凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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126 凡人、ケア。

 

 

 

 あるみ達にあって欲しい。

 そう金狼から相談を受けたと千空に相談したところ、即日対応してくれた千空には頭が上がらない。が、どうして引率がゲンなのだろうか。

 いや、分かってはいる。知り合いで尚且つ免許の持っていて、石神村の人間とも仲がいいメンバーとなればゲンが出てくるのは分かってはいたさ。

 でもなぁ、今はゲンに会いたくないんだよなぁ。ホラ、メンタリストじゃん。私のメンタル暴かないで欲しいのよ。こんなゴミクズビビリだと知られたら、どーなるの私。生きていける? 

 

「茉莉ちゃーん? 大丈夫?」

「んーダイジョブダイジョブ」

 

 片道約二時間ほどの車内で必死に笑顔を作るしかなく頬筋が攣るかもしれないが、頑張るしかあるまい。

 そう決して隣で運転してくれているゲンの話に相槌を打ちつつ石神村へ。前より若干文明が進んだような建物ができているし、幾分も住みよくなったのだろうと個人的には思っている。ストーブももう一家に一台あるし、冬は困らないだろうね! 

 

「あるみさーん」

「あら、茉莉じゃない!」

 

 お久しぶりですねと声をかければワラワラとみんなが集まってきて、あっという間に囲まれた。中には子供達もいて遊ぼうとポンチョを引っ張られる始末だ。

 

「あとで遊ぼうね」

「約束だよ! 千空も龍水も、ゲンも! なかなか遊んでくれなくなったんだもん! 茉莉は遊んでね」

「いーよー」

 

 他のみんなは忙しいからね、私でよければ遊ばせていただきますって。

 

「ゲン君、帰ってもいいよ?」

「ドイヒー! 流石に蜻蛉返りは俺も嫌だなぁなんて!?」

「すまんて」

 

 いない方が都合がいいなんて、言っちゃダメですよね。分かってますよ。

 ともはともあれあるみさんに手を引かれ家の中へ入ると、おじいちゃんおばあちゃんが大集結。これ飲みなさいとかこっちも食べないとかお菓子やら果物、焼き魚も出てくるしいたせり尽せりだ。久しぶりに焼き立ての魚にかぶり付きうまうまと食べてみせるとみんな満足そうに笑ってくれるし、私も大満足である。

 

「あのね、茉莉。嫌だったらいいのだけど、腕を見せてもらえるかしら?」

「……いいですよ」

 

 ニコニコと笑っていたあるみが、真剣な顔をしてそう言ってきたのは突然ではあった。

 隣でお茶を飲んでいたゲンがえっ?と声を漏らしたが、別に私は見せたくないとはいってないんですよね一言も。みんながコソコソジロジロ見てくるのは嫌だけど、対面で言ってくれれば見せますよ普通に。

 

 左手で持っていた魚の串をおろし、ポンチョは捲り上げても落ちてきちゃうから一旦脱いで、右腕を露わにする。肩の少し下からなくなってはいるが、石化のお陰で縫い後もない綺麗な断面がそこにある。石化中はそこそこ酷かったらしいけど、修復能力が優秀だったためグロい治り方はしなかったのだ。

 

「……思っていたより、綺麗なものね」

「科学とはすごいんじゃな」

「──んー、科学というよりメデューサがすごいのかも?」

「めでゅーさ?」

「みんなを石化した装置の事ですよ」

 

 そいやアレの形状知ってる人間はここにはいない。それ故に科学の力で私の腕が綺麗に治ったのだと思ったのだろう。でもまぁ万が一の時のために手術の準備もしてくれていたようだし、科学の力でも何とかなるっちゃなる。

 

「今までは、こんな怪我をしたら誰も生き残らなかったもの。本当に貴女が生きていてくれて帰ってきてくれて嬉しいの」

「怪我をしたと聞いた時はもうダメかと思っての。でもこうして会えた。それだけ充分だ」

「みんなのために頑張ったと千空から聞いてるよ。よく、頑張ったねぇ」

「……ん、頑張ったの」

 

 千空以外で初めて褒めてもらえたなと思えば、うっかり頬が緩む。誰一人として私を哀れでいるのではないと、優しさで溢れているその目を見れば分かったし尚更だ。

 なんというか、あるみ達はコハクやルリ達といった若い世代より厳しい時代を知っているのだ。だからこそ哀れみより先に、生きてここにいる事に重点を置いているのだろう。

 

「それでね、茉莉。私たちから提案があるのだけど……」

「なんでしょう?」

「ここに、住まない?」

「……ん?」

「え"⁉︎ ちょっと待って、それはマズイでしょ⁉︎」

 

 すむってなぁに? と疑問符を浮かべていればゲンが代わりにあるみ達に聞いてくれて、千空の家から出ない事をコクヨウから聞いていたそうな。ついでに言ってしまうと金狼とマグマがアメリカのイザコザを不安気に漏らしていたらしく、ならいっそのこと復活者の存在がほぼほぼないこっちに住んでしまえばいいのでは?と考えたらしい。

 

「んー、でも私碌に働けないし……」

「あら?そんなことないじゃない。子供達に歌を教えたり言葉を教えるたりするのはできるでしょう?」

「まぁ、できなくはないけど文字はまだ下手くそだしなぁ」

「ふふ、私たちは文字すら書けないのよ? 気にしちゃだめよ」

 

 あるみ、圧つよぉい。

 でもでもだってを続けているとゲンからフォローが入ったが、ご老人方はなかなか諦める気はないようで。住まない?と聞いていながらもう住む事を決定づけてるような気もする。

 どないこっちゃと頭を悩ませていれば、ずっと様子を伺っていたターコイズがワケを話してくれたのである。

 

「茉莉、私達はあんたのこと好きなのよ。そりゃ千空がいたから科学とやらで生活水準は上がったかもしれない。でもね、ご隠居達のこと一番気にしてたのアンタじゃない」

「それは、まぁ」

「茉莉ちゃん、どっちかというと年上キラーだったものねぇ。そりゃそうだよねぇ」

 

 いやだって、私を育てたのってほぼほぼ祖父母達だったし。もろあるみ達の世代だから致し方がないと言いますか、気になるものは気になるし。

 

「子供らもみんな茉莉に懐いてるし、あっちで暮らすよりここにいた方がきっと楽しいわよ」

「んー、でも千空にも仕事もらってるし」

「ならここでやればいいじゃない」

「そーゆーわけにはいかないでしょ、ターコイズちゃん! ね、そうだよね茉莉ちゃん? ね?」

「んー」

 

 言われてみれば石神村の方が楽しそうってか、気持ち的に楽なんだうなとは思う。力仕事ができない分資料作りに専念してはいるが、何時迄もそうしているわけにはいかないだろうし。そのうち私だけが引きこもっている事に不満を持つ人がいないとも限らないし。側から見れば私はロケット作りにノータッチなわけだし、アメリカにいた時のことを考えれば人目につかないよう隠れて暮らすがベストなのだろう。

 でもそうしてしまえば千空と離れて暮らさなきゃならないんだよなぁと、不安に思う私もいるわけで。

 なんだかんだで今の私の安定剤は千空なんだと諦めはついている。

 

「──あるみさん達には悪いけど、私は向こうで暮らすかな。でも、無理そうになったらここにきてもいい?」

「何言ってるの? いつでも帰っていらっしゃい」

「……うん、ありがとう」

 

 なんだ、ここにも私の居場所があったのか。

 そう思ったら嬉しくなった。

 

「茉莉は優しすぎるのよ、やられたらちゃんとやり返しなさい! もしくは金狼やマグマにちゃんというのよ?」

「ターコイズちゃん⁉︎」

「そもそもゲン! アンタらがちゃんと見張ってないからそういう奴らが出てくるんじゃないの? 茉莉をちゃんと守らなきゃダメじゃない」

「──別に守らなくても……」

「茉莉は黙ってなさい! アンタはいっつも頑張りすぎなのよ! 少しくらい文句いいなさい! だから舐められるの! ちゃんと『私がみんなを守った』んだと胸を張りなさい!」

「──ハイ」

 

 ターコイズ、超こわぁい。

 よくよく考えてみれば腕を無くした事に対して、なんであんな無茶をしたのだと怒られたことはあった。特に一緒にいたアメリカ勢には怒られまくった。そして同時に腕を直せなくてごめんと謝られてしまい、確執が生まれたのもまた事実だ。

 もしあの時今のターコイズのように、私の行いに胸を張れと言われていたらまた違った生活があったかもとは思うが、あの時はまぁ仕方がなかったというか。状況が状況だし。

 みんなを守るイコール犠牲を許した、みたいな事になるから口に出せなかったのもある。あの時の千空達の判断が間違いではないとはみんな分かっていたものの、目の前の私なんかがいれば特にそんなこと言えなかっただろう。今更になってまた申し訳なくなってきた。

 

「──茉莉ちゃん、大丈夫? 千空ちゃんとこ帰る?」

 

 ズンと下がったテンションに気づいたゲンは私の背をなで顔を覗き込んできたが、私はとりあえず大丈夫だと口にする。だってそうとしか言えないし。

 

「あのね、茉莉ちゃん。駄目な時は駄目って言っていいの。俺らのことは気にしないで、自分が楽になる方を選ぼう?」

「──でもそれじゃあ、みんなに押し付けてるようなもんじゃん?」

「それでいいーのよ、俺ら、みーんな科学王国の仲間でしょ? 辛いのも楽しいのも、分け合っていかなきゃね」

「そう、言われましても」

 

 今更ですし。

 だからゲンは嫌だったんだよぉ。そういやって私を甘やかす。これ以上腹の中探られると非常にヤバいので、本当に。ビビり過ぎて千空に縋りついてギャン泣きしたこともその内バレそう。

 そしたら絶対ルーナ達に言うでしょ君は。だから絶対不満なんて漏らしてやんないもんね。これ以上ルーナやブロディ、うっかり腕切り落としちゃった人の負担になりたくないんでね。アメリカ勢、責めちゃ駄目絶対に!

 

「私は、平気なんだよ本当に。腕がなくなったのも後悔してないし、アレで良かったって本気で思ってる。でもみんなはそうは思わないでしょ、少なくともニッキーちゃんや金狼は引きずってるもん今だに」

「それはまぁ、そうなんだけどねぇ」

 

 目の前で見ちゃったから余計に。だから過剰なまでに、私な右半身を見るといまだに顔が歪むのだ。

 

「私なんかより、ゲンはニッキーちゃん達のことケアしてあげてよ。私は大丈夫だから」

 

 辛いのも分け合うんでしょ? ならそちらから先にどうぞ。

 なんて言えば、ゲンはそうじゃないんだよなぁとガクリと肩を落としたのである。

 

 その後はいまだにここに住めばいいのにと言っているターコイズをかわし、子供らと一緒に遊んだ。復活者が増えていく状況に子供達もまたストレスを感じているようで、本当にゲンはソッチのケアをした方がいいと思うの。

 子供らからしたら知らない大人だけが増えてくんだよ、怖くね? 

 そして前まで遊んでくれていた大人、まぁこの場合は千空等もだけど、みんなロケット開発に忙しくて遊んであげる暇もないわけで。

 

「茉莉ー、お花で冠作ったからあげるー」

「おうたうたってー!」

「私ね、文字かけるようになったの! みて!」

「僕は数字ー!」

「よしよーし、順番ねー」

 

 構ってくれる人間がいようものなら囲いますわな。

 

「すまないな、文字なんかは俺たちでみてやれんから」

「平気ですよ、礁さん。あ、そいや漁に不具合とか出てません? 千空のことだから環境破壊はしてないと思うけど、全く変わらないのは無理かもしれないし」

「心配しなくとも、問題はないよ」

「そりゃよかった」

 

 子供等に好き勝手されながらも礁に話を聞き、川に産業廃棄物が流れてないのを確認。これは後で千空に報告しとこ、念の為。ハイスピードで文明が進む分、どこかしらで不備出るかもしれんし。

 

「茉莉ちゃんって、やっぱり仲良いよね。石神村の人らと」

「そー? まぁ礁さんは釣りでお世話になりましたし。子供等は一時期勉強教えてたからね、ニッキーちゃん等と。だからでない?」

「そうかもね。──でも俺は、久々にイキイキしてる茉莉ちゃん見れたのも嬉しいなぁ♩あっちじゃ家に閉じこもり気味だもんね」

「まぁ、ソダネ」

「みんなと会うの、辛い?」

「…………」

「そんな顔しないでよ!」

 

 だからそういうメンタルケアはしてこないでいいってば! 

 うっかり顔が引き攣っちゃったじゃん。

 

「俺は茉莉ちゃんのこと心配なワケ。ターコイズちゃんにはああ言ったけど、ここの方が楽なら移住するのも正直いいと思うのよ」

「──私もそうは思うけど、でも、なぁ」

「なんか不安なことあるの?」

 

 千空と離れるのが不安です、なんて言えないし。

 自分でもメンタルがヤバいのは理解しているんだ。だって家に帰ったら甘えたくて褒められたくてしょうがないとか、ヤバい人間やろ。分かってる。のに止められない。絶対やばいにきまってる。でもやめられないのループに入ってる。いっその事千空の為に離れなさいとゲンやその他大勢に言われれば、やめられると思うけど──。

 

「──どうしたの、茉莉ちゃん?」

 

 言いそうにないしな。みんないいやつだもの。うん、知ってた。

 

「……ゲン君はさ」

「なぁに?」

「私が、センクウのそばにいる事に不満じゃないの? 正直邪魔でしょ、私」

「──誰にいわれたの、そんなこと」

「いや別に、言われてませんが」

 

 真顔怖っ! いきなりやめてくれる?そんな顔するの。

 少し距離を置くように身を引くと、ゲンはニッコり笑ってもし誰かに言われたらすぐに言ってねと念を押してくる。

 

「言われてないって本当に。でも、そう思うのは普通でしょ?」

「普通じゃないからね!?」

「えー」

「茉莉ちゃん⁉︎」

 

 必死だな。そう思いつつ、子供等に手を振って解散。そろそろ帰らなきゃならない時間だし。お泊まりは許されなかったので。

 

「でもさ、本当にみんなの邪魔してたら言ってね。ただでさえ迷惑かけてるのは分かってるからさ、これ以上は我儘いいたくないから」

 

 そこんとこよろしくねと笑ってお願いをして、私はあるみのとこへと挨拶へ向かう。また呼んでねと、なにかあったらここにくるねと伝えておかなくてはなるまい。 

 

 金狼に頼まれた最初こそ、会うのが怖かったが思いの外みんなが優しくて、此処にも居場所があるとしれてほんの少し体が軽くなった気分だ。何せ今日は吐いてないから絶好調。

 日本に帰ってきてだいぶ経つが、こんなに人前で調子がいいのは初めてかもしれない。

 

 なんだ、私だってここでやってけんじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思ったのは事実だけど、現実はいつだって残酷だった。

 

 

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