凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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25 凡人、モブになる。

 

 

 

「石化復活液の作り方自体はカンタンだ。なのに俺らはその辺の石像一つ直しちゃいねぇ。材料の硝酸がねぇからだ」

 

 硝酸はやろうと思えば排泄物や死体から作り上げることも可能だが、一、二ヶ月でできる品物ではない。なら三年暇してなんなら作っておけばよかったんじゃないって考えも出てくるが、当初私はこんなに千空や石神村に関わるつもりもなかったし、作ったところで素直に渡すこともなかっただろう。それに何よりこの作り方も温泉に行ったときに昔の記憶が思い出された程度で、実際に作ったこともなければ正しい作り方も私は知らない。故に私はやっぱり役立たずだと言えよう。

 

「科学用語が難しくてイマイチ話が見えんな」

「わかりやすく教えてちょ」

「司軍はガッツリ人数の利作ってキッチリ大軍整えてくるっつぅ話だ!」

「向こうの戦士は時間でひたすら増えてくからねぇ、こっちの火薬は増えないのに」

 

 銃は作れないし、火薬がないから爆薬も無理。石化を解くなんてもってのほか。

 どう考えたって普通ならば既に詰んでいる。

 だがしかし、ここにいるのは我らが千空様だ。そう簡単に敗北するわけもない。

 

「ククク、泣いて喜べ! ついに現代技術のご登場だ! 人類200万年最強の武器! それは──」

「核、なわけないしね?」

「違う! 通信技術だ。ケータイを作る、このストーンワールドでな。唆るぜこれは……」

 

 ケータイがなんだか分からないコハク達は頭の上にハテナを浮かべ、ゲンは一人で盛大に顔を歪める。そして私の方をチラリと観るとジーマーで、と確認を取る始末だった。

 

「千空先生だよ? 本気で言ってるに決まってるでしょ」

「なんで茉莉ちゃんはそんなに驚いてないの!?」

「いやだって、千空君だよ? むしろ驚かれてもちょっと──」

「茉莉! ゲン! 私たちにもわかる様に説明してくれ!」

「んー、村のみんなにも説明しなきゃだし、ゲン君ファイト」

「え? 俺なの!?」

 

 勿論言葉の達人ことメンタリストのゲンにその役を担ってもらう。

 何せ私は既に私に見合わないストレスを溜め込んでるせいでかなりお腹が痛いのだ、そんな余裕ない。

 

 村の住人をラボまで集めそこでゲンはケータイとは何か、通信とは何かを簡単に話し、彼等は響めきながら目を丸くさせる。

 そりゃ遠くにいる人間と即座に会話ができるなんて考えたことなんてない事なのだ、驚くのも無理はない。

 カセキとクロムの二人は目を煌かせているので、やはりこの二人は脳の作りが違うのだろう。

 

「それが武器になるのか?」

「なりまくるわ。通信が戦力差をひっくり返す! 例えば内通者がリアルタイムに情報垂れ流しゃ圧勝だ! うまいこと連携キメりゃ司帝国無血開城すら夢じゃねぇ」

「でも、内通者なんて誰が……」

「あ"ーそうだ、とっくにいんだろが。大樹&杠、二人もよ──!」

 

 嗚呼そうだ。

 二人があちら側にいるのだった。

 

 別に二人を忘れていたわけではないが、自分のことで精一杯で何も考えてはいなかった。全くもって私という人間は自己中心的なやつだ。杠を危険に晒していたことすら、忘れかけていたなんて。

 

 二人に会ったらなんで言葉をかければいい?

 逃げてごめん?

 見捨ててごめん?

 役立たずでごめん?

 謝る言葉しか思い浮かばない。

 

「──った」

 

 キリリと、お腹の奥が痛んだ。

 

「……おい茉莉、大丈夫か。テメー顔色が悪りぃぞ──」

 

 そう言って手を伸ばしてきた千空の手を払い除け、私は二、三歩後ろに下がる。大丈夫とにへらと笑うも、何故だか千空の顔は歪むだけ。

 

「大丈夫ってなぁ、そんな顔で言われても説得力ねぇわ。休んでろ」

「いや、大丈夫だから。バリバリ働けるから。私は何をすればいい?」

「だから休んでろっ言ってんだろが、何度も言わすな」

「っわかった。なにも、しない」

 

 私は必要ない。

 必要など、されていない。

 

 そう言われているように感じ、締め付けるようにまた腹の奥底がキリリと痛んだ。

 

「千空! そんな言い方はないだろう! 茉莉、大丈夫か──」

「ッ触んな!」

 

 バチリと手と手が交差した音が響く。

 私は無意識に差し伸べられたコハクの手を強く払い除け、そしてその言葉に反した行動をとってしまったと瞬時に理解する。だが理解したところで遅く、私を見つめる多数の瞳に恐怖した。

 ただ私を心配しただけのコハクの手を振り払い、暴言まで吐いたのだ。そりゃ冷たい視線を向けられて当たり前だろう。全くもって、全てに嫌気がさす。

 

「ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」

 

 ここにいたくなくて背を向けて、一人村の外へと逃げ出した。

 逃げ出しても尚腹は痛むし、ついに吐き気までまともこみ上げて、草むらに内容物をぶち撒ける。何度とも何度も吐き出して、最後にはただの液体だけを無様に口から垂らした。

 

「はっ、マジクソやろーじゃんか。なんで必死に生きてんだろ」

 

 こんな思いをしてまで生きている必要があるのだろうか。

 態々辛い選択をしてまで彼等といる意味はあるのだろうか。

 見ていたい、それだけの欲で私が苦しむ理由はなんだ。

 

 全部自分で選んできた事だというのに、それでもこの選択を"選ばされた"と誰かを恨みたくて仕方がない。

 ヨロヨロした足取りで村から離れ、何度目かわからない吐き気に襲われ残っている水分を吐き出す。森を汚してごめんなさいと失笑しながら、それでも行く当てもなく森の中を彷徨った。

 ある程度の距離が出来たところで木の根元に背をつけてゆっくりとしゃがみ込み頭を覆い、このどうしようもない罪悪感を受け入れる。

 石神村にしたことも杠にした事も、どうにか出来たのにしない選択をしたのは自分だった。だというのにどうしようもなく心臓が痛む気がする。

 全てはただの錯覚だというのに、痛む心臓に手を当ててゆっくりと呼吸を繰り返す。でも痛みは治ることはない。

 

「やっぱり、帰ろうかなぁ」

 

 二ヶ月あまり森の中の家には帰っていないが、そこに戻った方が精神的に余裕ができるに違いない。秋が始まる前の今ならばまだ一人で冬を越すための準備に間に合うし、そうすれば春以降まで人と関わることはなくて済むだろう。そこまで一人で過ごせれば、少なくとも今よりマシな精神を保てるはずだ。

 

「よし、帰ろう。それが一番いい選択だ」

「そうか、じゃあ帰んぞ」

「へ? なん、で?」

 

 いざ独り立ちしようと意気込んで言葉を吐き出せばそこにいるはずのない千空がいて、呆れた顔で私を見ているではないか。

 何故、どうしてと口をパクパクとさせていると千空は深くため息をつき、私の真横に腰掛けた。

 

「ご丁寧に目印があったんでな、カンタンにテメーの場所まで来れたわ」

「目印って──まさか、吐瀉物?」

「ご名答だ。で、帰んねぇのか」

 

 推しに廃棄物を見られた羞恥心と、違う場所へと帰ると言い出せない後ろめたさで言葉が上手く操れない。

 さて、どうしたものかと無言で頭を悩ませていると千空はまた深くため息を吐いた。

 どうやら私の存在に随分と呆れているようだ。

 ならいっそのことこのまま存在を無視してくれればいいのにななんて思いさえもあるが、千空は如何やら違う考えにいたったようである。

 

「──一人の方がいいのか?」

「んー、うん。今は、一人がいいかな、なんて」

「そうか、じゃあ心置きなくテメーに頼めるわ」

「え、何を? 無理ゲーじゃないやつでヨロシク?」

「なぁに簡単な事だ。村が燃えちまった以上備蓄品が足りねぇし、冬越えに備える必要もある。そこで茉莉、テメーは当分村全員を養えるほどの塩造りと食い扶持の維持だ」

「あー、塩漬けに必要ってことか。食い扶持ってのはケータイ作りに人数使うから狩りでもしとけってことかな? あと可能なら冬服作りとか?」

「よくわかってんじゃねぇか、流石は茉莉先生だ」

 

 もとより記憶があった為だとは言わないが、いやでも心配になっていた事実を言い当てられたような気もする。

 たしかにその仕事ならば少ない接点で行動できるし、その接する人物も千空に限ることもできるだろう。村全体と関わるのは今は遠慮したいが、それならばなんとか精神崩壊まではいかないかもしれない。

 逃げ出したいと考えていながらもこうやって仕事を与えられてしまうとどうも逃げられない私がいて、甘えと言えばそうなのだろうが、結局のところ私は彼のそばに居たいと願っているのだろう。

 

「……千空君、村の人たちの家作るなら暖炉作れる設計にした方がいいと思うよ。3700年前と違って今の冬はよく雪が降るから」

「あ"ー確かにな、そういう指示は出しておく。なんか必要なものはあるか? 用意しといてやる」

「んー、塩づくりのために拠点を海辺に移すけど基本自分でなんとか出来る。ただ鍋とできた塩を保存する容器と、可能であればトラバサミとボーガンが欲しいデス。獲れた獲物はある程度バラして村にお届けしマス」

 

 ヨロシクお願いしますと頭を下げると、千空は喉を震わせて笑い私の髪をわしゃわしゃと荒らした。

 撫でる、という表現は使えないほどの荒らし方だった。

 

「──一応言っておくが、テメーの帰る場所はもう出来てんだよ、間違っても一人でツッパしんじゃねぇぞ。それに、あ"ー、あれだ。テメーが思ってる以上に、俺はテメーを信頼してんだ、だから茉莉、テメーも少しは俺を頼れ」

「…………考え、とく?」

 

 頼れと言われてすぐに頼れるほど私はできた人間ではないし、何を頼ればいいのかわからない。けれどそんな私を信用してくれていると、初めて千空の口から聞いた気がする。

 現代人が身近に居ないせいで私なんぞにも信頼を寄せなければ千空はやっていけないのであろう。

 ならば私も、ほんの少し。微力ながら力を貸せたらいいななんて思いも湧いてくる。

 

 運命を、物語を変える気なんてさらさらないが、私が出来る最善を、千空のために、推しが笑ってくれる未来のために、ほんの少し、頑張ろう。

 

 たとえそのせいで自分が壊れてしまったとしても、全ては私が背負うべき問題だ。

 恨むなら、こんな世界に生まれたことを恨めばいい。

 

「千空君、ありがとう」

 

 君のおかげで私はただのモブになりきれる。

 推しの手駒Aとして、名のないモブとして、今は精一杯頑張れる。

 

 だから大樹と杠と合流したあとは、サッパリと、私との縁を切ってくれ。

 ただのモブより名のついた"キャラクター"達を頼ってくれ。

 

 それが正しい未来なのだから。そこに私は必要ないのだから。

 

 今だけは、味方少ない今だけは、少なからず君の役に出るよう、モブなりに頑張るよ。

 

 

 

 

 

 




千空パイセンの休んでろ発言から一気に病み、立ち直れなかったオリ主は千空の考えと真逆な考えにたどりつく。
いろんな意味の勘違いが勃発しているようです。
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