ちょっと待って、付いてけない。
それが今の私の本心である。
「茉莉ってあれでしょ? 千空の代わりに撃たれたのにゼノ達とも仲良くしてて、なのに腕無くなっちゃったけど平気ーって顔してる最高にヤバすぎメンタルの持ち主でしょ? ホラ、茉莉じゃん!」
「ん? んー?」
「私色々話聞いてたよ! スイカなんてひとりぼっちでも茉莉に教えてもらった歌うたって頑張ったって言ってたし、大好きじゃん茉莉のこと」
「ぉん?」
「てか茉莉って千空と付き合ってんの? 心配すぎてくっきり隈つくってたよ千空! みんなすっごい千空の事も心配してたけど、その原因って茉莉じゃん! そこんとこはすごく知りたい!」
「え、と?」
「あ、ルーナも心配してたけど、もしかしてそっち? 私偏見ないから平気だよ!で、どっち!?」
「んんー?」
どうしてこうなった?
きゃっきゃっと楽しそうに笑いながらも私の手を引くチェルシーに、すでに頭がパニックです。
どうやら彼女は千空達が日本に戻るまでに復活させた学者さんであるらしく、二、三年は一緒に過ごしていたらしいのだ。それ故に私の事もある程度知っているようなのだが、誰にどう聞いたらそうなるのか怪しい話がてんこ盛り。
まず初めに千空と付き合うってなんなんだそれ、恋バナ好きなのか? ギャルか?もしくはルーナ?いやそこは千空じゃないんかい、告ってんだろ。と思いつつチェルシーにやんわりと伝えてみると、きゃっきゃっと笑っていた顔がすっと真顔に戻る。そして二人の仲は悪いというのだ。
「……? わる、い?」
「そ、悪いよ!あの二人! んー、どっちかというと千空がルーナを好きじゃない感じ? あ、仲間としてはまた別っぽいけど!」
チェルシー曰く、仲間としては認めているが根本的なとこが駄目、らしい。なんでぇ?
目をぱちくりさせていればチェルシーはズバッと勢いよく私を指さした。
「だって千空、茉莉大好きじゃん!だからってフランソワが言ってた! んで、ルーナも茉莉大好きじゃん!」
「おぉん?」
待って、本当に待って。意味わからん。
そこんところ詳しく。と聞こうとしようとしたところ目的地に着いたらしく、私は早速チェルシーに通訳よろしく!と任されてしまったのだからやるしかない。カスカスの声でごめんねと謝りながらもちゃんと仕事はこなした。
チェルシーの仕事は日本地図の作成のようで、3700年のうちに変わってしまった地形を記録しているのこと。行く先々で地元民(復活者)と対話することもあるのだが、殆どの日本人は英語を話せないから苦労していたそうな。
「茉莉がいてくれて助かるー! 会話できないとなんか怪しまれるんだよねー爆笑!」
いや、それはそのハイテンションのせいでは?
無駄に高いテンションについてける人がいないだけではと思いつつも、私はチェルシーに引きずられるように着いていくしかないのである。何故ならば地元民の皆様も私を通して話そうとされるので。うん、どんなにカスカス声の人間でも通訳と話したいよね。わかるわかる。日本語大事。
その後も当たり前のようにチェルシーに着いて回り、本来の『逃げる』という目的を忘れかけてもいた。
だってチェルシーは私の知らない千空達の話を教えてくれるから、ついつい聞き入ってしまうのだ。書類だけでは分からなかったクラフトの製造理由なんかも聞けたし、日本に来るまでの数年間の話もそれなりにしてくれた。そういえば日本に来る前も来た後も、詳しい旅路は聞いていなかったなと思い出して、そんなことがあったのかと感慨深くなったものである。
「そういえば、どうして茉莉はあんなとこにいたの? てっきり千空と一緒にいると思ってたんだけど」
ガサゴソと、私の隣に寝袋をピッタリと設置したチェルシーに今更それを聞くかと驚いた。何せ出会って一緒に行動すること五日目の夜だぞ、今。てっきり私なんかに興味ないから聞かないものだと思ってたわ。まぁ、それが心地よかったから現実逃避に良かったのだけども。
「んー、ゼノ、悪こと、して」
「ゼノが⁉︎さいあくじゃん!」
「ちが、ゼノ、わるくなく、て。わたし、が悪い」
なのに誰も責めてくれなくて。むしろゼノが責められて、私はそれが嫌で逃げてきたのだ。
「なんで茉莉が悪いの?」
「……なにも、できなか、た。やく、たたず。助け、られなかた。見捨てた、から」
「うん?」
「私、さいあく。にげて、きた」
こんなことチェルシーにも言うべきではないのだろうけれど、あけすけな性格を持つ彼女にはなんとなく隠し事ができずにポロリと言葉が出てしまう。
チェルシーの言葉を借りるなら、私は最悪なのだ。何もしなかった愚か者で、ゼノに押し付けて逃げてきた大馬鹿者。
今になって脱走してきたのは悪手だった気もしてきたものだ。私が逃げたらまたゼノが責められるかもしれないじゃん。会うのが怖くても、ちゃんとゼノに会っておくべきだった。
どうしようと私が小さくため息を吐くと、チェルシーはいきなり寝袋から飛び起きて叫んだ。
「私、誘拐犯じゃん!」
「え、えー」
「逃げてきたって、絶対千空達探してんじゃん! もー、さいあく! 明日帰ろう!」
「ごめんて」
逃げ出したのは私なのだけど、まぁ、そういう風にも見られるかのうせいがあるのか。つくづくろくなことしねぇな、私。
帰るの嫌だな、このままチェルシーと一緒にいたいなと思っていてもそんなこと迷惑になるだけだしいえやしない。だから私は黙って彼女の行動に従うしかあるまい。
モゾモゾと寝袋に潜ろうとしていればチェルシーは私の名前を呼んで、そして一緒に謝ろうと言ってくれた。
「正直私は茉莉の何が悪いのか分からないんだけど、ごめんなさいすればいいんじゃない? ゼノも千空も許してくれるよ絶対」
「……そだと、いいね」
「そーだよ!だってみんな茉莉のこと大好きじゃん! 茉莉だってみんなのこと大好きじゃん!」
「んん?」
「私いっぱい茉莉の話きいたよ? コハクにもフランソワにもカセキにも!もちろん千空にも!いっぱい頑張って頑張りすぎちゃうんだって。それって茉莉がみんなのこと好きだから頑張るってことでしょ?」
「ぉん?」
頑張るのは、当たり前では。私はできない子なので──。
「役立たずとか見捨てたとか茉莉は言うけど、私だってできる事と出来ないことはあるし! ──私もあのとき、みんなを見捨てたようなっ、ものだし!」
「……ん?」
「茉莉、私ね。アラシャで千空と龍水に逃がしてもらったの。戦えないから、生きろって。それって悪いことかなぁ?」
「……」
「みんながみんな、できることばっかじゃないから。逃げたっていいだよ、自分がその時やれることだけやればいいじゃん」
「……」
「んーもう! だから! 茉莉は頑張ったんだからそれで良いんだよ! 自分を責めても苦しくなるだけでしょ!前向いていこー!」
「──あり、と」
チェルシーは私に前を向けと言う。
やれる事はやったのだがら、それで良いという。私は本当にあの時やれる事はやったのか?やり残した事はないか?そう考えて──。
「人って、なんでもできるわけじゃないんだよ。あんな変態的に行動できるの、千空とゼノくらいだと思うし! ──で、さ。結局茉莉は千空とルーナ、どっちと付き合ってるの? 恋バナして寝よー!」
「……ちぇる、しぃ」
君の行動は全く読めないね、本当。
先程と打って変わってキラキラとした瞳で私を見てくるチェルシーに、思わず笑ってしまった。でも残念だな、私の恋バナはない。代わりに大樹と杠、クロムとルリの話をしてやろう。カスカス声だがな。
小さな声でコソコソと、人の恋路の話なんかをして夜は更けていく。翌る日寝ぼけながら朝日を浴びて、これまたチェルシーに手を引かれて帰路に着いたわけだが、なんとなく心が軽い。多分なのだけど、チェルシーにできなくてしょうがないと言われたのが効いているのかもしれない。
何せ私は千空でもゼノでもないのだ。全てを救おうなんて烏滸がましい考えでしかなかった。
私はただの人間で、なんの力もない小娘だった。それが今もこうして生きていられるのだから、それだけで儲けもんじゃかないか。
やれる事はやった、私が生き残るために。それは間違いじゃなかったはずなのだ。何も言わなかった事で助けられなかった人は沢山いるけれど、言ったところで石化が止められたかなんて分かりやしない。後悔をしていないわけではないが、チェルシーのように前を向いて、進まなきゃいけない。いつまでも、後ろばかり向いて止まっていてはできる事もできやしない。
「ちぇるしー、私、ね。みんなのこと、大好き、なの」
「うん! 知ってる!」
「ゆるして、くれる、かな?」
「一緒に謝ろー!」
チェルシーはおーっと繋いだ手を空に掲げ、なんとなくそれに笑ってしまう。
繋いだ手が心強くて、妙に足取りは軽い。
会うのは怖い。でも会わなければならない。
ゼノに悪役にさせてしまったことをちゃんと謝って、それで言わないでくれてありがとうと感謝を伝えなくては。
歩けば歩くほどラボに近づき心臓はバクバクしてくるけれど、ギュッと握られたチェルシーのでのおかげで立ち止まることはない。
そういえばフードも被っていないが、まぁ別に良いか。
ドンドン先に進んで、道中声をかけられてもラボに行くのー!とチェルシーが答えてくれる。私はただカルガモの如く着いていくだけなのだが、逃げ出した時より周りの視線は怖くなかった。
「っ茉莉! チェルシー、テメェ!!」
「あ! 千空じゃん! ごめーん、茉莉借りてた!」
「かりら、れたー」
「通訳いなくて困ってたら茉莉が助けてくれてね! 最高にたのしかった! また借りてっても良い?」
「勝手に借りようとすんな!ったく、で、茉莉。テメェは──」
「ごめ、なさい」
怒られるのはわかっているので先に頭を下げた。だって千空の目、ガチだったし。怖い。
相変わらずチェルシーが手を握っててくれるから少しは平気だけど、少しは少しなのだ。怖いものは怖い。でも逃げ出したのは私が悪いし迷惑をかけているし、どんなに怒られても言い訳をする気はない。
頭を下げたまま千空の言葉を待っていれば聞こえてきたのはため息で、その後すぐに頭を撫でらた。
「──怪我はしてねェな?」
「ん」
「体調は」
「へー、き。あの、センクウ。私、ゼノのとこ、行きたい」
「あ"?」
「喧嘩したからごめんなさいするんだって! 茉莉、すごくゼノのこと気にしてたよ? 一緒に行ってあげなよ千空」
え、チェルシーが一緒に来てくれんじゃないの?
頭を上げてぱちくりとチェルシーを見ると、お腹減ったからフランソワのご飯食べてくるねとはいって消えてしまった。
自由人、すぎでは?チェルシー、そんなところ嫌いじゃないけれど。むしろ好きになりつつあるけれど。
「──ホレ、いくぞ」
「……ん」
チェルシーがいなくなり空いてしまった手は、そのまま千空と繋がれる。少し冷たく感じた手の感覚があの時と似てるなと思い出して、今度は私から千空にあの言葉を投げかけた。
「センクウ、わたし、ひつよ?」
「あ"? ンなこと何遍もいってんだろ、必要だってな」
「ん。──わたしも、千空、ひつよーみたい」
へへっと笑ってみれば少し目を見開いた千空がそこにいて。
「一緒、いたい。ダメ?」
「……ダメなわけあるか」
「ん」
みんな大好きなので、一緒にいたい。
それは紛れもない私の本心である。
繋いだ手も、冷え切った心も。もう暖かかった。
GWまでの更新はこれで終わりかな?
ぶっ込みチェルシーは遠慮がないし、茉莉も知らない人間(モブに近い感情を抱いてる)だからちょっと心開いてた。残念、モブじゃないよ。
余談ですが手が冷たいのは緊張やら不安やらがある時らしいので、ソユコトデス。ポカポカおてての千空さん、よかったね。
次の話からまた当分千空と二人暮らしが始まるかは未定。そろそろスタンリー召喚したい。