ぐぬぬ、と設計図と睨み合って作った研磨器は三代目。一代目二代目の不備を調整してようやく出来たものを千空へと手渡した。
「おありがてぇ、これですぐにでもレンズ加工に取りかかれるわ」
「んー、じゃあ私は次の作業を開始するわ。 また何かあったら呼んで」
バイバイと手を振って、用意されていたカゴを背負って海まで向かう。
多分村を囲っている湖にも貝はあるだろうが、海の方が確実に量が取れると思うので向かうのだ。断じて視線が怖いから離れたいというわけではない。
一人でテクテクと海へ向かい着いたら砂浜に転がっている貝殻を拾い、飽きてきたら砂地を観察しながら某寄せ集めで掘り出し探す。
生きている貝は革製のバケツに海水と投げ入れて、食用にも回す予定だ。
流石に肉ばっかだと飽きるしね。
ある程度集まったら村へと向かうのだが、いかんせん行きよりも重さがあるわけでひと苦労だった。ストーンワールドで目覚めてから約4年、その間に筋肉はついた方だと思うがまだまだ弱い分類に入るのだろう。
つきたくなるため息を我慢し足に力を込めて村へと戻ると、すでにレンズは完成していたようで千空達の姿はなかった。
一人ならばちょうどいいと炉から炭を拝借し、砂抜きが終わった貝を一度水で洗って真水とともに土鍋へ入れたら塩を加えてぐつぐつ煮る。醤油なんてないからどうしたって薄味にしかならないが、それでも美味いアサリ汁の完成である。まぁ、アサリかどうかはしれないけれども。
「うまー、生き返るわぁ。 やっぱ海鮮はいいよね、貝殻も手に入るし一石二鳥」
「ククク、なら俺たちも手伝ってやろうじゃねぇか」
「え? お帰りはやくない?」
モグモグと頬張っていると推しである千空とその仲間達、つまりはクロムとスイカが私と鍋を見ていた。千空はともかくクロム達からしたら然程珍しい食べ物ではないと思うのだが、食べたいというなら仕方ないと少しずつ分け与えてあげればあっという間に貝殻だけが出来上がる。それを水洗いし拾い集めた貝を砕いていると、いつの間にかトンカチを持ったスイカがお手伝いするんだよーと作業を手伝ってくれたのである。
「スイカはね、誰かのお役にたちたいんだよー!」
「んー、すごく役にたってるわー。 助かるー」
なんて、むしろ側にいてくれるだけでテンション上がって効率よくなりますわ。
あぁ、『なんだよ言葉』可愛いじゃないか。
ニヤニヤしようになるのを必死に堪えているとその日の作業は呆気なく終わってしまった。非常に残念である。
だが翌日は朝から千空に手を貸せと言われたので喜び跳ねて頷いた。
実際は跳ねてはいないけど、そこそこいい笑顔になっていたに違いない。
「ククク、楽しいガラス細工教室のスタートだ!」
「おぅ、ガンッガン作ってこうぜ!」
そう言って千空は黒曜石をあぶって発泡体を生み出して、それを土で作った窯に塗りたくり専用の窯を作る。
ちなみにこの作業をやらされたのは私とクロム。
次に竹2本を使って鉄のストローを作るのだけれど必要な竹の採取は勿論私で、いい感じの神の奴隷になっている。
はっきり言って一人での作業は飽きていたから嬉しいです。もっとこき使ってください、お願いします。
なんて口には出さなかったが、正直こころが踊って仕方なかった。
そしてガラス細工の最終作業、吹き付けだ。
何度かテレビで見たことのあるこの作業、見てるだけで楽しくて仕方がなかった。
左藤茉莉という人間はこのストーンワールドで生き抜く事を前提に幼少期を過ごしてきた。サバイバル知識を身につけたり陶芸したり獣を狩ったりと、何かに打ち込む事を好き好む人間だとも言える。
故にこう言った打ち込める作業大好き人間に育ってしまったわけで、他人が面倒とする作業が大好物なのである。
グニャグニャとガラス細工として原型をとどめていない千空とクロムの作品を見てもなお私の創作意欲は消えず、渡された鉄のストローを持ち炉の前へ。
ガラスを溶かしフゥッと息を吹き、ゆっくりと丸い球を作り上げていく。が、呆気なく形は崩れやはりゴミのような作品にしか出来上がらなかった。
「ククク、まぁ最初はこんなもんだ。 ──茉莉、テメーならどんくらいで習得出来る」
「んー、私一人じゃ何ヶ月もかかるだろうね」
「何ヶ月!!あんま悠長にしちゃいらんねぇぜ!」
「ルリ姉の容体も心配だしな」
「ガラス職人じゃねえんだ。 トライ&エラーしかねぇだろう」
「むしろ職人呼んでこいよクロム君。 早く呼んでこいよクロム君。 村に一人ぐらい居んだろクロム君。 さっさと行け!」
うっかり正気を無くして声やや荒げてしまったが、クロムは村の方へ走っていってしまったのでそんな問題はないだろう。
それよか私がヤバイ。
やばいやばいゴイスーヤバイ。ガラス作り超楽しいですけど。
早くできる人呼んで教えを願いたい。
復活して約4年。娯楽といえば推しを眺めることしかなったが、ようやくここでそれ以外の娯楽が生まれたのだ、嬉しくないわけがないのである。
別に推しを眺めるのがつまらないわけではないが、最近はお腹が痛くなることが多いのでちょっと目を逸らすのも必要かな、とは思ってはいるが。
「茉莉、ものづくりは楽しいか?」
「……楽しい。 作ってる間は嫌なことも忘れられるし思い出すこともないし。 だから千空君、私もガラス作りしてもいい?」
「──元からその予定なんだよ。 テメーならなんとかこなせんだろ、任せた」
「りょーかい!」
推しに任された嬉しさと、娯楽の勃発についに頬の筋肉は崩壊した。がしかし、それを見てしまったのであろう神の目が見開いたので、すぐに真顔に戻しました。
ニヤけ顔見せてサーセン。
そのあとクロムは村から一人のお年寄りを縄で拘束して戻ってきた。
職人の技を借りたいんだと頼み込むクロムに変態プレーなどと言ってのけたご老人に、何故そんな言語も後世へ残してしまったのだとと創設者にお聞きしたい。
私が状況に見合わない思考をしているうちに淡々と話は進み、いつの間にやら千空とクロムがカセキへとガラス細工の工程を見せつけていた。ただ失敗する過程を見せられるのはカセキにはとても辛いようで、縛られていない足だけがピョンピョンと地面を蹴る。
そしてモヤモヤとしていたカセキの気持ちは推しの一声で打ち破られた。
「ククク、もの作り一筋の男がよ、ガラス細工なんつうヨダレ垂れまくるもん目の前にしておとなしく座ってられるわきゃあねぇよなぁ?? カセキの爺さんよ……!」
「くぅ! 全く見ちゃおれん!まんまとのっちゃうわいもう! ワシに造らせろ……!」
ぶちぶちとロープの切れる音と共に、曝け出されるのは鍛えられた肉体美。
年を感じさせないその筋肉に思わず息を呑んだ。
「おおおおぉぉお!」
「マジか、その筋肉──」
私達と同様にガラス細工なんて初めてなカセキは、それを感じさせない動きで工程を進めていく。
スイカに指示を出す様も決まっていて、根っからの職人なのだと感じさせた。
「ヤベー!すげぇ……。 カセキの爺さんだってガラス見んの初めてだろ?」
「ククク、工作自体の年季が違うからな。 いつの時代にもいるってこった、黙って人生仕事に捧げて生きてきたホンモノのウデのオッサンがな。 それが一番わかってんのがテメーだろ」
「──うん。 あの人、カセキの爺さんは本物だ。 私が知ってる爺さん達とよく似てる。 うん、これで満足のいくラボも作れるわ」
「おお、そりゃおありがてぇ。 で、何やらかしてくれんだ茉莉様はよぉ」
「宮大工でつくりたい」
「あ"? 予想の斜め上いきすぎだろうが!」
作りたいだけで作れるとは言ってないのだけれども、それなりに推しは驚いてくれたようである。
「知識だけはあるんだ、継手とか。 ただ作ったことないから上手く説明できるか不明だけど二、三ヶ月時間かければ作れるかもしれない」
「だからそんなに悠長にしてらんねぇって言ってんだろが! 千空、こいつ馬鹿なのか!?」
「──いや、馬鹿ではねぇ、と思いてぇ。 茉莉、宮大工は後で作らせてやっから、今は適度に丈夫なラボだ」
「んー、了解」
まぁ、作れるとは思ってないなかったからそこまで残念ではない。
「──どうせそのうち家やら船作るだろうし、その時でいっか」
「あ?」
「なんでもないよ。 さて、カセキ先生に教えでも乞おうかな」
このまま物語が進めば科学王国は司帝国に勝ち、住処も発展するし船まで作るのは確定だ。ならその時にカセキの力を借りてチャレンジすれば良い。
今のうちにカセキから盗める技術を盗み、船を見送ったらものづくりに精を出すのが良いだろう。
どうせ私は船には乗らないし、乗れない。
なるべく関わりがないところで少しでも楽して暮らせる術を学んでおくのが良いことなのだと、ひっそりと決意した。