何と言うか、千空達と別れて早くも一週間。
私のベッド貼り付け生活はようやく終わりを迎えた。と言うのはゼノ達の拠点に訪れたその日の夜の事、多少無理したせいか私は熱を出して倒れてしまったのだ。そのせいで杠は顔を真っ青にするし、ニッキー達はアンタらが無茶させようとするからだとブロディ達を責めていたが彼らは悪くないと思う。だって私が千空の言っていた"茉莉"だときちんと理解して、尚且つ怪我をしているのなら無理に働かなくていいと言ってくれたのだから。
もちろんそうするにあたって復活液のレシピは聞かれたし教えはしたけど、この時ばかりはみんなそれでいいと賛成してたわけだから問題はない。
まぁ実のところ、アルコールと硝酸あれば復活液は作れるわけだしレシピさえ聞き出せりゃ私は用済みなのだ。英語が話せない相手とともに作業するのは嫌だったのかもしれないし、私だって意味不明の単語ばかり聞いていれば頭がパンクするに決まっている。だから彼らが個別に復活液を作るのならばそれに越したことはない。ゼノ達のアジトにはソレこそ大量のアルコールはなくとも実験するには十分な量はあるようで、私がいなくともそのうち彼らだけで作り出してしまうだろう。
「茉莉ちゃん、平気?」
「へーきだよ、コルセット、ありがとう」
ベッド生活が終われば、私だって働かなくてはならないわけで。あらかじめ用意してくれていたコルセットはペルセウスともに消えてしまったから、杠は一から私に用意してくれた。コレもまたこちら側のわがままみたいなもんなんだけど、ブロディがその方が良いと許可をくれたので杠は最初に手をつけてくれたのだ。本当に助かる。
完璧に骨がくっついていない故に無理はできないが、前より痛みはない。杠印のコルセットをして無茶なことをしなければ問題なく働けるはずだ。
一旦杠と別れ、寝たきりだったせいで落ちた体力を戻すため基地内を歩き体力作りもさせられて(ニッキー案である)、今の今まで知る由もなかった基地の情報も頭に入れておく。やはり大人が多いここでは酪農も始まっているし、食に関しては困ることはないだろう。
まぁ、今の所は問題ないって感じだから、日本食が恋しいと嘆く人が出るまでに豆探しの許可は欲しい。何ヶ月、もしくは数年スパンでここで働くとしたら味噌と醤油は欲しい。なんてったって私たちはすでにそれらのお世話になっていたのだ、今更ないだなんて耐えられない。せめてペルセウスに常備してたものがあれば良かったけど、下ろす暇なんてなかったから一から作り直すしかないのである。
体力作りを開始して何日か経ってブロディに一度ラボへと呼び出しをもらったが、ソレにはニッキーと金狼が同行してくれて。無事復活液が完成したと知らされたが特に私がいうこともなくただ笑っておいた。
「ぐっじょぶ!」
「──はぁ。茉莉、アンタってホント大物だね。全く」
ブロディ達はコレでお前達のアドバンテージは無くなったぞ的なことを言っていたらしいが、私が何にも気にしてません寧ろできてよかったね。みたいに笑ってカタコトで褒めたせいで毒気をぬかれたらしい。復活液のプロとしてどうなんだよとも問われたけれど、そんなプロとしてのプライドなんかないし、てかプロって言ってるの千空だけだし。まぁ、量産する時は寝ずに作るから呼んでほしいと伝えてもらった。
そしたらさらに呆れられたが、私は悪くない。
それからは使う言語問題で一緒にいても大変なだけだからと、復活液班ではなくニッキー達と合流することが許された。そして最初の仕事が技術者としても力がいらないメデューサ修理。コレはもちろん千空から指示があったもので、寝たきりだった時耳元でトンツートンツーとイヤリングから聞いていたものでもある。あの時ほどモールス信号教えてもらっておいてよかったと思ったことはないだろう。
まぁメデューサを修理するにあたって私の怪我を早く治す為といいように名前を使われたようでもあるが、みんなの役に立つならそれはそれでよし。南がとてもいい笑顔で罪悪感を煽ってやったわ!としたり顔をしていたしいいストレス発散にもなったのかもしれない。
「んで、コレは何?」
「ファックスよ、ロデックス本社の地図」
「──あぁ、なるほど。……だから杠ちゃんがあんなにやつれてるのか」
「えぇ」
イヤホンを首にかけてげっそりとした杠を横目で眺めつつ、昼夜問わずトンツーなってたのはこれのせいかと納得した。いやまぁ、モールス信号でファックス送れるんだとかもはや突っ込む気すらない。
むしろこんな丁寧な仕事をできる杠に拍手を送りたいものである。
「じぁ、私が今度ここ行くよ。誰か起こせばいいんでしょ」
「なにいってんのよ、アンタはまだ安静にしてなさい!」
「いや、体力落ちすぎんのもやばいんだわ。運動がてら行かせてよ、杠ちゃんは休んでて。過剰ワークは駄目だっていつも言われてるじゃん?」
「ア・ン・タ・は・ね!」
ワォ。駄目だって言われてたの私だけだったのか。まぁ、仕方がない仕方がない。
新たな復活者を迎えるにあたって一度ブロディの元へ向かい、『復活液ぷりーず』と両手を出して瓶に詰められているそれを貰い受ける。復活液が英語で何ていうか知らないんだけど、ブロディは"復活液"といえば大体通じるから問題はない。日本語理解してくれて本当にありがたいわ。多分私はよっぽどのことがない限り英語を話せる気がしないので。
それと最近気づいたのだが、どうやらアメリカ側は私の意見をそれとなく通してくれたらしい。PTSD発症しちゃうよと伝えたからか、二人一組で私たちを監視する時はどちらかしか銃を持っておらず、片方は斧や司が使っていた剣のようなものを所持している。私がラボへ来ると事前にわかっている時は大型の銃は構えていないし。まぁ、小型のものを持っているのかもしれないが、見えないように考慮はしてくれているのだろう。
そんなに考慮してくれるならと図々しくもその優しさにつけこんで、こっち側も武器は持っておくね!とにっこり笑って伝えたら一度は拒否された。けれど平和特区で片方だけ武器持つのはおかしいのでは?猛獣に襲われたらちゃんと助けてくれる?見捨てない?と別にアメリカ側を信用してないわけじゃないけど自衛って大事だよねとゴリ押しさせていただいた。その結果全員とは言わないけど武装の許可は降りたし、実際日本と同様に猛獣がいるのだから本当に自分の身は自分で守るしかない。
何せここには武力の主柱メンバーがいないんだもの、自衛大事。ほら、クマとか柔らかい部分から食べるじゃない。お腹とか意識あるうちに美味しく頂かれるのはちょっと。そんな恐怖体験したくないし誰にもさせたくないからねってみんなに伝えたら少しげっそりしていたけれど、ま、危険な猟は大人(アメリカ側)に任せりゃいいんだよと伝えておくのも忘れない。何てったって大半10代ですからね!そこは大人が守るべきやろ!へけ!
とまぁそんなことはさておき。
杠がリモートワークを頑張ってくれた地図を片手に護衛とともに森を歩くこと数時間、目的の場所の近くで二名ほど復活液をかけて起こす。ありがたい事にどちらもロデックスの人で、頭に秒針型の傷がついた女性なんかはCEOで作業に適する人間を教えてもらうことができたのである。
またそこからその人物を探して発見し、南が服を着せぬまに復活液をかけてその人物は無事復活したわけなのだが、司と違ってマッパを恥ずかしがるところが人間味があって大変よろしい。
「んー、真っ当なリアクションが新鮮」
「起こす連中鬼メンタルばっかだかんな」
「その筆頭、司くんじゃん。普通にマッパで着替えるもんね」
「どこ情報よそれ!?」
「ん?司くん復活時期一緒だし」
下半身、隠そうとしなくて諦めたよね。
そういうと南がグギギとハンカチを噛み締めていた。安心してくれ南、私は君の恋路を応援しているからね。龍水でも可。匂わせでもいいから幸せになってくれ。
南が新たに復活を果たした青年ジョエルに服を渡し、着替えたのちに歩きながら現在の状況を説明して何をして欲しいかの要望も伝える。何故か南と話していると辿々しく話す彼に疑問に思っていると、敬語でついてきた人にはちょっと強気にも思える態度になるわけで。どうやら女性に耐性がない人間だということがわかった。何となくだが、親近感が湧き生暖かい目でジョエルを見てしまうが許してもらいたい。
ほら、オタクってそういう生き物だし。関わりづらい人間にはそうなるんだよ、うん。わかりみ。
基地に着いて早々ジョエルは自由時間を求めたがまぁそれも仕方がないもので、目覚めたら世界が一度終わってました。尚且つ戦争しながら平和協定結んでます。なんて言われたら考える時間も欲しいに決まっている。
南は時間がもったいないと言い出しそうな顔をしていたが、一応はその要求をのんでくれた。そしてわずかに空いた休憩時間に、私は医務室に連れて行かれたのである。
「私、元気──」
「息上がってんのに何が元気なのよ!もう!だから言ったでしょ休んでなさいって!」
「ごめんて」
「アンタはもう今日働くの禁止!ニッキー達にも声かけとくから、いい子に寝てなさい?わかった?」
「……わか、た」
ぐうの音も出ないほど怒られて、コルセットを脱いでベッドに横になる。まさかほんの数時間歩いただけで息が上がるとは思っていなかったし、大分体力面に関してひ弱な人間になってしまったようだ。
体力だけが取り柄みたいだったのに、それをとってしまったら私なんて役たたずじゃん。
「……なんとか、しないと」
いらない子になっちゃう。
ただでさえ。そう、ただでさえ私はいらない人間なのだ。何かしら役に立たないと駄々の穀潰しでしかない。
何も知らないこの世界で何もしないのが多分正解なのだろうけれど、この状態で何もしないなんてできるわけがない。そんなことすれば南達から袋叩きにされても文句は言えないのが現実だ。日本なら逃げてから一人でひっそり生きる手もあったけれど、自然環境が違う土地で生きていけるかと言われれば危うい。だってワニと戦う術なんて私は知らない。学んでいない。
「なにか、私にもできること……」
何かしないと。
役に立たないと。
私の居場所がなくなる前に。
そう考えながら目を瞑る。
知らない未来ほど私にとって怖いものはない。手探りで歩く世界がこんなにも怖いなんて、知りたくもなかった。
前を歩いてくれていた千空は、手を差し伸べてくれた千空はここにいない。
だからこそ余計に怖かった。
知らないことが幸せだと思っていたのに、今は知らないことが怖くて仕方がない。何が良くて何がダメで。
私にとって正しい行動は何なのだろう。
誰でもいいから、その答えを教えてくれ。