きゃっきゃっと聞こえる可愛らしい声に、私の頬は無意識に緩む。
何故だって?
そりゃ美人姉妹がワイン作ってりゃそうなるよ。
美人姉妹の足踏みワイン、絶対現代なら売れたに違いない。私だって未成年じゃなきゃ買っている。いや、既に現代とか関係ないから買ってもいいのだろうか?むしろすでに未成年ではないし?
来年あたりのドラゴの発券に期待するとしよう。
「──茉莉は何をやってるんだよ?」
「ん? スイカちゃんか、お疲れ様。私は冬服の準備だよ。ほら、私も千空君も、ゲン君も持ってないからチクチクとねー」
猟に出てたり保存食を作ったりするのも大切なのだけれども、こればかりは村人に頼めない。彼らだって焼けてしまった分の冬服を作らなきゃならないだろう。なるべく私ができることは自分でしなければなるまい。
フンフンと鼻歌まじりで毛皮をチクチクとしていると、いつのまにか周りにスイカ達子供が集まっているのがわかる。
その理由はわからず何故群がられるのでしょうかとそう聞けたいけど、まぁ聞けるわけもない。
だってみんなニコニコそわそわして私の周りを回るんだよ。聞ける訳ないじゃない。
子供達に囲まれる私、と言う状況が数分は続き、それが終了したのはワイン作りを終えた美人姉妹が声をかけてくれたからであった。
「みなさんは何をしているのですか?」
「こより作業はいいのかって、そこにいるのは茉莉じゃないか! なんでスイカ達に囲まれているんだ?」
「それ私がお聞きしたいのですよ、コハクチャン」
理由がなく子供に囲まれるなんて、そりゃもう恐怖ですよ。
そう答えるとルリがスイカ達にどうしたのかと尋ねてくれて、私はようやく囲まれたわけを知ることができた。
「だって茉莉がおうた歌ってるから、みんな聞きたいんだよ……」
「歌、ですか?」
「歌って文化はあったんか、この村に」
その文化が伝わっていたことにまず驚くもの、たしかにリリアンの歌声を聞いたときに初めて"歌"という文化に触れ合ったような様子はなかった気もする。と言うことは百物語か、もしくはそれには含まれない形で歌という文化は引き継がれていたのかもしれない。
とはいえ、ここで私のようなへんちくりんの歌を披露する訳にもいかないだろう。
はて、なんのこと?と首を傾げるも時すでに遅く、コハク達までもが私をキラキラとしたお目目で見つめてくるではないか。
どうしたものかと一度無言で微笑んで思考してみるも、なかなか良い案は浮かばない。逆に何を歌ってくれるのだとコハクがウキウキとし出す始末だ。全くもって、良いことがない。
「──私の歌なんか聞かなくても、ゲン君の方がいい曲知ってると思うけど?」
「茉莉さんの歌を、聞かせてくれないのですか?」
眉を下げて残念そうな顔をするルリと、唇を尖らせる子供達。そんな顔を見せられたら僅かに残った私の良心が痛む。
小さな村でそんな娯楽もなく生きてきた人間が、見知らぬ文化を気にするのは当たり前だろう。そしてそれを知りたいと願うのも、悪いことじゃない。
故に私は一つ息を吐き出して、喉を震わせた。
それは現代人なら誰でも知っている曲で、古くから伝わる歌。
日本人なら誰でも歌えるだろうし、歌ったことがない人間はいないはずだ。
「なんて歌ってるか、わからないんだよ」
「うむ、たしかに難しいな。茉莉、それはどう言った歌なのだ?」
「これは国歌といって、国の歌だよ」
「コッカ?」
「そこからかー、コハクちゃん達にわかりやすくいうと村の歌かな。その村に住むみんなの歌」
村という単位しか知らない彼らにとって国という言葉があるのか不明だ。
司帝国やら科学王国とは言っていてもその意味を本当に理解してる訳ではないのだろう。
3700年たった今でも、"国"が出来ていないのだ、人口もそこまで増えていない。元を正せばソユーズの乗組員の子孫だ、血縁上の問題があって増えることはなかったのだと思う。
皮肉な話だが、こうしてコハク達がここに存在していること自体奇跡に近いし、もしかしなくてもこれ以上の時が流れていればその子孫とも出会えなかった可能性すらあったのではないだろうか。
しかしまぁ推測は推測でしかなく、遺伝子学に詳しくはない私の思考などただの戯言だろうけれど。
「意味は確か、『あなたがいるこの世界が千年も八千年も、小さな石が大きな石になってそこに苔が生えるほど永遠に、長々と続きます様に』って意味だったような? まぁ、身近な人の幸せが永遠に続きます様にって願う歌だね」
「あんな短い歌なのに、そんな意味があるんですね……」
「日本語ほど訳のわからん言語はないと思うよ。だから多分、村には英語が混じってるんじゃない?」
数字の数え方もややこしいし、文字も漢字にひらがな、カタカナ等々伝えにくいったらありゃしない。
「で、他にはどんな歌があるんだ?」
「え、まだ聞く気なの? もういいんじゃない?」
「えー! まだ聞きたいんだよ!」
わーきゃーと騒ぎ出す子供らとそれを止めながらも私も聞きたいですと私へお願いするルリ。コハクは何故かもうすでに座り込んでるし、折角なので冬服を縫いながらにしようと案を出して、一旦皆で裁縫用具を持ち寄った。
子供ながらにスイカ達はきちんと縫えているし、体力超人のコハクも巫女様だったルリもそれをこなせている。人口が少ない分、やらなきゃならない仕事は多かったのだろう。
チクチクと服を縫いながら童謡を歌ってみればその擬人化的歌詞にコハクは突っ込んでくるし、ポップス系を歌えば意味の分からない単語への質問も飛んでくるわけで中々辛い立場へと追い込まれていく。
今ならば、現代科学を語って疲れ果てていた千空の気持ちも分からなくはない。
「もう疲れた。ので、いったん休憩でーす」
「えぇー!」
ブーイングする子達をよそに立ち上がり、縫い終わった衣類を持って千空達の元へと向かう。後方からまた聞かせてねという声が上がったのだが、知らぬふりをし続けた。
好奇心とは怖いものだとため息を吐きながら千空の元に行くと丁度よくそこにはゲンもいて、声をかけて二人の作業を中断させる。
一緒に作業してるクロムとカセキにごめんねと一声かけて、先程縫った冬服をばさりと千空にかけて調整が必要かと問いかけた。
「作業の邪魔にならないよう様に袖短めにしたんだけど、平気そう?」
「あ"ー、問題ねぇ。助かるわ」
「いーなー千空ちゃん! 茉莉ちゃん俺のもある?」
「あるよー。ゲン君は隠し道具多いだろうからゆったりめで作って、中にポッケつけてあるからね。あとゲン君は紫っぽいので染めてみましたー」
まぁ、冬服知ってたからそれに近しいの作っただけなんだけどねと一人で苦笑する。
着心地を聞きながら着丈の確認もし、ついでにゲンには冬に備えた靴も渡しておく。流石に真冬に裸足なんて凍傷になってしまいそうだ。
「茉莉ちゃんてなんでもできるんだね、ゴイスーいいお嫁さんになれんじゃない?」
「あ? 馬鹿にしてます?」
ニコニコとした顔でそう言い放ったゲンに私は真顔で言葉を返す。ゲンは褒めたんだよと手を振って私の言葉を否定するも、私には褒め言葉に聞こえるものではなかった。
「だってほら、料理できて狩りもできて、そんでもって裁縫もできるんじゃいいお嫁さんになるよね? ね、千空ちゃんにクロムちゃん! そうだよねカセキちゃーん!?」
「ん、まぁ、確かにそうなんじゃねえ? 俺はよくわかんねぇけど」
「茉莉ちゃんは手先も器用じゃからのぅ、いい嫁さんにもお母さんにもなるわい」
「嫁よか助手でいいわ」
「ホラ! みんなもこう言ってんのよ!?」
そう言われたところで私の心は何一つ動くことはない。
むしろ、ポカポカしていたものか一気に冷えていく様な気もした。
「──私は、嫁にも母親にも、助手にすらなれないよ。身勝手だしやれる事もちゃんとやろうとしないし、自分本位だし。異邦人だし……」
こんな自分勝手な人擬きを、私は人だと思えない。彼らの様にこの世界に馴染んでいない私が、この先の未来、誰かの横に立つ姿は思い浮かばなかった。
「ゲン君達には悪いけど、そういうの私には地雷なんで。今後は発言に気をつけてくださーい」
にっこりと笑って二人が着ていた冬服を剥ぎ取り、念を押す様にもう一度にっこりと笑顔を作る。そして次は自分の冬服作ろうとわざと明るい声をあげて背を向けた。
「……テメーの分、先に作ったんじゃねぇのか」
「そりゃ私より仕事をする人のを先に作るに決まってるでしょ? 君らがこの村の要なんだから風邪ひいてもらっちゃ困るし、私サイズは作りなれてんだから後でいいんだよ」
私はすでに4回も冬を越したんだぞ。自作のコートなんてお手の物だ。
二人の分が作り終えたしとりあえずは一安心かと息を吐き、そしてそう言えばと振り向いて思い出した事を四人へ向ける。多分言葉の意味が分かるのは二人だと思うが、クロムとカセキは銀狼あたりに聞けばいいだろう。
「寒くなる前にはベーコンできるよ。日持ちしないから皆んなで食べよう?」
「え!? ベーコン! ジーマーで!?」
「そりゃお有り難てぇ。村の奴らも喜ぶだろうよ」
ベーコンとはなんだと問い立てるクロムを交わし、私は一人その場を離れる。
ベーコンのほかに大人が喜びそうなおつまみも作ったのだが、それはまた今度伝えることとしよう。