凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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136 凡人、解釈違い。

 

 

「やぁ茉莉! 紹介するよ、彼はスタンリー・スナイダー。僕の幼馴染だ」

「──初めまして」

「……アンタが、ねぇ?」

 

 うっわ、顔がいい。紫リップが似合う人って実在すんだね。

 それがちゃんとスタンリーと対面した時の私の感想である。正しくは初めましてではないのだけれども、スタンリーも覚えていなさそうだしと初対面を装った。

 相変わらずゼノ先生は私に対して間違った認識をしているようだが、別に生きてく上で弊害になるわけでもなさそうだし誤解は誤解のままにしておく。まぁ、未来が見えていたのではなく物語として知っていたと言っても信じてもらえるかはわからないし、知られていないことを態々いうまでもないだろう。

 

「え、と?」

 

 なんて考えているとずいっとスタンリーが距離を詰めてきて、彼の視線から逃れようと二歩下がるもその分三歩も進まれてしまい、非常に近い。何が起こっているのかと頭を悩ませていれば、とてもいい声でやんじゃんと褒められたのである。

 

「度胸あんだね、アンタ」

「ア、ハイ?」

「庇ったんだろう、千空。そんでその腕、生半可な覚悟じゃできねぇよ」

 

 一般人には特に。

 そう言われれば、何に対して褒められたのか理解することはできた。

 てっきりなんで庇えたんだと聞かれるのかと思っていたが、そこら辺はゼノがどうにかしたのかもしれない。たまたま私には聞かなかっただけかもしれないけれども、疑問をぶつけられなくてよかったと息を漏らした。

 

「覚悟とかじゃ、なくて、できることをした、だけなので」

 

 にへらと笑って、またやっちまったと後悔する。いい加減表情筋を鍛え直すべき時がきたようだ。両頬を叩いて気合を入れることはできないためとりあえず唇を噛みして表情を戻していれば、ゼノ達からは変なものを見るような目で見られてしまったが気にしてなんていられない。

 

「私も仕事、あるから、失礼するね」

「あぁ、頑張ってくれ」

 

 じゃあねと手を振りその場から離れると、自分の仕事をしに家へと帰る。そして溜まりに溜まったクラフト品の製造工程をまとめていく。

 お昼ももちろん外で食べたし、帰国してきた頃よりも大分人には慣れてきた故に、周りの反応にもついていけるようになったと自分の精神的回復具合を客観的にみてみることにも成功。

 司が私を労ってくれることにもちゃんと感謝を伝えられるようにもなり、護衛をしてくれていた金狼達には本当にもう必要ないのではと説得もまぁできた。最近では二日に一回、半日くらいしか家の前にいることもなくなって一安心である。

 なんというか、護衛されてしまうと自分が重要人物にもなった気がしてどうも落ち着かなかったのだ。心配してくれるのは有難いけど、日本はそこまで不穏な空気ないので大丈夫だと信じたい。アメリカにいた時も私の態度が悪かったせいでそうなっていたのかもしれないし、無闇矢鱈に空想上の敵は作らないに越したことはないのである。

 

「茉莉、飯行くぞ」

「ん、はーい」

 

 夜になれば千空が迎えにきてくれて、他愛もない話をしながら食堂へ。割と集まっているメンバーとその日の出来事を話しつつ、現状を把握するのも忘れない。今日はヘマをしなかったと胸を張ると千空や羽京に褒められてしまったが、ヘマをしないのが当たり前の日々に早く戻りたいものだ。まぁ、今もそこそこ居心地はいいのだが、このままぬるま湯に浸っているとヘラヘラ顔が治りそうもない。故になる早で対処は必要だろう。

 

 そう考えていながらも私はズブズブと優しいみんなに甘えてしまっているわけで、今だにヘラヘラと抜けた態度をとってしまうことがしばしばあるのが問題点だ。千空からさっさと抜けた態度を直せと言われているのに、どうしたものかと考えつつもこの日常から抜け出そうとしていない。

 全くもって、呑気な人間だといえよう。

 

「んー、どしたものか」

 

 何度目かわからない自問自答をご飯を届けにきた射撃訓練場で呟けば、私の声を拾い上げたのはコハクでも千空でもなければスタンリーであった。プカプカとタバコを吹かせながら私のことをチラ見したスタンリーは、私に向けて衝撃の一言を言い放ったのである。

 

「アンタも甲斐甲斐しく恋人の世話すんだな」

「……なんて?」

 

 私の聞き間違えでなければ恋人とか聞こえたんですが気のせいですよね? とスタンリーに聞き返すと、私と千空を指差しそうなんだろと笑った。

 

「うちのゼノも世話焼きだが、アンタんとこの旦那よりマシだな」

「いやちょっと、まって? え、ドユコト? ん?」

 

 ゼノが世話焼き、ってことはスタンリーに対してだろう。それはわかる。で、アンタのとこの旦那は誰を指すの? むしろアンタって誰よ。

 思わず眉を顰めてスタンリーの隣にまで近づき、そのままストンと隣に腰を下ろす。そしてもう一度どういう意味でそれを言ったのか、真剣に尋ねてみたところ衝撃の事実を知ることになったのである。

 

「ゼノが言ってたぜ? 千空と茉莉は恋人の同士だとよ。違うのか?」

「解釈違いです」

 

 あまりの驚きに、どもりが消えた。

 しかしまぁ面白そうに笑いだしたスタンリーさんの話を聞いてみると、どう考えても私が悪いということは理解してしまったのである。日本とアメリカでの文化の違いではあるのだが、あちらさんでは好きです付き合ってください、はい喜んで。というプロセスをこなすの方が珍しいそうな。二、三ヶ月一緒に行動して、わたしたちの関係って何?付き合ってるんじゃない?となることが多くいちいち告白しない人が多いらしい。故に一緒に住んでいて世話を焼かれていて、ほとんど一緒にいる私達はそうなのだろうとゼノは勘違いしていた、と。

 

「アメリカ、分からん」

「なんで? 一緒にいないと好きとか分からねぇじゃん、体の相性もあるし。なに、セフレなわけ?」

「すみません、よく聞き取れませんでした」

 

 やめてスタンリー、私のHPはもうゼロよ。

 でもまぁそう考えてしまうのも分からなくはない気もする。日本に帰ってきてからの私の行動を客観的に見れば、そりゃまぁおかしい。非常におかしい。きっと色んなものを溜め込んでしまった故に正常な判断が出来なかったのだろうと思い込む事もできるが、たかが幼馴染の女が家に転がり込むとか異常行動でしかない。よく許してくれたな千空。いや、私がおかし過ぎてそうせざるを得ない状況だった? 

 だとしたら、それは相当千空の負担にしかならなかったのではなかろうか。

 

「ッ──」

 

 サッと、血の気が引いていくのがよく分かる。手の指先がひんやりしていくのは、もはや懐かしい感覚だ。

 何が甘やかしてもらえてるだ、千空はそうするしかなかっただけじゃないか。あのお優しい千空さんだぞ、幼馴染の精神がぶっ壊れていたら放っておくわけないに決まってる。私はただそこに付け込んだだけだろうに。

 最近気が抜けていたのは自分でもよくわかっている。それを直せと言われているのも、早く独り立ちしろという意味に違いない。だって千空は宇宙にいくのだがら、私に構ってる時間だって惜しいに違いない。

 全くもって不甲斐ない。むしろアホすぎる。何処で自分が隣に存在してていいなんて勘違いしていた? 人類大好き千空さんにとってどんな人間であっても必要なわけで、私が必要なわけではない。みんなが必要なのだ。そんなことわかっていたはずなのに、調子に乗り過ぎたのだ私は。

 

「スタンリー、これセンクウに渡してもらっても、いい?」

「あ、別にかまわねぇが。自分で渡さなくていいのか?」

「やるべき事が、できたので。ちょっと」

 

 一緒に食べようと思っていたお昼をスタンリーに預け、私は千空に顔を見せないうちにこっそりとその場から立ち去った。そのまま何処かに行こうとかは考えていなかったが、とにかく行動に移さなきゃ駄目だ。でもどうすればいいのかと考える頭が働いていない。ぐるぐると思考が巡って歩き回る最中、ドンと小さな衝撃がはしりそのまま尻餅をついた。こんな所が気が抜けていると云うのだ、早くなんとかしなくては。

 

「えっと、大丈夫? ごめん、僕もちゃんとみて歩いてなかったから」

「あー、はい。大丈夫です、こちらこそ、すいません」

 

 どうやら私は目の前にいる人にぶつかってしまったらしい。

 顔を上げると相変わらず顔がいい人がそこにいて、思わず目を細めてしまったが許して欲しい。なんでこうも顔がいい人が多いのか、悩ましいのである。

 伸ばされた右手を掴み取ろうにも左手では上手く噛み合わないので、そのまま礼を言いつつ自分で立ち上がる。そして目の前にいる見知らぬ人物に対して、私はちょうど良いと疑問を投げかけたのである。

 

「みなさん、何処に住んでるんです、か?」

「え?」

「復活した人達は、何処にすんでるのかな、って。ご存じだったり、しませんか?」

 

 まずは住むところを確保しなきゃならないと働き出した脳は言っている。なら復活を果たした人に聞くのが一番だろう。そう思って聞いたのだがどうやら彼は日本での復活者ではなく、チェルシー同様に海外から技術面の技師として日本に来た人だったらしくラボに一室を持っているとのこと。流石にラボに住むわけにはいかないかと苦笑いをすると、そういえばと有意義な情報を与えてくれたのである。

 

「僕は住んでないけど、十人は住めるだろうアパートは作られてたみたいだよ? そっちを尋ねてみれば良いんじゃないかな?」

「アパート……。なるほど、ありがとうございます」

 

 私が気に留めていなかっただけで、確かに大きな建物は存在していた。集合住宅があるのならば、部屋が空いてれば今すぐにでも入居が可能か聞くしかあるまい。

 良い情報をくれたその人に一礼して、私は急いでその建物へ向かう。正確な場所はわからないが、千空の家からはそう遠くないところにあったはずだ。日に日に復活者は増えているから部屋の空きがあるかは運次第かもしれないが、早めに連絡を入れておけば今は無くとも新たにアパートが完成次第入居は可能だろう。

 

「早めに、家を出なくちゃ」

 

 これ以上、千空に負担をかけてはいけない。優しさに甘えてはいけない。

 私はようやく気を引き締めることに成功したのである。

 

 しかしまぁ、物事はそう簡単に上手くは行かない。アパートに問い合わせたところ空きがない上に、新たに建設中のアパートも予約が殺到中。最速で入れるとしても半年は待たなければならないと返答されてしまったのである。友人なんかがいればシェアハウス用の部屋も貸し出せると伝えられたが、それでは駄目なのだ。誰かに迷惑をかけないように生きなければ駄目なのだ。一緒にいたら甘えてしまう。

 

 どうしよう。

 

 思考がまたグルグルと回り出す。

 いっそのこと石神村に住むかと考えて、でもそれじゃあアルミ達の手を借りることになるわけで。じゃあツリーハウスではどうかと思っても多分却下されるのが目に見えている。なんとか護衛をしたがる金狼達の説得には成功したが、それは千空のうちに住んでいるからという大前提がある故に。離れた場所に住むとまたついてくる可能性の方が大きい。

 とは言ったもののこのまま変に誤解されるであろう千空の家に居座るのは問題でしかない。今はまだ良いとして、今後はゼノやスタンリーのように誤解する人も出てくるかもしれないしそれは避けたい。チェルシーはルーナと千空は仲がよくないと言っていたが本当かはまだ分からないし、コハクとくっつく可能性もなくはない。だというのにそこに私がいちゃいけないだろう。変な誤解駄目絶対。

 

「──あれ、茉莉じゃん! どうしたの? 困ってる?」

「ちぇ、チェルシー!」

 

 君はいつも困った時に現れてくれるね? 私のドラえもんかな? 

 なんて冗談はさて置き、ちょうど良かったとチェルシーに相談してみればなんとも嬉しい答えが返ってきた。

 

「物置になってるけど、私の部屋使う? ほとんど出先で寝てるから、一室もらったけどあんまり使ってないんだよね! 汚くても良いならだけど!」

「かみか」

 

 思わず拝みたくなったが、ぐっと耐えた。耐えれた。よしこの調子だ、頑張れ私。

 着いてきてーとニコニコ笑うチェルシーの後に続きやってきたのは千空宅からさほど離れていない場所に建てられた3階建てのアパートメント。働いてる人にはもれなく無償に提供されているため、家賃はかかっていないとのこと。チェルシーの部屋とされていたそこはやや散らかってはいるが、物置というほどではなかった。

 

「ほんとに住んで、いいの?」

「いいよー! でもよく千空が許したね! 茉莉大好きなのに!」

「……センクウ、には言ってなくて」

「え、なんで? 喧嘩でもした?」

「そうでは、なく。えと、なんかゼノとかに、勘違いされてる、みたいで。早めに出なきゃ、と」

「勘違い? なんの?」

「──コイ、ビトダト」

「え⁉︎違かったの⁉︎」

 

 ブルータス、お前もか。

 そういえばチェルシーも日本人じゃないものね! そうなるよね! そうなってたら早く教えほしかった! 

 

「二人とも変態的に互いのこと大好きじゃん! それなのに、離れていいの?」

「私の好きと、センクウの好きは、ベクトルがちがうというか。センクウの好きは、全人類に向けられてて、私もその一部で、幼馴染、だったからで」

「うんうん、それでそれで」

 

 お目目をキラキラさせるんじゃない、チェルシー。恋バナでもなんでもないんだぞコレは。

 

「私の好きは、センクウには幸せになって欲しいなって、ヤツで。そういう、好きじゃない」

「──千空に、ほかの彼女できても良いってこと?」

「それは、もちろん。センクウの幸せが、一番ですし」

 

 隣にいたいとは思うけど、それは私じゃ無くても良いわけで。

 

「センクウが健やかで、幸せに。笑って科学を、できてればそれで、いいので。それが私の幸せ、ですし?」

「えぇー、もう大好きじゃん! 愛じゃんそれ! 最高! やっぱり一緒に住んでた方がいいんじゃない⁉︎」

「駄目、絶対! センクウモテるから、その可能性、潰すのは駄目。私は独り立ちするの、絶対」

 

 私なんかがそばにいたら千空を好きになった子が可哀想だろ。あれだアレ、ヒロインの恋路を邪魔する幼馴染。それが私。絶対にそうはなってやらない。千空には幸せになってもらわないと、いっぱい頑張ってるので良き家庭を作って欲しいのだ。将来的にはそれに貢ぎたい。貢がせてくれ。

 

「センクウは、幸せになんなきゃ駄目だから。だから離れないと」

 

 寂しいけれど、コレばっかりは私の我儘を通すわけにはいかない。

 もう十二分に千空との夢は見させてもらった。だからもう大丈夫。みんなに嫌われてないのも、秘密を知ってもそばにいてくれる人も出来た。だからこれ以上望むのは欲深すぎる。

 

「チェルシー、私ここに住みたい」

 

 だからお願いしますと深々と頭を下げれば、チェルシーは困ったように唸りながらも了承してくれたのであった。

 

 おうち、げっとだぜ。

 

 

 




素敵なイメソンを教えていただき、書いてた話全消しして書きました。
元々スタンリーには夢子ちゃん現実に引き戻す役割を課していたので、それが早まっただけですが。
すまんな千空、頑張れ。
茉莉ちゃん愛は無償の愛故に、千空が幸せになってくれるのであれば側にいるのは自分じゃなくてもと思ってます。故に今じゃ彼女が無自覚さんですね。
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