凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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147 凡人、深い意味しかない。

 

 

 オタクと言うものはまぁ無駄に雑学を取り入れている人間でもある。好きなことに一直線と言えば良いが、興味のないものに対してはとことんない。そんな生き物でもあるわけで。

 私の過去も言わばそんな人間だったわけでもあった。

 

「──あのね、杠ちゃん。あったらでいいのだけれども、黒と紅色のリボンか長細い布っぽいのっもらうことは可能かな?」

「リボンだね! もちろんあるよ! ──何か作るの? 手伝おうか?」

「んー、なんというか。こればかりは自分で作らないといけないと言うか? 無理そうだったらお願いするかも……」

「なるほど! じゃあ、何かあったら私を頼ってね!」

「うん、そうする」

 

 ホワイマンとのいざこざが終わり、後は千空達の帰りを待つ。そうなったからにはしなきゃいかないことが私にはあった。言わずもがな、送られた簪と研究のお誘いの返答である。わざわざ分かり難く伝えられたのだから私もそうしてやろうと、前世の知識も総動員して考えた結果がこのクラフトでもあった。まぁ、現代文明があったらこんなことしなくて良かったのだろうけれど、多分今からじゃあどうにもならない。故にリボンを用いてクラフトするしかないのだ。片腕しかない故に作るのは大変だろうが、四日もあればなんとかなるだろう。うんきっとそう。

 

 周りのみんなは千空達の帰還準備で忙しく動き回っていたが、私はゼノに許可をもらい本土へ帰ると細々と作業を開始する。用意するのはリボンと接着剤、あと長い棒。

 リボンを切ってもほつれされたくない為、ヒートカッターなんかあるかと開発チームに聞いたところあったことにはまぁ驚いた。何かしらのクラフトに使ったんだろうなと思いつつ、私はそれをお借りしてセコセコとものづくりを開始したのである。

 けれどもまぁ上手くいかない。慣れるまで結構な量を使ってしまって資材を無駄にしたことに、罪悪感を感じてしまうし自己嫌悪にも陥った。

 

「んー、でも、人を頼るには……」

 

 出来ないからと言って杠等に頼ってしまえば、何故それを作るかを話さなければならないだろう。それだけは非常に避けたい。ニッキーあたりならソレがなにを意味するかを知ってそうで怖いから、余計に人を頼りたくなかったのもある。

 リボンを無駄にしてしまったことは後々謝ろうと決意して、失敗を重ねながら私は八センチにリボンを切りわけていく。それを十四枚一つとして、黒リボンを四十二枚。紅色リボンも同じ数だけ用意して、切ったリボンの両端を接着剤で三角に折って止めていく。この作業だけで一日を費やしてしまった。

 翌る日はそのリボンの端をさらに折って接着剤で止めていくのだが、失敗するたびにリボンを切って数の調整を。おもり置きながら作業するせいか、他の人がやるよりもずっと時間がかかっているだろうと嫌にもなってきたが、ここでやめるわけにはいかないと気張った。

 端を折り終えたものを今度は十四枚全てを一直線になる様に接着剤で止めていき、あとはクルクルと形を整えながら棒に巻き付ければそれなりに薔薇っぽい造花の完成である。そしてそれを黒と紅色で計六本作れば完成! 

 かと思いきやそのままでは渡せないためラッピングを、と考えて結局杠のところへと顔を出すこととなったのだ。

 

「──杠ちゃん、あのね」

「どうしたの? 何か力になれる?」

「んと、こう、花束を作るのに良さげな、ラッピングできそうな布地ってあるかな? ラッピングペーパーなんてものはなさそうで……」

「うーん、それなら──」

 

 一瞬悩んだものの、杠はさっと移動して一反の生地を持ってきてくれた。それは宝島で使用されていた、キリサメが使っている様な透け感がある薄手の生地。

 

「ちなみになんだけど、お花の色ってどんな色?」

「えと、黒と紅色」

「じゃあ染めたやつ持ってくるね!」

 

 にっこりと笑った杠は手に持っていたものではなく、いちいち黒染めしてある生地を用意してくれて私へと持たせてくれた。リボンと合わせてお値段は如何程かと問えば首を横に振られてしまうし、全くもって気が良さすぎる。

 

「お金なんていらないよ! 何より私は茉莉ちゃんが頼ってくれたのが嬉しいんだもん」

「そう、言われましても……」

「じゃあ、プレゼント渡した結果! それを教えて!」

「え、うん?」

 

 花束と言ってしまったせいかほのかになにに使うかバレてるっぽいが、それ以上を追求されない故に安堵の息を吐く。全くもっていい女の子です、杠ちゃんだいしゅき。

 杠から貰い受けた布を持ち家へ帰ると、先ほど作った薔薇を一纏めにして、上手い具合にラッピング。まぁそれもそれで相応時間がかかってしまいましたが、まぁ、私なりに頑張ったのでは? 

 不格好だが、一応ソレなりの格好にはなっただろう。あとはこれをどう千空に渡すかだ。

 既に出来上がるまで三日は使ってしまったし、状況はわからないが早ければ明日にでも千空達は地球へと帰ってくる。忙しなく働いている皆んなの仕事ぶりから察するに、帰ってきて早々身体を彼らの地球に馴染ませる時間を取らずに帰還パーティーアンド表彰式を行う予定なのはなんとなくだが聞き及んではいた。その時に渡すのもなんか違う気もするしと、外を練り歩きながら思考を巡らす。

 どうする、いつにする。ひっそりと千空の家かラボに置いておくのも手かと思っていれば、ドンっと軽い衝撃で私はバランスを崩しかけた。

 

「っと、大丈夫かい? 茉莉、すまなかった」

「──あ、司くん。ちょうどいいところに」

 

 私が前方不注意で立ち止まっていた司に突っ込んで行ったらしい。未来とともに謝ってくる司に、私が突っ込んで行ったのだから申し訳なかったと頭を下げ、そして彼からソレを渡してもらおうとさらに頭を下げてお願いをすることにしたのである。

 

「もし可能だったらでいいのだけど、センクウに渡して欲しいものがあって……。頼んでもいいかなぁ?」

「──自分で渡さなくていいのかい?」

「なんというか、私が渡した方がいいのは分かってるけど、ソレはソレでちょっと腹立つというか……」

「茉莉ちゃんが千空さんに腹立つん⁉︎なにされたんっ⁉︎」

「あー、私が勝手にそう思ってるだけだから、センクウにはそんな意図はなかったと思うよ?」

 

 私が勝手に分かりにくいと思ってるだけど、本当に意味がなかったのかもしれない。だからこそ、深い意味をもたせなくなかったのだけど、よくよく考えてみれば、これはこれで非常にプレゼントとして重いのでは? 

 私の勘違い、というか。千空が本当にそんなつもりがなかったとしたら、私に対してドン引きするに決まってる。意味を知ってしまったら、ウゲェ、面倒。ってなるかもしれない。

 そう考え始めると、さっと血の差が引きやっぱりやめようかなとか思う私もいるわけで──。

 

「んー、やっぱり、なんでもない、よ。うん、ごめん。忘れて忘れて」

 

 時間はないが、違うものを用意しようと踵を返そうとした。

 

「まって、茉莉ちゃん!」

 

 けれど、そうさせてくれなかったのが未来だったのだ。

 

「私と兄さんに任せて、茉莉ちゃん! ね、いいやろ兄さん! 私、茉莉ちゃんのお手伝いしたい!」

「もちろん構わないよ。茉莉、俺でも役に立てるかな?」

「え、えと」

「ウチらに任せて!」

 

 押しが強ぃ。

 作り直そうと一瞬考えたものの、未来の押しの強さに負けた私はそのまま二人にアパートに寄ってもらいソレを託すしかなかった。司は花束だね、としか言わなかったが未来はウキウキと嬉しそうに笑って素敵だと褒めてくれて嬉しくはなる。

 

「なにか、これと一緒に伝えることはあるかい?」

「んー、特には。おかえりーとだけ言っておいてくれればいいよ」

「……それだけでいいん?」

「それだけで、いいんよ」

 

 本来であれば、言葉にするつもりなんてなかったのだから。

 あとは任せたと二人と握手を交わし、私はその背中が小さくなっていくのを見送った。

 そして一息ついたのちに、森の方へと足を向けたのである。

 司達がいつあれを千空に渡すのかはわからない。もしかしたら表彰式後かもしれない。そうだとしても、なんとなく顔を合わせずらい。

 式に顔を出さないつもりはないが、多分人混みに紛れて遠巻きで見ていたい気もするし、結局のところ私の心はいまだに不安しかないのだ。

 これが正しかったのが、間違いだったのか。その全ては千空が決めること。

 

「……別に、このままでもいいんだよな」

 

 好きとか一緒にいたいだとか、正しくその想いが伝わらなくとも側にはいれるのだから。

 

「きょひ、されなければ、それでいい」

 

 恋愛脳はバグだ。

 そう言ったのは他でもない千空で。故に期待してはいけない。これはただのバグなのだ。だからそう思ってないと、心が荒む。

 フラフラと足を向けた先は、いつぞやのツリーハウス。私はそこへ隠れるように逃げ込んで、ゆっくりと目を閉じた。

 単純作業とはいえ、上手くいかずに夜更かしをしてしまった。前までは普通だったその行為もまた、今の私にとっては無茶なことだったらしい。

 ゆっくりと落ちていく瞼に逆らおうとはせずに、私は意識を夢の彼方へと飛ばしたのだった。

 

 




 
どう考えても深い意味しかない花束の完成である。
とはパイセンの受け取り方次第だけど、パイセンは文系でもないしそれを気にして生きてないからなぁ。
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