つかみどころがない人間。
ブロディ曰く、彼女を、茉莉の人間性を表せと言われたらそう答えるしかないのだそうだ。何せ彼らにとってアドバンテージであった復活液のレシピさえ平和特区だからと言う理由で教えてしまうほどに、彼女はアメリカ側への嫌悪感などなくもはや仲間扱い。少しばかり頭の足りない人物なのかと思いきや日本メンバーからの信頼は厚く、今まで重要な立ち位置にいたとも思われる。だからといって武力に長けているわけでも、頭が切れるわけでもない。
何かが抜きん出ているのかと観察したところで、治療のためと医務室に放り込んでいた時間が長くいまだにそれは分かっていない。唯一わかったことといえば、代わる代わるメンバーがお見舞いと称して訪れていたことぐらいだろうか。
見た目からして茉莉を下に見ていてブロディ達は彼女を警戒するほどの人物ではないと位置付けたのだが、それが間違いであったと認識を改めたのはとある一件からである。
「ブロディ、茉莉がアンタに話があるってんだけど」
「……一体なんだお嬢ちゃん」
「子供扱いするんじゃないよ!ったく──」
ブロディ達からすれば初めてアジトに訪れてきた時に顔色が悪く浅く息をしていた茉莉の印象なんてか弱い子で、そんな彼女の話なんて特に重要ではないと思っていたのは紛れもない事実だ。故にこの時はまさかそんなことを言われるなんて、それこそニッキー達ですら誰しも思ってやいなかった。だが彼女は悪気なく言葉を紡いだ。それも笑いながら悪気などなく、真っ直ぐとブロディを見つめて。
「──っ、『私たちも武装するね』」
「……何言ってんのか分かってんのか、嬢ちゃん」
平和特区をうたったところで実質支配しているのはブロディ達アメリカ側だ。いくら人数が多いからといっても武器の性質や量を考えればブロディ達に従うのは当たり前に思えた状況で武装などすれば、反逆の意思ありと思われても致し方がない。それなのに茉莉は笑って、さも当たり前のようにそう告げたのだ。
「『平和特区なのだから人が争わないのは当たり前だけど、獣はそうはいかないでしょう。腹が減れば襲う、それが自然の摂理だから。万が一そんなことが起きてしまえばあなた方は武器を持っているから助かるけれど、私たちを助けてくれる?ずっと一緒にいるわけではないのに?いざという時に、あなた方は命をかけて私達を守ってくれる?もしそうであれば武器はいらないけど、そうじゃないでしょう。互いにやることがあるんだし、だから私たちも持ってた方がいいよねって話』──」
「そんな話が通用するとでも思ってるんなら考え直すんだな」
「──『まさか私たちがあなた方に攻撃するとでも思ってるの?冗談でしょ。ここは平和特区だよ?なんで喧嘩なんてしなきゃいけないの。もしかしてブロディさん達の持ってるソレは、私たちに向けられてるわけ?猛獣を警戒しているわけでなく?違う意味で使おうとしてるの?平和特区なのに?千空の作った平和特区なのに?』」
そう言ってブロディを見つめる茉莉の顔は純粋に驚いているように見えて、嘘をついているのならば大したものだと目を細めた。
茉莉の言い分も分からなくはない。3700年前とは違い、森には狼や熊といった猛獣が出ることは確かにある。コーンを狙って獣がやってくることも珍しくはなく、そういった危険がないかと問われれば断言はできないだろう。人数からしてみれば日本から来たメンバーのが多く、万が一が起こった場合その全てを守れる保証もない。
「言っておくが、銃をよこせと言われても無理だぞ」
「──『銃なんていらないよ、日本人が使えるわけないし』」
「全員に武装はさせられねぇな」
「──『戦えない人もいるしソレで構わないよ』」
「……もしもがあった時は、わかってるな?」
「──『もちろん!もしも熊に襲われてもちゃんと倒すよ!お腹から生きて食われるなんてごめんだからね!こんな世界じゃ……』」
「──嬢ちゃん、何だって」
「──はぁ、『こんな世界じゃ抉り食われたら治せないし、仲間が生きたままご飯にされちゃったら楽にしてあげなきゃならないからね。流石に身内のお墓を作るのは遠慮したいし、そうならないように最善の注意を払うよ!ブロディさんが話のわかる人で助かった。これで安心して作業ができるね!』だそうだよ。全く、そう言う事じゃないだろう。でもまぁ、そこが茉莉らしいけど……」
もしもの場合。
ニッキー達が武器を片手に仕掛けてきた場合、全ての原因はお前だと責任が取れるのかと聞いたのにも関わらず、思いもよらない返答が返ってきたことにブロディはまず驚いた。そしてその次にニッキーがその間違いを正そうとしないことにも疑問を持った。
「この嬢ちゃんには警戒心ってのがないのか?俺が言うのもアレだが、少なくとも撃たれたんだろ」
「……茉莉は千空の言ったことが絶対なのさ。だから千空が"平和特区"だと言ったのなら、争いなんてない。手を取り合うのが当たり前、そんな考えしかこの子にはないってわけ」
「──はぁ、まるでスタンじゃねぇか」
ここにはいない二人を思い出し、ブロディは小さく息を吐く。ゼノが言った事を否定しないスタンリーと、なぜか彼女の姿が重なった。
茉莉がブロディに言った言葉は英訳されほぼほぼあってはいるが、ほんの少しニュアンスが違う事を彼は知らない。それ故に茉莉がスタンリーのように考えた末にブロディに意見してきたのだと、彼は間違った認識をしてしまったのである。
実際のところ、茉莉は本気で猛獣達から襲われ食われるのを恐れ、身を守る術としてダメ元で武装の許可を求めた訳だし。彼らに反撃しようだなんてちっとも考えてやしない。それは彼女本来のビビリ体質からくる、長年、それこそ3700年前からある純粋な恐怖心。
それに加えてこの先の未来を知らない茉莉の『千空ぱいせんが平和特区って言ったんだから戦いなんてないよね?うんそう。きっとそう。じゃなきゃむり。残りのメンバーはゆっくり全てが終わるの待てばいいんだよね!平和に!』だなんて考えも合わさった結果の行動。
真実を知る者なんてこの先も現れやしないわけで、奇しくも茉莉はブロディにスタンリー同様、リーダーに従う従順な人間だと認識されたわけである。
これだけだったらまだ変人のレッテルは貼られなかった茉莉であるが、彼女はブロディ達を恐れずに当たり前かのように作り出した復活液をねだりにくるし、調味料作りたいからと森を探索してくるねと出かけ始めた辺りで理解し難い人間だと認識しはじめられた。
あまりにも自由行動が多い故に注意したところでじゃあ豆が欲しいと拙い英語でお願いしてくるせいで、同胞の中には彼女に対してのみ対応が甘くなっている人間すら出てくる始末。ルーナのように狙ってそのような行動をしてるのなら対処できたものの、茉莉に敵意すらなければただ純粋に何でダメなのと首を傾げるものだから言い聞かせようがない。
「あの嬢ちゃんの行動を制限しろ!」
「無理に決まってんでしょ!?茉莉が言うこと聞くのは千空だけなんだからね!」
「じゃあせめて森に一人で入らせるな!」
「無理言うんじゃないよ!あの子は基本的に自由行動なんだよ!」
ニッキーからしてみれば茉莉の放浪癖は当たり前のことで。ふらりとどこかに行って何かを狩ったり採ってきたり作ったり。怪我をしているから無理するなといえばまぁ従うが、千空がいた時のように確実に行動を止められるわけもなく。
ならば変な行動をさせないように警護を付けたものの元から一緒に生きてきた仲間の如く、話せないだけで好意をしてくるから調子が狂う人間が量産され。ブロディは茉莉に頼むからメデューサ班にいてくれと懇願したのである。
「──あの嬢ちゃん、まさか計算づくで動いてる、ってことたぁねぇよな」
何か計画がありブロディ達を懐柔するような行動をしていたのではと勘ぐるも、そんな頭脳は勿論茉莉にはない。ブロディは多分いいやつだし記憶にあるから平気そう、その他モブは私と同じモブ。だから仲良くしとこー、と茉莉の狂った思考が生んだ結果である事を彼が生涯知る事はないだろう。
「ブロディ、復活液!ちょーだい!」
「また嬢ちゃんか。で、何に使うんだ?」
「ん?んー?石、ジョエル、石!復活液!」
「あー、現場に俺も行く」
会話なんてできない茉莉はわかる単語だけ繰り返し、その言葉からブロディはジョエルがメデューサをいじった結果石化したのだろうと推測する。それとともに本気で日本語を覚えようかとも考えた。
ニッキーや南がいれば意思を伝えるのに事足りるが、どうもこの茉莉という人物の行動が読めなすぎる。現ににっこり笑って復活液を貰いにくる辺り、使えるようになったメデューサでこちらに何かしようとも考えていないのだろう。が、それが本当にそうなのかすらわからない。いつかその化けの皮を剥がしてやると誓うブロディであったが、残念なことに化けの皮などありやしない。
「アンタねぇ!せめて茉莉がいるとこで試しなよ!?最後の悪あがきだったとして、石化してたら怪我を治せたチャンスだったってのに!!」
「落ち着きなさいよ、ジョエルだってつくとは思ってなかったんだろうし、ね?そうでしょ?」
「ま、まぁな」
ブロディが茉莉とともに現場につくと案の定石化したジョエルが落ちており、杠が茉莉から受け取った復活液をサッとかけた。そして復活して早々ニッキーに詰め寄られたジョエルは不憫ではあったが、もとよりメデューサの修理は茉莉の怪我を治す為とされていたから責められても仕方がないようにも思える。何せメデューサが動いたのはこの一度きりで、もう一度唱えたところで光る事はない。つまりは完璧に電池が切れた状態なのだから。
「もう光んねぇか、残念だが実用にはむかねぇな」
「──おい待てよ、ここストーンワールドじゃあ即諦めが流行りなのか?プロとして受けた仕事だ、限界まで調べさせてもらうぜ!どんだけハードだろうが──」
キリッと、ブロディにむけては強気に発言したジョエルであったが視界の端に茉莉の姿が映ると妙な気分にもなる。確かに仮定ではあったがその可能性があったのならば、怪我人であった彼女を呼んだ方が良かったのかもしれない。
ニッキー達から銃で撃たれ怪我をしていると聞いてはいるが傷口を見たわけでもないし、ブロディ達に怯えた様子を見せないことから果たしてそれは本当なのか。
そんなこと考えたところで自分には関係ない話ではあったが、彼女はニッキー達に信用し必要とされ、心配しているのは事実でしかないのだろう。
「ジョエル、ふぁいと」
「お、おぅ……」
にこりと笑った茉莉がどういった人物か、それはジョエルにもブロディにもまだ理解しきれていない。いや、正確に言えばどこの誰にも茉莉の思考などわかりやしない。それこそ千空でさえ無理なのだ、わかろうとすること自体間違っている。
メデューサを直せる技術があれば役立てたのかなと、結局役にたてねぇクズでしかねぇなと、作った笑顔の下で自身を貶し続けている茉莉の澱んだ感情など、誰もわかりやしない。
補足。
ニッキーが『』で話す茉莉ちゃんの言葉はちょっとニュアンスが違うし、もうちょいふんわりしてる。私たちも武装するね、は武器持つけどいいよね?とかだったり。仕事中襲われた時自分で倒したほうがいいよね?だったり。ニッキーが意図的に物騒にしてたり、英訳したら物騒になってしまったり。そんな感じ。
あと日本人のカタカナ英語って人によって子供が話してるように聞こえるらしく、ブロディ達にはそう聞こえてるメンバーもいる。にっこり笑って幼児言葉喋る茉莉ちゃん。警戒しにくいだろうね。
茉莉ちゃんの自由行動は日本にいた時からのなので、日本側は止められないの知ってるけどアメリカ人には理解できない。一応ゼノ達は戦ってんだぜ?ってなるけどねぇ、司帝国自体同じことしてるんです茉莉ちゃん。諦めて。加えて原作少年誌だから死人は出ないはず!(自分以外)と脳の憶測で思い込んでる故の謎行動力でもある。
って方で、何にも知らない人間からしたら茉莉ちゃんは謎だらけだし理解はできない。勘違い的要素が発生してます。