凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

146 / 151
146 凡人、怒りを。

 

 

 

 千空が宇宙に飛び出し、そして月に降り立ったその日。私は管制室で無線越しに聞こえてきた『そそコレ』に悶えていた。

 だって久しぶりにきたのだもの、胸がキュンとしないわけがない。この時ばかりは贈り物云々のことは脳の隅に追いやって、ことの成り行きを見守った。

 

『ずっと、ずっといたんだな俺らのすぐ側に──。テメーだったのか、ホワイマンは……‼︎』

 

 一体誰だ。近くにいたとはどういうことだと僅かに辺りはざわつき、千空達が放つであろう次の言葉を待つ。無論私もその群衆の一人で、僅かながらに胸を高鳴らせてことの成り行きを見守っていたのである。

 

「おぅ、なにがあった! 何がいたんだよ月に……!」

 

 みんなの気持ちを代弁するかのようにクロムは疑問をなげ、それから数秒間があいた。そして千空がホワイマンへと語りかける声が私たちの元へと届いた。

 

『俺の声マネで、偽の通信かましてきやがった犯人はテメーらっきゃいねぇんだ。喋れんだろ、電波で。英語だろうが日本語だろうが』

『──Yes』

 

 ザザッと雑音が入る通信から聞こえた声は、イヤリングで聞いていた時と同じように千空の声を真似ている。声真似と言えばゲンだろうが、彼はここにいる故にホワイマンではない。ではずっと側にいた人物とは誰なのだろうかと辺りを見渡して、そして私は首を傾げた。

 何せ私もホワイマンが誰なのかしらない。そしてこの場にいない人物かと思考するも、そんなことがあり得てしまうのかと納得なんてできやしない。今の今までにみんなと一緒に頑張ってきたというのに、その中に裏切り者と呼べる人間がいるとは思いたくなかったのである。

 そして何より過去のホワイマンについての考察を思い出したところでそれはあくまでも誰かの考察で真実ではなく、今の私がそれを思い出したとしても役には立たないだろう。

 誰だか答えが知りたいといつもより早く脈打つ心臓と、無意識にぬいを握りしめた左手。全てを知ることが怖いわけではなかったが、真実をようやくしれることに対して興味を持っている私もいた。

 

『ずっといたんだな、俺らのすぐ側に。メデューサ、テメーが、テメーそのものが機械生物ホワイマンだ……‼︎』

 

「ふぁっ⁉︎」

 

 思わず声を上げてしまったのはもちろん私である。なんてったってメデューサがホワイマンだとか誰が想像してようか。いやまて、そう言えば千空もかつて宇宙人的なものが人類を石化させたと考えていなかった? 

 もしそうだとすればその時の千空の考えは当たっていて、ホワイマンからすれば石化は人類を攻撃したようなものなのではと気づきさっと血の気が引いていくのがわかった。今その場にいない私たちには千空たちを見守ることしかできない。この先何が起ころうと、戦力にはなり得ないという事実。

 ギュッとさらにぬいを握りしめる手に、力がさらに入っていく。

 

 私の感情とは裏腹に死にたいのかと千空の声でホワイマンは問いかけてくるし、本当に気が気ではない。けれどもクロムは冷や汗をかきながらももしかしたらと違う可能性を指摘したのだ。

 

「……おう、これよ。もしかしてメデューサ、じゃねぇホワイマン。こいつら俺らを滅ぼそうとしてんじゃなくて石化で"死なねぇ"ようにしようとしてんじゃねぇのか……?」

 

 石化して意識をなくして精神的な死を迎えることが可能な石化光線。それを先ほどかわしたというのに、すぐにそう問いかけた事に違和感を抱いたのはクロムだけではなくゲンもまた同じであったらしい。ゲンは一度考えるそぶりをした後に、交渉する時には贈り物が必須だと千空へと伝えた。

 うっかり贈り物の単語で簪の存在が脳裏にちらついてしまったが、首を振って忘れることにした。今はまだその時じゃない。むしろそんなこと言ってられないのだから出てくるなと、私は必死で忘れることに努めたのである。

 

 そんなことをしていれば千空はここから遠く離れたその場所で、ちゃんとするべきことをこなしているではないか。まぁそれが、私たちの知る石神千空という男といったところだろう。

 

『──俺らの今の科学じゃ残念ながらテメーらの複製はできねぇ。だがな、テメーらの命のエネルギー、ダイヤ電池は補充してやれる。一歩一歩だ、人類の科学。たどり着いたぜそこまでは。──それが贈り物、逆にこっちの要求は……』

「丁寧にね千空ちゃん。話し合いはジーマーで丁寧にね……」

『勝手にぶっ放すんじゃねぇよ石化光線!』

「ドイヒー! ど直球‼︎」

 

 そのやりとりを見て、私の頬は僅かに緩んだ。

 だってあの千空が丁寧に話し合いなんてするわけないだろう? 綺麗な千空と言われた時でさえ、見た目がキラキラしていただけでストレートにルーナへゼノのことを聞いていたはずだ。故に千空にそんな考慮などはない。

 それでもってそんなことを理解していないのがホワイマンなのだ。

 その名の通りWHY?と問いかけるホワイマンと、もう一人?のホワイマンが衝突し、千空達の一旦石化は逃れた。つまりはホワイマン達にも意見の食い違いがあるらしい。

 どうやら私たちが知らなかっただけで月には大量のホワイマンさんがいるらしく、持ち得た武器ではきっと、全てを拘束するなんて無理だろう。

 ならばどうするか。

 それを考えるのもまた、我らがリーダーである千空なのだ。

 

『こっちは情報がねぇんだ。完全にカンだがな、要は俺らがテメーらのメンテすりゃ本望なんだろ。石化光線はそのためだ』

「──そうか、メデューサイコールホワイマン。その正体は石化による永遠の命をエサに、知的生命体に自らを育てさせる機械の寄生生物だ!」

 

 なんというエレガントな生き物だろう! 

 そう歓喜したのはゼノである。

 メデューサ改めてホワイマンは、人類を石化した数千年前から。否、それよりずっと昔からそうやって成長を遂げてきたのだという。

 石化させるということは肉体的死を迎えることがない、幸せな状態。それがホワイマン達の言い分であったが、そんなこと私たち人類からしてみればいい迷惑である。いくら肉体が死なないからといっても意識がなければ生きているとは言えない。そして何より石化中に砕け散った人達を、もう二度と日の目の当たることのないであろう彼らが生きていると果たして言えるのだろうか。

 ギュッとぬいを握りしめる手にさらに力が入り、脳裏には母の石像を思い出された。

 あんな状態のお母さんを生きていると言えるものか。言ってやるものか。

 

 何が永遠の命だ。そんなものまやかしでしかない、対話もできないくせに一方的な善意の押し付けなど迷惑甚だしい。

 命はいつか死を迎えるからこそ美しい。なんてことを私は言いたいわけでない。いう気もないが、だからと言って永遠の命が素晴らしいとは考えたことはない。全くもって唆られない。

 

「──クソ喰らえ」

 

 私がボソリと呟いた言葉を拾ったのは千空でもなければゼノでもホワイマンでもなく、側に寄り添ってくれていた杠と大樹だった。

 二人は私があまりにも苦虫を噛み潰したような表情をしていたからか、そっと背中に手を添えて余計なことは聞かずにいてくれた。それに感謝すると共に、ホワイマンの自己中心的な考えで、どれだけの人命が奪われたことかと沸々と湧き出る怒りを感じてしまったのは確かなことである。

 

『あ"ー、一つだけわからねぇな。テメーらは俺らの科学で電池変えたり複製したりして欲しいんだろうが、人類が何千年も石化しっぱじゃ肝心の科学文明が滅びる! なんでんなマイナスムーブかます?』

 

 本当に千空の言う通りだ。

 文明が滅びてしまえば電池の入れ変えなんてことだってできやしない。千空とゼノがいたからここまで技術は進んだが、きっと私が前にいた世界だったら詰んでいたに違いないのだから。

 

『──この衛星にたどり着いた時、放置された星間飛行の道具を見つけそれだけ知力の高い生命体だと考えたです』

 

 ホワイマン曰く、脳をフル回転させれば石化は解ける。故にこんなに長い間石化してるなんて思わなかった人類を買い被っていたとのこと。

 

「クソほど殴りたい」

 

 再度ぼやいた言葉を拾ったのも杠と大樹だったが、私の無の表情とその言葉に少し驚いていたようである。

 いやだってね、私、ここまでお口が悪かったことないもの。でもうっかり本音が出てしまったのだから、もう止まらない。

 

「くたばりあそばせ」

「茉莉ちゃん、落ち着いて」

「酸素まみれにしてくれる」

「落ち着くんだ茉莉!」

「これだからお機械様は」

 

 ものすごく珍しく、心底腹が立った。

 対話も何もせず勝手に石化させておいて、文明滅ぼしておいて。人類がおばかだったと言い出したホワイマンさんはどれほど優秀なんでしょうね、と。

 あぁもう、私らしくない。

 

 確かに彼らが更なる発展を求める以上、誰かしらの手を借りなければならないことはまぁ理解できる。がそれを一方的にしておいて放置するとか全くもって意味がわからない。てか石化したならそれを解除する方法も生み出してから行動して欲しいものだ。

 

「タチの悪いシンギュラリティーしやがって」

「たちの、悪い?」

「しんぎゅらりてぃ?」

「……簡単に言えばドラえもんが成長した結果、のび太くん? あー、人間以上の知性をもっちゃうってこと。んで、ドラえもんならいい意味で人と共存できるけど、ホワイマンさんは自分が正しいと思ってるから上から目線で話しやがってクソやろう。ってかんじ」

「なるほど! 思っていた以上に茉莉ちゃんが怒ってるのがわかったよ!」

「茉莉は意外と口が悪いんだな!」

 

 多分、そんな感じ。なんかのアニメでAIの暴走云々がそんな感じだったはず。そして口が悪いのは元からです。申し訳ない。いつもはいい子ちゃんしてるんです。

 

 そんなことを三人で話していると、どうやら千空達の交渉は最終段階へ進んでしまったようだ。

 サシで交渉しようと持ちかけた千空に対しホワイマン達は己の身体を使い千空を取り囲み、こちら側との通信を遮断。あとのことは全て千空頼みになってしまったのだ。

 中でどんな交渉がされているか、そんなことは誰にもわからない。ただ最悪のパターンにならないことを祈るしかない。

 コツコツと時計の秒針は進み、その場で待機しているもの達も緊張したままで全てが終わるその時を待つ。

 

『──お前がたでは知力が足りず、私たちを複製できない』

 

 ザッザッと雑音が入ったのちに聞こえてきたのは、ホワイマンの声だった。

 交渉が失敗してしまったのかとキツく奥歯を噛み締めたが、どうやらそれも違うらしい。コハクとスタンリーは交渉のテーブルにホワイマンを座らせるために、何らかの行動をしたのがわかった。

 それ故に私たちはまだ、三人を信じて見守ることしかできなかったのだ。

 

 それから千空が何を話したのか私たちは知ることができなかったが、ただ一つわかったことはある。

 

『お前がたの要求には乗らない。お前がたを放棄し、皆他の星に行くます。より知的な生命体を探しに。──ただ、私一人だけならば、連れていけです』

 

 幾千ものホワイマン達は地球を、人類を切り捨てることにしたようであるが、一体のホワイマンはこちら側につくとのこと。

 千空が話したとされる『とてつもない科学クラフト』に全てをかけるらしい。

 

「と言うことはつまり──」

「石化光線はもう二度と、地球には降り注がないってことだな!」

 

 ホワイマンと戦って勝つ、それが最優先事項だったのだから、きっとこれが花丸百億点の解答に違いない。手に入ったのは未来科学のホワイマンただ一つ。そしてこれから先の人類の平穏。

 喜ばしいと言えばそうなのだが、私の中では何かが気に食わない。

 みんながワッと湧き喜んでるさなか、私ただ一人その思いを胸に抱く。

 

 私はみんなのように綺麗な人間ではない。ホワイマン達がいなくなって良かったと思えるほど、純粋に今を喜べない。これが本来の正しい道筋だったとしても、本当にこれが人類全てを救うと決めていた千空たちの"終わり"なのだろうか? 

 

「……茉莉ちゃん? どうしたの?」

「んー、なんでもないよ。ちょっと、思うところがあっただけで……。あ、杠ちゃん、このあと予定あるかな? 相談したいことがあって──」

「ワォ、相談! なんでもして!」

 

 とりあえず今はそんな考えおいておけと、私は思考を切り替える。そして帰ってくる千空に伝えるべきものの準備へ取り掛かったのだ。

 




茉莉ちゃんは身内を失っているし、ホワイマンに怒ってはいます。そんでもって素直によかったね!とも言えない。
もっと深掘りすれば石化しない世界ならばこんな思いしなかったのにと思ってもいたりいなかったり。つまりは前回のタイトルに一番同調している。

もう少しで本編終わりなのですが、多分月曜まで更新で書けないので更新しないと思われます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。