凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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132 凡人、和解する。

 

 

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! 

 ゼノが画面前でブロディに怒られていた。以上。

 なんでぇ? 

 

 千空に連れられてラボへ赴いた私であったのだが、実験室に入るや否やテレビ通話をしていたゼノたちの姿が目に入った。画面越しに映るブロディをなつかしく思いながらも、その口から出る言葉にお腹がキュッとしてしまう。耳を澄ませなくとも聞こえてしまうのは、困りものである。

 

『どうせアンタのことだろ⁉︎グイグイ詰めてって茉莉の話を聞いちゃいなかったんだな? 言っておいたよなァ? アイツは割と繊細だってなァ⁉︎』

「た、確かに言われた気もするが、僕としては彼女を褒めたつもりで──」

『褒めたつもりならぶっ倒れねェだろうよ! 千空といいアンタといい、行動がぶっ飛びすぎなんだよ全く。あぁ見えてまだ子供だろうがアイツは! 色々あったんだからアンタが気ぃつけねェでどうすんだ! ったくよォ』

「すまない」

『俺に謝っても意味ねェだろうが!』

 

 あわ、あわ。

 ブロディが怒ってる。ゼノ悪くないのに、怒ってる。

 

「せ、せんくー」

「あ"ー、……そこらへんにしとけェ、茉莉がビビってんぞ」

 

 一度頭を掻いた千空は少し面倒くさそうにゼノに声を掛け、会話をしていた二人は私の存在に気づいた。千空の後ろに隠れてはいたが、いきなり視線がむくのは恐ろしいものだ。ゼノとブロディの会話を見守っていたクロム達も私を見つけて駆け寄ってくるし、一体どうするのが正解なのかよくわからない。仕方なしに視線をゼノに移し、一度だけ頭を下げてみればゼノは困ったように笑ったのである。

 

「……体調は、どうだい?」

「へー、き。すこぶる、元気」

『そりゃ、よくねェときも元気だもんな、オメェは。ゼノに嘘つくと碌なことねェぞ』

「──ぇ」

「ブロディ! これ以上彼女を混乱させないでくれないかい⁈」

「へ、へーき! うそ、じゃない!」

 

 カスカスな声を張り上げて返事をすれば、今度はブロディが困り顔をした。

 

『オメェはいっつも平気だとか元気だとかしか言わねェから、こっちが察するしかねェんだぞ? ちゃんと言え、わかったな?』

「ぅん」

『後ちゃんとゼノに文句は言え』

「ぅお、ん?」

 

 文句はないんだけどなぁ。

 とりあえず頷いておけばブロディは満足したらしく、ゼノを責めるのをやめて他の作業員との会話へ移ってくれたので一安心だ。一度千空にゼノと話してくると許可をとり手を離し、心配そうな顔をするスイカには大丈夫と声をかけてそっとゼノの隣に立つ。正直に言えば若干怖くもある。なんてったって彼は私の秘密を知っているようなもの、なにを言われるか分かったものではない。それでもこのままでいちゃいけないのは誰よりもわかっている故に、ゼノの服の裾を僅かに引っ張った。

 

「ゼ、ゼノ。あの──」

「先日は悪かったね、少し興奮してしまったようだ。科学者たるもの、どうも未知の分野は追求したくなってしまうらしい。けれども安心してくれ、君の秘密は誰にも話さないよ」

 

 小さな声で、私だけに聞こえるように顔を近づけてゼノはそう言った。何故と聞き返すと、人の心まで暴くのは僕の専門外だと肩を窄めて笑った。

 

「それに、秘密の一つや二つ。誰にでもあるだろう? 僕にだってあるからね」

「……? それは、相当、やばい?」

「あぁ、これでも前科一犯だ」

「ぅわぁ」

 

 ゼノさん、そんな話ありました? よく覚えてないけど、そりゃやばいのかもしれない。

 でもそう言われてしまうと司と氷月もそうなのでは? 

 頭に疑問符を浮かべて考えていればゼノは目を細めて私を見て、小さく息を吐いた。

 

「本当に、君を怖がらせるつもりはなかったんだ。すまなかった」

「──ゼノは、悪くない、ので。私が、ごめんなさい」

「声、出にくいのかい」

「ちょと、でもへーき、ほんとに!」

 

 これでも出るようになったんだよ、チェルシーと一緒にいて。なので本当に心配しないでほしいものである。必死に身振り手振りに元気だと示すとゼノは微笑んだ。

 うわぁ、面がいい。

 そう思ったのは内緒である。

 

「──君が、よければなのだが」

「んん?」

「吐き出したくなったら僕にいうといい。口に出したくないことなのは理解したつもりだ。だが、溜め込むのは良くないだろう」

「……や、じゃない?」

「──むしろ秘密にするから教えてほしい」

 

 ニヤッと笑ったゼノの顔は悪いやつのツラだった。さすが独裁者目指していただけはある。

 もし秘密を教えてほしい、あの時そう言われていたらすごく怖くなって、ここには帰ってこないつもりで逃げただろう。けれども今はそこまでゼノが怖くない。多分チェルシーからゼノの話も少し聞いたし、自分を責めるのは良くないと言われたからかもしれない。

 それに──。

 

「──」

 

 チラリと後ろを見れば眉間に皺を寄せながらこちらを見ている千空と、心配そうに眺めているスイカの姿がそこにはあった。少なくとも、私が思っていた以上に私は大切にされているようなのだ。

 別に今までも嫌われていると思っていたわけではない。怪我をした時も腕がなくなった時も、みんなが心配してくれていたのは知っているから仲間意識はあるのだとわかってはいた。が、そこまで好かれているとは正直思っていなかったのである。何せそこそこ変な態度は取ってたと思うし、千空に関しては数年スパンでシカトしたわけだし。こんな世界だから仲良くしてやんよ、くらいに思われても致し方ないとしか思ってた時期もあるわけで。

 

「ゼノ、ゼノ、私ね──」

 

 みんなのこと好きなのよ。ずっと昔から。

 そう小声で言えば、ゼノは僅かに目を光らせて笑った。頭のいいゼノのことだ、昔が何を意味するかなんてすぐわかってしまったのだろう。それ故に、知られるのが怖いのだとわかってほしいと思うのは私の我儘だろうか。

 

 ついこの間失神するレベルでゼノを恐れていた私であるが、秘密を話さないイコールいい人が成立してしまったため今は然程怖くはない。さっきブロディに怒られていた後ろ姿を見たせいもあってか、尚更そう思ってしまうのだろう。

 それに何より、よくよく考えてみると千空の師匠であるゼノが悪い人ではないのではと思えてくるもので。千空を撃つことに許可出したけど、生きてたとしってキラッキラなお目目してたじゃんこの人。もういいやつだろ、うん。

 それにやったことは司と氷月と変わりないし。司も氷月もいい奴なんだからおんなじおんなじ。

 なんて、少しばかり精神的に落ち着けば考えられたものである。でも根本的なところは何も変わっていないので、秘密は死ぬまで守ってほしいとは願ってやまないけれど。

 

「──おら、そろそろ次行くぞ」

「んんっ?」

 

 ゼノの隣でふへへと笑っていると、不意に後ろに引かれる。もちろんその正体は千空で、次だ次と言いながら歩き出した。

 

「つぎ?」

「テメェが逃げ出したせいで捜索隊が出てんだよ。そいつらにも報告しねェとな」

「あ、もうしわけ、なく」

「アイツらに言ってやれ」

 

 ほんとにそう。

 悪いことしたなと思いつつも一度だけ振り返り、ゼノにバイバイとだけ笑って告げた。

 

 

「…………」

「せ、せんくー?」

 

 ラボを出て歩いて数分、何故だか千空の機嫌がよろしくないことに気づいた。

 そりゃ逃げ出したやつがニコニコ話してればまぁ、なんだお前と機嫌が悪くなっても致し方ない。本当に、もうちょっと考えて行動するべきだったと今さらながらに反省する。道中すれ違った知り合いにご迷惑おかけしましたと謝りつつ千空の様子を伺うが、やはり口数は少ないまま。どうしたものかと思っていれば前方にあの時一緒だったモズの姿を発見し、私はスルリと千空の手を解いて走り出していた。

 

「モズ、くん! このまえ、あーとね」

「いつ、戻ってきたの君」

「さっき。あ、ゼノは、悪くないので。私、謝ってきた」

「へぇ……、ま、君がいいならいいけど」

「ん、心配ありがと」

 

 ヘラっと笑ってお礼を言えば何故だかモズはじっと見てくるし、変な気分になる。一体どうしたってんだよと怪訝に思っていれば、千空がモズに対して『見せもンじゃねェ』と言いはなったのだ。

 

「ゼノセンセェと和解して気ぃ抜けてんだわ、そいつ」

「あー、だからか」

「どゆ、こと?」

「気ぃすんな。モズ、他の奴らにも伝えといてもらえっか?」

「……どっちを」

「ンなの和解した方に決まったんだろ、アホ」

 

 え、ドユコト。

 目の前で行われたモズと千空の会話に追いつくことができずに首を傾げていれば千空はため息を吐くし、モズはニヤリと笑う。

 

「なかなか面白いのに」

「だから、見せもンじゃねェんだよ」

 

 何がだよ! 

 視線で通じ合う二人に疎外感を感じつつも、また千空に手を引かれてしまえば歩き出すしかない。

 ポヤポヤとした頭で何が見せもんなのだと考えて、そういやフードを被ってないからかと思うもその程度でとも思わなくもない。

 では一体何が見せもんなんだと考えていれば、いつのまにかついてしまったのはお家である。

 そう、お家。なしてお家に帰ってきたんだと、ゼノと和解したと話すのではなかったのかと千空にとえば、それは千空がしておくから今日は家にこもっていろと言われてしまうし謎でしかない。

 

「なんで?」

「──テメェがヘラヘラしてっからだよ」

「へら、へら?」

 

 ヘラヘラとはなんぞ? と首を傾げると盛大にため息を吐かれソレだと両の手で頬を挟まれてしまうし、本当に訳がわからない。

 

「今の今まで、ンな顔してなかったんだよテメェはよ。気ぃ抜けた顔見せてみろ、構い倒されるぞ」

「え、いや」

「ならここで茉莉、テメェはここでお留守番だ。わぁーたな?」

「ん」

 

 そんなに気が抜けた顔をしていたのかと自分で頬を持ち上げて考えてみれば、確かにチェルシーと一緒に過ごし始めたころからヘラヘラしすぎかもしれない。

 いやだって、チェルシーすぐサイコー! って笑うからつられると言いますか、大好き大好きいうからニヤけるのを堪えるのが間に合わなくなったとかもある。

 うん、気をつけよう。ニヤけるのをまた耐えられようにしないと、オタク特有のぐへへ笑いが出たからじゃ遅いもの。気持ち悪がられたくない。

 

「おうち、いる」

「そーしてくれると助かる」

 

 構い倒されたらまた落ち込む自信しかねぇもの、ここは千空パイセンの判断に従っておこ。

 

 




余談。一応落ちが決まってる話なので。んで、最終章なので。そこんとこはよろしくね。
余談の余談?
秘密の共有ってストレス削減効果あるらしいよ。つまり勝手に身内判定、千空は面白くないよね。
チェルシーにいたっては全肯定bot並に大好きじゃん!すごいじゃん!って言われてたせいも密かにしゅき。になってる茉莉さん。そりゃ5日も行動ともにすれば若干考えは変わる。チェルシーのおかげで自己肯定力が若干プラスになったせいで取り繕った笑顔が作れていない+若干素がでた無邪気な笑顔になっちまってると知らない。ほっとくと二、三日で戻る。しまっちゃおうね。
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