凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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20 凡人、居残る。

 

 

 

 

 

 手伝いたいのに手伝えない。

 

 そんな気持ちを抱きながら、私はその場に寝転びながら推しの動向を見つめた。

 

 硫酸を無事入手できた千空達は早速万能薬、サルファ剤の精製へと取り掛かる。コハクは目に涙を浮かべながら喜びクロムはそれを呆れながら見ていたが、千空が大体必要なものは揃ったと声を上げれば嬉しそうに三人は笑った。

 

「今日で一気に行くぞ! 怒涛のケミカルクッキングだ、唆るじゃねぇか!」

 

 試験管やフラスコ、それよりややこしいガラスを千空はカセキから受け取る。

 硫酸は煮込みそこに塩を投下、そのガスを奇怪なガラス細工で水滴にしてまずは塩酸をゲット。

 

「ちーとヤベー薬だ! 目にハネたら失明すんぞ!」

 

 今度は湯の花を煮込んで出たガスを冷やし、先程出来上がった塩酸に加えればクロロ硫酸の完成。

 

「超ヤベー薬だ! 皮膚にかけたらデロデロのゾンビになんぞ!!」

 

 そして次に、塩水を電気分解して水酸化ナトリウムを生み出した。

 

「ウルトラヤベー薬だ! ヤクザが死体溶かすのに使うぞ!!」

「ほうなるほどなるほど。失明にゾンビに死体を溶かす薬が──なるほど。 それを、ルリ姉にのます気か??」

「飲まさねぇよ! 薬の調合に使うんだよ」

 

 女の子として残念な顔をするコハクを見てしまいうっかり頬が緩んでしまうが、半分顔が隠れているしバレてはいないだろう。

 だがアンモニアを取りに行く、といっても男共から排泄させたものを見たコハクは再度顔を変化させた。それを見てしまいうっかり吹き出して笑ってしまえば、その声に反応したコハクとカチリと目があってしまったのである。

 

「茉莉! 笑い事ではないのだぞ、ルリ姉にこんなもの飲ませられん!」

「……ごめ。 ただ、飲まさないし、調合に使うだけでしょ? 大丈夫大丈夫、センクー、嘘つかない」

「でもっ!」

「私も、漢方のおかげで、やや元気。 千空君のお陰、アザス」

 

 毛皮の中で頭を下げればコハクは困ったようにため息をついた。

 

「全く、君という人間は──」

「大丈夫、信用して待ってればできるから、サルファ剤」

 

 そうとだけ言い残し、私は毛皮の中は潜り込む。

 少し話しただけだというのにまたチクチクとお腹が痛みだしたのだ、ゆっくり休むとしよう。

 うとうとと船を漕ぎ出した頃に御前試合だとか酒だとか聞こえた気がするが、どうせ村には入れないので無視を決め込んだ。

 

 そして真夜中、キリキリとお腹が痛み目を覚ました。そりゃあ朝しか薬を飲んでいないのだ、痛み出してもおかしくはない。

 膝を抱えるように体を丸めると、何故が背中に自分以外の熱を感じる。湯たんぽでも作ってくれたのかなと体の向きを変えれば、そこにあったのは麗しの顔があるではないか。

 

「ひぇっ!」

 

 驚きのあまり声を出してしまえばたまたま眠りの浅かったのであろう千空はゆっくりと瞼を押し上げて、うるせぇと暴言を吐き出しながら私を睨んだ。

 

「さーせん? いや、なんでここに? 私悪くなくない?」

「──そんだけ話せんなら薬はいらねぇか」

「いや、欲しいです、ごめんなさい」

 

 ボリボリと頭をかきながら千空は起きて、ラボの中へ消えていく。そして戻ってきた手にはガラスのコップと、何かが握られていた。

 

「ほれ、飲んどけ」

「んー、有難う?」

 

 手渡されたソレはよく見慣れた漢方薬で、こんな私でも心配してくれたのだろうと彼の底知れぬ優しさを感じることができた。

 その優しさを感じてしまったからだろうか私の右手は無意識に伸び、欠伸をして私へ背を向けた千空へと向かってしまったのである。

 

「あ"?」

「あ、」

 

 ぎゅっと握ってしまったソレは千空の衣類で、真っ赤な目と向かいあってしまい自分の顔の血の気が引いているのが嫌でもわかる。

 

 なんといって誤魔化すべきかとソレを離して考えるも、うまく頭が動かない。

 ただ無言で俯き、結局私ができた行動は黙って寝転んでおやすみと声をかける、だだそれだけで。ソレも恥ずかしさで声が震えてしまっていた。

 

 さっさと何処かに行ってくれと願って膝み抱えて丸まっていると、ぐしゃりと髪を掴まれた。

 いや、掴まれるというより撫でた、のだろうか。

 あまりに乱暴で大雑把で、実験中の千空とは全く違う。でもそこにいるのは千空ただ一人のわけで、彼のその行動に頭がまたついていかなくなる。

 

「────寝る」

 

 その言葉を最後に千空はまた私の背中に背中を合わせ、数分もしないうちにすぅすぅと寝息を立てた。

 その寝息を隣で聞いている私の心臓はバクバクと脈打ち、自分のものとはとてもじゃないが思えない。

 やってしまった気恥ずかしさと背中にある体温に、ぱっちりと覚めてしまった眠気。

 キリリと痛む腹だけがこれが現実なのだと知らしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バクバクと騒ぐ心臓を落ち着かせ、寝れたのは空が薄く色づき始めた頃だと記憶している。

 そして目覚めた頃には太陽は登っており、枕元に置いてあった羊皮紙もどきには御前試合へいくとだけ明記されていた。

 

 どう考えても寝過ごした感がすごい。

 

 せめて応援の一言でも言っておきたかったなと悔しく思うも、どうにもならないので諦めておく。

 一度深呼吸をし用意しておいてくれたのであろう薬を飲みほして、一度川へ向かうことにした。

 今はただ、体についた汗だの何だのを一旦全て洗い流したい。女として、というか人として、体液がついてる状態を良くは思えないのだ。

 

「……ん?」

 

 森の中を歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。ここには私一人しか居ないというのに、何故だかその声は聞き覚えがあるような気さえする。

 一体なんなんだとそっちに近寄っていけば、そこには可愛いキャラナンバーワンのスイカが縛り付けられているではないか。

 

「──そいやそんなのあったな。 ……スイカちゃん、今解くから待ってて」

「助かったんだよ!?ありがとうなんだよ茉莉!」

「いいってことよ。 ──さぁ、すぐにお帰り、みんなが待ってる」

「うん!」

 

 スポンっとスイカに体を仕舞い込み、彼女はゴロゴロと転がって村へと向かう。

 私が助けなくてもきっと抜け出せたとは思うし、遅くても早くてもソレ程物語は変わらないだろうと言い訳を自分自身へ向けた。

 

 スイカの姿が見えなくなると私はぐるりと踵を返して本来の目的地である川へと向かった。

 スタスタといつもより少し遅いスピードで森の中を進んでいると、今度は真正面から見知った人物がこちらに向かってきているのが分かる。

 その人物は蝙蝠男と自分を卑下しているが実際は聖母みのある良い男。歩き方はたどたどしくないし、怪我も治ってきているのだろう。

 

「おかえりー、ゲン君」

「アレ、茉莉ちゃん? って事は科学王国に寝返ったわけね」

「寝返るも何も、何者でもなかったけども今も昔も」

 

 気さくに声をかけ近づこうとするゲンから後退り、距離を空ける。

 その行動を気にしたゲンにどうしたのと問われるも、近づきたくはない。決してゲンが嫌いなわけじゃないが、少々見られたくないものが多すぎるというか。

 

 怪訝そうな顔をする彼をじっと見たあと一度息を吐き、私は羞恥心など投げ捨てて素直に言葉を口に出した。

 

「生理きて血みどろなので、生臭いので近寄らない方がいいかも?」

「え!? ってそんな事真顔で言わないでよ! こうなんかさぁ、女の子だよね? 茉莉ちゃん」

「女ではあるが生理的現象を恥じる必要はないと言いますか、まぁ、なるもんはなるから仕方ないよね」

「そうだけど! もう! 大丈夫? なんか俺出来ることある?」

「──出来る事? ならさっさと村に行ってよ」

 

 もう一度ため息を吐き出して村の方を指さした。

 

「ゲン君には悪いけど、多分、メンタリストの力が必要になるから村へ行って。 嫌な事させるようで、ごめん」

「ちょっとゴイスー意味わかんないだけど? 嫌なことって何ぃ? 何させられちゃうの俺」

「いやだって、わざわざ自分を殺そうとした人間に会いに行けって言ってるようなもんだし?」

 

 詳しくは覚えていないが、ゲンを襲ったのは村の人間だったはず。村に行けという事はソイツらにまた会えと言っているようなものだ。私だったら絶対に会いたくなし、顔だって見たくない。

 自分だったら嫌なことをやらせようとしているのだ、いやでも詫びの一つぐらいは出てくる。

 

「────茉莉ちゃんは俺みたいな人間でも心配してくれんのね」

「そりゃするでしょ。 自分を偽るスペシャリストのゲン君でも、ただの人間だもの。 恐怖心はあるに決まってる。 他人に見せないだけで、抱え込んでもおかしくない。 だから、その、ごめん。 私は何も出来ないので、ゲン君に任せるわ」

 

 必要なのはモブではなくメインキャラクター。つまりはあさぎりゲンなわけで、私ではない。

 わざわざその役割を変わろうとも思わないし、どういう場面でゲンが必要だったかも曖昧だ。ただゲンが必要だった事は覚えているが私がソレをやれる自信はないし、そもそも私は介入する気はほぼ無いのだからゲンに全てを押しつけるのが正解なのだ。

 

「……わかったよ、村へ向かえばいいのね。 茉莉ちゃんは一人で大丈夫?」

「大丈夫、慣れてる」

 

 困ったように首をかしげるゲンに私は頷き、バイバイと手を振る。

 するとゲンも手を振ってくれて、なんとも良い気分になった。やはり最近の私は人に飢えているようだ、ヘマをしないように気を引き締めていこう。

 

 パチンと両頬を叩きつけ、本来の目的地である川へと私はようやく足を動かしたのであった。

 

 

 

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