉ちゃんが千空庇えたのって原作知ってるからだよねって話。茉莉ちゃんよりも感が良いであろう龍水も撃ち終わってから気づいたわけだし、千空さんでさえ自分を守るので精一杯。
二、三発同じ場所から狙撃されてれば何処から撃っていて狙いは誰かはわかりそうだけど、ソレがない状況で千空さんを無傷で助けられてる茉莉ちゃんはゼノからすれば理解不能な人間になりそ。スタンリーさんもソレ知ったらお前何で気づいたん?ってなりそうだよねって勝手に思ってます。オワリ。
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