凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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143 凡人、こころうち。

 

 

 千空達は月に行くにあたって、体の負担や資源削減のために石化しながら宇宙へと打ち上げられる。そしてジョエルの作成した時計から決まった時間に復活液が放出され、意識を取り戻すらしい。そんな詳しい話を聞いたのは司令塔に足を運んでからだった。

 科学に対して知識がないに等しい私がそこにいても仕方がないと思っていたのだが、結局南に引きずられるような形で連れてこられてしまったのだから致し方がない。通信が聞き取れないなんて状況にならぬように余計な話はしないでほしいと頼まれたが、最初からそのつもりだったので問題はなかった。話すとしても小声で、それも身を小さくして迷惑にならぬように千空達の様子を見守るだけである。

 

「おぉ千空! そろそろお目覚めかな」

 

 わざとらしい口調でゼノがそう言えば、わずかに雑音が入った通信から千空の声が届いた。

 

『……つうことは故障じゃねぇな。ゼノ、テメェか』

 

 その会話だけでは分からなかったが、つまりのところゼノは千空を一足早めに起こし、宇宙での一人の時間を作ってくれたらしい。千空からしてみれば宇宙には思うところがありすぎて、こんな時ではないと考えられないこともあるだろうとのこと。ゆっくりその空間に浸る時間はないが、少なくとも千空にとって良い時間になればいいなとは思う。

 

 その後はスタンリーがパイロットとして目覚め、空調や酸素に問題がないことからコハクが目覚めた声が聞こえる。宇宙でのドッキング作業にはきっとコハクが良い働きをしてくれるだろう。

 

「──ミナミ、私外行ってるね」

「え、聞かなくていいの?」

「いいのいいの、なんの心配もないからね」

 

 それに見ていたところで私にできることはないし。

 月まで向かうロケットは組み立て式で、四つの部品を改めて宇宙に送ることとなる。その作業も数日はかかるし、本当にできることなど皆無だ。見ていたってしょうがない。ならばブラブラとするしかあるまい。

 基地の中は基本自由に出歩いていいとゼノから許可は出ているが、職員でない私にそんな権限を与えていいものかと悩みたくもなる。なんてったってあのゼノ先生、幼馴染という関係に途方もなく良い感情しか抱いていないようなのだ。まぁその実例が自身を理解してくれているスタンリーなのだからそう思い込むのも分からなくはないが、もっと私が悪いやつだったらとか考えてもいいのでは?

 とは思ってみたものの、私も同じ穴のムジナだろう。千空の師匠だからいいやつって思い込んでいるし、他人事ではない。

 

「──茉莉!」

「ん、あ。アマリリスちゃん」

「久しぶりね! こっちに来てるなら声かけてくれてもいいじゃない!」

「すまんて」

「もう! ……色々あったって聞いてたけど、今は平気なの?」

「モーマンタイよ。元気元気。元気すぎて困るわぁ」

「……嘘ね」

 

 これだから勘のいい女子はこわぁい。

 どうしてそんなこと思うのと聞いてみれば、アマリリスはニヤリと笑って私を指さした。

 

「茉莉ってオシャレにもメイクにも無頓着って聞いてたのよ、ニッキーから。なのにそれ、新しい髪飾りだなぁって。何か心境の変化でもあったんでしょ」

 

 犯人はニッキーだったか。うん、ニッキー乙女だもの。オシャレ話とかしてないわけなかった。きっと南も引き連れて御洋服大量買いするタイプだよねアマリリスは。うん、女の子してるなぁ、なんて。遠い目をしていれば無理矢理現実に引き戻されたのだけれども。

 それでどうなのと笑って聞いてくる彼女に僅かばかりの恐怖心を抱きながら、私は貰い物だと呟いたのである。

 

「買ってはないヨ、貰いものダヨ」

「へー。で、誰から」

「……」

「だ・れ・か・ら?」

 

 圧がこわぁい。

 身を引いても手を掴まれて逃げるのを阻止されてしまったし、アマリリスの目がギラついてて本当に怖い。タスケテ、せんえもん。

 宇宙にいる千空に助けを求めたとてどうなるわけもなく、私は目を逸らしながら答えるしかなかったのである。

 

「せ、センクーからデス」

「へぇ! そうなの! それでそれで?」

「……? とくに、なにも?」

「──嘘でしょ?」

「いや、本当に」

「あの千空が用意したのよね? それ?」

「まぁ」

「なにもないの?」

「ハイ」

 

 アマリリスは簪の意味なんて知らないから、多分この対応で合ってるはず。先ほどまでと打って変わってつまらなそうな顔をするアマリリスに、内心謝りながらも嘘はついてないと弁明はする。だって貰っただけだもの、何もなかったと言えばそうなのだから。

 

「なぁんだ、少しは浮ついた話聞けると思ったのに!」

「──あー、ごめん。んじゃ、アマリリスちゃんはどうなの? 浮ついた話?」

「え、聞いてくれるの⁉︎ よし! 今日はうち泊まってって!」

「え、は? ちょっ」

 

 なんとなく聞いてみただけの話題なのに、ものすごく楽しそうに嬉しそうにアマリリスは笑って私の手をひいた。しかしながらグイグイと私を引きずる力は、その細腕のどこにあるのでしょうか? 

 けれどもまぁ、アマリリスが楽しそうならいいななんて思っていた私だったのだが、その後二日間にも渡りソユーズとの惚気話を聞かされるなんて思いもよらなかった。もういいからくっついちゃえば?なんて言わなかった私を誰か褒めて欲しいものである。もう恋愛話はお腹いっぱいです。

 

 アマリリスから解放されたと思えば今度はチェルシーに司令塔に行こうと誘われて、またしても引きずられるような形で連れて行かれてしまうし。

 そこでなんやかんやで宇宙船のドッキングはすでに二台成功していると知ったのだが、どうやら三台目で問題が起こってしまったらしい。そりゃ人間だもの失敗はあるよねと思考していれば、チェルシーは心配じゃないのかと首を傾げていた。

 

「心配はするけど、大丈夫でしょ。きっと」

「──茉莉はさ、なんでそんなに冷静なの? 変態的すぎない?」

「変態ではないと思うけど、強いていうならば心配するだけ無駄だからなぁ? 私が心配したところでできることはないし、宇宙にいる三人を信じるしかないじゃん?」

「そうだけどさぁ……」

「他人事みたいに言ってって思われそうだけど、別にそう思ってるわけじゃないよ本当に。ただどうにもならないのは分かってるからってだけで」

 

 それにきっと、問題が起こってもゼノが、なんとかしてくれるはず。だなんて勝手に思い込んでいる愚者なのだ私は。人任せというか神頼みというか、千空達ならばやってのけてくれるだろうと強く思い込んでいるのは自分でもよく理解している。でもそれをやめたところでどうにか出来る問題でもないだろう。

 案の定三台目のドッキングは電気系統の異常で困難なミッションになったようではあったが、スタンリーがなんとかしてくれたらしい。本当に、頼れる仲間が千空のすぐ側にいてくれるのは心強いと思う。

 けれども次のドッキングを行う前に船内を調べたところ、基盤に石化した髪の毛が入り込んでいたことがわかったそうな。そしてそれを取り除く際に基盤の一部が壊れてしまい、カメラが潰された状態に千空達はいるとのこと。

 

 一方的に通信ができない状況だったが、どうやら運は私たちの味方をしているようだった。こちら側の通信が垂れ流しであちらの声が聞こえなかったのならば全ては水の泡だったかもしれないが、喜ばしいことに千空達の声は届いている。そして私たちはそれを聞いていた。故に船内の状況はわかっていたのだ、何が必要かなんて。

 だからこそ龍水は基盤をもって宇宙へ行くことをたからかに宣言したのだった。

 

「俺が行こう! 四号機ならば人一人くらい乗り込むスペースはあるのだろう? 違うか!」

「……出来なくはないが、君はそれでいいのかい? 石化装置を千空達が持っている以上、生身で宇宙へ飛び出すしかないが……」

「構わん! こんな状況ではあるが、宇宙に行けるのだ! 喜んで行こうじゃないか!」

 

 ハッハーと高笑いする龍水と、それを心配そうに眺めるフランソワとサイ。どうやら以前私に助言してくれた青年は龍水の実の兄らしく、この状況下で弟である龍水を心配することは当たり前だとも言える。そわそわと不安に駆られるメンバーの中、私はどうしたものかと首を傾げた。

 考えたところでどうにもならないのにと、そしてそれしか選択肢しかないのだとなんとなく察してはいたのだ。

 

「──杠ちゃんのとこにいって予備の宇宙服あるか聞いてこなきゃね?」

 

 誰も何も行動しようとしないから、あえて口を出す。そうすれば嫌でも状況は動くだろう。

 

「茉莉、君は彼が四号機に乗ることに賛成なのかい?」

「賛成も何も、それしかないんでしょ?」

 

 ゼノはきっと私が"知っている"と思ってそう言ったのだと勘違いしてそうだが、全くもってそんなことはない。

 だけれども私は龍水の背中を押すことしか出来ない故に、言葉を吐き出した。

 

「龍水君はさ、スタンリーがパイロットに決まってもずっと訓練してたでしょ? だから適任だと思う。それに、スタンリーがいなかったら龍水君が宇宙に行く予定だったってセンクウから聞いてるし、今ここにいるメンバーで一番みんなが納得する人でもあるんじゃないかなと」

 

 そうでしょ?と答えをみんなに求めれば、眉を顰めながら頷くものが数名。言わずもがな、皆わかっているのだ。それが最適解だと。だがそれを容認できない者もいるのも事実だ。

 

「たとえそれが一番いい方法だったとしても、僕は……」

 

 兄として、家族として。サイが決断を下すのは難しいことなのだろう。私だって身内がそうなってしまったら行かないでと言ってしまう人間でもある。

 でも、それでも。

 

「龍水君なら大丈夫だよ」

 

 そう言うしかないじゃない。

 ぶっちゃけ自信がある訳ではないのだ、本当にうまく行くなんて思ってはいない。けれどもここで龍水以外の選択肢はないのだから、そうするしかない。

 

「──フゥン。茉莉貴様は、何を根拠に俺を推薦してくれるんだ?」

「何をって、そりゃあ龍水君が龍水君だから? 君以外にパイロットなんていないでしょ? 違う?」

「いいや違わん! 俺以外にこの状況をどうにか出来るものはいない‼︎そうだろ!」

 

 ハッハーと、もう一度高笑いする龍水に釣られて私も笑った。

 

「──どうして。どうして君は、そんなに前向きでいられるんだ」

 

 そう私に問いかけたのはサイだった。眉間には皺が寄っていて少し困った表情をしたサイは、それでも私のことを睨みつけるように見据えていた。下手すれば弟を死地へ送るようなものなのだから、その状況を作り上げた私へ恨み事があっても仕方がないと思っている。

 だけれどもサイはそんなことはしなかった。

 

「……前向き、ねぇ? 敢えていうならば、私にはその選択しか残されていないから、かな」

「それはどう云う意味で──」

「後ろ向きの行動の末に無くしたものは山積みで、今更後悔しても遅くて。たらればの考えなんて嫌ってほどしてきたから、もはや信じ抜くしかもうない状況にいるみたいな?」

「えっと──?」

「正直に言ってしまえば私ネガティブの化身みたい人間でして。ぶっちゃけ誰かを信じないともう生きていける自信なんてもう皆無」

 

 にっこりと笑ってそう云うと、サイはかちりと固まってしまった。

 否、ゼノを含めた知り合い全員が固まってしまったのである。そんなに衝撃な事実言った訳じゃないけど、素直にお喋りしすぎたかなと反省はしておこう。遠慮はしないけど。

 

「私は弱虫だからね、センクウ信じて、みんなに頼って縋ってないとうまく生きていけそうにないし。そんなやつが弱音なんか吐けないでしょ。だから信じるしかないよね」

 

 私がみんなを信じる理由なんて、結局は自分のためなのだ。

 私がいても世界は人類は救われる。そう思ってないとうっかり気が狂う可能性もあるのだから致し方がない。今はまだ私の存在を肯定してくれたゼノがいるけれど、全てが狂ってしまった時に最初から変えていればと言われてしまったらもうなす術ない。

 それ故に、みんながどうにかしてくれると信じるしかないのだ。

 

「まぁ、私なんかに信頼されても不愉快かもしれないけれど──」

「そんなことあるものか! 茉莉、貴様が信じた人間が、この俺が! 必ずドッキングを成功させて見せよう! そして貴様の信頼に応えてみせる!」

「あ、はい。頑張ってください」

「軽いな⁉︎」

 

 いやだって、それしか云うことないですし。

 何故かフンスッと鼻を鳴らした龍水に、私に抱きつく女子達。ものすごく頭を撫でられたり抱きしめられたりしてしまっているが、正直言ってこの幸せ空間に浸りたい。荒んだ心が癒される。

 それに心のうちを話したから引かれるかなと思っていたのだが、そんなことはなかったようで一安心である。

 

「アンタねぇ、分かりにくすぎるわよ!」

「生きていけないとかいうんじゃないよ、全く……」

「もっと私に頼って縋っていいのよ⁉︎本当に本当よ! 私、茉莉一人くらいなら養えるもの!」

「それはちょっと──」

 

 ルーナよ、養われるのは勘弁してくれ。そういう意味で頼りたい訳ではないのだから。

 わちゃわちゃと纏まっていれば、不意にゼノと視線があってしまった。彼は彼で私を見て微笑むと、云々と頷いているし相変わらず意味深な行動のしすぎでよくわからない。まぁ、頼れる大人ではあるとは思っているが、認識違いを如何にかしてほしいとは思ってもいる。

 

「──茉莉、私達は何があってもアンタの味方だからね!」

「それは、ありがと?」

 

 でもまぁなんというか、こんな事してないでロケット飛ばしたほうがいいのではと思ったのは私だけじゃないと思う。

 

 

 




少しずつ本音を話せるようになった茉莉さん。そしてそれを聞いてお前頑張ってたんか、てか自分ら信用されてたんかとなる皆様です。
最終話に向けて関係修復?しながらパイセンとの仲を進めていきます。
そろそろ茉莉ちゃんにも向き合ってもらわなきゃね!へけ!
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