凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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14 凡人、願う。

 

 

 

「とりあえず村に向かうか──」 

 

 とそこまで言ったところでまたしてもおのれの口の軽さを恨んだ。

 ゲンからしたら村の存在を知らないわけで、そこまで言ったら向かう先は一つになるわけで。

 

「やっぱり茉莉ちゃんと出会えてよかったよ。 これで千空ちゃんがいそうな所がわかったね」

「ソダネー」

 

 本当に今のは、確実に、私が悪い。

 けれどもこのままなんの考えもなしに歩き回っていたら、ゲンは日が暮れても千空への手がかりは見つからなかっただろう。

 ならいっそ開き直るのも手だ。

 

「ここから少し先に集落らしきものは見つけてあるよ。 ただ彼らが友好的かは分からないし石化がいつ解けた人間かもわからない。 それなりの覚悟を持っていかないと、危険だよ。 ほら、人間を食べる集落だってあったとかなかったとかあるじゃん?」

「こっわっ! え? なんでそんな事考えられるの茉莉ちゃん!?」

「何でって生きてる以上腹が減るでしょ? 食えるもんは食う、これ摂理なわけで。 集落が出来るほど一気に石化が解けたとしても生活できなきゃそうするしかないし、それが風習になってることも考えないと。 だから私は隠れてるから一人で行ってね?」

「え!? 茉莉ちゃん一緒に行ってくれないの?」

「うん、行かない。 隠れてる。 危険じゃなければ顔出すかもだけど、かもだから期待はしないように」

 

 私が村へ出向かなかった理由をそれとなく作り、苦笑いするゲンと共に村へ向かう。

 メンタリストであるゲンからしてみたら私の戯言なんてあってないようなものだし、気にしない方が良いだろう。

 

 二人並んで仲良く、とは行かないけれどそこそこ会話をしながら川を降り、朝日が頭の上に登り切った頃、漸く村の入り口周辺まで着くことができた。ゲンは肩で呼吸をしていたのでとりあえず水を飲ませておき、私は一人で村の状況の確認をする。

 目が凄くいいわけではないのでそれなりにしか確認できないのだが、ラーメンと書かれた屋台を無事発見することでき、カニバリズムはなさそうだとゲンへ耳打ちをした。

 

「って事でラーメン食べにでも行っておいで、私はここで待ってるから」

「──"待ってて"はくれるのね、ゴイスー嬉しいね、それは」

 

 くそ、また失言した。

 メンタリスト嫌い。好きだけど、嫌い。変に突っ込んでくるとかマジ勘弁して。私のメンタルはもうゼロよ。

 

 フラフラとした足取りで村へ向かうゲンを見送り、姿を隠すように岩の影にしゃがみ込む。待っているわけでないが、念のため千空達とゲンが出会うのを確認してから帰ろうと弱い自分が思考する。

 ちょっとだけ、ちょっとだけなら推しの姿を拝んでもバチは当たらないんじゃないかなんて、甘い考えを抱き私はその場に残った。

 時々バレないようにそっと村の様子を伺い、崇拝してやまないネギ頭を確認すれば思わず口角が反応する。

 よかったという安堵感とそれより大きな罪悪感が私を包み込み、腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。

 

「本当に生きててくれた。 よかった……」

 

 そう口に出してしまうとなお、私のしでかしたことの大きさに嫌気がさしたが今更過去には戻らないのだ、思い出すだけ無意味だろう。

 推しの存在も確認できたことだし、ゲンも無事に石神村の連中と合流することができた。

 ならばそろそろ帰って不貞寝でもしようと思い腰を持ち上げると、良く知った果物が一つ、そこにあるではないか。

 

 そうそれはスイカ。のように見えないがスイカと呼ばれているもの。

 つまりそこにあるのは、私の目の前にいるのは──。

 

「ラーメン、お届けにきたんだよ!」

 

 将来美人さん確定のSSR、スイカ様で在らせられた。

 

「うわぁ、ありがとー」

 

 ついつい出会えた奇跡に頬と声音が緩みそうになったのを必死に止めたので、棒読みになってしまったのは仕方ないと思いたい。

 

「食べた人にはお仕事もあるんだよ!」

「それは先に言わない方がいいんじゃないかなぁー、なんて。 でも、いただきます。 食べ終わったら向かうから帰っててもいいよ?」

「分かったんだよー!」

 

 嗚呼、スイカちゃんまじ天使。

 

 でも何故ラーメンが届いたのだろうか。私のことバラすとしたらゲンしかいないが、バラしたところで彼に利点などないはずなのだけれども。

 考えても仕方ないかと一度ため息を吐き、受けとったラーメンへと箸を伸ばす。見た目はそこそこ悪くはないが、緑色の麺の奇抜さは抜群。スープを一口飲んでみると、こちらは肉と魚の旨みが出ていて美味しい。ごくりと喉を鳴らし麺をズズッと吸い込んでみると食感はネチャネチャで、私の覚えているラーメンには程遠かった。

 

 でも決して不味いわけではない。

 

 私一人で目覚めた年、塩作りに取り掛かるのが遅れて味気ない生活をしていた事を思い出す。何を食べるにも素材の味オンリーで、獣なんて最初は吐き気を我慢して食べたレベルだ。ナイフもない世界じゃあうっかり臓物傷つけて臭くなる、なんて当たり前だったし、慣れるまではそりゃもう食事は地獄でしたよ。

 それに比べればこのラーメンは美味すぎる。

 是非ともシェフを呼べと叫び出したいほどに。

 

 まぁ、今から会いに行くんですがね。ちょうどいい言い訳が出来ましたから。

 

 誰もみていないしこのまま食い逃げしてもいい状況ではあるのだけれども、どうしても、私は千空に会いたい。

 推しの無事を確認したいってよりは、ただ会いたくなってしまっただけだけれども、ともかく会って声が聞きたい。

 もしかしたらなぜ逃げたと罵られるかもしれないが、それでも会いたかった。

 

「ラーメン食べたって事で、お手伝いに行きますよっと」

 

 浮つく心を押さえながら村へ近づき知らぬ顔で手伝おうとしたのだが、どうやらそれはあまり良くないことだったようである。

 

「お前は敵か?」

 

 ゲンと同じく見知らぬ人間が現れれば勿論警戒されるわけで、見事に三つの刃物が私に向かっている。

 こんな状況じゃなければコハクちゃん美人さん、金狼銀狼かっこかわいいってウハウハだったんだけどな。いや、内心ウハウハだけどもね。

 どうみたって焦る場面だというのに緊急事態すぎると表情は固まるんだなと感心しているお馬鹿な私に救いの手を差し伸べてくれたのは、他でもない神であり推しである千空様で、私を敵ではないとそうおっしゃって下さった。

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇか茉莉。 バカンスは楽しめたか?」

「いやぁ、そこまでじゃなかったかな? 変なメンタリスト拾うし、刃物は向けられるし、昨日今日が一番のアトラクションみたいだわ」

「そうかよ。 んなことより拉麺食ったら手ェ動かせ、マンパワーがまだ足んねぇんだ」

「りょーかい。 頑張らせていただきまーす」

 

 緩みそうになる頬に力を込め、刃物を避けて必死に腕を動かし炉に空気を送るゲンと交代する。その時ラーメンを頼んだのはお前かと問い詰めれば、旅は道連れでしょとゲンはニコリと笑った。

 

「思ってたよりゴイスーヤバい人間だったわ、千空ちゃん」

「──これだけで? ならあさぎりゲン、今後腰抜かさないように覚悟しときなよ、ジーマーで」

「え、どういうこと?」

「そのうちわかるよ」

 

 あさぎりゲン変顔特集が組まれるほど、ゲンは千空に驚かされっぱなしになることはほぼ確定だろう。このくらいで根を上げてもらっちゃ困るのだ。

 

 

 

 

 筋肉の限界まで炉に空気を送り、ようやく砂鉄は溶けたところで私たちはへたり込む。

 達、というのは炉に空気を送っていた村の住人達を含み、推しと仲良く話しているゲンは含まない。

 ゲンはあの後私と交代することなく見ているだけ、流石に温厚な私でもイラッとするほど潔いやつだった。少しは労って欲しい。

 

 ふぅと一息ついて、そして漸く私は自分が置かれている立場に気がついた。

 千空のみならず見知らぬ部外者が二名増えて、そのうち一人は敵対する側のスパイ。

 だとすれば私に向けられる視線はあまり良いものではなく、コハクからは若干鋭い視線が、その他住民と金狼銀狼からはチクチクとした視線が突き刺さる。

 今更逃げ出したいなんて遅いだろうが、ゴイスー逃げ出したい。

 

「可愛い子たちと楽しく暮らせりゃそれでいい。司が死のうが千空ちゃんが死のうが、知ったこっちゃない、俺は誰を切ってでも勝ち馬に乗る!」

 

 だというのにこのメンタリスト、さらに私の立場を悪くするような嘘っぱちの言葉をはきだした。

 マジで勘弁してください。

 

 それに科学王国の方が可愛い子、多いと思うのだけども。推しである千空は勿論スイカとかコハクとか、筋肉バカのマグマだってそこそこバカ可愛い。親バカみたいな気持ちだが、みんな素直で可愛いこだ。

 

 なのでゲンの言葉を借りるならば、可愛い子の居るここで楽しく暮らして頂きたい。

 

 口に出して伝えることはないが取り巻きのように千空達を眺めて、ただ幸せを願うことぐらいしてもいいだろう。

 

 

 

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