凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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18 凡人、不謹慎。

 

 

 

 流石に一人では作る気がしなかったラボの製作だが、カセキが加わったことにより大いに捗る結果となった。

 無論カセキだけの協力ではなく、コハクやクロム、体力ミジンコの推しまでが手伝ってくれたからなのだが。

 

「──にしても、あのこの筋肉はどうなっているんだ?」

「あぁ、コハクはゴリラだからな。 そっか茉莉は見んのはじめてだったかっ」

 

 クロムがゴリラと発言した途端顔スレスレに材木が飛んできたのだが、気のせいだと思いたかった。

 

「クロム、聞こえているぞ!」

「んー、サーセンコハクちゃん。 でも私は無罪です」

 

 筋肉が気になった程度で死にたくはありません。

 

 黙って仕事をすることが得策だと認識し私はカセキの隣まで下がり、作業を再開する。

 ラボ制作に宮大工は無理だと言われてしまったが、継手のことをカセキに話すと喜んで取り入れてくれたのだ。故に私はその隣で技を盗むためと、助言をする為にカセキに引っ付くことが多い。

 ここはこんな感じか?と聞かれれば頷く程度で、本当にカセキの職人的能力は凄まじいものであった。

 

「茉莉ちゃんは知識豊富なんじゃの、ワシ、こんなの思いつかなかったもん」

「んー、知識があっても使えないから役に立たないんだけどね。 それにそれを作れるカセキのお爺ちゃんは凄いのよマジで。 って事でこれから技術を盗ませてねぇ」

 

 トントンと屋根となる部分を叩きながら会話をし、そばにいることの許可をもらう。

 ラボがある程度出来たら次はガラス細工加工に取り掛かり、私はカセキの隣でずっと眺めていた。

 千空たちもやることがあったようだが、特に私を呼ばなかったし、こうやって学んでいても文句はないのだろう。

 いや、推しの場合は職人二人いりゃ儲けもんだ、むしろ覚えさせとけとも考えていそうだ。

 

「ほい、つぎは茉莉ちゃんがやってみぃ」

「ハイ、頑張ります」

 

 鉄の筒を持ちガラスを溶かして整形していくも、カセキのようには上手く作り上げることは出来ない。二度三度で上手くいくほどガラス細工は簡単ではないのだ。

 ずっと炎を見ていると目がチカチカしてくるし、乾燥してゴロゴロと痛む。千空に頼めばサングラスもどきも作ってくれそうだけれども我儘を言ってる場合ではない。それに火加減がちゃんと見えていないと加工自体失敗しそうだ。

 

「あー、こんな事ならガラス細工にも手ェ出しときゃよかった」

 

 そう言ったところで後の祭りだが、本当にいろんな知識を詰め込んで経験しておくべきだった。

 結局ラボに収める試験管やらビーカーなどのガラス製品はカセキが作り、私が作ったのはそれを収める棚と机の基礎、ただそれだけ。全く役に立てなかったなと小さくため息をついた。

 出来上がったラボに千空たちを呼ぶとクロムは喜び腕を上げ、千空は懐かしそうに室内を眺めていた。

 

「おぅ、なんだどうしたよ千空! ついにラボゲットしたんだぜ、もっと喜べよ!!」

「──あぁ、めでたいめでたい。 こっからが化学の夜明けだ、いよいよ豪華になってきたじゃねぇか! 司ランドよか100億倍楽しいアトラクションがいっぱいの科学王国がよ……!」

 

 そう言い切った推しはとてつもなくカッコいい。

 だがしかし私的には司ランド発言が面白くて仕方なくて、必死に顔をキープすることに必死だった。

 

 あの司が丸い耳つけて「ハァーイ!俺は獅子王司だ、うん。アハハ」と某ネズミキャラの如くアピールしている司ランド。それなら行ってみたいものだ。

 

 

 

 ラボが完成してからは私はひたすらガラス細工に精を出した。

 素材である珪砂にも限りはあるわけで基本自分で作ったガラス細工を割って再利用し、満足いく製品ができた場合にのみカセキへ見せに行く。そこでダメ出しされたら叩き壊してリトライ。

 見事なトライ&エラーの繰り返しだ。

 

「茉莉、だったか? 貴様は女だろう。そこまでする必要があるのか?」

 

 私にそう問いかけていたのはルールの化身、金狼様だ。

 女だから何なんだと思うも、たしかに村の人間からすれば私のような存在は珍しいのかもしれない。コハクはともかく、女の役割は結婚して子供を成すこと。故にこのような作業を進んでするものは居なかったのだろう。

 

「私達が育った時代では女も男も関係なくやりたい事を好きなようにやってたんだよ。 まぁ、やっぱり金狼くんのように女は家、てきな男尊女卑的な考えはあったけど、それでも自由にやれてた」

「だとして、今は貴様の時代とは違うのだろう? なら何故そこまでする」

「そんな分かりきったことを聞かないでよ、生きるために決まってるでしょ。 何もできない人間は誰かに縋って生きるしかないの、そんなの私はお断りだ。 少なくとも今後科学がある程度発展するまで、一人で生きていけるくらいには色々経験しておかないと」

 

 てか、何故部外者の私を金狼が気にするのだろうか?

 ルール的には私はアウト判定をもらってるわけだし、そこまで気にすることはないはずだ。むしろ何故ここにいる?もしかして気にされるということは一目惚れされた?

 いや、それだけはないな。ボヤボヤ病だし、第一そうなる印象は与えていない。

 という事は千空と同じ時代を生きていた人間が気になるという事だろうか。だとすれば千空に対してはすでに好印象だと判断していいのかもしれない。

 

「──私のような女でも金狼くんのように不備があっても、科学は人を平等にする。それは千空君をみてりゃそのうちわかるし、そうなれば女も男も関係ないって分かるよ。 それまでは疑問に思ってればいいんじゃない?」

 

 当たり障りのない言葉だけを伝え、私はまたガラス細工に夢中になった。

 考え事をしたくない時は何かに夢中になることが一番の逃げ道だと私は思っているからである。

 

 だからだろうか、意味深な顔をする千空とコハク、怯える銀狼が帰ってくるまでそこにいないことに気づいていなかった。

 それならより一層金狼がここに来た理由が気になるところだが、余所者である私とカセキが一緒にいる事が気になってきた、というのが正解だろうか。

 作業する人間がほぼいないのに炉からはずっと煙が出てたしカセキのコトを心配してきたのかもしれない。

 

 しかし今更そんなコトを気にしたところでどうしようもないと一度息を深く吐き、真剣な表情をする千空達への元へと足を向けた。

 

「その硫酸っつうの抜きじゃルリの万能薬は作れねぇのかよ?」

「無理だな。 そもそも硫酸源を確保しねぇと今後の科学もどん詰まりだ」

「やはり強行突破で組むしかないな。 姉者を救うためなら命などいくらでも賭ける! 私のスピードならば──」

 

 一人で勝手に硫酸の場所へ行こうとするコハクの歩みを止めたのは千空の左手と私の右手。

 千空は過去の事後死亡例を語り、私はそれに頷く。

 

「自然様がその気になりゃ人間なんぞ瞬殺だってこった。 コハクが超スピードとかそういう次元の問題じゃねぇ」

「それに硫酸が肌についたら火傷じゃ済まない。 それこそ一生の傷をおって、それをみたルリさんは喜ぶとでも?」

「しかしならどうするんだ、千空、茉莉! 私は絶対にルリ姉を……」

「決まってんじゃねぇか。 作るんだよ、ガスマスクを!!」

 

 千空の一声で次の作成物が決定する。と同時に私は千空に必要なものを集めてこいと指示を出された。

 

「──竹、ね。 サイズは背負えるくらいでいいのかな」

「嗚呼、頼む」

「りょーかい」

 

 すぐに製作図を生み出しカセキに伝える千空に背を向け、私は森へと向かう。

 だけどもどうやら一人というわけではなく、後ろにはコハクが控えていた。

 

「……茉莉一人では竹のある場所はわからないだろう? 私も行こう」

「んー、アザース」

 

 にっこりと笑って私はコハクの後ろを歩く。

 その間は無言だ。彼女なりに今の状況が良くない事は分かっているのだろう。とは言っても私からかける言葉なんて一つしかないわけで、でもそれを言うのは気が引ける。

 きっかけがあればなと頭を悩ませていると不意にコハクが立ち止まり、私の方へ振り返った。

 

「千空は、姉者を助けられると思うか?」

 

 そう尋ねるコハクの顔は真剣で、やはり他人である千空にルリの命を預けている事が不安なのだと思う。だって彼女はまだ十六の女の子で、科学なんて存在すら知らなかった子なのだ。いくら千空がこの時代にない知識を持っていたとしても、それが可能だと胸を張って誰かに言える自信なんてないに違いない。

 ならば私に言える言葉はすでに決まっている。

 

「救うよ、千空は。 ルリさんも、石神村の人間も、石化した70億人も、全部救う。 千空が今目覚めたのには意味があると、私はそう信じてる。 君が信じなくても、私は、千空だけを信じてる。 だから大丈夫だよ」

「っ茉莉、君は何故村の名前を──? だが今はどうでもいい、千空が救えると茉莉は信じているのだな。 なら私も、千空を信じよう」

 

 ……うっかり言っちゃいけないことも言ってしまったお口を恨みたい。

 

 だがコハクは少し落ち着いたように見えた。

 信じるのには強い思いや根気がいる。同じ思いの人間が一人でもいれば、少しは気が休まるだろう。

 是非とも今言った言葉の一部は忘れて欲しいものだが、そんなこと言える雰囲気ではないので取り敢えずニコリと笑っておいた。

 

 

 

 

 

 そしてその日の夜になる頃には一つのガスマスクの一部分の製作を終わらせることができた。これも職人カセキ様がいるおかげなのだろう。

 

「おぅ、次は俺のマスク……」

「あ"ーそれはいらねぇ。──クロム、テメーは硫酸採集にはもう行かねぇ、ここに残れ」

 

 その言葉の意味がすぐに分かるのは私に知識があるからだろうか。その言葉は私の心をまた締め付けて、呼吸がし辛くなったことだけは確かな事実だ。

 もし万が一、自分が死んだらルリは救えない。今まで引き継がれてきた知恵も何もかもがそこで途絶えてしまうと彼は思っているのだろう。

 だからこそ千空は万が一に備え、クロムに全てを引き継ぐ気でいたのだ。

 

「千空が死んだ時のために俺はお留守番か」

「ああ、科学の知識を継いでから──」

「継がねぇよ、そういうことならな」

 

 だがしかし、そんな都合の良い話はない。

 クロムからしてみればそんな話を受け入れられるはずがないのだから。

 

「これで友達が死んでもOK!、そんなプランに手ェ貸す気はさらさらねぇってことだよ……! おぅ残念だったな、俺が知識を継がねぇもんだから千空、テメーがくたばったら科学はゲームオーバーだぜ! 100億%!! 生きて戻んなきゃなんねぇんだ! 千空、テメーはよ!!」

 

 

 嗚呼、この熱い決意。とても良いですご馳走様です。これがみたいために今日はまだ寝たふりしてなかったんです。

 

 一人場違いな思いを抱いている馬鹿がいるとは知らず、クロムは千空へと思いをぶつけていく。

 その度に頷きそうになるも私は耐え抜いた。

 

「俺がテメーを護ってやる? じゃねぇんだよ、違うだろセリフがよ──!」

「あ"ぁ、テメーのせいで作んなきゃなんねぇガスマスクがひとつ増えたじゃねぇかクロム。 俺にテメーの命を預けろ」

「おぅよ!! 千空、そっちもな──!!」

 

 

 嗚呼、尊い尊い。

 ヤバス、尊い。ご馳走様です。

 命のやり取り中なのに申し訳ありませんが、ご馳走様です。

 

 ニヤけそうになる顔を隠すように膝に顔を埋め、私はいつも通りに不釣り合いで不謹慎な思いだけを抱いていたのである。

 

 

 

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