凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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133 凡人、変わったもの。

 

 

 あの日から私の一日の日課は、ほんの少しだけ変わった。

 おうちは今まで通り千空と一緒なのだが、朝はお迎えに来るスイカやらチェルシーやらと食堂へ向かい朝食を食べ、その後は家に帰って書類作成。お昼より少し早い時間にフランソワの元へ向かい用意されたバケット片手にラボ、又は千空のところへ行って昼食。午後も書類作成を続行し夕食もまあまあ食堂で食べることが多くなった。

 たまに朝からチェルシーに呼ばれて通訳に駆り出されるが、それは負担にはなってない。むしろ英語を話せるということで、僅かだがお仕事が回ってきてくれるようになったので嬉しいものである。

 

「──にしても、君は僕といるのが嫌にならないのかい?」

「ん? なして、です?」

「仮にも、僕らは敵同士だったわけで。君がそうなった原因でもある」

 

 不意にそんなことを言い出したのはゼノだった。

 あいかわらずのカスカス声で返答し、昼食のサンドイッチを頬張りながら今更何言ってんだと思いつつ話を聞いてみれば、どうらやゼノはゼノで千空を殺そうとしたことをそれなりには後悔しているそうな。

 

「あの時はあれがベストだった、その考えは変わらない。けれどそれで君も怪我をしたわけだし、拒絶されていてもおかしくはないだろう。君、というか君達は些か不用心すぎではないのか?」

「……まぁ、慣れてますし。聞いてる、と思うけど、司君も氷月君も、モズ君も、一度殺し合い、してますし。今更では?」

「……よく、そんな人間と対等でいられるものだ」

「それが、センクウ、ですし?」

 

 本当に今更なんだよな、とかしか思わないわけで。

 もぐもぐと二人でパンを齧りながら窓の外を眺め、遠くから聞こえてくる誰かの声に耳を傾ける。流石にラボもお昼休憩中はうるさくないし、ここにいる人間は少ない。私とゼノと、今回の護衛にあたってくれている金狼くらい。そろそろ護衛はいらないんだけどな、といったところで辞めてくれないのは如何なものだろう。

 確かに原因を作ったのは私だが、ゼノに対しても警戒も弱めて欲しいものである。

 チラリと視線をゼノに向けるとかちりと視線が合ってしまい、ちょっと変な気分になる。観察されてるのかなと思うことも多々あるが、まぁ私はゼノからしてみたら面白い人間なのだから致し方がない。もうすでにそこは諦めた。

 

「──センクウは」

「なんだい?」

 

 しかしまぁ、私もゼノに対して思うこともまたあるわけで、これを機に言っておくのも悪くないかと言葉を漏らした。

 

「センクウは、まだ子供だったから。社会のしがらみとか、人間の汚さとか、そういうの、後回しにできちゃうんだ、と思う。だから殺されそうに、なっても、優先すべきもの、をとる。というか」

「……それで?」

「まだ、恵まれた環境に、いたんだと、思って。拒絶しない、百夜さんとか、大樹君とか。──きっと、ゼノみたいに、世間体の重圧、なんか、左程感じてない? んー? 感じないで、すんだ? てきな? 子供だから、まだ、守られてた? そんな感じ。だから、きっと。センクウがもっと大人だったら、世界を見てたら、今と違ったかも、って」

 

 この世界で目覚めた時、千空はまだ十五歳。そんな歳の子供が大人がいない状況で育つしかなかったのだ、それもリーダーとして。故に飲み込まなければいけない事も多かっただろう。ぶっちゃけて言えば司の気持ちもゼノの気持ちも、私はわからなくはないのだ。記憶がある故に、理不尽な理由をつけて発展を遅らせようとする奴らだったり、"大人"というただの数字しか見てない権力を振りかざす人間だったり、そんな奴らはあたらしい世界に要らないのでは? とはまあ、思わなくもない。人間ですもの、綺麗事だけじゃ生きていられないのは知ってるからね。

 

「危機感ない、わけじゃない、けど。ゼノみたいに、嫌な思い、そんなしてない人が、多いみたいな。嫌になる前に、世界が一度滅んだ、かんじ? だから、そゆとこは、ゼノが守ってあげれば、いいのでは? 師匠、なんでしょ? 初期復活者のほとんど、子供なの、大人にならなきゃ、いけなかっただけで。多分きっと、不用心に見えるのは、経験不足てきな。そゆこと、なのでは? センクウがその一端、だし、しょうがないかな。まぁそれが、科学王国って、事で諦めて」

 

 千空はなぁ、合理的に動きすぎて敵味方とかもはや気にしてなさすぎと言いますか。今は完璧に月にいるホワイマンに意識がいってるみたいだし、人類共通の敵って思ってるだろうから誰かが裏切るって心配はそれほどしてないのだろうと勝手に思っている。

 昔、天文台作った時は裏切り、というか司に差し出される覚悟はしたのだろうけれど、その時とはまた状況が違ってるし。仲間が増えた今、みんなを信用して信頼しているように見える。故に裏切られる心配はないと思っていて欲しい、と私が考えているだけかもしれないけれど。

 なんて思考しつつ首を傾げてみると、ゼノは私をみて固まっていた。なんでなの。

 

「──茉莉、君はやはり思っていた以上に物事を深く考えているようだね」

「……そう?」

 

 もしかして褒められてる? でもその要素どこにあったの? 

 疑問符を浮かべていると君は先を見ていた分達観してるのだろうと、勝手に納得しているしなんだかなーと思う。

 私が思うに、ゼノは幼馴染という存在に期待しすぎなのでは? まぁ思うだけで押し付けてこないから、私は口に出すことはしないけれど。

 ニッコニコと笑うゼノににへらと笑い返しつつ、私はサンドイッチの最後の一口を頬張ったのである。

 

 

 

「茉莉、ちょっといいかしら?」

「──なぁに、南ちゃん」

 

 ゼノの元からお家へ帰る途中、立ち寄った食堂で南に捕まった。なんかやらかしたかなと思いつつ連れられるままに席につき、私を怖い顔で見つめてくる南にどうしたのと声をかけた。

 

「今から指差す人の名前を言って、いいわね⁉︎」

「んー?」

「いいわねっ⁉︎」

「ハイ」

 

 少し怒った顔をした南はテーブルの上に二枚の写真を置き、南はこれは? と私にその人物の名前を言わせていった。もしかして記憶喪失とか何かを疑われているのかと思いつつも、ちゃんと覚えている名前で答えていく。

 

「この子!」

「この子、て、ニッキーちゃん?」

「次はこっち!」

「陽くん?」

「……じゃあ、こっちは?」

「ルーナ?」

「最後に、この人は?」

「ん? ブロディ」

「そーよね! "ブロディ"よねっ!」

 

 目を吊り上げて怒り始めた南に驚きつつどうしたのと問えば、彼女は何でなのよ! と叫んだのである。

 

「どうして昔から仲良い私たちが"ちゃん"つけで! ルーナやブロディは呼び捨てなのよ⁉︎最近はゼノにチェルシーも!! おかしいでしょ⁉︎」

「ぇ、えと?」

「私たち、友達でしょ!」

 

 ぎりっと唇を噛んだ南は悔しそうな顔で私を見てきた。

 一体何が逆鱗に触れてしまったのかとよくその言葉を思い出し考えてみると確かに私は南をちゃんつけで、ルーナやゼノを呼び捨てしていたと理解する。だがそれにもわけがあるのだが、わかってもらえるだろうか。

 

「えとね、南ちゃ」

「南でいいわよっ!」

 

 こわいな、圧が。

 ギロリと睨んでくる南に圧倒されつつも、私はそのわけを話したのである。

 

「あのね、私、一回言い出したら、わりと、癖になるってのが、まずある」

「じゃあ今からかえればいいじゃない!」

「んー、善処、します。んでね、ルーナ達は、その……英語で、敬称のつけかた、わからなくて……」

「──うん?」

「ミセスとか、ミス? とかよく分からなくて。みんなそう呼ぶから、面倒で、それでいいかな、って……。特に、深い意味は、なくて……。ごめんね?」

「──つまり、呼び方がわからないから呼び捨てだったわけ?」

「そーなる、ね?」

 

 ゼノはDr.ゼノと呼んでた時期もありますが、親しみを込めてゼノと呼び始めた。けどそれをいうとまた面倒だから置いといて、その他のメンバーに至っては本当にそんな理由で。

 みんなも割と呼び捨てで呼んでたからもういいか、ってなったのが理由の大部分を占めている。日本語で話してると年上の人とか初対面の人に"さん"付は当たり前の文化だけど、アメリカ仕様なんて知らないわけで。なるようになるよねスタイルだった。

 でもまぁそれが南にとって不安要素であったなら、大変申し訳なく思うものだ。

 

「えと」

「じゃぁ! 私達は! 友達よね! そーなのよね! 距離置いてるわけじゃないのね⁉︎」

「ん、友達。距離、置いてない。それで慣れちゃったから、そう呼んでる、だけ!」

「じゃあ! 千空の呼び方も変えられたんだから! 私たちの呼びからも変えられるわよね⁉︎」

「ぇ、えー、ガ、ガンバル」

「ならいいわ!」

 

 すっきりした。そんなこと言い出しそうな顔で南は笑った。

 そんなに日本メンバーに対して態度が違っていたかなと考えては見たものの、まぁ確かに英語は割とフランクなものを教えてもらっていたわけで。それ故アメリカメンバーの方が接し方が緩く、仲がいいと思われていた、とか? 

 いや、別に深い意味はなかったんだけどな本当に。その呼び方に慣れちゃっただけで。

 

「次、私のことちゃん付け呼んだらデコピンよ!」

「ん、頑張る、よ」

 

 南は呼び捨て南は呼び捨て。

 脳内で何度か唱えて覚え、ためしに南と呼んでみれば彼女は嬉しそうに笑った。

 

「なぁに、茉莉!」

「──南、ツラいいね」

「は?」

「可愛い」

 

 うっかりニヤァと笑ってしまった姿と本音を聞かれてしまったので急いで咳払いをして誤魔化し、次もそう呼ぶねと約束をする。

 そんなことで花が咲いたように嬉しそうに笑ってくれるのならば、私だって呼び方を変える努力くらいはしようかなと思うのだ。

 

「──私も、茉莉が可愛いと思うわ!」

「世辞は、いらんて」

「本当にそうおもったの!」

 

 プンスコ怒る南も可愛いなと思いながら、私は頑張って頬の筋肉に力を入れたのである。

 




ゼノとは秘密を共有してることから対処が甘くなってる茉莉さん。
ついでにゼノが秘密を守ってくれているのと、態度を変えないことから周りへの態度も緩くなってる。でも相変わらず声はカスカス。
五月中には完結させたいんで、頑張って続き書いてきます。
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