「では、茉莉の一人暮らしを祝してカンパーイ!!」
「テンション、無駄に高いねミナミ」
「だって今まで碌に構ってくれなかったじゃない! これからは暇さえあったら会いに行くからね! 部屋に」
「ほどほどにしときなよ」
まだ酒が入っていないのに無駄にテンションの高い南はビールを呷り、私やニッキー、杠は大人しくお茶をのむ。一応成人しているから飲んでもオッケーなのだけど、私のみ千空から飲酒の許可が出なかったために付き合ってくれているのである。
引っ越すと決めてから三日ほどで周りの理解を得られた私はチェルシーの部屋に移り住み、ようやく一人暮らしに慣れてきたところだ。アパートには英語が堪能な南とニッキーが住んでいて、ルーナとチェルシーにも対応できるようにと同じアパートに配置されたと聞く。何から何まで手厚くサポートされてるんだなと、上の人間の優秀さを改めて知った私であった。
そして今日は一人暮らしを祝した女子会、とされているが開催場所はフランソワのレストランの隅っこで、チラホラ見知った人が様子をみにやってくる。
一応参加メンバーはチェルシーとルーナ、コハクとルリとスイカを加えた九人。未来は成人前の為今回は誘わずに、ほむらとキリサメは用事があるからと断られたが、残念そうに次は誘ってほしいといっていたので来る気あったと思われる、らしい。なんやかんやでみんな仲良いんだなと、そりゃこんな世界だもの性格が違くとも仲良くなれちゃうよなと納得してしまった。
「んでさ、気になってたんだけど、それなに?」
「あ、これ? 次誰が茉莉ちゃんとお風呂に行くかあみだくじで決めてるんだよ!」
「へー、ソウナンダー」
にっこり笑う杠を前にして、文句が言える人がいたら連れてきて欲しい。なんだかんだと世話を焼かれている私であったが、こうやって担当が決まるとは思ってやしなかった。
「別に一人でもいける、よ?」
「ダメよ茉莉、ハダカのツキアイって大事なんでしょう?」
「ルーナは何処でそんなの覚えてくるのかな?」
「フフン! 私、できる女だもの!」
海外の人って裸で入る温泉とか苦手って聞いていたんだけど、ルーナは慣れたそうな。まぁ、慣れたってことは平気ではなかったってことだろうけれど。
千空の家を出てからはちょこちょこと部屋を訪れる人がいて、会話をすることが多くなったからカスカス声とどもりはなくなりつつある。話すのって大事だったんだなと実感すると共に、話しかけてくれる人の有り難さが身に染みる。
ちょびちょびとお茶を飲みながらフランソワが作った料理をつまみ、なんとなく平穏って良いなと安堵の息を吐いた。もしかしたら私が知らなかっただけで、ずっとこんな日常があったのかもしれない。それはそれで損をした気分にはなるが、今までの私じゃこの輪に入る事はなかっただろう。
「茉莉さん、お加減はどうですか?」
「ん、特に問題はないよ? ありがと、ルリちゃん」
「それはよかったです! ターコイズ達も心配していましたから、また村に遊びに行きましょうね!」
「それはもちろん、喜んで」
何せ石神村は第二の故郷みたいなもんですもん。あるみ達と話してる方が若い人らと話してるより落ち着くしね。それに今は村のみんなと接する仕事を任されたのもあるので。
石化復活者が増えていくとどうしても村の人間には伝わらない話や単語も出てくるようになってきて、私はその間を取り持って欲しいとジャスパーとコクヨウから頼まれたのだ。私より適任者がいるではと一度は断ったのだが、ゲンからも再度頼まれたので仲介役を引き受けることとなったのである。初期復活組はわりかし知り合いが多い故に話は通じるし、後期復活組も私が千空と行動を共にしていた奴と認識している人には声をかけても不審者扱いする事はない。村の住人と何かあったら私までとお願いしていれば、何故だがそれ以外の、本来ならばゲンが対応すべき相談も回ってきてそこそこ忙しなく働くようにもなった。
ゲン曰く、女の子は俺より茉莉ちゃんの方が相談しやすいんだよ♩ってことらしい。
ま、大半が女性特有の相談だったり何故か恋愛相談という名の愚痴であったりするのだが、その中心にいるのが五知将や主要メンバーだものね。とりあえずクロムと大樹以外なら頑張れって言ってるけど、恋愛のれの字もわからん人間に相談しても良いものか。まぁ、どうせゲンが私の存在を認知させるために誘導してんだろうなとは考えてはいるけれど。相談役なんてやったことないのにあんまりだ。
「よっし! って事でいくわよ茉莉!」
「え、なに?」
「聞いてなかったの⁉︎良いからついてきなさい!」
「え、何されるの私」
みんなを眺めながら思考を無限彼方に飛ばしていれば南に現実へと引き戻されて、そしてお店の奥の一室へ連れて行かれる。そして何をされるかと思いきや服を剥ぎ取られ、紙袋から出された真新しい服に着替えさせられてたのである。
「アンタあんまり服持ってなかったじゃない! 今は前と違って色々あるんだから、オシャレしなさいよ?」
「……あんまり、わかんなくって」
「私らに聞けば良いのよ! メイク品なんかもあるわよ?」
「いらないかなぁ?」
「いらないんじゃなくて、プレゼントするから使いなさい! 教えてあげるから!」
うわ、圧がつよぃ。そういう南も好きだけど。
何故かわからないが真新しい服に身を包み込まれ、メイクまでされて戻るとにっこりとしだすニッキーがいるし。次は私だねと連れ込まれて着替えさせられるし。それが終わると今度は杠で、そしてその次はとエンドレス着せ替え人形タイムに突入です。みんな右半身を隠すスタイルの服ばかりだったのだけど、絶対私服じゃ着ないだろう服を紛れ込ませてくるあたり流石杠ちゃんと思わずにいられない。
全部持ち帰って着てね! といい笑顔で渡されたのだが、箪笥の肥やしになる気もする。てかそもそもタンスがない。
「こんなに貰ってもきれないと思うけど?」
「茉莉は荷物が少なすぎるんだよ、もっと増やしな」
「ついでに体重も増やした方がいいわ。筋肉もつけた方がいいかしら?」
服から今度は食生活に飛び火して、ついでに体力不足まで指摘されてしまう。今度からニッキーとルーナが中心となり筋トレ指導してくれる話に落ち着いてしまったが、面倒ではないのだろうか?
「みんな仕事で忙しいのに、別に一人で大丈夫だよ? メニューくれれば」
「そんな事言わないで! 私たち、やりたくてやってるの!」
「そうだよ茉莉! 遠慮なんてさせないよ! ばっちし元の体型に戻して見せるからね!」
「それは、ありがたいなぁ」
なにせお腹がぽよぽよになりつつありますし。やっぱり木登りって大切だったんだなと思う今日この頃。
「ねね、茉莉」
「なぁに、チェルシー?」
「みーんな、私の言ってた通り茉莉のこと大好きでしょ?」
「──そだね」
思っていたよりもずっと私は好かれていたんだなと認識して、左手でギュッとスカートの裾を握りしめた。
女子会はそれから二時間程度続き、夜がふける前に終了した。みんなそれぞれ自分の家へと帰ったのだが、荷物の多い私はニッキーの手を借りて帰宅する。あとは寝巻きに着替えて就寝すれば一日は終わるというのに、眠気が来ないことを言い訳にひっそりとアパートから抜け出した。女は一人でウロチョロするのは今も昔も変わりなく良くない事だが、このご時世夜更かしする人はあまりいないらしい。なんてったって肉体労働が大半を占めているのだ、寝なきゃやってられない。
住宅地から少し離れた森の入り口で意味もなくぼんやりと夜空をながめ、そのまま地べたにごろんと寝転がる。なんだか今日は、寝るのが勿体無い気がしてならないのだ。
今日という日がもしかしたら偽りで、目が覚めたら前のようによそよそしくなってしまうのではないかと考えて。そんなどうしようもないことばかり考えてしまう。
「──こんなところで一人でいるなんて、感心しないぞ」
「……あ、こんばんわ」
「こんばんわじゃないだろう? いくらなんでも夜に一人はやめておけ、千空に言われなかったか?」
ドスンと私の真横に腰を下ろしたのは龍水で、凛々しい顔をより一層顰めて私を見てくる。怒りを孕んだ瞳を前に、弁解などする事はなくそのままごめんねと謝った。
「あんまり良くないのは分かってんるんだけど、妙に落ち着かなくて。そっちはこんな時間にどうしたの?」
「フン、パイロットを諦めたからと言って訓練を怠るわけにはいかないからな」
「……射撃?」
「嗚呼」
なるほどと頷いて、私はまた空へと視線を移す。龍水はすぐ去っていくかと思いきやなかなか動く気配はなく、しばらくすると私の名前を呼んだ。
「茉莉、前々から気になっていたのだが、貴様は何故皆と距離を置く?」
「あー、気を遣われるのが嫌で?」
「そうじゃない。もっと前から、それこそアメリカへ渡る前からだ。いつも貴様は一歩引いたところから俺たちを見てただろう。生憎そう言った視線に敏感でな」
「あー……」
そこは船乗りの感ではないのか。
しかしまぁ、龍水の言っている事は正しい。最近は距離が近くなっている気がするが、前は近づくのはいけない事だったし、関わらないのが正解だったわけだし。何も知らない今だからこそ、みんなに関われるわけで。
「──いらないこ、だからかなぁ」
本当はそこにあっちゃいけない存在だったから、できるだけ世界の歪みを作らないように必死だったのだ。それゆえに関わりはなるべく最低限にしようとはしていた。まぁ、無理だったし、今となってはそのせいでどう変化したかわからないけれど。
「──それは、誰かにそう言われたのか?」
「いや別に。ただ、漠然とそうなんだとは思ってたし、今でもそうだと思ってるよ」
だってそうなんだから、仕方ないだろう。
むくりと体を起こして龍水を見れば、複雑そうな顔をしている。そんな顔できたんだねと茶化す事はしないが、いつも自信満々な龍水を知っているからかなんとなく違和感を感じるものである。
「貴様はそんなに、自尊心が低いやつだったか?」
「じそん、しん?」
うっかり、なにそれ美味しいの? って顔してしまったが、別に知らないわけでない。むしろよく知っている品物だ。
「自尊心ってさ、自分を尊ぶってことじゃん。なら私、自尊心あったよ、生きたかったもん。でもさ、だからといって簡単に踏み躙っていいものじゃないものをいっぱい捨ててきたわけで」
「それは──」
「両親の愛情だったり世間の評価だったり協調性だったり。センクウとの仲もソレ。龍水君は欲しいイコール正義って言うけどさ、その結果がどうしようもないくらいぐちゃぐちゃの、修正不可能な世界だったら自分を尊ぶのがバカらしくなっちゃうんだよなコレが」
「……」
「どうしようもないんだよ、変えられないんだよ過去なんて。自分を優先した結果がコレなんだから、受け入れるしかないし」
「茉莉、貴様は……」
「生きてるだけで儲けもんなんだ、私なんて。元々いらなかったんだから」
「それは違うだろう⁉︎」
「っわ! 急におっきな声出さないでよ、驚くでしょ⁉︎」
龍水の声で耳鳴りがする。
いくら森に近いといっても近くに住んでいる人はいるわけで、多分きっと龍水の声は届いただろう。いきなり叫ぶなんてやめてくれと注意してみれば、龍水は龍水で納得いかん! と怒りを露わにした。
「貴様のその考えが気に入らん! いらない人間など何処にもいないだろう? げんに貴様はその腕と引き換えにこの世界の未来を守ったのだ! だと云うのにいらないなどと言うべきではない!」
「えー、でもきっと私がいなくてもなんとかなったよ」
「そんな事知らん! 俺が知っている事実は茉莉! 貴様が決定打になった今だ! それをそのように言うのは許さんぞ!」
「エェー、面倒」
許す許さないの問題じゃないですし。
絶賛プンスカプンの龍水を相手にするのちょっと面倒だなと思い急いで立ち上がり、話しすぎたねとにっこりと笑う。
そして今の話は忘れてくれとお願いもした。
「龍水君がどう思ったかわからないけどさ、私は君が思ってるような人間じゃないと思うよ?」
「そんな事、今は関係ない!」
「そう? でもまぁ安心してよ。多分もう、前みたいに距離は置かないから。腹が決まったわけじゃないけど、龍水君にこんな話できるくらいには考えは変わってきてるみたいだからさ。全く、自分でも驚きだよ本当に」
以前の私であったのなら、こんな心情を吐露することなんてきっとなかった。でもそれを今できるのは、こんなこと言っても龍水は私を嫌わないだろうという謎の自信があるからだ。全くもってチェルシー様々だ。彼女がいなかったら龍水のこの怒りが自分の存在に向けられたと認識してビビり散らかしていたに違いない。
それにゼノがいなければ、存在を認識されることに対して恐怖しかなかったはずだ。だとしたらきっと、今まで同じような関係しか作らなかったと思う。
「貴様の考えてることが全くもってわからん!」
「私もよくわかってないから、仕方ないね」
「──わかってないのか? 自分のことだろう?」
「絶賛迷走中。でも、前みたいな嫌な感じはないかな。なんかこう、清々しい? かんじ? 皆様のおかげです。ってなことでおやすみぃ」
「おいっ! まだ話は終わってないぞ!?」
そうは言われましてもこれ以上話す事はありませんので。
もちゆる限りの力で走り、龍水から逃走。アパートの自室に帰ってそのままベッドに埋もれ、なんとなく一日を振り返る。
「……嫌じゃなかった、楽しかった」
思ってた以上に充実している。
でも何かがたりない。そんな気がしてモゾモゾと動き、抱き枕用の白菜を抱きしめて目を閉じた。
多分きっと、コレは恋しさではないはずだ。あえて言うならホームシックに違いない。
だから今は、ソレを抱きしめて気を紛らわせるしかなかったのである。
余談余談。
茉莉ちゃんは龍水のお家のことは知らないので、欲しいって言ってる手に入るいいなぁーと思っている。キャラとして龍水は好きだけど、個人としては苦手な分類。何故なら全て手に入れてる人だと思い込んでいるので。
龍水は龍水で遠巻きにされたことはありそうだがら、茉莉のそういった行動に気づいてそうだよね。自分がされてたことだもん。って話です。
どうしても欲しい=正義の話を書いておきたかったってのもある。