あの日あの時、先に進む事を決めた千空達の船は南米を目指して海を行く。道中足りなくなった燃料はその場のその場で補充し、スタンリー達とそれこそ命懸けの鬼ごっこ。運良く地理学者のDr.チェルシーを救出できたゆえに南米横断ルートを進むことを選択し、当面の目的は科学の力を駆使しバイクを作ることとなった。無論材料など船にない。
でも千空は作ると言ったら作るのだ。
そんな事、科学王国なら誰でも嫌でも体験済みである。
スタンリーに追われながらもラボカーを囮に出して時間を稼ぎ、その隙に到達した土地でゴムの木から樹液を採取、加工。ゼノ達から奪いとった船すら解体し、エクアドルにてバイクを製作。船を解体した木材を燃やし木炭ガスを生み出し使用することで燃料問題を解決し、一つの船からバイクを6台作りそれに乗り南米を横断。時折りコーン街部隊に指示を飛ばし、この度はメデューサのカラクリを調べてもらうこととなる。
「電池切れだろうがなんだろうが、動かすっきゃねぇんだ。リモートワークで現物ゴリっとこじ開けて、石化装置様のメカニズム大解剖しとかねぇとな……」
現状軍人であるスタンリーを倒すにはそれしかないと千空達はわかっていた。だからこその石化装置の修理。理由は何かしらつけておけばブロディ達もダメだとは言えないだろう。何せ──。
「千空ちゃん、茉莉ちゃんのこと聞かなくていいの?」
「あ"?んな事聞いてなんにもなんねぇだろ」
「でもね、千空ちゃん──」
ゲンの言葉を無視して龍水の視線も気づかないふりをして、千空は作業に没頭する。
こんな時になって初めて茉莉の気持ちが千空には理解できたのだ。
何かをしていれば、その事だけを考えていればいい。のんびりとした時間があるから考えなくていい事を考えてしまうのだ。だからこそ、茉莉はいつだって作業に没頭していた。もとから物作りが好きな性格もあって、作業している時は嫌な事から、怖いことから茉莉は抜け出していた。そんなことは知ってやいたが、まさか自分がそれを体験することになろうとは。
少しでも時間ができればあの時何が出来たかと、もっと良い手があったのではないかと考えて。もしそうでなくとも彼処に残すより連れてきた方が良かったのではないかと、ありえもしない過去を嘆き。夢に出てきた茉莉はいつもと同じ笑顔を作っている癖に、ふとした瞬間青ざめた血濡れの顔になる。
そんな顔が見たいんじゃない。そんな事をさせたかったわけでない。
今思い返せば茉莉は以前からそうすると言っていたのだ。千空を生かすために、司に死んでもいいとさえ。その事をちゃんと理解していれば話し合っていれば、あんな事にならなかったと後悔すら湧いてくる。けれどいくら後悔したところで彼女が自分を庇い、怪我を負った事実が消えることがないと千空は理解していた。
故に聞けやしないのだ、茉莉の状態なんて。
聞いてしまえば判断が鈍る。進まなきゃならないのに、足を止めたくなるに決まっている。
全てに関して合理的な判断をしなければならないのならば、人類を復活させたいのならば、今は残してきたメンバーに茉莉を託すしかなかったのである。
その後も千空達はロープウェイを作り山を越え、アマゾンの大密林に到達。止まることなくアマゾン川を下り、石化の爆心地では山のように積み重ねられた石化装置を発見することに至った。
「メデューサが虎の子の一つでは一か八かの解体など論外だったが、今なら好きなだけバラして調べ放題だ。違うか……⁉︎」
「ククク、科学キッズ大好物、じっくりお楽しみの分解タイムといこうじゃねぇか……‼︎」
笑顔の下にまたやることが出来たと安堵し、誰にもこの仄暗い感情を悟られることなくステルス艦をもクラフト。クロムの閃きのもとメデューサを船に貼り付け、近未来のステルス艦にすることもできた。
船を出せばそこではメデューサを分解し、不発弾らしきものの電池となるダイヤを発見。そこからダイヤに傷ひとつでもあれば電池として機能しないことが判明し、コーン街部隊へと更なる指示を飛ばした。
「形が百億パーセントピッタシで傷一つねぇ新品ダイヤブッ挿せば、メデューサはお元気いっぱい再起動できるかもしんねぇ……‼︎ だからこそダイヤモンドを作る‼︎」
科学知識ゼロのニッキー達だとしても、誰でもできる。それが科学だと言い聞かせ必要な材料と工程を伝え、失敗の積み重ねの元ほんのわずかであるがダイヤモンドを生み出させることに成功。チェルシーの知識をもとに割り出した山から天然のダイヤを採掘し、人工ダイヤを使って天然物を加工すれば新品未使用のダイヤ電池は作り出せる。コレがうまくいけばそれこそ全ての常識がひっくり返る、形勢逆転も夢ではない。
「でだ、これが俺ら世界遠征組からの最後の通信になる。次に俺らが繋がんのは、全部が決着したその時だ」
ダイヤが成功した時にだけ情報を流せとジョエル達に指示し、千空はあっさりと通話を終わらせた。その目に迷いなどなかった。
ジョエル達がメデューサの電池作りを成功させると信じ、千空達が向かうのは石の聖地アラシャ。そこで超合金の町を作りながらダイアモンドも手に入れれば一石二鳥。
けれどもそう簡単に千空達の企みが進むわけもなく、空くもそこが対スタンリーとの決戦場となってしまったのだ。
「俺らはスタンリーをブチ倒してペルセウスを取り戻す‼︎ スタンリーは俺らをブチ倒して大将ゼノを取り戻す‼︎ お互いここで勝負決めるっきゃねぇ。レースのゴールは一緒なんだよ……‼︎」
勝負しゴールが同じだとしても、不安要素は多かった。何せスタンリー達は対人戦に長ける軍の特殊部隊出身。それに対してこちらは近戦に適した武道チーム。経験の差は埋まらない。ならばどうするかと考えれば、やはり行き着く先はメデューサである。拠点を作りながらも罠を張り、同時にカセキがメデューサを分解しダイヤも削る。けれども持ち得た成果はダイヤが真っ二つに割れると言うものだけ。
時間がない中で作戦を練り、そして至った結論は全員での自爆。つまりは敵味方関係なしの無差別の石化だった。メチャクチャな作戦ではあったがそれが一番勝算があるとスイカとフランソワに復活液を託し避難させ、その時を待つこととなった。
されど運命はいつだって悪戯に、人を窮地に陥れる。
思いの外早くアラシャについたスタンリー達をスイカは発見し、尚且つ部隊の一人が蜘蛛に噛まれ毒に侵されたのだ。敵だからと無視を決め込めば作戦に影響はないが、スイカにはそれはできなかった。できる筈がなかったのだ。たとえ敵だとしても誰かを見殺しにするだなんて。
「──お薬なんだよー!」
人として正しい行いが、いつだって正解とは限らない。何せ今は人類復活を賭けた戦争中。それは褒められた行為ではない。
「FREEZE!」
あっけなくもスイカはスタンリー側に捕捉され、英語が理解できない故に逃げ出した。フランソワの機転により人質となっていた銀狼が松風の手で解放されたものの、危険であることはまだ変わらず。フランソワは考えを巡らす、何をすればこの最悪な状況を脱することが出来るかと。そうして理解する、彼らは軍人であるのだと。
「──私たちは民間人です!彼女、スイカ様は民間の医師です!ドクターとしての責務にも基づき、通りすがりに毒蜘蛛の治療をなさいました。安全のために、千空様たちと離れて生活をすることになったのです!私たちは軍に所属していません。攻撃の意思はなく皆様に従軍いたします。それでも撃たれるのですか?」
「……いや、撃たねぇよ。言ってんのがマジならな」
最適解は誰にだってわからない。だからこそ人はその時その時に自身で選択し、進むしかない。
フランソワは捕まる少し前、なるべく情報を伝えようと通信をした。二手に分かれます、と。一見それは意味のない言葉に思えるものだが、それを受け取ったものは確かにいたのだ。
一人は受信用イヤリングを隠し持っていた茉莉。そしてもう一方は盗聴器仕様の時計を作り持っていたジョエル。
茉莉の知らない未来がほんの僅かにズレたのは、この時であった。
フランソワとスイカが捕まった同時刻。
ソレを受け取ったジョエルはその言葉に意味があるのかと思考する。何せ通信は最後だと言っていた奴らが送ってきたものだ、いやでも気になった。ニッキーたちを呼び出しその意味を聞き出そうとしたところ、彼女たちはすでにその通信内容を知っていた。いつ何処で聞いたかは伝えられなかったが、自分以外に盗聴している人間がいたのだと驚きを隠さない。
何せ一見していい子ちゃんばかりの日本人チームだ、そう上手くブロディ達に無害だと偽っているものがいた事が既に驚くべきことなのだ。
しかし今はそんなことを気にしていても仕方がないと、ジョエルはニッキー達に問いかけた。お前らにもプロの技師がいるのじゃないかと。
技術連絡用の通信に連絡してきたのだからソレに関係する事に違いないと察し、ダイヤをもう一度くまなく調べる。そしてわかったのが割れやすい劈開面をド真ん中に走らせること。綺麗に二手に分かれたダイアが、伝えられた情報の答えを示していた。
カセキから与えられた情報から、ジョエルはどんなに面倒な加工でもプロの技師のプライドにかけて削ってやると意気込んだ。
そうして幾ばくかの時間が過ぎたのちに、ソレは完成したのである。
ジジっと通信がなる。
戦闘が激しくなったアラシャで、ダイヤ電池の完成が伝えられた。
時間はもうほとんどなかった。先に戦闘になったであろうコハク達はいまだに帰ってこず、目の前にはスタンリー達がいる。
言わずもがな答えは分かりきっていた。千空達を守ろうとした大樹は倒れたまま動かず、龍水もまた同じ。もうそこに戦力はない。
そう、そこにはなかった。スタンリー達に立ち向かえるだけの戦力がなかった。
だけれども地球上には、共に闘う仲間はまだいるのだから。
『テメーらのそこ、北米から俺らの南米まで。メデューサで全部ドカンと包む‼︎ 俺らで人類を滅ぼして救うんだよ……‼︎』
千空からの通信はジョエルを通してニッキー達へと伝えられた。残念なことにすでに直ったばかりのメデューサはブロディに取り上げられていたが、反撃の狼煙は上げられたのだ。
死にさえしなければメデューサで石化し復活することは可能。その場にいた日本人ならば誰しも知ってるある種のアドバンテージ。
千空はやると言ったらやる。それしてそれを託されたのだがらやるしかない。
信用や信頼なんて言葉では表せないほどの積み重ねの結果、平和特区とされたコーン街での人類の行末をかけた戦闘のゴングは鳴らされたのである。
「狙いは石化装置だ!触らせんじゃねぇぞ……‼︎」
銃弾が舞い、一人また一人と仲間が倒れていく。
「石化装置!万が一だ、今すぐ持って離れろ!」
厳重に保管されたソレを持って逃げようものならモズの槍が向かい、それに対応して剣が構えられる。ブロディの首にかかっていた保管庫の鍵が宙を舞えば、しなやかな身体を生かしほむらがそれを奪い取り撃たれ。また鍵を奪い合う乱戦。誰もがこの状況を把握しきれていなかった。そこに、その場にいなかった人間が一人混じっても誰も気づかないほどに。
マグマが鍵を手に入れ保管庫の蓋を開けた時、その場に無傷でいるものはいなかった。いや、日本側にはほぼいなかった。息を潜め、その瞬間待ち侘びていた者以外。
「──終わった、な」
「あぁ、これで全員──」
飛び出したのは二人の人物だった。
一人は負傷した金狼を背負い身を隠していたジョエル。手を伸ばしメデューサを掴み取ろうたしたが、それより早く目の前を黒が横切り、そのまま横転。
「っオマエ──‼︎」
そしてもう一人は、他でもない茉莉である。伸ばれた右手にはきらりと光るものが握られていたが、ブロディがソレを知る由もない。
そして茉莉もまた、己が知っていた世界とこの世界が、自分の行動のせいでズレが生じてしまったのを知らなかった。
ブロディが保管庫の扉を閉めるのと同時に軍人の一人から振り下ろされた石斧は、真っ直ぐと茉莉の右手を叩き割った。派手に飛び散った血は仲間に降りかかり、倒れ込んだ茉莉の周辺には血溜まりが出来始めていた。
本来であれば銃撃戦になっていた争いは、彼女の発言を伴って旧時代の武器を待ち得た乱戦となっていた。それゆえに振り下ろされたのが石斧で、本来ならば武装されていなかった武器であったのだ。茉莉があんなにも恐れていたバタフライエフェクトは残酷にも彼女にそのまま還元する形で発現し、その代償は右手一本で支払われたのである。
「嬢ちゃんオマエ、自分がどうなるか分かってんのか……」
この世界で、ろくな医者も機器もない状態で。僅かなケガでも命取りなこの世界で、腕が切り落とされたとなれば無事では済まされない。
ハクハクと茉莉は小さく息を漏らし、ブロディは恨み言の一つでも聞いてやろうと彼女のその体を持ち上げる。あまりにも軽いその体に似つかわしくない傷口が目に入った。
無論、その状況を目の当たりにしたのはブロディだけではない。
ここにいるはずもなかった茉莉がいることに驚く南に、最前線で戦っていた故にその怪我の酷さを瞬時に理解するマグマ。あまりの惨状に涙を流す杠と、任されていたのにと嘆くニッキー。
誰れしもがもう駄目だと打ちひしがれた。負けたのだと、理解した。
「──っ」
「……遺言くらい、聞いてやるよ」
ソレはとても小さな声だった。痛みを堪えた声だった。
ソレでも彼女は、穏やかに笑っていた。
「せん、く、かちぃ……!」
全くもって理解できない。
何が勝ちなのだ、この状況で。こんなになってまで。
なぜそんな穏やかに笑えるのかと疑問に思いつつ、彼女の目の先にあるものを追う。
そこにあったのは石化装置の保管庫のみ。
「──嬢ちゃん、アンタ何をしたっ」
瞬間には溢れ出したのは緑の光。
3700年前、人類の叡智全てを奪い取った悪魔の光。
「──アンタだったのか、もう一人の盗聴者は」
ジョエルはそう呟いた言葉を拾うものは誰もなく。全ては光に包まれていく。
そしてその日、世界中の人間は全て石になった。
書きたいとこまでかけてスッキリ!
バタフライエフェクトの代償はそのまま茉莉ちゃんへ。危惧していたことは起こるものなので。
マシュマロとか感想いただいたので、張り切ってキリのいいとこまでかけた。満足!