凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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118 凡人、ぬいを抱く。

 

 

 最近、白菜のぬいぐるみがブームらしい。会う人会う人に大中小さまざまなサイズの白菜のぬいぐるみをもらうんだけど、なんで? 

 いつのまに流行したの? 

 

 モキュモキュと膝上が定位置になってしまった白菜ぬいを揉みながら、私は一人疑問符を飛ばす。多分ルーナがことの発端な気もするが、それを私に渡す意味とはいかに。アレか、流行に疎いと思われているのか。解せぬ。ま、合ってるけど。

 

 ルーナに白菜ぬいをもらったのはひと月ほど前で、まぁその日くらいから武道派なメンバーがかわるがわる私の元に訪れた。十中八九氷月達のせいだろうが、ほんとに気にしないで良いのに。

 多分にやられても殴る蹴るだけで済むと思うんだけど、ってブロディに愚痴ったら脳内お花畑かと怒られた。え、まさか殺されるの? 元少年誌なのに?と、場違いな思考が巡ったが大人しく従っておくことにする。なんてったってルーナにまで怒られたのだから致し方がない。

 ついでに今まで放っていてスマンと金狼等に謝られたが、気にしてないから気にしないで欲しい。

 ちょっと寂しかっただけだけどと、口に出すことはしない。これ以上迷惑かけたくはないしね。

 

 そんな感じで金狼とかマグマとか、あの氷月も日によって私の側にいてくれたわけなのだがやはり申し訳なさが勝つ。私の護衛みたいなことをしなければ、彼等も休みをもらえたかコンピューター作りを手伝う事だってできただろうに。そんなことされてしまうのならば、大人しく羽京に声をかけられた時に千空のトコにでも行っておけばよかったかと考えて、結局あっちでも役たたずじゃんと考えを改める。むしろここでは英語覚えるという大義名分の元ブロディの近くにいて勉強ができるが、あっちに行ってしまえば作業の出来ないただ飯食い。英語だけじゃない言語でのやり取りもあるだろうから、より一層お邪魔虫になっただろう。そう考えるとやはり、ちょっと危険な気もするがアメリカに永住した方がマシじゃないかな、うん。

 

「──どしよ」

 

 モキュモキュと、今度は手のひらサイズの白菜を揉む。持ち運びできるように杠がポシェットを作ってくれたので、小さいサイズはいつだって私の側にある。汚れた時用にも白菜はいっぱいあるから保管が大変なことになってるし、そろそろ本気で受け取るのをやめよう。

 云々うなっていたらいつのまにか南が隣に座っていて、テレビができたからちょっとこないと手を引かれた。

 

「なにか、やることある?」

「野球のルール、石神村の子達に教えといて! 簡単にで良いから!」

「わかった」

 

 ポポイとマグマ達の元へ投げ込まれた私は地面にガッタガタの線を描きつつルールの説明と、テレビがなんたるかを教える。難しい科学的な話はできないので、電波がピピピッてなると映るとしか伝えられなかったのだが、野球の方に興味が向かったようで助かった。

 スイカじゃないけど、ちょっとしたことだがお役に立てて嬉しく思う。

 

 テレビという娯楽はどうも人の心を動かしたようで、前より私に向けられる視線が少なくなった気もする。無論となりにガチムチのモズ等がいるからかもしらないけど、ソレを差し引いても敵意を感じることは少し減った。

 またそれと同時にテレビという娯楽が許されるのならと、ぼそりと呟いた言葉を杠の耳が拾いちょっとしたファンションショーが開催されていた。

 私はただ杠が久々にシュバババって楽しそうにお裁縫してたから、野球のユニフォームだけじゃなくてチアもあれば良いのにねって言っただけなんだよホントに。なのに何故ファッションショー? 

 そいや龍水も開催してたななんて思い出していれば、いつぞやの少女が嬉しそうにポーズを決めていた。パチリと目が合った時気まずそうな顔をされたが、よく似合ってるよと笑っておく。元はモデルさんだったらしいし、本職に戻れて嬉しそうでなによりだ。

 あの時の現場を見ていたモズには許すのかと険しい顔で問われたが、許すも何もすでに罰せられてるのならば私がどうこう思うことじゃないし、べつにそこまで気にしてないんだけどなと返答した。

 

「君、セイジンかなんかなの?」

「聖人っていみ知ってる?」

「……みんな言ってるよ、茉莉はセイジンだってさ」

「なんて?」

 

 セイジンってバカみたいにいい奴って意味だろと言いきり私を指出すモズに、思わずうげぇっと舌を出して拒絶して見せる。するとモズを何故か目を見開いて、そしてニヤリと笑った。

 

「そんな顔できるなら、もっと早くしときなよ。てかそんな風に話せたんだね、キミ」

「モズ君には私がどう見えてるのか分からないわ。元からわたしこんなんだけど。え、なに、こわ」

「初めて会った時ニコニコ笑って俺のこと褒めてたくせに」

「できる女のさしすさそってのがあってな?」

 

 なんでモズと仲良く話せてるんだろうと頭の隅で考えて、多分モズは私を可哀想な子として見ないからだと納得した。そりゃ人を物理的に殺せるモズは宝島出身で、もしかしたら欠損してる人を見るのが初めてじゃない可能性もあるのでは? 医学が発達しなかった島の中では体の一部が欠損=死だったかもしれないし、生きてるんだから良くね? と思われてる気もする。

 つまりみんなみたいに可哀想って雰囲気を出してないんだ。

 

「もしかしてモズ君って良いやつ……?」

「ん? 今頃気づいたの?」

「ごめん訂正するわ」

 

 良いやつではねぇわな。

 良いやつならアホみたいな顔して何言ってんのって小馬鹿にしながら笑わない。つまりモズは気のいいやつであって良い奴ではない。そゆこと。

 

 珍しく気分よく話していたというのに、不意にチクリと感じ始めた違和感は次第に大きな波へと変わる。左手て触っていたぬいを形が変わるほど握りしめてその場でうずくまると、モズはどうしたんだと私の顔を覗き込んだ。

 

「うっわ、汗ひど」

「──ッ、ごめ、へや」

「りょーかい、りょーかい。はぁ、こんなんじゃなかったら部屋へのお誘いは嬉しいんだけどなぁ」

 

 よっこらせと私を抱きかかえモズはまっすぐにルーナがいるであろう場所へ向かい、私をそこに下ろすとあっという間に消えた。残されたルーナは少し慌てた様子で、ちょっと薄汚れた白菜ぬいを私へと差出す。それをかかえてベッドで丸まれば、いつも通りの休憩スタイルの出来上がり。

 

「茉莉、大丈夫?」

「──だぃ、じょぶ」

 

 ぎゅうとぬいを抱きしめ痛みを外へ逃がそうとして、荒く息をする。そこにない腕が焼かれるように締め付けられるように痛むが、薬を飲んだところでたいして効くことはない。

 モズに見られたということはあっという間にみんなに広がるんだろなと悲しくなって、私はただただ痛みに耐えた。

 こんな姿、本当は見せたくなかったのに。一緒に行動するとこんな弊害もあるんだよと苦しくなった。

 案の定モズから幻肢痛がまだ続いているとバレたせいか、今度は杠やニッキー達が私の元へ顔を出す回数が増えた。なんでも義手があれば脳に良い影響が生まれ、痛みは減るのではとブロディ共に考えてくれたようなのだが、そんなもの作る時間だって惜しいだろう。それにこの世界でそれを必要としてるのはたった一人、私だけ。優先順位はそこまで高くない。

 

「でも、装飾用義手ってのもあるらしくてね。それならまだ簡単に作れるみたいで──」

「それをつけたとしても、私はあまり働けないからね。ぱっと見でわかる今の方が、周りの人らもまだ諦めがつくんじゃない」

「それは──」

 

 見た目だけ繕ったところで、私が役立たずなのは変わらない。むしろ両手があるように見えてしまえばあいつ仕事サボってると、更なる軋轢を生むかもしれない。故にまだ、腕がこうなっていると見てわかる現状を維持した方がいいだろう。

 

「気にしてくれてありがとう。でも、大丈夫だから」

「……うん。でも、何かあったら言ってね! 絶対だよ!」

「わかった」

 

 私に対して気を遣わないで。なんて言えないから、ただただにっこりと笑っておいた。

 仕事ができない人間にみんな優しいなと感慨深い気持ちでいっぱいになっていると、また白菜が増えた。いい加減部屋に置き場所がないんだよなとルーナに愚痴ったら、ベッドに装飾されていた。

 これで安心ね! ってキメ顔で言われたのだが、何が安心なのだろう。全くもって分からん。

 しかしまぁ、ベッドにゴロンと横になると至る所でそれは目に入る。それを数えてたりモキュモキュしているといつの間にか寝入ってる事もあり、とても役に立っているのは事実。最近は常時モキュモキュしてないと落ち着かない。こんな子供みたいなくせやめた方がいいのに、今となってはないと落ち着かないのだから恐ろしいものだ。

 

「ハッハー! 久しいな茉莉! 元気にしてたか?」

 

 龍水が北米へやってきたのは石化復活から四年後だった。『龍水海運』なるものを設立し、全ての海輸を引き受けたらしい。そしてその初仕事は全世界を海底ケーブルで繋ぐこと、つまりはインターネットを作る事だったようなのだ。

 相変わらず顔面と声が忙しないなと思いつつ元気だよと返事をすると、先ほどまでとうって変わった表情で私の半身へ視線をずらす。そうしてみんなと同じように『大丈夫か』と問うてくるのだ。

 

「大丈夫、問題ないよ」

 

 大丈夫かと問われれば、大丈夫と答えるだけ。

 それ以外の返答など、私には残されていないのだがら。

 

 龍水は海底ケーブルを繋ぐとコーンとアルコールを船に積み込み、すぐさま次の街へと旅立っていく。私たちは、否、杠達は届いたケーブルからさまざまな場所へ電波を飛ばすために働いて、私はそれを隅っこで見ていただけだった。

 それから間も無くして、世界はインターネットのお陰でまた一つになることができたのである。

 

「すごいね、こんなに離れてるのにホントにみんなで一緒にいるみたく話せるんだね──」

 

 ブラウン管の向こうにいる千空達に話しかけた杠の瞳には涙が浮かんでいて、今までの苦労と同時に、再会を心の底から喜んでいることが理解できる。面倒なモールス信号をやらなくていいんだと叫んだ銀狼に頷くもの数名、そして文字通りに繋がった世界で初めてのオンライン会議が始まった。

 

『改めて僕らは旧NASAのロケット技術者Dr.ゼノと──』

『千空だ。あ"ー挨拶とかいいから本題入るぞ』

 

 千空の声だ。

 数年越しに聞いた千空の声にうっかりにやけそうになるのを耐え、私はそっとその場を後にする。なんだが目頭が熱い。鼻がツンとする。

 多分私の姿なんて人混みに紛れていたから、いなくなったところで問題ないだろう。

 私は珍しく一人でその場から走り去り、うっかりバランスを崩して転んで怪我をしつつも自室へ逃げ込んだ。うっかり血が出た膝小僧が痛んだが、ぎゅむとぬいを抱きしめるとそれほど気にならなかった。

 

 寂しいなんて言葉にできないし、しちゃいけない。だからいつも通りに私は耐えるだけ。

 

「──いいな」

 

 お役に立てて。

 左手で図を書くのも文字を書くのも前より慣れた。慣れただけで、人から見たらお子様が書いたような歪なものであるには違いない。せめて通訳くらいになれたらと思っていたけれど、ルーナの方が日本語を覚えるのが早かったし、他のメンバーと比べて英語が話せるわけでも読めるわけでもない。つまりは凡庸で変えの効く、いてもいなくても変わらないその他大勢レベル。

 しょうがないよ、モブだもの。

 そうわかっていても、何か一つくらい得意なものを作りたかった。むしろ得意どころか、みんなに迷惑しかかけてない取り柄のないクズに成り下がったのだけど。

 

「──も、やだ」

 

 何もできない自分も、誰かを妬みそうになる自分にも。もう嫌だ。逃げ出したい。

 どうせ、逃げる場所なんてないのだけど。

 

 ベッドの上でぬいを抱きしめて、私は丸くなる。

 この行為だけが、私の逃げ道でもあったから。

 

 

 




つぎあたりには千空に会えるかも?
でも更新は早くて日曜日かも。グヌっ
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