凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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16 凡人、引かれる。

 

 

 

 

 

 

 ここまででいいよというゲンから靴を受け取り、木の影から見送った。

 記憶ノートを確認するとゲンとはわりとすぐ合流するようなので、物語の改竄がなければ司を本格的に裏切って科学王国の一員になるのだろう。

 

 戻る前に一応現状を確認しておこうと目を凝らすも、結局司以外の誰かに見つかるのが怖くてよく観察はできなかった。しかしながらぱっと見肉体的に立派な人間が復活しているように思われる。

 優しい世界を作るなんて某お兄様みたいな事を言っておきながら、このままでは結局武力で統べる、不公平政治が出来上がるだけだとは思わないのだろうか。

 武力を持つ人間は人より勝りいつかはきっと亀裂を生むというのに、夢みがちな少年の心しか持ち得ていないのだろう。まぁそこが可愛いところなんだが、それは客観的に見た時の話で実際に身近に起こるとそうは言ってられない。

 

 特に目ぼしいものは見つけられず、誰にもバレないようにそっと後退りし走り出す。

 なるべくここから離れた方がいいと理解していたし、早く戻って推しのお手伝いをしようなんても考えてもいた。全く現金なやつだと呆れられそうだが、私という人間が損得や合理的に動けない人間の代表的な例なのだと感じる。

 それもまた生物としての醍醐味とだと、脳の何処かで言い訳を作り出していた。

 

 

 石神村まではおおよそ二日。

 どんなに早く走ったとして、私の体力ではそれが限界値だろう。途中一度野宿をし、ついでに温泉に浸かって体の疲れと汗を流す。急いだところで推しは逃げはしないし、むしろついた時には奴隷の如くこき使われる未来が目に見えている。それにまだ若干、村に行くのを躊躇っている自分がいたのも確かだ。

 

 もう少しで村へ着く時どうしたものかと頭を悩ませていると、周りを確認する事が疎かになりこちらへ歩いてくる人たちと見事にエンカウントしてしまった。

 

「よぉ、漸くのお帰りか。 ちょうどいい、珪砂取り行くぞ手伝え」

「んー、会ってすぐそれっすか。 まぁいいけどネ」

 

 挨拶もなにもなく、当たり前のようにそう接しられたのならば私もそう対応しなければなるまい。可も不可も無い千空の対応に頬が緩みそうになるのを堪え後に続こうとすると、私に注がれる六つの視線に気がついた。

 それはコハクやクロム、スイカのもので私をまだ疑っているのだと馬鹿でもわかる。

 態々聞かれてもいないのに味方だよ!なんて言えないし、むしろ敵でも無いわけで、対応に困った。

 そのまま静止すること一分弱、呆れたような声音で千空が声をかけるまで気まずい時間は続いたのである。

 

「千空! ゲンが味方なのは分かったが此奴は何なのだ!」

「そうだぞ千空! コイツについては何にも聞いちゃいねぇ」

 

 あ、話されてなかったんですね、私の存在。

 いや、いいんですよ。逃げたの私ですし、悲しくありません。……半分嘘ですが。

 

 私の方からあらかたの事情を話すべきかと口を開くと、それをも止めるかのように千空は少なくとも敵では無いと二人へと断言してくれた。

 その行動に胸が躍りそうだったが、次の言葉で表情がストンと抜け落ちてまったのである。

 

「んで、茉莉。 テメーはこの先敵になんのか?」

 

 ウェーイ!何言ってんだろ私の神は。

 敵になる?私が?推し大好きな私が?

 神を崇め奉ってるこの私が?

 ないにきまってるだろうに。

 

 真剣な眼差しにふざけたことは言えないけれど、ここはきちんとした答えを返さないと真面目にコハクに殺処分される気さえしてくる。とりあえず顔に力を入れて、それとなく言葉を生み出した。

 

「コーラ一本」

「あ?」

「コーラ一本でそれなりの味方になるよ。 薄っぺらいかもだけど」

 

 それしか今の私には思いつきません。

 そして何より、千空先生が作るコーラが飲みたい、それが全てです。

 

「ということは君はこーらというもので敵にはならない、ということか?」

「んー、それは違うかなぁ。 むしろ敵ってどっからどこまでの名称でいってるの?」

「敵は敵ってことだろうが! そんなのもわかんねぇのかよ!」

「うん、わからないね。 私が司君のところに行く事を敵とさすの? じゃあそれが片付いたら何が敵になる? 人類70億人を助けないのが敵? 君たちを助けないのが敵? 一人で逃げ出すのが敵? 誰かを見捨てるのが敵? ねぇ、どれが君たちの敵なのか教えてよ」

 

 もし助けることを拒むことを敵とするならばもはや私は敵だし、逃げ出しちゃダメならやはり敵。今後誰かを見捨てる可能性は大だから、確実に敵になってしまう。

 敵として扱われるのならば、いっその事ことこの話を無かったことにしてくれても構わないのだ。

 さぁ、答えをくれと二人を見つめるとクロムは困ったように焦って目を逸らし、コハクまでも目を細めてうんうん唸っていた。

 

「敵の定義なんてどーでもいいわ、興味もねぇ。 今後敵味方かでお話し合いすんのが面倒だからカテゴリ分けしたかっただけだわ馬鹿共が。 茉莉は味方ならマンパワーが増えて作業が楽になる、それでいーじゃねぇか」

「そ、そうなんだよ! 味方ならそれでいいんだよ! ね、千空!」

「嗚呼、さすがスイカ様だ。よく分かってるじゃねぇか」

 

 喉を鳴らして笑う千空と何故だか飛び跳ねて喜ぶスイカ。その二人を眺めてるだけでお腹いっぱいになりそうだけれども、やはり言葉にしなくちゃ分からないものあるわけで。

 先に歩き出す千空の背中を眺め、そして意を決して私はコハクとクロムの手を取った。

 

「もしかしたら私は君たちの敵と呼ばれる存在にはなるかもしれないけど、一つだけ確かなことは言える。 私は"千空"の敵にはなれないよ、絶対に」

 

 それだけは約束する。

 小声でそう告げて千空に追いつこうと足を動かした。

 

 私は多分、コハク達の敵にはならないと思う。

 でもそれは私だけの考えで、全てを理解していたとバレた時敵とみなされないとは限らないのだ。バレないように細心の注意は払っているつもりだが私は馬鹿正直なところがあると自覚しているし、メンタリストが仲間入りした後は墓穴を掘らない自信がない。

 だからせめて、絶対的に千空の味方であることはアピールしておかなくては。

 

 この世界は私の知るかぎり、彼を中心としたものだと私は勝手に思っている。推しがいなければ成立しない世界だからこそ、私は誰かの命を危険に晒してでも神の判断には従うつもりでもある。その結果誰かに責められるかもしれないが、それはこの先の未来に生きる自分に押し付けよう。

 

 今はただ、問題を後回しにして生きることを私は優先したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロムの案内で山に登り、珪砂をカバンいっぱいに集めることで一日。それをすり潰し、レンズを作るために炉に空気を入れる事を一日。

 三人が四人になったところでそれ程仕事量は変わらなかったが、少なくともミジンコ体力の千空よりは役に立てたと思いたい。

 だがしかし、珪砂を溶かすために炉の温度を上げるための空気を送り続ける夜、推しと推しカプの片割れと私で一夜過ごすわけで、無言が辛い。

 ちったー浮ついた話を聞かせて欲しいのだけど私から会話はふれないし、ほんとに辛い。

 

 無言の状態が辛く俯きながら必死に腕を動かしていると、何やら千空がクロムへ耳打ちをし私はクロムと交換する形で千空の元へ呼び寄せられた。

 

「茉莉、テメーに仕事だ」

 

 そう言って渡されたのは何かの設計図と思われるもの二枚。

 一枚は竹と紐を使ったもので、もう一枚は家のようにも思える。これは何かと問えば研磨器だとあっさり答えてくれた。

 

「杠までとは言わねぇが、少なくともテメーの方が俺より器用だろ。 頼んだ」

「ワォ、まさかそうきたか。 まぁ、設計図あるから頑張ってみるけど……。 で、こっちはラボかな、なんて?」

「嗚呼そうだ。 前作ってあった小屋みてぇのでいい」

「んー、それはちょっと無理かな。 あれ作った時は保存庫にしようとしか考えてなかったわけで、ラボにするとしたら脆くない? それに今度からはそこのクロム君も一緒に実験するとなると、ある程度の大きさも必要だよね。 危険な薬剤も作って使って保存することを考えると誰かの力を借りてそれなりの作った方がいいよ。 ついでにモルタル用の石灰、まだある? 強度つけるために壁に塗りたい」

「あー、もー全部テメーに任せるわ。 石灰も心もとねぇからそれも頼む」

「りょーかい。 ──それで一つ気になってたんだけど、何故クロム君は私をガン見しているのでしょうか?」

「そりゃテメーがいきなりお喋りしだすからだろ」

 

 私がお喋りなのは推しに名前を呼ばれてテンションが上がってるからですが何か問題でも?

 

 首を傾げて意味がわからないと態度で示してみれば、千空は面倒くさそうに小指で耳をかく。そして指についたゴミを吹き飛ばすように息を吹きつけ、そして気にしなくても問題ねぇとだけ私へ言った。

 そう言われてそうですかと答えればいいものを、私は気になってクロムへと視線をむける。すると私を見ていていたクロムの視線と私の視線が交わり、何となく気まずくなった。

 

「……今の今まで話してねぇ奴がいきなり饒舌になりゃ現代人でも引くだろうが」

「あー、なるほど。 引かれてたのか、ならしゃーないな、さーせん。 今後は必要最低限のさらに低限にしかお喋りしないようにするよ」

「あ? 面倒ごと増やすんじゃねぇよ。 そのうち慣れるだろ、ほっとけ」

「……んー、りょーかい」

 

 あれだなあれ。

 オタク特有の得意分野の時にいきなり饒舌に話し出す奴。確かにあれは引かれる行為だわ。

 戸惑っているようにしか見えないクロムに悪かったなと思いながらも私は木の下に身体を丸め、早めに休ませてもらう事にした。

 とは言ってもテンション上がって寝れないので、ただ目を瞑っているだけなのだけれども。

 

 真夜中まで続く作業と会話に耳を澄ませ、私はただニヤけ顔を隠し通していたのである。

 

 

 

 

 

 

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