凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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114 凡人、諦め。

 

 

 

 

 暗闇だ。

 何度体験しても、先の見えない闇に耐えられる精神を私は持ち得ることはないだろう。

 正直に言って、馬鹿をやったなと反省はしている。後悔も、最初はしていたと思う。

 

 

 千空から人類全てを石化すると指示された時、頭がくらりとした。未来を知らない以上、そうなってしまったのが私のせいではないと願いたいが、願ったところで現状は変わることはない。ならばやれる事をしようと思い至ったのは当然のことだった。

 しかしながら修繕の終えたメデューサがすでにブロディ達に渡っているとは思ってやしなかったし、そのせいで言葉通り命懸けの戦闘になっていたあの場に乱入したのは正気の沙汰ではない。けれど、何もしないという選択はその時の私にはなかったのだ。

 

 結果、残念なことに私の右手は飛んでったわけなのだが、痛みを感じるよりも先に身体を震わせるほどの衝撃と熱さが訪れたのをよく覚えている。一瞬何が起こったのか分からなくて、でも理解してしまった途端に息ができなくなるほどの激しい痛みが私を襲い。

 それでも視線の先にあったその箱に、ちゃんとイヤリングを握った右手がはいったのは見届けた。あとは宇宙からの定時通信が石化してくれればオールクリアだと笑って。

 緑の光を浴びてしまえば痛みなど消え、やってきたのは暗闇の静寂。三度目の石化だったのである。

 

 この時意識を飛ばしてしまえばきっと楽だっただろう。けれど呑気なことに私は右手はどうなったのかと考え始めてしまったのだ。

 記憶の中の千空は、繋がっていない石像の石化を解けばバラバラ死体が出来上がると言っていたはず。であれば私の腕はきちんと元に戻るのかと考えて、そもそも石化前に切り落とされたわけだから再生しないのではとも疑問が出てくるわけで。

 傷口が治ったとしても、ちぎれた肉片がちゃんと皮膚を生成するのかも怪しいものである。まぁ、五体満足のマンパワー優先で石化は解かれるはずだから、再生不能とされれば起こされないだろうなとあっさりと納得もできてしまった。むしろもう先を知らないのだから起こしてくれるなと、もしくは復興が終わってから起こしてくれればと願っていたとも言える。

 ならいっそのこと石化が解かれるまで意識でも飛ばそうかと何も考えないようにしてみたものの、どうにも意識は飛んではくれない。

 あ、寝そう。ってなった瞬間に銃で撃たれた感覚や、腕が千切れて飛んだ衝撃と痛みを脳が勝手に思い出す。無意識のうちに、脳が意識を飛ばしたら死ぬのだと思い込んでいるのかもしれない。

 まさかこのビビリ体質がこんなところでも弊害を生むとは思いもよらなかった。

 

 3700年前もそうであったのだけど、正直言って何度も何十回も何百回も何千回も、それが続けば頭がおかしくなりそうだった。否、すでになっているのかもしれない。

 かといって今すぐ起きたいかと問われれば答えはノー。もうこれ以上、知らない世界で生きていたいとは思えるほど楽観的ではないし、すでに存在しているのが恐ろしい。一歩間違えば、私の知らないところでハッピーエンドを崩す可能性だってあるかもしれない。

 同じ知らない世界ならば全て終わった、千空が月に行った後くらいに起こしてほしい。多分その頃ならば私はいてもいなくても、未来に関係することはないだろうから。きっとまだマシに生きられるのかもとも思えるもので。

 

 

 しかしながら否応なしに繰り返される記憶の果てに、私の意識は覚醒してしまったのである。

 

 石の砕ける音がして、久しぶりに色がある世界に帰ってきてしまったと思い横を見れば、そこには髪を纏めてマスクをしたルーナがいて。その他にも私を取り囲むように知らない人が集まっていた。

 捕まった宇宙人ってこんな感じだったんだろうなと思いつつ起きあがろうとすれば、重心が右に逸れた。こんなに起き上がるの難しかったっけと疑問に思っていると、視界の端にそれの答えがあった。

 右手が、肩より少し下のところからない。そしてその先に本来ならば私の手であったであろうそれが、断面にわずかな血を滴らせてそこにある。

 

「────」

 

 石化の超回復は生きていれば千切れた腕でも治す力はあるが、万能ではない。

 僅かに残っている右腕の先が再生したのは脳から信号が届いているからか、はたまた別の理由があるからか。ただうまく接合できず千切れたそれは、物体としてしか存在できない。多分きっと、そう言うことなんだと思う。

 ルーナの涙を見ながら人ごとのように考えて、またこれで石化の謎が一つ解明されたねなんて私は笑った。ルーナは私の言葉に、日本語がわからないはずなのに下唇を噛んでいた。

 

 ゴロンと転がった右手に未練がないわけでは無いけど、何千回と千切れた記憶と痛みを追体験したせいで諦めはもうついていた。だから目覚めた時に、右手がこうなったところで驚きはなかった。人間としての順応能力なのか、それとも私の頭がイカれてしまっているのかは定かではないが、多分きっと、取り乱さないだけルーナに迷惑をかけなくて良かったのだ。

 

 そこで転がっているソレに対してもはや思うことはなく、むしろいつのまにか輸血を受けていることから察すれば、出血多量で死ぬ可能性すらあったのだろうとも考えはついた。石化の能力は失った血を元通りにはしてくれないらしい。

 故に右手一本で済んで良かったと、運の良さに感謝するべきなのだろう。

 

「茉莉──」

「……羽京、さん?」

 

 未だ泣きついているルーナを宥めながらぼんやりしていれば、羽京が眉間に皺を寄せて私のことを呼んだ。何か用があるのかなと首を傾げて言葉を待っていてもなかなか羽京は話し出さなくて、私の方から口を開くことにしたのである。

 

「みんなは、無事?」

「……あぁ、誰も、君以外誰も怪我をしてないよ」

「そっか、良かった」

 

 本当に良かった。そう思ったのは本心からだ。

 私が変に飛び出して腕を無くしたが、もしかしたらそれも誰かの役割だったのかも知らない。そういえばジョエルを突き飛ばした気もするし、こうなっていたのは彼だった可能性も捨てきれない。

 だとすれば、私で良かったのだ。だってジョエルはダイヤ電池を作った功績者で技術者だ。怪我をしていいわけがない。

 だからこれで良かったはずなのに、羽京は私へ向けて叫ぶのだ。

 

「──何がっ、何が良いんだ! 君の手を元に戻せなかったのに!!」

 

 その切羽詰まった表情に思わずポカンと口を開けてしまったが、致し方がないだろう。だって羽京が怒鳴るなんて思ってやしなかったのだもの。

 そしてその声に釣られたのか杠やニッキーたちも泣きながら部屋に飛び込んで駆け寄ってくるし、まぁ、心配をかけてしまったのだとは理解はした。

 

「手はまぁ、過ぎたことはしょうがないし。それにさ、羽京さんがいるってことはセンクウが勝ったんでしょ? ならそれで良かったじゃん」

 

 その言葉に、嘘はない。

 私なんかの腕一本で千空がゼノに勝てたのならば、それに越したことはないだろう。

 にっこりと笑ってそう言うと、良くないともう一度声を荒げられてしまったがもうどうしょうもないじゃない。

 私にどうしろって言うのさ。腕がないって泣けばいいってか? 泣いたところで戻ってこないのに。

 

 なんとなく暗い雰囲気になってしまったのが気に食わないが、とりあえず腕の事は一旦置いておくとする。だってこのメンバーが集まってどうにもなんなかったのだから、そう言うことなんだろう。

 故に私はあえて話を変えたのだ。今がどんな状況なのかと。

 

「……今はあの日から八年経って」

「みんなでコンピューターを作ってるところだよ!」

「んと、センクウは月に行ったんだよね?」

「──まだだよ?」

「ん? 八年経ったのに?」

「目覚めたのは去年だからな!」

「……え?」

 

 と言うことは、そのままの意味で千空は月に行ってないしむしろ復興途中ってこと?

 それなのに私の腕を治そうとしてくれていたと? 

 さっと血の気が引いていくのが嫌でもわかる。

 一度杠たちの顔をよく観察してみれば、うっすらとだがクマがある。今までどんなに働いたところでクマが出来ることはなかったはずなのに、もしかして私のせいで睡眠時間を削らせてしまっていたのならば申し訳なさすぎる。本当に後回しにして良かったのにと、口には出さなかったがそう思わずにいられない。

 

 それになにより石化が解けるまでにそれほど時間がかかったのも驚きだ。千空のことならもっと時間がかからなかったのではと思いつつも、ゼノとスタンリーが相手だったからそうなってしまったのだとも思えるわけで。どちらにせよ、千空が動き出してまだ一年しか経っていないのは事実なのだろう。

 

 羽京の話からすると石化する前の戦闘は私が思っていた以上に激しいもので、石化後一番に復活したのは千空でなくスイカで。六年もの月日をたった一人で過ごし、復活液を作り出したのだと。

 

 どれだけ、寂しかっただろうか。たった一人の世界はきっと、辛くて仕方がなかったに違いない。少なくとも私が一人で過ごした月日は寂しかったし、誰かに会いたかった。

 それでもスイカだから、みんなの為にお役に立つのだと頑張ってくれたのだろう。

 

「そっか、スイカちゃんがみんなの為に。凄いね」

 

 流石だなと思う。

 一歩一歩地道な努力を重ねて、千空を起こしてくれたのだ。その行動力に賞賛を送りたい。

 それに引き換え私は、この八年もの間暗闇の中で全てから、世界から逃げることを考えていた。全くもって弱い人間だこと。

 

 非力な自分が嫌になり左手で頭を抱えれば、杠がぎゅっと力強く私を抱きしめる。

 ごめんねと何度目かわからない謝罪を聞かされるが、謝って欲しいわけじゃない。

 私は杠にもニッキーにも羽京にも、私なんかを気にしないでいて欲しいのに、みんなは優しいからそうはいかないのだ。

 

 本当に申し訳ない。

 私なんかに謝らないで。好きにやったことなのだから、もう納得していることなのだから。

 

 だからもう、そんな顔しないで笑っててよ。

 みんなの笑った顔を、私は見ていたいだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




石化してすぐに目覚めていたら腕がないことにパニクってたかもしれないけど、八年間絶え間なくリピートされればもう無理だろうなと諦めがついた茉莉ちゃんの話。
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