凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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投稿時間予約が機能しなかったため、夜中の更新になってしいました。ショック。


128 凡人、初心にかえる。

 

 

 

「ありゃ、かみがない」

 

 カタカタとタイプライターを動かし次のページに取り掛かろうと手を伸ばすと、そこにあるべきものがなかった。いつもならば千空が補充してくれているのだが、どうやらここ二、三日進みが早く、予定していたより早く用紙がなくなってしまったのだろう。

 まだお昼過ぎで時間はたっぷりあるし、本日やろうと思っていた作業分はまだまだ残っている。用紙不足を理由にサボるのは大変よろしくない。ならばどうするべきかと思考して、私はズボッとポンチョを被る。肩がけに今日までに完成した冊子を入れ込んで、フードを深く被りいざまいらんと覚悟を決めて家の外へと足を踏み出した。

 テコテコと歩く事数十歩、どこからか現れたモズがいつのまにか隣を陣取って歩き、何処に行くのとやる気のない声音で私は問いかけてきた。

 

「用紙がないからセンクウのとこに行くだけだよ」

「へー、持ってきてもらえばよくない?」

「まぁ、私が行った方が早いし。代わりにモズ君持ってきてくれるの?」

「は? 嫌に決まってんじゃん」

「ですよねー」

 

 多分今日はモズの日で、つまり彼が私の護衛の役割を担ってくれているということになる。別にそんなのいらないよと言っているのに、最近では羽京とゲンまで感化されて誰かしら付近に潜伏していており、私が外に出ると追いかけてくるのだ。

 最初は本気でビビって、千空に泣きついて寝たのだからちょっとくらい私に相談してから決めて欲しい。ちゃんと断るからさ。

 モズや銀狼は仕事や訓練がサボれるから率先してやってるのだと聞いてしまった反面、今からじゃ断りにくいのだから尚更事前の相談は大事だと思うのです。

 

 アメリカの一件からなんとなくモズとはそれなりに仲良くはしているが、内心彼が何を考えているかは分からない。けれど私が誰かに声をかけられた際は必ず一歩前に出てくるあたり、ちゃんと仕事はしている。てかしないと氷月に怒られるんだろうな。一応師弟関係だものね君ら。

 

「ラボまでついてくるの?」

「ま、一応」

「そっかー、大変だねー」

「家に篭っててくれるんなら、オレはサボれたんだけどなぁ」

「ごめんて」

 

 ニヤッと笑うモズに嫌な気はしない。

 だから素直に話せるのはまぁ、いいことなんだろうけれど。

 ラボまでは片道十分程度で、そう遠くはない。千空と一緒に訪れたことはあるが、それはシャワーを借りる時だけで今回のように自分から来た試しはなかった。故にどこに行けば千空に会えるのか分からなくて仕方なしにすれ違った人に聞くと今は取り込み中で会えないとのこと。じゃあどうすればいいかと悩んでいれば、どうしたんだいと私達へ声をかけてくれる人間がいた。

 

「あまり見ない顔だね、千空に何かようなのかい?」

「……Dr.ゼノ?」

 

 ずいぶん立派なおでこですね。と私の視線は語っていただろう。

 ゼノは私が名前を呼ぶと知り合いだったかなと目を細め、私はそれに対して知り合いではないと答えておく。正直いえば彼と会ったのはこれが初めてだし、たまたま記憶にあった人だからとしか言いようがない。ま、言わないんだけど。

 

「えっと、一応センクウの幼馴染で」

「おぉ! ということは君が茉莉かい?」

「え、あ、まぁ」

「ようやく会えた! 会えて嬉しいよ茉莉」

 

 いや、馴れ馴れしすぎん?さすがアメリカ人?

 グイグイくるゼノに驚き半歩下がるとモズが前に出てくれて、ちょっとばかり空気が悪くなってしまった。このままではいかんとモズの手を引き、ゼノは千空の師匠だから大丈夫だと伝えたのだがどうも彼は『アメリカ人』に対して偏見があるようで。まぁ、それも私のせいであるっぽいけど。

 

「Dr.ゼノは平気だよモズ君。落ち着いて、ほら、どう見たってセンクウと同じ戦えないタイプじゃん」

「ふぅん、でも、ねぇ」

「本当に大丈夫だって」

 

 必死にモズを宥めていればゼノはそれを眺めて不愉快そうな顔をするし、本当に勘弁していただきたい。

 この場からすぐ離れたくなってきたが用事だけは済ませようとモズからゼノに視線をずらし、今度はそっちへと話かける。

 タイプライターに使用できる用紙がほいのだけどと伝えると、ゼノは顎を使い着いてこいと指示だし、私は大人しくそれに従った。

 いまだに態度が悪いモズには着いてくるならちょっと離れててとお願いし、無理なら帰ってくれとも頼むのを忘れない。

 

「ラボでやらかすのは本当にやばいから、勘弁して。モズ君なら離れててもいざという時はなんとかなるでしょ」

「──当たり前でしょ」

「じゃ、よろしく」

 

 なんとかモズを離すことに成功し安堵の息を漏らし、ゼノの追いかければ彼は面白そうにニヤリと笑っている。

 

「君はずいぶんと心配されているようだね」

「心配しなくていいって、言ってるんですけどね。申し訳ないです」

「いや、気にしなくていい。嗚呼なった理由は聞き及んでいるからね。君も災難だったろう」

 

 まさか理由をご存知とは知らず、思わずスンっと表情筋が仕事を辞めた。頼むからあまりその話を広めないで欲しいものである。

 ゼノはその後も千空がここにいない事をいいことに愚者は起こすべきではなかったとか、頭の硬い低能者はとか言ってくるが正直言って話についていけない。何せ私はゼノの言うとこの愚者で低能者でしかないのだから。

 

「そういえば茉莉、僕は君と話したいことが沢山あってね──」

「えと、なにを?」

 

 科学的思考を持ち得てない私と何を話したかったのかと首を傾げていれば、足を止めたゼノはこちらを見て真剣な顔を見せた。

 

「君はどうやってスタンから千空を守ったんだい?」

「──え?」

「何度考えても納得がいかなくてね。君が仮にも軍の人間や司や羽京のような人間であったのなら、運良くスタンの行動が読めたのかもしれない。でも君はどう見ても"一般人"だ。そんな君がどうしてスタンの射線が予測できたのか、僕にはいまだに理解できていない」

「──ァ」

 

 ヒュッと、喉がなった。

 この人は、私が千空を守れた事を疑問に思っている。そして私もまた、ゼノが言いたい事を理解できてしまったのである。

 

 あの日あの時、スタンリーが千空を狙い放った銃弾はたった一つ。私の記憶が知識が正しいのならば、映画やゲームのスナイパーなどから身を守る際には何発か弾が飛んできてから射線を確認し、相手がどこにいるか読んでいた気もする。それ故にスナイパーは一発で仕留めるか、外した場合はその場所から移動していたはずだ。

 私の思い違いでなければ、ゼノが言いたいのはそう言った事なのだろう。なぜ私がスタンリーが何処にいるか知らない状態で、いつ撃たれるかを予測できたのか。庇うことができたのかと。

 私は答えを知っていたから庇えただけで、普通ならそうならない。運良く胸に当たった弾も、最初から頭を狙われてないと知ってたが故に防御できた。でもその行動すら、ゼノからしてみれば理解できないものだったに違いない。

 

「わた、しは──」

 

 じわりと掌に汗をかき、必死にどう答えるべきかと頭を働かす。

 

「それと日本に来てから良く考え込んでしまうことがあってね。どうして君は、そこまでこの世界に溶け込めているのかと。確かに君のサバイバル知識は素晴らしい! 科学文明が廃れてしまったこの世界で、君の培ってきた知識は皆の役に立ってきただろう。何もない、無からのスタートだというのに、最初からまるで知っていたかのようにそれに適応した能力が君にはある!」

 

 ぞわりと、背中に悪寒が走る。

 ゼノが話している内容が分かるようで、分かりたくない。聞いてはいけないのに、耳を塞ぐことができずキュウっと腹の奥底を締め付けられる感覚に陥った。

 どうしてゼノはそんな風に思ってしまったの? 

 だって今まで誰も、そんな事考えなかったじゃん。なんで今更、そんなこと言うの。

 なんで、そんなに楽しそうに笑うの。

 

「司や羽京、氷月といった戦闘能力に長けている者が多い復活者の中で、茉莉、君の知識の偏りが、どうにも僕は気になってしまって仕方がなくてね」

「──べつ、に、わたしだけ、じゃ」

「もちろん龍水やフランソワのような知識を持った人もいるだろう。クロムやスイカのように科学に目覚めたものもいる。だが君は、少し違っているね? 日本に来てからはそれが顕著なものとなっていったんだ! 君はあまりにもこの世界に適応するべく能力を鍛えてきた、違うかい?」

「なに、いって」

「あぁ、我ながらおかしな事を考えたと思うよ。何せ確証もない不可思議な現象だ。我々の科学でもまだ、それがなんたるかは証明された試しがない。でも確かに『ババ・ヴァンガ』や『エドガー・ケイシー』のような人間は確かに存在していた。彼はそれを"予言"としていたし、人によっては"未来視"と呼んでいただろう!」

「──や、やめ」

 

 聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。

 千空と同じように科学を愛したその人から、そんな空想じみた言葉なんて聞きたくない。

 言わないで。そんなこと。

 

 思わず後退りしようとした私の肩をガッチリと掴み取ったゼノは、やっぱり楽しそうに笑って言うのだ。

 

「茉莉、君はこの世界を"知っていた"んじゃないのかい」

「ぁ、う……」

 

 なんで今更、そんなこと言うの。

 あなたは科学者なのに、この不可解な現象を事実だとしてしまうの。

 

「君は3700年前からこうなる事を知っていた、それ故に知識をつけた! 見ていたからスタンから千空を庇えた! 我ながら可笑しい考えに至ったとは思うよ。嗚呼でも、それはそれで実に興味深い!」

 

 やめて。もう何も言わないで。

 なんで、どうして。ずっと一緒にいた千空だって私がそうだと思ったことなかったに違いないのに。どうしてゼノはそこに至ってしまったのだろうか。

 日本に来てから? 私はそんなにおかしな行動をしてた? 何もしてないじゃん、ただ生きてきただけじゃん。それすらおかしなことだったと言うのか。

 ニコニコと新しいおもちゃを見つけた子供みたいな無邪気な顔で、瞳を輝かせているゼノはもはや恐怖の対象でしかない。

 怖い。なんでそんなこと言うの。笑えるの。ゼノは何を知りたいの。私はもう何もしらない。何もできない。

 いや違う、昔からずっと何もしなかったのだから。今更そんなこと言わないで。問い詰めないで。知ろうとしないで。踏み込まないで。

 

「茉莉、君が千空の側にいたことを僕は嬉しく思うよ。そのおかげで僕は彼を殺さずに済んだのだからね」

「──ッ」

 

 違うのに。私が何もしなくても、千空は死ななかったもん。

 今までだって、何もしなくても千空は死ななくて。でも怪我はして。司だって銀狼だって無事で。何もしないからちゃんと知ってる通りに進んで、何もしないから。何もしてない、から。

 私は、何もしない事を選んだ、から──?

 

「──さいっ」

「……?」

「ごめ、なさいっ、ごめんなさいっ」

「茉莉?」

 

 ごめんないごめんなさい。

 私はみんなと仲良くなれるわけない人間なのに。認められちゃいけない人間なのに。

 

「ご、めん、なさっ」

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 いっぱい目を背けて、怪我をすることも死ぬことも知ってみないふりをしてきたのに。今更仲間になろうなんて我儘いって。

 

「ごめっ、さ」

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 誰一人救おうとせずに、自分だけ生き延びて。

 

 嘘だと罵られても可笑しい子供だと決めつけらても、気持ち悪い子供だと嫌われたとしても。防ぎようがなかったとしても、もしかしたらおかあさん達くらいは私の言葉を信じてくれたかもしれないのに。

 

「ごめっ」

 

 何も言わず、伝えず。諦めて人任せにして。千空に頼りまくって。

 間接的にお母さんを殺したのは私じゃないか。

 できた事はあったかもしれない。お母さんは私を嫌っていなかった大切に育ててくれた。だからビビリで怖がりな私が真剣に伝えれば防御姿勢をとって、壊れないでいてくれたかもしれない。お爺ちゃんもお婆ちゃんもおじさんもおばさんも、みんなにもう一度会えたかも知らない。

 私が見捨てた。自分だけ生き残ろうとした。いっぱい支えてくれたのに、側に寄り添ってくれていたのに。私だけが私のために生きてきた。

 

「ごめん、なさいっ」

 

 助ける気なんて最初からなかったんだ、私には。

 きっと私に甘く心配してくれた百夜さんだって、いっていたら何か変わっていたかも知らない。千空から父親を、家族を奪わずに済んだかも知らない。宇宙に行く夢を諦めずとも、今とは違い何かが変わっていたかも知らない。

 

 ヒュッと喉が鳴る。

 上手く息が吸えなくて、ガクリと膝が落ちた。いまだに私を見るゼノの瞳は煌めいていて、そしてゼノの言っていた言葉に心が砕かれてしまったいた。

 

 そんなにいいものじゃない。知っていても使えなければただの無駄な記憶でしかないのだ、コレは。

 ゼノがそこに至ったのは今を生きているからで、きっと3700年前では信じてさえくれなかった。会う事だってなかった。なのにどうして今なのだ。

 

 幸せになりたいと願ったからか、必要とされたいと願ったからか、側にいたいと願ったからか。それとも生きたいと願ったからか。

 神様なんてこの世界にいないくせに、どうしてこんな事をするの。今更になって。

 

 どうして気づいたのがゼノなの。

 

 きっとゼノはこの事を千空に伝えるだろう。そりゃあ興味が唆られてしまうに決まってる。でもそれと同時に何故と疑問を抱くだろう。

 私が伝えていればその分だけ世界は変わっていたに違いない。石化が逃れられなくとも、司を起こさずに戦わずに済んだかもしれない。死ぬ恐怖も殺し殺される恐怖も知らずに済んだかも知らない。宝島ではもっと簡単に百夜の遺品であるプラチナを手に入れただろうし、アメリカでゼノ達に先手を取れた可能性だったある。そうすればスイカは一人で大人にならずに済んで、七年という月日も無駄にしなかったかもしれないのに。

 それなのに私は何も伝えなかった。ゼノと戦うことになることも、スタンリーが追うことも分かっていたのに、最後まで見て見ぬ振りをした。

 

「────ッ」

 

 私は私が大切だったから、みんなを危険に晒した。

 きっと千空もみんなも許してくれない。私だったら許せないし恨むから。だからもう、みんなとはいられない。

 

 ごめんなさい。

 

 息が上手く吸えない。苦しい。目の前が霞む。

 千空が私の名前を呼ぶなんて、そんな都合のいい幻聴を聞きながら意識は沈んでいく。

 このまま目覚めなければいいと、願って。意識は途絶えたのだ。

 

 

 

 

 




ゼノ→前から茉莉の行動に気になることがあった。主になんでスタンから千空守れたの?からの、日本に来てから茉莉がやったことをみちゃったー。聞いちゃったー。もしかして未来視とかワクワク!って伝えたらゲンみたいにポーカーフェイスなんてできずに驚いちゃったからそーなんだね!とテンションぶち上げ。てたらごめんなさいしか言わなくなっちゃった。

茉莉→なんでこの人、その考えに至ったの?(科学なしのサバイバルチート・千空とゼノより早起きで生きてる。日本でモブたのしぃ!ってみんなに教えていた事等々)。あ、もうだめだ。みんなに伝わるわ。つまり恨まれるし、信用してなかったって思われる。おわた。ごめんなさい。
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