正直言って千空と茉莉がくっついて完結!と思って書いてた輩なので、今回の話からは自分の中ではほぼ外伝扱いです。そしてここからかなりパイセンが茉莉に向ける感情には恋愛脳が絡みます。たぶん後一話で原作26巻の内容が終わりますので、物語の結末としての完結を求める方はそこまでで良いかも。恋愛絡んでも平気な方はその後も更新される27巻の内容までお付き合いくださいませ。
ペシン。
乾いた音の発生源は他でもない私である。
「わ、わぁ! あばばばば」
処理できない物事が立て続気に起こったせいで、私は目の前にいた千空に平手打ちをくらわせてしまった。そしてそのまま千空は白目を剥いて倒れ込んでしまうし、これはもう土下座で詫びても許されないかもしれない。
「あわわわわわ」
もはや言葉なども出てこないほどに動揺している。本気でどうしたらいいのかわからないのだ。
嬉しがったらいいのか、そんなのは違うと叫んだほうがいいのか。むしろ今すぐここからの逃げ出したほうがいいのかと悩むも、どの道腰が抜けて動けやしなかった。
うっかり千空が私の口にぱくついたせいで、見事に私の腰は人として起動するはずの機能を停止してしまっている。
千空の過剰供給ダメ絶対。死人が出るぞ、主に私がな。
「あばばばば」
ずりずりと床を這いずって顔だけを外に出し、一旦深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして大声で叫んだ。
「た、たっけてー!」
きっと誰かが聞きつけてくれるに違いない。私だけならばともかく、倒れてしまった千空をそのままにはしておけない。誰か助っ人を呼ばなくては。
何度か誰かと叫んでいればこちらに向かって走ってくる足音が聞こえ、姿を現したのは我らがソナーマン羽京、と陽。公務員コンビならば千空を抱えて帰ってもらうこともできるだろうと左手を振って呼び寄せれば、どうしたのと焦りを含んだ声がかけられたのである。
「あばば、せ、千空がたおれちゃって」
「え、どこにいるの?」
「な、なかに!」
あわあわと挙動不審になっている私を起こした羽京と、千空を確認しにいく陽。そして陽は白目を剥いて倒れた千空を見下ろすと吹き出して笑い、これをつけたのは私かと問いかけてくる。これとはいったいなんのことだと首を傾げた私だったが、陽に背負われた千空の右頬にはくっきりとした紅葉跡があるではないか。
「あ、あばばばば、お巡りさん犯人はワタシデス!」
「茉莉は一旦落ち着こうか? うん、そうしようね?」
いまだにパニック状態な私の背中をさする羽京と千空を背負いゲラゲラと笑う陽であったが、私が心なしか落ち着いてくると表情を真逆なものへと変えた。その真剣な眼差しにこれから尋問されのだと怯えていれば、羽京は千空に何をされたのだとおかしな事を聞いてくるのだ。
「……? 千空は、何もしてないよ?」
「でも茉莉は助けてっていったよね? それとそんな事は考えたくはないのだけれども、千空に平手打ちをしたってことは何かされたから、じゃないのかな?」
「まー、千空も男だしなぁ」
「え、違うが?」
ブンブンと首を振り、その考えを完全に否定する。そして平手打ちをしてしまったのはちょっとした齟齬があったのと私がパニックに陥ってしまったためで、助けてと叫んだとのは腰が抜けで動けなくなってしまったからだと弁明した。
「別に私一人だったらここに寝てればよかったんだけど、宇宙帰りの千空をこのままにしとくのは忍びなく……」
「じゃあ、本当になにもなかったんだな?」
「ないよ! ぜん、ぜ────あばばば」
「──何かあったね、これは……」
何もなかった、そう言おうとしたのに脳内で再生されてしまう先ほどまでのやり取り。それと同時にまだ唇には生々しい感触がのこっているせいで、再び混乱状態に陥ったのは他でもない私なのである。申し訳ない。
大丈夫問題ない。そうカタコトで繰り返したところで二人が見逃してくれわけもなく、私は羽京に背負われてラボへと強制送還されてしまったのである。チクセウ。
羽京に背負われている最中も私の脳は過剰なまでに働いた。あれはなんだったのか、夢が現実か。千空の本心があれだと思っていいのかと、私も望んでいいのかとぐるぐると思考は廻る。ただ一つわかっているのは、理解できている事は。千空は私に幸せにしてくれと言ったのだ。ならば生半可な気持ちでいるわけにはいかないだろう。
でも、それでも。
「じゅんじょうはいずこへ?」
「え、じゅんじょう? えっと──?」
「こちらのはなしです。ごめんなさい」
純情科学少年、もとい青年が唇アタックしてくるとは思わないじゃない。過剰なファンサはおやめください。死ぬぞ、私が。
「はっ! もしやこれは夢では?」
「──茉莉、大丈夫? 頭打った?」
「確かになんか違くね? なんかこう、馬鹿っぽい」
「過剰摂取で、あたまがまわっていなく……」
「え、ちょっと⁉︎何を過剰摂取したの⁉︎場合によっては吐き出して!」
「葉っぱとかじゃねェよな⁉︎」
「あまりにも物騒」
公務員組に過剰摂取という単語は危険だったようだ。次から気をつけよう。
そう思いつつ体に悪いものは食べていないと、葉っぱなるものでもないと首を振った。まぁ確かにケシがそこら辺に生えているのだ、作ろうと思えばヤバいお薬も作れちゃうのかもしれない。
私の答えに納得せずジトメで見てくる陽の視線をかわしつつ、羽京に真剣そのものも声音で名前を呼ばれてしまえば黙っているわけにもいかない。それ故に何を摂取したかを吐き出したのである。
「し」
「し?」
「し、幸せの過剰摂取?」
「──はぁ?」
意味がわからない。そんな顔をした陽に対し、私は過剰な幸せは毒なのだと説いた。
「幸せすぎて吐きそう。だから適度の不幸がいい……」
「茉莉、お前ってやつは……⁉︎幸せの何が悪いんだよ! てかお前は幸せになろうとしろよ!」
チラリと右腕をみて陽はそういうし、羽京は乾いた笑い声を上げてそれを否定する。
「僕はみんなが幸せだと嬉しいし、その中にはもちろん君もいる。だからそんな事言わないでほしのだけど」
「でも、何事も適量ってのがあるしこれ以上の摂取はちょっと……。あとから地獄らない?」
「地獄りません」
「本当に?」
「本当に」
「あ、もしかして千空ともそんな話したのかよ……。そりゃあんまりだろ茉莉。千空、めっちゃお前のこと心配してんぞ?」
「それは、まぁ、うん」
理解してますけども。てかその千空からの供給率がおかしいんですけども。
「んー……、供給過多……」
てか、これからどんな顔で千空と会えば良いの? むしろ今の状況ってなに?
すきですわたしも。とはなったけど付き合う云々は言ってないし、つまり現状維持でも良いのでは?
と考えているうちにラボにつき、そのまま医務室のベッドへとおろされてしまったのである。カーテンを挟んだ向こう側に千空も寝せられていて、羽京と陽は何かあったら叫ぶんだよと笑いながら去っていった。まったく、公務員コンビには頭が上がらない。
薄暗い室内で私は今日の出来事を何度も思い出し、その度に丸まっては潰れた蛙のような声を出す。思い出せば思い出すほど、これが現実なのかと逃げ出したくて仕方がなくなったのだ。
正直に言えば嬉しくないわけがない。けれども心がそれに追いつかない。ずっと昔から、それこそ物心ついた頃から私は千空を一番に考えていた厄介な人間でしかないのだ。そこに推し要素が加わり、恋愛にまで思いを変化させてしまってはどう考えてもヤバい奴にしかならないのは決まっているだろう。
誰がなんと言おうと、顔を合わせられる自信がない。前のように取り繕った顔ができるほど、私は立派な精神を持ちえていないのである。
ゴソゴソとベッドの上で死にかけの魚のようにのた悶えていれば、隣のベッドから物音が聞こえた気がした。ぴたりと動きを止めて様子を伺っていれば、わずかだが布の擦れる音がする。こりゃヤバいとぐっと目を瞑りながら細心の注意を払って寝たふりをすること数十秒、思っていた通りにカーテンを開けられてしまったのだ。
「──平手打ちはねぇだろ」
すいませんと心の中で謝っておく。
私は今寝てるので話せませんよと黙っていれば眉間の皺を伸ばされて、狸寝入りなのはわかってんぞと告げられてしまうし散々だ。
「んな分かりやすい寝たふり、バレねぇと思ってんなら能天気すぎんだろ」
「……すまんて」
ため息をついてベッドの縁に腰掛けた千空へ一度謝り、布団を深々とかぶって顔を隠す。が速攻で剥ぎ取られた。
「──なんで、逃げんだよ」
「ニゲテナイヨ」
「引っ叩いたし、隠れたじゃねぇか」
「ソレハ、ソノ」
もごもごと口を動かし、ちらっと千空を見れば不機嫌そうな顔をしていてなんだか苦しくなってくる。でもこのままでは良くないよなと決心し、私はこのどうしようもない心情を語ったのだ。
「──需要供給が、あってないからでして……」
「あ"?」
「ミ゜‼︎ チカイ! 死ンジャウ!」
「んなことで死ぬか! てかどっから出てんだよその声は‼︎」
「ヒッ! ──ぎゃ!」
「おまっ」
ベッドに飛び乗る勢いで近づく千空から逃れようと後ろに下がれば、そのまま床へと転落し頭を打ってしまうし。それを見ていた千空は呆れた顔で笑い出すし散々である。なんでこうなったの、誰か教えて。
「ったく、頭見せてみろ。タンコブできてんじゃねぇか?」
「ング、モーヤダ」
ぶつけた場所を確かめるように撫でる千空に対して恥ずかしさと、そんな対応をしてくれた嬉しさと。どうしようもない照れくささが合わさって体が熱を帯びていく。
きっと耳まで赤くなっていたのだろう、それに気づいた千空が喉を鳴らして笑った。それのせいで更に顔に血が昇っていく感じ取ってしまった。
「茉莉テメェ、思ってた以上に俺のこと好きだろ?」
「今更では?」
こちとら物心ついたころから好きなんだよこんにゃろう。色々あって好きの種類は移り変わってきたけど、嫌いな時期なんてなかったが?
文句あるのかと睨んでみたものの、私を見る千空の瞳のお優しいこと。
ヴ、顔がいい。すき。
もうこんなこと冗談でも口出せないと唇を噛み締めてしまえば、それすらも千空は親指で優しく撫でてくる。ここまでされてしまえば本気で殺しに来てるのではと疑うしかない。
過剰な行動はおやめください、死にます。
「茉莉」
「ぅぐ、なに」
「引っ越すぞ?」
「え、え? なんで?」
ニヤリと笑ってそう言い出した千空に、思わず聞き返えしてしまった。最近アパートに入ったばかりで、ようやく集団生活にも慣れてきたのに何故と首を傾げてみれば、もう必要ねぇだろうと千空は自身あり気に言い切ったのである。
「もともと他人に恋人って疑われんのが嫌だったつー話なんだろ。ならもう関係ねぇだろ帰ってこい」
「──え"、むり」
「あ"?」
「だ、だって! それって千空と住むってことじゃん!」
死んじゃう!
そう叫べば今更じゃねえかと小突かれてしまった。
「最近まで一緒に住んでた上に、ひとのベッド占領してたやつが死ぬわけねぇだろバカ。それに正真正銘の恋人同士なんだ、周りに遠慮はいらねぇ」
「ぅ、そうだけどそうじゃないんだよ」
幼馴染として一緒に住むとの、コイビトとして一緒に住むのは心構えが違う。なにより周りの目も違う。
「それとゼノとブロディには報告な」
「なんで!?」
「ゼノに言っときゃ勝手に広がる。ブロディは単純にうっせぇかんな」
「え、えぇ?」
「なんでアイツに娘みたいに思われてんだよテメェは」
「──あ、いっぱいお世話になったから? 第二のぱぱ?」
「そんなら挨拶でもしとくか」
「なんでぇ!?」
全くもって意味がわからない。何がどうなって千空はそう考えてしまったのか、誰か私に教えてれ。
ぐぬぐぬと唸っていれば千空はまた愉快そうに喉を震わせて、私はそれをみてしまった故についつい頬が緩んでしまうのだ。だってあまりにも幸せそうに笑うから。
「せ、千空は──」
「なんだ?」
「あの、その……」
嫌ではないのだろうか。いくらコイビトだとしても、生活の全てを共にするのはきっとストレスがかかるに違いない。私はなんだってできる万能人間でなければ、その逆で今や誰かの手を借りなきゃならないことが多々ある。一緒に住むということは、たくさん迷惑をかけるという事。それを誰より知っているのは千空だというのに、わざわざそれを買って出るとは。不思議でしかない。
そう疑問を投げてみると千空は目を細めて、そして優しい声音で答えをくれたのである。
「テメェの世話なんてな、俺がやりたくてすんだよ。むしろ誰かにされてっと腹立つ」
「なんで?」
「お前が俺のモンだからに決まってんだろ」
「ヴ」
「なんつー声出してんだよ本当に」
「スイマセン」
もう何もいうまい、聞くまい。これ以上何かあれば精神的に死んでしまいます、おやめください。
クククと笑う千空を眺めて、ふと向けられた想いの深さを実感する。千空が私に言っていたのと同じで、思っていた以上に好かれているらしい。なんでどうしてと正直疑問に思うことはありすぎるが、今更嫌いになって。無心になってなんて口が裂けても言いたくもない。
だって私は千空が好きなのだから。それこそどうしようもないくらいに。
「──千空」
「あ?」
名前を呼べば振り返ってくれて、あたたから右手が頬を撫でる。ただそれだけで幸せを感じてしまうのだ、手放せるはずがない。
「えと、不束者ですが、末長くよろしくお願いします?」
三つ指ついてお辞儀をしてみたものの、千空からの返答はない。どうしたのかと顔を上げて確認してみれば少し耳を赤らめた千空がそこにいた。
「えー……」
どこに、赤らめる要素があったの? 切実に知りたいのですが。なんで聞けるわけもなく。
「千空ー?」
「あ"ー、なんだ。こっちこそ色々と至らなねぇ人間だが末長く、それこそ墓穴までよろしく頼むわ」
「──うん。ンミ゜!」
今回は近づいてきた顔を引っ叩くことなく避けた。が、捕まった。
おやめください、死んでしまいます。
限界オタクはすぐ死にます。
おやめください。
補足。
茉莉ちゃんはストレスの元が減ってきたので、徐々に本来の性格に戻り多々あります。つまりは千空限界オタです。if読んでる方はわかると思いますが、そんな感じです。
ナヨナヨ茉莉ちゃんが好きだった方はごめんなさい。こっからは限界オタの茉莉ちゃんがいっぱい出ます。ご注意ください。