凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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30 凡人、予言する。

 

 

 

 

「茉莉、テメェは今日からクラフトチームな」

「んー、うん?」

 

 いきなり何故そうなったのかと考えると目の前にいる人間が一人足りないと気付いた。

 いないのはクロムで、どうやら私はその代役に選ばれたようである。

 先日のベーコンパーティーがあったから周りの人間の視線は柔らかいものへと変化しているようだし、渋々とその指示に従った。

 

 そして今、私たち3人が作ろうとしているものは電子のギア、真空管である。

 

「真空管ね〜、ついに何だかも分からないもん登場しちゃった! いや、知ってるよ? 名前は知ってるけど実際それがなんなのって言われるとね……」

「現代人なんてそんなもんじゃない? 私だって知らんけど千空君が作るって言ってんなら作れるんでしょ。ってわけで説明よろしく」

 

 私が予備の電球をガラスで作っている最中、千空は真空管を理解しきれていない私達のために作業しながら説明をしてくれた。簡単に言えば電球の世界のギアでケータイの心臓部なのらしいが、それが上手く出来上がらない。

 

「あ"ー、配線の膨張か! ガラスに刺してある金属線がリン燃やした熱でちーっと膨張する。その数ミクロンの太まりでガラスが逝った」

「そんな精密な世界の話なのこれ!? じぁあどうすんのジーマーで……」

「相変わらずワシら一発じゃ上手くいかんの〜」

「あー、だから私がクラフトチームなのか。ガラス、量産すりゃあ良いんだね? 割れる前提で」

「おーそうだ、カセキ以外じゃテメェしか出来ねぇからな。頼んだ」

 

 たしかにガラス細工ができる人間はカセキを抜かせば私くらいだろう。故にトライアンドエラー前提の量産に私が選ばれた訳だ。ビーカーあたりならば作れるようにもなっているし、初めてやった時よりかははるかに腕が上がっていると自信を持って言える。

 こんな事にしか役に立たないが、精一杯頑張らせていただくとしよう。

 

 千空が新たな設計図を、カセキが必要部品を作っていると漸くクロムが探索から帰ってきた。その手には銅が握られており、微笑ましいくらいのつまらないダジャレ擬きを言っていて、私の頬はうっかり緩みそうになってしまう。だがそこはきちんと引き締めて真顔で視線をずらしておいた。

 

「ちょうどいいところに来たな銅」

 

 千空はカセキの作ったばかりの漏斗らしきモノに向かい銅のチューブを作り、それを使って金属線の膨張を防ぐ用に設計を変えて次作へ挑む。

 コレで真空管も完成かと喜ぶカセキの声は虚しく、その場に悲しい光だけが生み出されたのである。

 

「ヤベー、竹の熱線が、ソッコーで燃え尽きた……」

「んー、燃えたね。じゃあ次いこー」

 

 みんなが絶望する中、私はため息を飲み込んで次の電球を渡す。それを受け取って千空は何度もチャレンジを繰り返すも、残念なことに真空管ができることはなかった。

 

「……クッソ。竹のフィラメントじゃ真空管には根本的にもたねぇんだ」

「竹でダメならもっと強い材料がいるのだな?」

「何がいる!? 採ってくんぜ探検隊長が……」

「いや、無ぇんだよこの時代じゃあそんもんは」

 

 千空のその声に、みんなが息を呑み込んだ。

 

 だがしかし、私は知っている。

 名前は忘れてしまったが、ちゃんとそれが存在していることを。ちゃんとそれを見つけ出してくれる人がいる事を。

 

「でもまぁ、この時代だからこそのもんもあんじゃないの?」

「あ"? どういう意味だ」

「いやだって、私たちの時代から3700年も経ってるんだよ? なかったものが出来ててもおかしくないでしょ? 千空君は次の手でも考えてなよ、新発見は私達がするからさ」

 

 別に私は物語を変えるつもりなんてない。だからこの行為に意味なんてないのは分かり切っている。

 きっとスイカが運良くあの石を持ってきてくれて、そして真空管ができるに決まっている。

 それでも私は、推しの、千空の苦しみ顔は見ていたくないと思ったのだ。

 

「ほれほれいったいった。 クロム君、とりあえず溜め込んだ石でも出してみようかー。ついでに面白い石持ってきた人にはべっこう飴あげるって言えば子供らも手伝うでしょ」

「──いつの間にんなもの作ってたんだよテメェは」

「砂糖の破片固めただけの非常食ですが何か? 千空君にもひとつあげるよ、糖分は思考に必要だからね」

 

 ポイと千空の口へべっこう飴を投げ込んで、私は勝手に倉庫を向かう。後ろについてきたスイカにひとつ飴をあげて、二人で仲良く室内を荒らしてもみた。

 私やスイカは石について詳しくはないしどれが良いのかわからないけれども、それでも役に立ちたいと思うスイカの何て可愛げのある事だろうか。将来、私のような澱んだ人間にならないで欲しいと願うことも忘れない。

 

「茉莉ちゃーん、ちょっといい?」

「ん? べっこう飴欲しいの?」

「欲しいけど、そうじゃなくてね」

 

 にこやかに笑うゲンに呼ばれてついていくと、そこには石を拾い漁る村人達がいて、みんなが千空に協力しようとしているのがみてるだけで分かる。そのみんなに飴を配っていると、ゲンは私の方を見て笑って、茉莉ちゃんは挫けないんだねと、そういった。

 

「コハクちゃんもクロムちゃんも、てか俺も、この時代に無いって千空ちゃんの口から言われたらそりゃもう挫けちゃうのに、茉莉ちゃんだけは違うんだね」

「いや、私は挫けないとかそういう問題じゃないけど。ただ単に、そう言う可能性の話をしたまでだよ。運命ってやつは残酷だけど、戦わない奴に神様は微笑まないってどっかの誰かが言ってた」

 

 とにっこり笑ってみればその答えにゲンは唖然とし、それでもまた柔かに笑った。

 

「──じゃあ千空ちゃんは神様にゴイスー微笑まれてるねぇ」

「むしろ爆笑かもね」

 

 それこそ科学文明の途絶えた0から、千空は文明を築き上げるために戦っている。相手は司だけではなくそれこそ自然そのものと、千空は戦っているのだ。

 そんな彼に神が笑いかけないわけがない。

 

「だから大丈夫だよ。朝日と共に希望が見えてくる」

「えー、なにそれぇ、予言?」

「まさか、予言なんかじゃナイヨ。希望ってそんな感じでしょ?」

 

 うっかりと溢してしまった言葉を否定する事なく、私達は言葉を交わす。

 

 そしてゲンはその希望を見つけに行こうかと、新年を迎えたその日の朝方、まだ明かりのない闇の中、村人達を連れて千空をおこしへと向かった。

 

「気分一新、切替大事。そういうの俺の仕事でしょ?」

「……めんどくせぇなメンタリストは」

「新年か〜、でも石化の分体内カレンダーずれちゃってるし、もう自分の年もわかんないね」

「生きてた日数で考えろ」

「えぇ、千空ちゃんは?」

「6268日」

 

 生きてた日数なんて覚えてられるの千空だけだよと思いつつ、私はみんなの後ろをひっそりとついていく。

 何故ならばここにいた方がいいものがみれるからだ。

 

 特に意図せず並んで歩くクロムとルリの二人を見れるなんて眼福眼福。拝み倒したい。

 

 いくら目元をにやにやとさせていても誰にもバレることはないし、最後尾こそ最高な位置どりなのである。

 

 山頂にたどり着くとコクヨウが朝日を指差し、そしてスイカの手には青い光を放つ石が握られている。

 本当にスイカは出来る子だと頬を緩めていると、我らが千空パイセンも思わず口元を歪めているではないか。

 

「初めてみたぜこんなもん……」

「あ"ー、俺もだ! ウルトラレアな鉱石だな。クロム&スイカ、それと茉莉の超絶グッジョブじゃねぇか!! こいつは現代のフィラメントにも使われる原子番号74、タングステン。熱に負けねぇ全宇宙最強の金属だ……!」

 

 嗚呼、推しの笑顔ごちそうさまです。

 そして私にまでもグッジョブありがとうございます、それだけで死ねる。

 

 ぐっと緩みかけた頬を手のひらで押さえていると、いつの間にか隣に来たゲンが私の肩を叩きニヤリと笑った。

 

「本当に朝日と共にやってきたね。茉莉ちゃんって予言者か何かなの〜?」

「──予言者だったら、まだマシなのかもね」

 

 予言者だったら、ただ未来を予測する予言者だったらまだよかったのに。

 

 未来を知っていて、それも私のいない正しい世界を知っていて、未来よりも物語として特定の道筋を知っているだけの人間なんて、なんて気持ちの悪い生き物なのだろう。

 

「予言できるのなら、私の逝く末を知りたいものだよ」

 

 そう言ったところで、誰も答えてくれないことは知っているけれど。

 

 

 

 

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