凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

122 / 151
122 凡人、たいこうちゅう。

 

 

 

 腹ごしらえも終わり、目の腫れが引いたところで私たちはようやく船を降りることとなった。千空は私が人目につきたくないだろうからと考慮してくれたようで、真新しいポンチョを着せてくれてそのままフードで顔を隠し、手を引いて歩いてくれた。若干のビビりながらも、千空が安心しろというのならば平気だろうと足元だけを見つめて陸におり、声をかけてくる人々の間を縫って逃げるようにその場を後にする。気にしてくれた人には申し訳ないが、積極的に会いたいとは思えないのだ。勘弁して欲しい。

 

 僅かに申し訳なさを感じていた私であったが、千空に連れてこられてその建物を見たらそんな気持ちも一旦落ち着いてしまったのだ。

 一緒のお家かー、へー。って思ってたけど、ガチのお家やん。普通に家やん。平屋やん。

 それが千空に連行されてたどり着いた仮住居への感想である。

 キッチンとトイレはついてないけれど、ガラスのはめられた窓もあればベッドもある。カーテンは後日杠が届けてくれるようで、それまでは我慢しろとのこと。

 

「あ"ー、この後カセキ達がベッドとタイプライター持ってくっから」

「──ん? ベッド?」

「流石に一緒には寝れねェだろ」

「ん? うん?」

 

 そう言われて、確かにベッドは一人分かと思い直す。最近ぬいぐるみに埋もれてたせいか一人で寝た気がしないが、千空がそういうのならそうなのだろう。確かにベッドは二つ必要だ、うん。

 ぐるぐると室内を見渡して、机の上に束になったクラフトメモを手にとって、ここに至るまで千空達は色々なものを作ってきたのだなと慈しみ笑った。それを見てたのだろう千空が私の頭を撫でるものだから、私はさらに頬を緩めたのである。

 そういえば、こんなふうに笑うのはいつぶりだっただろうか。正直言って覚えていない。

 ただ、多分そんなことができないくらい苦しかったのは覚えている。

 

 引かれた椅子に腰をかけ資料を眺めていれば、トントンとドアを叩く音がした。

 千空は開いてるぞと声をかけ、ドアからひょこりと現れたのは久しくあっていなかったカセキとクロム。それと知らない女の子が一人。

 

「おほー! 茉莉ちゃんの久しぶりじゃの!」

「見ねぇうちに痩せたんじゃねぇの?」

「茉莉ー! 会いたかったんだよ!」

「ん、と?」

 

 二人はわかる。でも後一人、女の子は誰だと千空の後ろで首を傾げていればスイカだと千空は私に教えてくれた。

 え、この子がスイカ? ビジュ良。リリアンの遺伝子凄いな。百億点。

 そう思ったが口に出さなかった私を誰か褒めてくれ。

 

「スイカ、ちゃん?」

「そーなんだよ! おっきくなったんだよ!」

 

 ニコッと笑ったスイカに手を伸ばし、でも触るのはよくないかと引っ込めて。大きくなったねと笑っておく。

 

「スイカちゃんの頑張りのおかげだって聞いてるよ、ありがとう」

 

 見た目がこれほど変わってしまう年月を一人で過ごしたのだ、辛く寂しかっただろうに。

 頑張ったねと声をかければスイカは目をうるうるとさせて、ぴょんっとわたしに抱きついた。その勢いにバランスを崩し倒れそうになったが、間一髪のところで千空が支えてくれたおかげで、私は床に転がることはなかったのである。

 

「気ぃつけろよスイカ。今のコイツはバランス感覚がねェ」

「ご、ごめんなんだよぉ」

 

 左手でヨシヨシと頭を撫でるとスイカは嬉しそうに笑い、私の頬もちょっとだけ緩んだ。

 

「ンで、できたんか?」

「おぅ! バッチリだぜ、ここに運べばいいんだろ?」

「頼むわ」

 

 スイカと私がわちゃわちゃとしているとクロムとカセキは一旦外に出て、そして木材等を持ち寄ってあっという間に組み立て式ベッドを作り上げた。スプリング入りのマットは流石に用意できなかったようで簡易的なマットであるが、それと布団を敷けば今日から寝れるベッドの完成。コレは今や誰にでも配付されてる備品の一つらしく、生活がより豊かになったのが伺えた。

 

「コレは茉莉ちゃんに、ワシ、頑張っちゃった」

「……ありがとう」

 

 ベッドの次に私へと手渡されたのは黒塗りのタイプライター。

 試しに使ってみてもいいかと千空に問えば、好きにしろと言いつつも紙をセットして使い方を教えてくれる。さっそくパチリと打ち込んでみれば、指で押した文字がきちんと用紙に印字されたのである。

 

「かんたん」

「簡単じゃねェと作業効率悪ぃだろうが。山積みになってる資料は任せた」

「ウス」

 

 パチパチと人差し指一本で、簡単に文字は紡がれていく。あんなに書くのが大変で汚かった文面も、コレを使えば誰でも読めるだろうと安堵し息を吐いた。千空は仕事をくれると言っていたけれど、ちゃんとできるのか心配だったのだ。

 片手だから時間がかかるかもと念の為に伝えておけば問題ないと返されるし、急ぎの仕事ではないからゆっくりやって慣れればいいとさえ言ってくれる。まったく、できた上司に恵まれたものである。

 

「茉莉、あのねっ」

「なぁに、スイカちゃん」

「コハクもゲンも、待ってるんだよ!」

 

 会いに行こう。そう続いた言葉に、私は頷くことは出来なかった。

 そりゃあみんなに会って無事を確かめたい気持ちはあるけれど、それと同じくらいに会いたくもない。あの時みたいに何もしなくていいと言われてしまったら、私はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。千空はここにいていいと言ってるけれど、私がやる事を与えてくれるけれど果たして皆んなは千空と同じように私を扱ってくれるのだろうか。

 

 右腕をなくした私を憐れみそこにいるだけでいいと苦しくなる優しさを与えられたら、もうゴミクズになる道しか残されてない。

 

「茉莉?」

「──あ"ー、悪ぃなスイカ。コイツはまだ本調子じゃねぇんだ。アイツらにはそう伝えとけ」

「……わかったんだよ!」

 

 無理しないでねと私の左手を握ったスイカに申し訳なくなるが、千空の言い分を飲んでくれて助かった。今はまだ、会うべきじゃない。当分はお家に引きこもってたい。

 それが私の本音なのだ。

 

 その後すぐまた後でなと手をするクロム達を見送り、私はなんとなく落ち着かなくてポシェットからぬいを取り出してムギュる。

 そういえば大きいぬいはどこに行ったのだろう。アレがないとうまく寝付けない自信しかないのだが。

 

「せんくー、ぬいぐるみ」

「……手に持ってるやつの他にか?」

「ん」

「誰なら分かる?」

「ブロディ」

「聞いてきてやっから、一人で待ってられるか?」

「ん」

 

 いい子にお留守番してろよと千空は私の頭をひと撫でし家を出ていく。その後ろ姿を眺めながら、ほんの少し寂しくなったのは秘密だ。

 ムギュムギュとぬいを握り、窓を眺めては千空の帰りを待ち、挙げ句の果てに扉の前に座り込んで千空の帰りを待つ。

 自分でも犬かなんかかな?と思うも、止められない。気持ち悪いことしてる自覚はあるが、やめられないのだから仕方がないと腹を括るしかないだろう。

 

「ぅおっ! ったく何してんだよお前は」

「せんくー」

「ほら、コレだろ?」

 

 千空が抱えてきてくれたのはルーナがくれた初代白菜ぬい。

 そうこれこれ。コレがないともはや私は安眠できないのです。

 ぎゅむっと抱きしめてベッドに下ろし、モゾモゾと抱え込んで丸くなる。その体勢が落ち着くと心を休めていれば、パチリと千空と目があってしまった。そういやここ、あなたの家でしたね。やっちまったな。

 

「……抱き枕かなんかか」

「たぶん、そー? て、いたいときとかぎゅーする」

「──なるほどな」

 

 意味深に息を耳を掻く千空を眺めながら、私は小さく欠伸をした。

 眠い。いつもならば寝れなくてぬい吸いをするレベルなのに、今は無性に眠い。

 うにゃうにゃ唸っていれば千空はトントンと背中を叩いて寝かしつけてくるし、仕事しなきゃと思いつつも私はそのまま意識を飛ばしたのである。

 

 そして次に起きたのは朝、ではなくて日が落ちたころ。窓から見える景色は以前と違い、電気の光がチカチカと輝いてみれた。その光に復興が進んでいることを嬉しく思い眺めていれば、ふと千空の姿がないことに気づく。

 室内を彷徨いて見つけたのはメモ書き一つで、実験施設で不備が出たから行ってくると。夕ご飯までには戻るから大人しく待っていろと伝言が残されている。

 まぁ、大人しくしてろと言われなくともそうしている気ではいたし、私は机に向かいパチパチと文字を打つ。慣れてくると楽しくなってくるもので、久々の仕事に心が躍った。何せ千空達がどこで何をし、どんなものを作ったかそれを読んでいるだけで分かるのだ。面白くないわけがない。

 何十分か資料作りに没頭していればドアが開く音が聞こえ、そちらを向けば昨日のようにバケットを持った千空の姿がある。多分アレはご飯だと理解し手を止め、大人しく千空がご飯の準備を終えるのを待った。

 

「茉莉、テメェはまだコレだ」

「でしょうねー」

 

 昨日のおもゆよりはだいぶ量が減らされたたまご入りおかゆをはふはふと食し、今回は無事に完食。千空は私をバブか何かと思うまでいるのか、よく食えたなと髪を撫でる。

 

「そういや、髪、止めんのやめたんだな」

「──じぶんでできないから」

 

 一回短く切ってしまうかとハサミ片手にブロディに頼みに行った事もあったが、凄い形相で叩き落とされた。当時はあまり英語が理解できていなかったため何言われたかいまだに謎であるが、多分自傷行為が何かと間違われた可能性はなくはない。なにせその後手の届く範囲に刃物がなかったんだもの。

 それ故切るのは諦めたが髪を毎度誰かに結ってもらうのが申し訳なくて、そのまま簪はポシェットにしまわれたままなのだ。

 

「でも、ちゃんとあるよ」

 

 千空がくれたものですもん、なくしませんて。と取り出して見せれば千空はそれを受け取り、食事の手を止め私の背に立った。そしてぐるりんぽんと髪を結ってくれてたのだ。

 

「ま、こんなもんだろ。一緒に生活したんだ、俺がやってやるよ」

「ふぁー」

 

 お手数かけて申し訳ないと思いつつ、髪を結われるのは正直好きだからご褒美でしかない。

 こりゃあ寝坊できないなと一人頷いていれば、それをみて千空は笑っていた。

 

 あんなにも千空に会いたくないと思っていた私であるが、どうしようもないくらい今が心地いい。とても楽に息が吸える。

 

 

 千空さんは凄いなと思いながら、私は一度簪を撫でたのである。

 

 

 




千空さんとお家にいる時だけ退行中。
ひらがな表記はそのための仕様です。

好きな人・大切な人といると眠くなるらしいよ!セロトニン?の効果だよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。