凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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144 凡人、その想い。

 

 

 大丈夫とは言ったものの、まさか自分が回転してドッキングするとは思わないじゃん。

 

『はっはー! 飛び出たぜついに‼︎宇宙は俺のものだ‼︎』

 

 四号機をドッキングするために宇宙へと旅立った龍水であったが、相変わらずの態度に皆が安堵した。そして無線を聴きながら、ゼノとクロムの発言を聞きながらそこで何が起こっているのかをみんなが察した。宇宙空間での船体コントロール、それを龍水は自身の体で行っていたのだと。

 

『はっはー! 欲しくても無いなら作ればいい、違うか⁉︎俺自身がコマとなる、人間リアクションホイールだ‼︎』

『クククハハっ、頭いかれてんだろ欲しがりや!』

「まさか、君はこのことを予期して──」

「んな訳ないでしょ、そんな目で見ないでよ」

 

 違うそうじゃない。私は龍水がこんなことをするとはちっとも思っていなかったのだから、ゼノ先生はそんな目で見てこないで。

 期待に溢れた瞳を向けてくるゼノから必死に目を逸らし、ニッキーの背中に隠れさせていただいた。全くもって良い迷惑である。

 だがしかし、龍水が無事に合流できたんのならばオールオッケー。あとはひたすらことの成り行きを見守るだけだ。

 

 龍水は無事に合流を果たすと壊れてしまった基盤と同じものを千空へと手渡し、丸ごと交換して修理を行った。互いの音声が聞こえていなかったらできなかったかもしれないが、千空側の音声はきちんと届いていた故にできたバックアップでもある。

 

「ん? てことは」

「龍水のっけてこのまま」

「月行きぶちまかすってこと⁉︎やば!」

 

 帰還船は一つしかないため龍水個人が一人地球に帰ってくることは困難だ。それ故に宇宙船が直れば、今度は四人でそのまま月に向かうこととなる。船内は手狭にはなるが石化してしまえは生命維持資源の消費はないし、サイがプラス一人分したその他諸々の計算をし直したから問題はないそうな。

 宇宙船との距離は通信の往復時間から求め現在位置を把握し、ドップラー効果とやらで宇宙船の移動スピードの計算も可能。正確に千空達の位置を把捉し続けていれば、月までの移動日数もわかるらしい。

 

「二十一世紀では単純計算で月までは三日とされているから、問題がなければ今回もそうなるだろう」

「──なるほど?」

 

 いろんな計算方法や効果を言われたところで理解できない人間は多数いて、ゼノは分かりやすく私たちにそう教えてくれた。

 確かに某宇宙の兄弟漫画ではそれくらいの日数で行っていたなと思い出し、そして同時にゼノ達が作った宇宙船は二十一世紀のものと大差ない性能があることを初めて知ったのである。ゼロから文明を作り上げておおよそ十年しか経っていないというのに、知識とは科学とは恐ろしいものだ。

 

「ってことは、当分管制官以外はやることない?」

「そういうことになるね」

「……本土には」

「戻れないよ」

「ですよね」

 

 定期便出てるはずなんだけどなぁ、なんで私戻れないんだろ。うん知ってる、両隣がニッキーとチェルシーで今日は固められているもの。

 うっかり本音を話してからというもの、なぜか私のところに訪れる人が増えた。なんというか、ヨチヨチバブちゃん扱いされてる気もするがどうしたら良いものだろうが。別に私自身に辛い過去があるわけではないし、ただ諸事情で人間関係がうまくいってないだけで人嫌いでもない。だというのに私のことも信用して良いからね!と前向きチェルシーばりの対応をしてくる人の多いこと。

 金狼やカセキはもちろん、あの氷月さんでさえ認めてはいますよと声をかけてくれたのには驚きだ。思わず目を見開いて驚いていればフンっと顔を逸らされてしまっだが、後方から現れたほむらに照れ隠しと伝えられてしまったし自惚れても良いのだろうか? 

 もしかして、私本当に嫌われてはいない?ちょっとは好かれてるなんて、嬉しい誤算である。

 

 とはいったものの構われすぎるのも困りもので、たまに一人になりたくなる時はそっと集まりからは離脱させてもらう。ちゃんと一人の時間も作ってくれるあたり、居心地はかなり良い。

 けれどもそうなるとなっただけ、ちゃんと考えなきゃいけないこともあるんだよなと千空の言葉を思い出してしまうのだ。

 

「──ゼノ、今忙しい?」

 

 上弦の月が夜空に昇ったその日、私は一人管制室にいるゼノの元を訪れた。周りにも多くの人がいたが、私が声をかけるとゼノは一度こちらを見てから辺りに指示を出し、そしてどうしたんだいと私のもとに足を運んでくれる。すこし聞きたいことがあるんだけどと伝えれば場所を変えようと言ってくれて、ついでにコーヒーまでも用意してから使っていない個室へと案内してくれたのである。

 

「それで、何を聞きたいんだい?」

「えー、あーんー? その、なんていうか」

「うん?」

「アインシュタインの手紙? ての知ってる?」

 

 本当は知らない方が良さそうな気がするんだけど、あれだけよく考えて決めろと言われてしまったのだ。何も知らないで決めました!なんて言えない気もして。まぁ、知らなくても一緒に研究しようぜ!って言われたからするんだけども……。

 とりあえず、聞くだけは聞いておくかと思いゼノに知識を乞うたのである。

 

「もちろん知ってるよ。歴史的価値があるものはかなり高額で落札されもした品物だ。しかしまぁ、この時代には無くなってしまったものでもあるけどね」

「なるほど? んーと、その中で娘さんに書いたってやつ知ってる?」

「……知ってはいるが、あれは審議されていたものでもあったはず。それのことかい?」

「多分それ。んでね、そのエネルギーってなんなの?」

 

 訳あって知りたいのだけどと言いかけると、ゼノは少し考えた素振りをして私はと視線を移す。そしてニコリと笑った。

 

「愛だね」

「──あい?」

「そう、愛のエネルギーさ。『我々は愛のために生き、そして愛のために死す。愛は最も強力な力を持っている』。まぁ、簡単にいうとこんなところだろう」

「……あい?」

「私たちが種の存続を願うのなら、愛こそが唯一の答えなのだとその手紙には綴られていたそうだよ」

 

 あいとはなんぞ。いや、わかっているけれど、あいのエネルギーとは……? 

 ゼノの言葉の意味が飲み込めず、あいイコール愛だと理解した瞬間、千空が言っていたことが脳裏に走った。

 知りたいと思ってしまった。そばにいろ。研究対象。一生を棒に振る。

 いやまて、きっとそんな意味ではない。そうに違いないと頭を抱えてみれば、左手の指先に当たった冷たい感触。

 簪を贈る意味は『あなたを守ります』。だったっけ? 

 いやまさか、ただの偶然だ。意味などきっとない、だって──。

 

「それを言い出したのは千空だろう?」

「っぅえ? なん、で?」

「訓練の合間にソレを作っているのは見ていたからね。わざわざチェルシーにまでガーネットを依頼していたよ」

 

 意外と彼はロマンチストらしいと頬を緩め、ゼノはトントンと後頭部を指さし全てお見通しだと更に笑って見せた。

 

「それで茉莉、君はどう返事をするんだい?」

「え、と。その、そんな深い意味はないのでは? だってセンクウだし。うん、そう。センクウだもの、そんな意味で言ったんじゃないでしょ」

 

 そうに違いないと何度も頷いて、私はそれを否定する。

 恋愛脳なんて千空が持ち得ているわけがない。それにもしそうであったとしても、相手が私になるなんて絶対あってはならないことなのだ。だって私はいちゃいけない人間でしかない。そんな人を千空が選ぶわけがない。選ばれて良いわけがない。

 

「──頭でもうったのかな、センクウは。うん、きっとそう。センクウだもん。そうじゃなきゃ、こんなこと……」

「……君のいう千空は、一体誰のことを指しているのか聞いても?」

「はい?」

「君は、ちゃんと目の前にいる彼を見ているのかい? 僕にはとてもそうは見えないんだがね。茉莉、君は不本意に知ってしまった世界の『千空』に囚われ、君の幼馴染としての千空を見ていないんじゃないかな?」

 

『千空』に囚われるとは、一体どういう意味なのだろう。

 

「君は昔からずっと、断片的にだろうが先を見てきた。そうだろう? そしてそこには千空がいた。それ故彼に対しては絶大な信頼を置いている。しかしながらそれのせいで、目の前に存在している石神千空という人間が見えていない」

「──どう、いう?」

「君が望まぬ形で知ってしまった千空と、今までともに生きてきた千空は別物だとまずは考えよう。過ごしてきた時間や交わした言葉、目を見つめて手をとって歩んできた日々はかけがえの無いものだ。それを混同してはいけない。ちゃんと目の前にいる千空を、共に過ごしてきた彼を一人の人間として見なければ」

「……」

「さて、茉莉。君の知っている千空は、どんな人間だい?」

 

 千空がどんな人間かなんて、分かりきったことだ。科学への情熱を持ちながらも仲間を大事にする熱血男。友人を救うためならば死すら躊躇わない、そんな人物で。合理的と言っておきながらもロマンチストであり、人の心を掴むのが上手い、そんな人。

 そして……。

 

「センクウは、千空は。いつだって私に優しくて、そばにいてくれて。褒めてくれるし、怖いことからも守ってくれて。こんなへんちくりんな私でも必要としてくれた、大切な人」

 

 私を必要だと言ってくれた、私が必要だと言ってくれた大切な存在だ。繋いだ手は温かく、名前を呼ぶ声は低音だが優しさを孕んでいて。泣き出した時は背中に手を回し抱きしめてくれる。私が"知っていた千空"よりももっと、千空は人間らしくて愛おしい存在。

 だからこそ私は彼を、人として、一人の男性として好きになってしまったのだろう。

 

「──でも、わからないよ。千空の本心なんて」

 

 確かにその研究にも簪にも、千空は意味をもたせていたのかもしれない。けれども何一つ、言葉になんてされていないのだ。それが正しいのかは本人しか知らなくて、私が自惚れてそう解釈していいものなのだろうか?

 もしも千空が本当にそんなことを意図していなかったとすれば、私はとんだ勘違い女だ。きっと千空だって気持ち悪く思うに違いない。だからこそ理解するのが怖い、行動することが躊躇われる。こんなにナヨナヨとしてしまうなんて、恋愛脳は碌なことしでかさない。誰かを好きになるなんて前の人生でもあったはずなのに、今まさに抱いてしまっている思いが大きすぎで全然参考になんてなりやしない。それにキッパリと振られて諦めるなんて、そう簡単にもできないだろう。何せ千空はこの世界の中心にいると言っても過言ではなく、そばから離れたとしても聞こえてくる名前や存在のせいで早々に忘れさせてくれないだろうし。新しい恋を探したとて、未練たらたらになる未来しか見えていない。

 故に私は、それを言葉にしたくはなかった。

 

「どう答えればいいか、わからないよ」

 

 打開策はないかとゼノに縋るかのように見つめて見ても、ゼノはコーヒーを飲みながら微笑むだけで役に立たない。

 良い大人のくせに、私を助け船を出す気はないらしい。

 

「答えなんて分かりきったことだろう。素直に伝えれば良い」

「──そんな簡単な話じゃないんだけども」

「おぉ、それはそれは。だかね茉莉、きっと千空も生半可な気持ちで君に好きだと伝えたわけじゃないだろう?」

「……言われてない」

「ん?」

「言われてないよ、そんなこと」

「──言われていない? いやまさかそんな」

「言われてたら、ゼノに聞きに来ないでしょ。手紙の意味だなんて」

「…………おぉ、なんてことだ」

 

 じっとりと見やればゼノは頭を抱えてしまった。きっとゼノの中じゃ千空が私に告白したとでもなっていたのだろう。

 残念だな、そんなことは起こっていないんだよ。だから悩んでるんだよ。

 

「なる、ほど? それで。だが! いや、まて」

「混乱してるとこ悪いのだけど、私の方が悩みたいのだけど?」

 

 日本人、奥手すぎないか?とゼノは呟いていたが、奥手とかそんなんじゃない気もする。

 千空もまた私に気持ちなんて伝える気なんてないのだと、どう認識されても良いと思っているのではと考えてしまうほどに思考は乱れ始めています。

 だからふと思ったのだ。

 別に私もちゃんと答える必要はないのでは? 私だけがわかっていれば良いのではと。

 

「──ゼノ、とりあえずありがとう。どうにか、してみるよ」

 

 このどうにもできない思いを、気持ちを。ひっそりと伝えて千空に解釈を委ねればいい。

 素直に答えなんて出せないのだから千空に全部委ねてしまえと、私は己の想いと感情を放棄したのである。

 




パイセンが言わないなら茉莉ちゃんだって言わないもーん。そんなことで気持ちが伝わると思うなよ!
恋愛初心者ではないけど、相手が相手だから傷つくのが怖い茉莉さん。故に全てを千空に託しちゃうもんね!言わないもんね!
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