凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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112 現実。

 

 

 

 月に行く。

 そう決めたのは宝島での決戦を終えた時であったが、より強い思いでそこへ行くと決めたのはきっとこの時だった。ホワイマンが月にいるから行くではなく、彼彼女らに人類の命運を賭けた交渉をしにいかなくてはならない。

 そこには明確なゴールの違いがあったのである。

 

 千空はゼノを復活させたのち、スタンリー・スナイダーの今までの攻撃行為は戦場における正当な戦闘行為だったと、ロケット作りに協力してくれるのであれば文明再興後罪に問わないとゼノに取引を持ちかけた。そしてその答えはイエス。ゼノを仲間にしていいものかと怪しむ人もいたが、状況的にゼノは裏切る事はないと判断された。

 

 スタンリーはゼノの幼馴染だ。それこそ幼い頃から共にいた、苦悩を分かち合った唯一の人物と言ってもいい。スタンリーの命は千空らに握られているようなものではあったが、彼らがそれを盾にしないであろうこともゼノには分かっていたのである。何せこんな状況でさえゼノを目覚めさせた人間だ、恐怖政治より合理性を選ぶ優しさがそこにはあった。

 

 チラリとゼノは視線を横に向ける。

 そこにいるのは人類の未来をかけて対峙していた、敵でもあった青年だ。彼にもまた自分と同じように命をはってくれた幼馴染がいると聞く。それがどんな人物か分からないがいずれ会うことになるだろうと、不本意ながらまだ見ぬ人物へと期待をも抱いた。きっと自分達と似たように共に歩んできたのだと、その信頼関係から思い込んでしまったゼノであったが後々それが間違いだったと知ることとなる。

 

 

 その後千空達は宇宙船をつくるために必要な素材を掘り当てるためガイガーカウンター(放射線測定器)を作成。チェルシーが指示した鉱床にそれをかざしながら進めば、ニッケル鉱石やクロム鉱石等等を手に入れる事ができた。それから沈んでしまっていたペルセウスから剥ぎ取った鉄を使いステンレスを生み出し、腐ることのない缶詰を。そうすることで今後旅路に必要となる保存食にバリエーションを増やした。もちろんステンレスは缶詰を作るためだけに生み出されたわけでなく、むろんロケットの素材でもある。

 しかしながらやはり手が足りず、ゼノが味方なのだからと敵対していた軍人と、もとよりアラシャに住んでいた住民を復活させて超合金の街を樹立させたのだ。

 

「科学でファンタジーに立ち向かおうじゃあないか。闇の科学者プラス光の科学者で──」

 

 人類発展のために進めていく科学でも負の障害は出てしまうが、それを背負っていく事がゼノの役割でもあった。毒性などどうしようもなく発生してしまう負の面を彼が引き受けることで、ようやく千空はみんなを率いて未来へと突き進めることとなる。もとより科学重視のゼノからしてみれば他の声など騒音。自由に科学を進められるのであれば、そんな雑音など無視できた。光と闇、適材適所で進めていければロケット作りもより一層早まることになるだろう。

 

「俺たちは3チームに分かれる‼︎」

 

 龍水がそう宣言したのは三度目の復活から十か月経った頃。季節は夏へと移り変わっていた。

 その頃にはニューペルセウス号のエネルギー源となる生ごみを再利用したバイオ燃料作りのシステムも完成し、船自体に組み込みも完了していた。

 船旅をしながら突き進むのにはぴったりの燃料と、ゼノが生み出したロケットエンジンを組み込めば、今までのペルセウスよりも断然早く航海する事が可能となったのである。

 

「フゥン、街が軌道に乗った今、のんびりと安住したいのも山々だろうがな」

「世界全員石化しっぱなしじゃねぇか。日本も宝島もコーンシティもよ」

「その通りだ! うぉぉおお! 待ってろ杠たち──!」

「そのチームわけは、ゼノ率いる超合金の街に残るチーム! 鉱石を集めロケットエンジンを進化させる化学の要だ! そして大樹、羽京らともにコーン街に戻るチーム! アメリカ本土の全員を助け、コーンの生産を軌道に乗せる人類復活の源だ! そして‼︎残ったメンバーで新たな街へ進む開拓チームだ! ここから大西洋を渡り世界を巡り、日本到達までに宇宙船の素材をかき集める!」

「ヒー、遠! 何年かかるのコレ? 日本到着まで⁇」

「はっはー! 案ずるな!」

「全員でアホほど苦労して作ったロケットエンジン。宇宙船のためだけだと思ったか?」

 

 ロケットエンジンを組み入れたニューペルセウスであれば、大西洋横断は僅か一週間。

 今までの常識が覆された船でなら、国々を復興していったとして数年もかからず日本へ戻る事は可能だろう。

 

「──ん? でも千空、いいのか?」

「あ"? 何がだデカブツ」

「コーン街に戻らなくても……」

 

 少なくとも大樹は知っていた。千空がどれだけ茉莉を心配していたかを。寝付けないほどに、他者の言葉を受け付けないほどに側についていたかを。故に戻らなくていいのかと問うた。

 しかし大樹の想いとは裏腹に千空は空を見上げて鼻を鳴らす。

 

「ククク、問題ねぇよ。アイツらならやってけんだろ」

 

 誰に向けた言葉かなんて、名前を伝えなくともわかる事だった。コーン街に残った仲間を指しながらも、そこに込められた意味は理解できてしまった。

 

 流石に怪我さえ治りゃ茉莉がじっとしてるわけがねぇ。少なくとも勝手に統率とって生活できんだろ。

 

 石神村の老人達に好かれたように、捕虜であった時でさえ安全を願われたように。そこに馴染んで上手くやっていけると、今までの茉莉の行動を思い出して強引に自分の考えを振り払う。

 会いたいなんて贅沢な悩みだ。生きていれば必ず会える。ロケット制作を第一に考えるのならば、僅かな時間でさえも今は惜しい。

 それは彼女が無事で生きていることを前提とした、合理的な思考であった。それ故に千空はコーン街へ向かう事はなく、そのままスペイン・バルセロナへと旅立ったのである。

 

 千空達が旅立った一方で、残ったゼノ達はエンジンを進化させつつ北米へ戻る船をも作成。完成するまでの間に通信に必要なモールス信号を全員で覚え、誰でも連絡が取れるようにしておく。けれど勉強がてらに何度も通信を繰り返していれば、月にいるであろうホワイマンに人類がまた進み始めたのだと知られることなった。

 ホワイマンからの通信はWHYではなく、

 DO YOU WANNA DIE.

 死にたいのかと千空達に問うものであった。

 それは悪意にも似た、けれども警告とも取れるメッセージ。

 メデューサを降らせて来ない事から今すぐ人類をどうこうする気はないのだろうとゲンは推測し、月に降りることまで想定して今後は必要素材を集めることとなった。

 

「ククク、つまりホワイマン先生が痺れきらさねぇうちにとっとと乗り込めっつう話だ。ピンポイントで月の現地にな……!」

 

 月に行く。

 それだけでは済まさずに敵陣にまで挨拶に行く。それが千空の決めた事ならば、人類のためならばと誰も否定する事はない。

 

「……っ」

 

 ふと後ろで声が聞こえた気がした。

 そこにいるはずないのに居てほしいと願ってしまったからか、聞こえるはずのない声が千空の脳に響く。

 大丈夫だよ、と。

 

「──クソっ」

 

 冷静になればそこにいやしないのだと理解できたはずなのに、思考が引っ張られる。

 脳を切り替えろ、前を向け。今できる最善を考えろ。

 そう考えたところで、千空の脳から茉莉の声は消えてはくれなかった。 

 

 その後千空達は一週間もせずにスペインに到着し、オリーブオイルを入手。そこから龍水の源である欲しいイコール正義を貫き、現地民を懐柔。新しく硬貨を生み出しては人を雇いいれ経済をも回し、ロケットの材料である蛍石の発掘に成功。それを用いた超高性能レンズの作成を託して次の目的地インドへ向かう。

 数学の街インドでは人類の叡智そのものを、つまりは人員の補給を目的として天才数学者を復活させた。

 

「これって──、もしかして君たちが! 助けてくれたの⁇ホントにありがと……。──っピギャァァアアア‼︎」

 

 3700年ぶりに復活して早々、龍水を見た男は叫び逃げ出した。が逃走も虚しくコハクに捕獲される。彼の名前は七海SAI。正真正銘、龍水の兄に当たる人物である。

 

 千空達が逃げ惑うサイを勧誘していたその頃アラシャに残っていた羽京達は新たに作られた船で北米へ向かい、そして八年ぶりにコーン街へ戻っていた。最後に見た風景よりも荒れていた拠点には獣が出入りしていた形跡もあったが、建物の中へ入ってみれば植物の侵入はあったもののそこまでの老化は見られない。

 けれども数年人の手が入らなかったことから、メンテナンスは必須作業だろう。

 ぐるぐると建物内を歩き回り、そのたびに石化したメンバーを把握。見つけた順に復活液をかける事はせず、まずは全員の無事を確かめていく。

 そして遂に行き着いたのはあの日あの時、メデューサが発動した部屋である。

 

「──コレは」

 

 折り重なるように倒れた石像と、それでも争うかの如く手を伸ばす石像。様々な格好をしたもの達がそこには静かに佇んでいた。

 壁や床には銃痕等の戦闘痕が残り、みるからにここで何かが起こってしまったのだと皆に知らしめた。

 アラシャでスタンリー達と戦っていた羽京も、まさかここでも命懸けの戦いがあったとは思ってはいなかったのだ。何せ千空が送った通信はメデューサを使い人類をもう一度石化させるというものだけ。それが戦闘に直通しているなんてあの状況で考えられたわけもなく、ましてやブロディ達にすでに奪われていたなんて思ってやしなかっただろう。

 

「──っ」

 

 一人ずつ石化した仲間に近づき絡まった蔦を払い、そして羽京はソレを目にして息を呑んだ。

 

 床に広がった黒いシミと、それに合わせたように存在している二つの石像。一方は大柄な男のもので、彼は小柄な人物を抱き抱えている。それは羽京達のよく知る人物であった。

 ただ一つその石像に違いがあると言えば、本来なら腕がある場所がごっそりと欠けているということだけ。ただ折れているだけならば問題ないが、折れた先の床に広がっているのは液体が広がったような跡。石化した断面も複雑で、まるで石化前から欠けていたようにも思えてしまうほどで──。

 

「──羽京君、コレを見てください」

 

 氷月が指さしたのは保管庫であった。

 すでに蓋を開かれたソレの中にあったのはメデューサと、誰かの右腕。

 そして、かつて千空が宝島で生み出したイヤリングが一つ。

 

「コレは……っ」

「えぇ、彼女のもので間違いないでしょう」

 

 メデューサは死んでさえいなければ、傷であればそれを修復する事は可能。その事はすでに羽京も氷月も、この場で戦っていた仲間も周知の事実だ。宝島では石化前に骨を折ってしまっていた茉莉の足も、重症であった銀狼の傷でさえもメデューサは綺麗に完治させてくれている。粉々になった石像もきちんと付着してさえいれば、復活後何の問題なく機能する。

 でもそれはあくまで石化後破壊された場合と、傷口が綺麗に塞がる状態であった時に限る。

 

「なん、で……」

 

 茉莉自身の右手の断面は綺麗とは言えない。むしろ歪な形をしていた。

 そしてもう一方の切り取られた腕の断面は何か潰されたかのように、そして削り取られたかのように凹凸が少ない。言わずもがな、保管庫の蓋に押しつぶされたのが原因なのだろう。

 

「──きっと大丈夫だ! 杠ならきっと!」

 

 無理だ。

 羽京は声なくつぶやいた。

 杠の集中力も器用さも根気強さも羽京は知っている。それこそ復活初期から石像を組み立てていた杠を知っているからこそ、コレは無理なのだと断言できた。

 いくら杠とて、砂粒一つ一つを組み立てられるわけがない。ましてコレが右京の考えた通りに石化前の怪我だとすれば、切り口の形状が左右で違っていてもおかしくはないだろう。石と違い人の肉は柔らかく、ほんの少しの力が加われば変形してしまう。それをぴたりと組み立てるなんて人間にできる諸行ではない。

 

 無理だ。

 

 羽京は唇を噛み締めて、その手を抱く。

 茉莉の手はもう戻す事は不可能だと思っていい。ならば彼女のためにできる事はただ一つ。

 

「──ルーナ、君は手術はできる?」

「え、あ、それは……」

「無理なら医者を探そう。もしもの時のために、備えはあったほうがいい」

 

 復活液をかけて石化を解くのは簡単だ。だが問題はその後に起こること。彼女が生身に戻った時、その傷口がどこまで再生するかはまだわからない。何せ前例はないのだから。

 

「ごめんね、大樹。杠を信じてないわけじゃないし、茉莉を腕を元通りにするのを諦めたわけじゃないけれど、それでも用意はあったほうがいい。あとその時まで千空達にはこのことを伝えないでおこう」

「それはなぜだ!」

「君ならわかるだろう? 千空がどれだけ茉莉を心配していたか。──今は、知らせるべきじゃない」

 

 珍しく年相応な表情で茉莉を心配していた千空を、羽京は気にしていた。無論それは羽京だけではなく大樹もそうである。

 そして人類がもう一度全て石化して、空を眺めた千空の瞳にはどこか柔らかさがあった。それはきっと茉莉の傷が治ったことへの安堵であったに違いない。

 

 

 だからこそ、羽京は伝えない選択をとったのである。

 茉莉の腕は戻らないなどと、伝えられるわけもない故に。

 

 

 




原作序盤で繋がってない石像はバラバラ死体になるってあったんですけど、ソユトコだよね。って勝手に解釈して進めていくよ!
まったく、茉莉ちゃん出てこない。早く出したい。でも出てこない。
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