凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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12 3+凡人。プラス1

 

 

 

「戻ってこい! 千空──────!」

 

 茉莉がただ一人で司と対峙していた頃、大樹は大声を上げて千空が死の世界から戻ってくるのを待っていた。

 脳の隅では茉莉がそこにいないことも理解していたが、今はそれどころではない。

 千空を起こすことが最善だと理解していたのだ。

 

「カモフラージュになってた雷雨の音がして消えたんだ、もう大声で叫ぶんじゃねぇぞ。 司に聞こえたら一発アウトだ」

 

 降り頻る雨が止んだ時、そう誰かが二人はと忠告する。

 キョロキョロとあたりを警戒した二人はふとそれは誰の声だったかと気づき、振り向きその声の主に歓喜した。

 そこにいた人物は先程司に殺されたはずの千空本人だったからである。

 

「ククク、よーく首に気づきやがったな、ゴミみてぇな小せぇヒントから。 大樹、杠、テメーら二人に100億万点やるよ……!」

 

 驚きながらも千空に抱きつき喜ぶ大樹と涙を流す杠。彼女の涙はすこし違った意味をもっていたが、千空自身がそれを静止する。そして千空が復活を遂げたところで大樹はようやくここにいない彼女を迎えに行くべきだと声を上げた。

 

「千空が帰ってきたのならば茉莉を迎えに行かなくてはな! 司と会っていたらまずい!急ごう!」

「そうだね! もしかしたら司君がきてるのも知らないかもしれないし!」

「いや、そりゃねぇだろうな。 それに司に会ってようが無かろうが、アイツは一人で生きていく選択をするはずだ。 こっちから動く方が面倒になる」

「えぇ! 流石の千空君でもそれはないんじゃ──」

「アイツはこの世界で伊達に3年も生きちゃいねぇよ。 それにちゃっかりアイツは生き残るために必要なもんは肌身離さず持ち歩いてやがったからな。 こうなることもあらかた予測済みだったのかもしんねぇな」

 

 そう言って千空は小さくため息をつく。

 よくよく考えてみれば、茉莉の行動は可笑しいものが多かったように思えた。

 大樹が復活するまでの半年は互いに生きる為の協力はするものの、研究には千空が手伝いを言い出さない限り手を出す事ない。それは大樹が復活してからも変わらず、生活に準ずるものにのみ行動をしめした。復活液を作るにあたってのワイン製作も積極性を感じさせるものはなかったし、むしろ何にワインが必要なのかさえ彼女は問うことすらなかった。

 今思えば彼女は人を復活させることになどどうでも良かったのかもしれない。

 

 決定的だったのは杠の代わりに司が復活した時だろう。

 茉莉はそこにいるのが見知らぬ男であってもそれすら驚かず、淡々と服を投げつけただけ。何故そうなったかのすら問いただす事はなく、それが当たり前のように受け入れたのである。

 その後司が人殺しであったと告げられてもなお動揺は見られず、千空の言葉をただ理解し頷くだけだった。

 

 そんな態度に茉莉という人物像が掴めなくなり、千空は一か八かの賭けをした。

 それは万が一の時には大樹と杠を連れて逃げて欲しいというもの。三年も自分より早く目覚めた彼女に任せれれば、このストーンワールドでも生き残れると千空は確信していた故に彼女を頼ったのだ。そしてその結果茉莉はすこし困ったように眉を細めたのちに分かったと頷き、その言葉に少なからず千空は安堵した。茉莉はただ人に興味がないわけではないのだと、一人で生きていたいわけではないのだと。

 しかしながらその直後、小さな声で同時に謝罪を受ける羽目になる。

 

「──茉莉、テメー何を考えてやがる」

「……生きづらい世界だなって。 なんでこんなことになったんだろうねって」

 

 その言葉の意味すら、彼は知らない。

 

「千空君は私みたいに世界に縛られないで自由に生きなよ」

 

 ただ一つ知っていたのは、そう言った彼女の泣き出しそうな瞳だけ。

 

 石神千空が知っている左藤茉莉という存在はすぐ泣く泣き虫だった。だかそれは時が経つにつれ誰かに屈する事なく自我を持てる人間へとなり、このストーンワールドでは大樹の次に頼れる存在へと変わっていた。

 でも今はその認識を改めなければならないだろう。

 少なくとも目の前で泣き出しそうになっている少女は、自分だけが知る泣き虫な彼女の姿だったのだから。

 

 一体何が彼女を変えてしまったのだろう、なんて科学少年が思うわけもなく、ただ小さなしこりだけが彼の心にのこったのである。

 

 

 石神千空がそう彼女を認識していると同等に、大木大樹、小川杠の二人も左藤茉莉に対しては思うところがある。

 二人からしてみれば茉莉は仲良くしていない千空の幼馴染という立場なのだが、どうもしっくりくる事はなかった。それにはきちんと理由があり、その理由の大半が茉莉が千空を目で追っていたからだといえる。いくら千空がただのお隣さんと言ったところで茉莉の視線は千空を追うし、千空ですら時折みていることがあったほどだ。

 その結果二人は幼い時に喧嘩をして仲直りができていないのだと両名は勘違いし今に至る。何度か仲を取り持とうと行動してはみたもののうまくいった事は一度もなく、今後その結論が覆るのは難しいだろう。

 茉莉はともかく千空が彼女を目で追っていたのは彼曰く『合理的スイッチが切れた』状態で、やはりというべきが急に態度を変えて変わっていく彼女が無意識に気になっていたというだけでもあったのだが、両名が知る術はないのだから。

 

 そんな二人の心情はともかく、千空から出た言葉に頷けないのが心理といったところだろうか。

 いくら千空が茉莉をほっとけと言ったところでほっといてあげられるほど二人は合理的思想は持ち合わせていなかったのである。

 

 

「千空くんはそれでいいの?」

「あ? 良いも悪いもねぇだろう」

「そうじゃないだろう千空! もし司が茉莉にまで手をだしていたらー!」

「そりゃ100億%ないわ。 司が復活してからアイツには狩りもさせてねぇし、やらせてたのは飯炊きくれぇなんだよデカブツ。 体力バカなお前ならともかく、何も出来ねぇ女を殺すほど司は悪いやつか?」

「──流石の司君も茉莉ちゃんを殺す事はないって事?」

「そりゃそうだろう、茉莉一人殺してなんの意味がある? 殺さないとしても無理矢理連れてきゃちったー働くかもしんねぇが司の性格上それはねぇだろうし、茉莉から自分のとこに来んのを待つのが合理的だろうよ。 で、杠。雑な大樹じゃ100億%ムリだ。手芸部ウルトラ器用のテメーにしか頼めねぇ死ぬほどキツいミッションがある。 やれるか」

 

 ひとまず千空は茉莉の存在を己の頭の隅に追いやり、今後の方針を杠へと伝える。

 その話に杠は魂が抜け出しそうな顔と返事をするもの、やると頷いた。

 

「なんだ内緒話か?ズルいぞ俺も混ぜろ!」

「んっとこれから司君のところに戻ろうかなーって」

「ああそうか!司のところか!」

 

 とそこまで言い、大樹は杠の肩を抱いて司の危険性を語る。それと同時に千空は茉莉同様二人が殺されないだろうと、己が死んだと勘違いしている司のもとでスパイとして潜入してほしいと頼んだ。

 ミッション自体は杠が行い、その護衛として大樹を。そして自分は司を倒すべく科学軍を作るために狼煙をあげた者を探し出すと、二手に分かれるのだといいきった。

 

「つまりこの先は俺たちは司帝国でスパイ、千空は科学革命軍、別れ闘うわけだな」

「ククク、そういうこった。 切ないお別れにお涙も溢れまくるぜ。 …………もしそっちに茉莉が行ってたときは、なにも聞かずにいてやってくれ」

「嗚呼、わかった」

 

 どんな理由があったとしても、茉莉が彼ら三人を見捨てた事には間違いはない。それを咎められればいくら無関心を決め込んだ彼女でも傷つくだろうと千空は配慮したつもりであったが、その思いが届くことはなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時の針をすこし進めたある日の夜。

 その男は目の前にいる少女に驚きを隠せなかった。とは言ったものの彼は人を欺くスペシャリストであった故、彼女にその真意が伝わる事はなかったのだが。

 

「──人がいるかもと思ってきてみたけど、ゴイスー逞しい女の子とは思ってなかったなぁ」

「そうですか。 で、なにか用ですかあさぎりゲン?」

 

 ニヤリと笑ったその少女、茉莉は己よりも逞しく見えた。

 火に照らされてオレンジに光る身体には筋肉の筋が浮かび、右手には石で出来たナイフがそっと握られている。顔色が良いとは言えず目の下には隈が出来てはいたが、少なくとも獣が狩れない自分よりは優っている人物であろうと。

 目の前で焼かれている肉の塊に涎が口内に溢れるもそれを飲み込み、ゲンは代わりに言葉を吐き出した。

 

「俺を知ってるって事は君も石化から解けた人間ってわけね。 よかったら食糧わけてくれない? 復活してからお肉なんてたべてなくてー」

「肉を食べてない? 司のところにいるのに? おかしな事を言うねぇ? でもまぁ腹が減ってはなんとやらだし、どうぞ召し上がれ」

 

 呆れたように、でも朗らかにそう言った彼女から渡された肉を片手にゲンは思考を巡らせる。

 彼女があの司が言っていた少女、茉莉であったとしてこの状況はどう言う事であろう。与えられた情報では何もできないか弱い女の子だったはず。だというのにこれは────。

 

「あぁ、私はただの弱者だよ? まぁ、生きるだけの力はある、ね。 だから司のところには行かない」

 

 半月状に口は歪むものの、目の奥底は笑っていない。

 

 この出会いのせいでとのちに彼女は語るも、今はそれを知る人物は誰一人としていない。

 

 

 

 

 

 

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