凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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109 凡人、走る。

 

 

 

 

 

 ダイヤ捜索部隊が帰ってきたと思ったら、今度はそれを科学の力で生み出したダイヤで削って電池を作るのだと知ったのはつい先ほどで。そもそも人工ダイヤを作り出したのは天然物を加工するためで、それ自体は小さすぎて使えない。鉱石であるダイヤを電池になるように加工するのが、私たち、ジョエルに与えられたミッションだったようなのである。

 今ならはっきりとわかるね、スイカの気持ち。お役に立つんだよーっと昔から頑張っていた彼女は、多分きっと、こんな気持ちだったんだろうなって。まぁ、私の方は若干、いやかなり薄汚れた感情ではあるけれど。

 

「頼んだよ、そこはアタシら応援しかできないからさ!」

 

 ニッキーがジョエルに激励を送り、わたしも部屋の隅でひっそりと彼に視線を向ける。プロの時計技師であるジョエルでも一個二個の加工では済まない作業をやらせて欲しいと言えるわけもなく、私はまた視線を足下に向けた。

 何かできることないかなと、千空が指示をくれないかなと大人しく通信を聞いていると、悲しくもその願いは叶う事はないらしい。何せこれが千空達との最後の通信となったわけなのだから。

 スタンリー達は今でもなお千空達を追って南米へ向かっていると仮定して、彼方から通信をとっていれば意図も容易く場所を把握されてしまう。それ故に、身を隠すために千空達からは連絡をよこさないとのこと。

 

 次に俺らが繋がんのは、全部が決着した時だ。

 

 それが千空達から私達へ示された、最後の希望でもあった。

 

 けれどもジョエルからの片道通信を聞くだけならば可能なようで、ダイヤ電池完成だけは知らせろと。つまりそれが勝敗の決め手となるのだろう。

 

 ガチャンと切れてしまった通信機器を眺め、仕事に戻っていくみんなの背中を目で追って。今度はゆっくりと息を吸って吐く。

 やらなきゃいけない事はわかっている。私がやるのはみんなの生活基盤を守る事。それくらいしか今の私にできる事はないのだから、そこは必死に頑張らせていただこう。

 そう決めて、私は大丈夫と小さく呟くのだ。

 

「茉莉ちゃん!あのね──」

「──なるほどね、オッケオッケ。ブロディさん達には伝えとくよ」

 

「茉莉、これなんだが……」

「ほぉん、オッケオッケ。やっとくやっとく」

 

「茉莉さん、あっちでマグマ達が揉めてて!」

「オッケオッケ、今行くー」

 

 モブ仲間、というよりはもう立派な科学王国の仲間に呼ばれて基地内を走り回り、時々喧嘩をし出すマグマを止めて。モズなんかは千空達がいないから女の子にちょっかい出し始めるからニッキーに告げ口もして、来たるその日まで当たり前の毎日を繰り返す。

 たまに空を眺めながら千空達は無事かな?ご飯食べてるかな?怪我してないかなと思いつつも、考えたところでしょうもないから仕事に打ち込んで。

 

「Hey.茉莉!」

「んー、あ!豆じゃん!え、くれるの豆。助かる!でも種類がいっぱいある。でもくれるんだよね?んー、せんきゅー!」

 

 なんだかやけに親しい態度な軍人さんから豆をもらってちゃっかり味噌を仕込んでみたり、生魚と塩を懇願して魚醤を作ったり。頑張れないと嘆く陽のためにブロディにプレス機を作ってもらいザリガニ煎餅を作ったりと、まぁ、やれる事はやっている。

 そのせいで陽には今の生活楽しそうだな!って言われたけれど、楽しくはないんだなこれが。

 

「茉莉からしたら、やってる事はかわんねぇもんな。日本とアメリカで」

「──ソダネ」

 

 確かに、変わらなくはあるんだけどね。

 気持ちの持ちようだとわかっているのだけど、千空が命懸けで戦ってると理解してしまっている以上何事にも集中できないというか、出来ても頭がぼんやりするというか。

 多分、普通じゃない状態なわけで。まぁこの状態が二、三年と続くとしたのなら別なのだろうけれど、心に余裕がない。

 司帝国にいた時とかペルセウスを作っていた時とは、状況があまりにも違いすぎる。ここでは何かしてないと、私が私でいられなくなる気がして仕方がない。

 

「──陽くん、そろそろお昼の時間だよ」

「まじか!?ほんと、千空といいお前といい、時間把握能力凄すぎだろっ?!」

「……私はずるしてるからね」

 

 陽の走り去る背中を追いながらジジっと耳元で震えたイヤリングをひと撫でする。こんな状況でもホワイマン様はお元気らしい。ま、作り物だとしても千空の声が聞こえるのは有難いからね、今後も降り注いでくれやがれ。

 

 

 変わらない、変えてはいけない日常、平穏な日々。

 そんな日の昼下がり。ジジっと耳元で音がなる。体感でまだ定時通信には早すぎると思ったそれは、ツートンツーツーとなり始めた。

 

「……?『ふた、てに、わかれ、ます』?なんだそれ」

 

 私がわかるって事は日本語のモールス信号なわけだから、多分それは千空達からの通信に違いない。でも千空は言っていた。次に繋がるのは全部が終わった時だって。

 だというのにどうしてそんな中途半端な連絡をしてくるのか全く訳がわからない。もしかしたらアメリカ側の通信で、運良くそう思える組み合わせになったとか?

 

「──いや、それはないな」

 

 んな何十通りもある中で、運良くその言葉になる訳がない。じゃあこれ何に対しての連絡か。

 残念なことに私の頭脳は謎解きには向いてない。ならば一緒に悩んでくれるだろうみんなに聞けばいい。その方が確実な答えが出るだろう。

 

「杠ちゃん。ニッキーちゃん達もいるー?」

「どうしたの茉莉ちゃん」

 

 些か久しぶりに杠と会ったと思いつつも、私が入手した情報を伝えると皆がポカンとした顔をする。そして何処からその情報を手に入れたのだと問われた。

 

「どこからって、コレ」

 

 横髪を掻き上げ、トントンと指でイヤリングを揺らすと、杠があっと声を漏らす。そこには知る人ぞ知る、千空の作った科学アイテムが一つある。

 

「それ、宝島の時の!」

「あんた、いつから持ってたのよ!?」

「えと、わりとずっとつけてたよ?怪我した時もつけてたから、避難する時もコレだけは持って来れたんだよね」

 

 ペルセウスから唯一持ち出せたのはその時も身につけていたコレだけで、他のものはない。作ってもらった刃物セットや記憶を書き留めた巻いた羊皮紙とかも、全てペルセウスに置き去りにされたまま。ゼノがいなければ日本語を読める人はいないだろうし、問題はないと思いたい。

 

「あ、うん。はいコレ、みんなが持ってた方がいいよね、ドウゾ」

 

 いまだに驚いている姿から私がつけてても仕方がない物だと察してニッキーに差し出すも、彼女はそれを受けとってはくれなかった。でも千空と連絡するならばニッキー達が持ってた方がいいと思うのだけれども……。

 

「茉莉のもちモンだって知ってる奴がいたら、アタシらが持ってちゃ疑われる。アンタがちゃんと持っときな」

「──わかった」

 

 ニッキーがそういうならとイヤリングを付け直し先ほどの通信の真意をみんなで考え始めた私達だが、あの現状で考えると先ほどの言葉はやはり意味のあるモノにしか思えてこない。でも一体何がと考えて、ふと、今私たちが取り掛かっている工作はなんだったかと思い出した。

 

「──ダイヤ?」

「って事は、電池に関わる事?」

「いや、分からんけど」

「どっちなのよ!?」

 

 南に怒られながらも意味のない通信はないのだがら、あるとしたら私達になにか関係がある事だろうと推測を話す。だってほら、あっちのメンバーがそんなどうでも良いことを伝えてくるとは思えないし。となれば電池を作っているジョエルにも伝えた方がいいのかもしれない。

 

「じゃあ、アタシたちは一旦ジョエルのとこまで行ってみるよ。もしかしたら何かわかるかもしれないしね」

「──お願いね」

 

 最近はあまりメデューサ班に関わっていない私がジョエルの元に行けば怪しまれるかもと、あっさりその場で別れて後はみんなに任せて。きっと杠達のことだから上手くやるのだろうと、客観的に考えている私がいた。

 大丈夫、問題はない。みんなだから上手くいくだなんて何度も心の中で唱えて、私は与えられた仕事を淡々とこなすだけ。

 

 

 それから少し時間が流れ時は夕暮れ、うっすらと赤みがかった空が藍色に染まり上げられた頃。ジジっとイヤリングがなった。定時通信にはまだ早いコレは、一体誰に向けられた物なのだろうか。

 まぁ私には関係ないのかもななんてぼんやりと外を眺めていると、トントンツーと聞こえてくるモールス信号。足りない脳みそをフル回転させてなが文字を組み上げていけば、それは千空から私たちへ向けた最重要事項だった。

 

「──っ」

 

 ジョエル達のいる研究室はここからそう遠くはない。全力で走れば三分もかからない距離にあるその場所に、全速力で向かう。ほぼほぼ治りかけの肋骨に荒い呼吸が響いたが、今の私には関係ない。

 

 やるべき事を、やらなければ。

 

 いまはただそれだけを考えて、私は走ったのだ。

 

 




あと一話。あと一話まで書き上げたい。
そしたら七月までアニメ待てる。
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