凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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サクサク進めていくよ!


139 凡人、盲信ではなく。

 

 

 

 千空たちを乗せたロケットの打ち上げが十月になるらしいと知ったのは、八月が終わりかけた頃だった。

 杠達手芸チームが宇宙服作りに取り掛かるのと同時に、千空は月出発前最後の科学クラフトをするとみんなの欲しいものを募ったのである。今の今まで全人類ロケット作りに全力を注いでいたため、後回しになっていた電子機器がようやく手に入る。その事だけで周りは湧き立ち、さらにやる気を出した人も大勢いた。

 

「洗濯機ー‼︎」

「ビデオ録画‼︎」

「スロットマシン! 電子レンジ! ジャグジー! ワインセラー‼︎」

「いや、全部は無理だ」

「全部欲しい‼︎」

「なんか一人欲張りゴイスーな人がいるけど」

 

 言わずもがなその欲しがりさんは龍水だ。電子レンジ以外贅沢品だし、あまり前のように後回しにされて落ち込んでいたので、とりあえず肩を叩いて慰めておく。

 

「ドンマイ」

「──フン、流石の俺も優先順位は弁えている! 皆が欲しいものが先だ!」

 

 世界一の欲しがりさんなのに、そういうとこあるから嫌いになれない金持ちなんだろうな、なんて思いつつ。

 ざわざわと集まりだす人混みの中、千空はカセキとクロム、スイカとともに住宅地にあるラボへ向かい、そこで一番最初に作り出したのが電子レンジだった。

 

「ケータイもレーダーもすでに作ってんだからな、同じ電波使うだけだ。金属の箱ん中でアホほど電波反射させまくりゃ──」

 

 チン! と懐かしい音と共に出来上がったのはホカホカのご飯。

 

「あっち!!」

「すごいんだよ! 冷めてたご飯──」

「どうして、火もないのに……」

「詳しいことはわかんないけど、確かお米の中の水分を振動させてあったまるんだよ。因みに生き物でやると血とか沸騰して死ぬから、寒がってる動物とかはやっちゃダメだよ?」

「……よく覚えてんな、ンな事件」

「なんつーことしてんだよ! 現代人!」

 

 それも賠償金をメーカー側が払うとか、そんな意味のわからない事件だった気がする。でも電子レンジの仕組みを知らない石神村勢がやらない保証はないから後で伝えておくとしよう。

 サラサラと千空が書き留めたメモ紙をポシェットにしまい、コレは後で製作書として清書する予定だ。と言うか、コレから作るものはほぼほぼ製作書作るんだろうし、仕事が山積みになるのが決定だろう。

 タイピングを早くしないと仕事進まないかもなぁなんて考えていると、ずいっと横から三角おにぎりが差し出された。

 

「テメェはこっちな」

「……ラップがまいてある!」

「茶碗はもてねぇだろ」

「助かる!」

 

 ホカホカのご飯をフランソワがおにぎりにしてくれたらしく、ウキウキとしながら食べようとしたところでラップが剥けないことに気づき絶望した。

 テーブルの上におけば何とかなるだろうが、ささっとおにぎりが食べられないなんて日本人にあるまじき姿では? 

 さてどうするべきかと唸っていれば、千空が笑い必ず私のおにぎりを手に取りラップを剥いてくれたのだ。まじそういうとこだぞ、千空。大好きだが? 

 

「ククっ、ほらよ」

「ありがと」

 

 むしゃむしゃとおにぎりを食べながら今度はラップのメモ紙を受け取り、その後は杠の欲しいもの、洗濯機の製作へ取り掛かる。今さらながらテレビはあるのに洗濯機はなかったのかと改めて驚きつつも、食関係だけクラフトが早かったのは龍水とフランソワがいたからかとゲンと共に頷き合った。まぁ、私も美味しいご飯は食べたいので、そのクラフトが早いことは大変喜ばしいんだけどね。

 

「そういえば、茉莉ちゃんは何か作ってもらうの?」

「なにか?」

「ホラ、欲しいもの♩何かしらあるでしょう?」

 

 欲しいもの欲しいもの。

 何かあるかなと考えて、真っ先に思い浮かぶのは右手のとこだった。それ故に義手かなぁと声に出してみれば、それは今後作る事が確定してるものだから別のものを考えておけと千空に小突かれてしまったのである。

 

「義手は後で最新技術詰め込んだやつクラフトチームで作るって張り切ってる奴らが居んだ、他のやつにしとけ」

「他のやつ? ──他に、欲しいものかぁ」

 

 欲しいもの欲しいもの。

 何あったかなと必死に脳をぶん回して思考してみるものの、何一つ思い浮かばない。

 そりゃそうだろう、私、石化前も今と同じ生活してたもの。衣類なんかも今では二十一世紀に近いているし、杠製だから困った問題も起きていない。食べ物関係は石化前より美味しいもの食べてるし他に欲しいものって何かあるって逆に聞きたいくらいだ。

 

「ほしい、もの……?」

「まさか茉莉ちゃん、何もないの……?」

「んー、欲しいもの欲しいもの。……ホシイモノって何?」

「茉莉ちゃん⁉︎」

 

 服、はこの前いっぱいもらったし、使い方のわからないメイク品等おしゃれ用品ももらってしまった。タンスもいつの間にか千空が作って届けてくれたわけで、髪を乾かすドライヤーも最近浴場に設置されたような気がする。じゃあ他に必要なものってなにと、ホシイモノがゲシュタルト崩壊してきたんだが。

 わけがわからなくなって千空の方に視線を向けるとカセキと共に洗濯機作りを進めている後ろ姿があって、大変そうだけど楽しそうに笑う声が聞こえてくる。

 故に、私はそれに満足してしまったのだ。

 

「──欲しいものは、もういっぱい貰ってたわ」

 

 とくに、今を笑い合える平穏なんてものを。

 だからもう何もいらないや。

 

 それから数日間は千空は訓練をしつつもみんなの欲しいもの製作に取り掛かり、南が欲しかったビデオ録画用のフィルムや冷蔵庫やプロテイン。クロムなんかは独自でホッカイロも作っていたし日々忙しそうにしていた。

 と言うことはつまり私の仕事も溜まるわけで、途中からクラフトを見に行くのではなく家にこもってひたすらタイピングの毎日だ。紙やインクも事前に運んでおいたから、食事の時以外部屋から出ない生活が何日も続いたのである。

 

「んー、首がやられる」

 

 バキッと首をならし肩を揉み、軽く背伸びをして筋肉をほぐす。

 出来上がった一部の書類をまとめてショルダーバックに詰め込みラボへ向かうと、すごい大荷物を抱えた大樹が叫んでいるのが見えた。一体何をしているのだと近づいてニッキーに尋ねて見ると、どうやらその抱えられているものを含めたそれがスマホらしい。

 

「スマート、フォン?」

「まぁ、スマートじゃないね。でも、大樹にとっては念願のスマホなんだろ?」

「確かに」

 

 石化が解けた当初からスマホが欲しいと言っていた大樹のことだ、そりゃ泣いて喜ぶわけだ。

 

「でもさ、電話持ってる相手ってラボとかそういう施設だけじゃない?」

「……そこは、まぁ。ホラ、ゲームもできるし?」

「本人がいいなら、いっか」

「そういうことにしておいた方がよさそうだね」

 

 二人で顔を見合わせて笑っていれば、それを側で聞いていた羽京が笑っていた。

 

「仲良し大樹のためにわざわざ液晶とか作ってやさしーのさ千空!」

「いや、それはいかにも違いそうだが……」

「なわきゃねぇだろ」

「やっぱり」

「宇宙船に液晶パネル積み込むためだわ」

 

 ブラウン管テレビは場所をとるのと振動に弱いため、どうしても必要だったのが液晶パネル。故にそのついでにスマホを作ったと言いたげだが、実際のところどうなのだろう。

 千空、幼馴染の大樹のこと大好きだもんね。私知ってますからね。ついではついでだけど、いちいち面倒なスマホなんて作らないもの、つまりは大樹の為のクラフトに決まってる。

 

 みんなの影に隠れて一人ほくそ笑んでいると、パチリと千空と視線があって名前を呼ばれてしまう。何かしでかしたかなと返事をしてみれば、どうやら普通にお仕事な話だったので一安心だ。

 

「ウチにメモ紙たまってんだわ、夜これっか?」

「おけー、夜いく。ソリ必要なレベル?」

「あ"ー、一応もってこい」

「どんだけ溜め込んでたの?」

 

 いや、毎日みんなの欲しいもの作ってたらそりゃメモ紙は溜まる一方だろう。

 夜といっても時間の指定があった方が互いに都合がいいだろうと夕ご飯後の七時すぎを約束の時間とし、一旦私はそのままゼノがいるであろうもっと本格的なラボへと向かった。何せ書類を収めるのはロケット作りしている方のラボな訳でして。

 ここより少し遠いが運動不足気味の私にはいい運動なのである。

 

「ゼノー、書類納めに来た。ここおいておけばいいかな?」

「あぁ、そこに置いておいてくれ」

「おけー」

 

 当たり障りない会話をしつつ書類をバックから取り出して机に置き、そのついでに掃除用具入れからモップを取り出す。ロケット作りしている方の工場には基本的に専門の清掃員がいるのだが、書類作業をする事務所や研究室は各々で行っている為、たまに顔を出した時に清掃員として掃除をすることもあるのだ。アメリカにいた時にも掃除は任されていたわけだし、もうお手のものなのである。

 

「聞いていると思うが──」

 

 床のモップかけをしていると、ゼノがコーヒーを飲みながら私に語りかけてきた。どうやら千空達乗組員は近々隔離生活が始まるらしい。

 

「打ち上げ時は石化するとしてもその前日まで何かしらの病にかかっていた、となっては困るからね。出来るだけ人との接触は控えてもらうことになっている。まぁ、おおよそ二週間といったところだろう」

「なるほど?」

 

 そんな話初めて聞いたけどと首を傾げていればゼノは私を見てため息を吐き、一度千空と話しあっておくといいといったのである。

 

「別に喧嘩してないよ?」

「それはわかっている。けれども茉莉、宇宙へ行くということはそれ相応の覚悟というものがあるだろう? 互いに後悔しないためにも話しておいた方がいい」

「──それってさ、よくロケットの乗組員が書くってされてる遺書、みたいな意味で言ってるの?」

 

 某漫画でロケットの乗組員が遺書を書き残していたシーンをよく覚えている。それを発見した兄の心情をその時は理解しきれていなかったが、きっと今の私みたいなものたんだろう。

 見てはいけないものを、聞いてはいけないもの聞いてしまった。そしてじわじわと宇宙に行くという事が、その可能性もあるのだと知らしめてくる。

 

「おぉ、知っていたのかい。なら話は早い。宇宙での死亡率は少なくとも五%はあるからね。それともあれかい? 君には打ち上げが成功することがすでに分かっている、とか」

 

 きっとゼノもその可能性がある故に、千空と話せと言っているに違いない。別に喧嘩別れをしたわけではないけれど確かに家を出てからは千空と話す機会がグッと減り、一日に一度、朝食が夕食時に声を掛け合う事があるかどうか。それを寂しく感じてはいたが、体力勝負な訓練の邪魔をしたくなくてわざわざ会いに行くこともなかった。

 だからゼノは話しておけと言ってくれているのだろう。

 

「……残念ながら、私の知る未来はもうないんだよね。だけど、千空は宇宙に行くし帰ってくるよ絶対」

 

 けれど私は未来を知っていなくとも、千空が帰ってくるのだと信じている。もしかして数年スパンの別れかもしれないが、下手したら一生会えないかもしれないが、千空達は必ずここに帰ってくるはずなのだ。

 だってここは、そうなる世界。千空がみんなと一緒に力を合わせて、全人類を救う、そんな世界のはずなのだから。

 

「たとえ何が起こったとしても、千空は戻ってくるからね。だから、問題ないよ?」

「──茉莉、人はそれを盲信とも呼ぶと知っているかい?」

「知ってる知ってる。でもねゼノ、私の中の千空はそうなんだよ。いつだって前を向いて進んでるから、だから信じるんだ。もしもとかだってとかそういう負の感情は私の領分なんだから、千空には気兼ねなく自由に生きてて欲しい。てか、その生き方を選んでいて欲しい」

 

 マイナスな感情を抱いてその場にとどまるのは千空には、みんなには似合わない。だからみんなと支え合って先に進んで欲しい。

 

「ゼノ、私は千空だけじゃなく貴方を含めたみんなを信じてるんだよ。だから、大丈夫なんだって」

 

 きっと大丈夫。

 そう思わないと恐ろしいのもあるけれど、そうじゃないと生きていけないのもあるけれど。

 

「みんなが生きてるこの世界を、私は信じてる」

 

 そうじゃなきゃ、やってられない。

 にっこりと笑顔を作った私を見たゼノは、呆れたように笑い返してくれたのである。

 

 

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