スイカの活躍によりタングステンが発見され難航していた真空管作りが再開できると喜んでいる村人の中、何故だがウンウンと唸る現代人が一人、目の前で屈んでいる。
はて、こんな場面あったっけとゲンの隣に座ってみると何やら面倒な計算をしている最中だったみたいだ。
「なに、それ?」
「あ、茉莉ちゃん。これ? バイヤーな計算してんのよ、マジで面倒くさい。けど、せっかくだから調べとこうかなって」
そう言って地面に書かれた数字は身に覚えのないものだったが、なんとなく察することはできた。
多分これは──。
「一月四日」
「へ? 何が?」
「千空君の誕生日でしょ? 一月四日、石の日」
推しの誕生日は忘れないぞ。
とニコッと笑ってみるとゲンは驚いた顔をして暗算早くない?と私へ問いかけた。
「暗算? あー暗算ね。いや違うけど、まあそれでいいや。誕プレファイトー」
「ちょっと茉莉ちゃん!? 手伝ってくれるよね?」
「まぁ、気分が乗れば?」
クソ。推しの誕生日もうっかり話せないとかマジつらたん。
でもみんなからの天文台のプレゼントは欠かせないから何も知らないふりでもしておくとしよう。
私に話しかけてくるゲンを笑いながらスルーしていると、千空とクロムがライトを装備して探索へ出かける準備をし始めたのに気付いた。
もとより作り置いてあったライトは3セットで、千空とクロムが使って残りは1セット。
最後の一人は誰が行くのかと皆がソワソワしながら千空の指名を待っている様子が伺える。
勿論私は指名されても行く気はないので、万が一があったら刃物作りたいとでもお願いしてみようか。
まぁ、万が一なんてないとは思うけれども。
「発掘隊メンバー最後の一人は────マグマ! クソ硬ぇ灰重石採るにはバカ力がいる。ククク、仲良し探検トリオで潜りに行こうじゃねぇか! 楽しいお宝ダンジョンだ!!」
まさかマグマが呼ばれると思っていなかったコハクは目を丸くしているが、物語が変化がないから問題はない。それにあやしい目つきをしていたマグマにゲンが話しかけていたし、多分大丈夫だろう。
いやしかし、ついさっきまでゲンは誕生日の計算していたけど、私がうっかり話さなきゃ天文台のくだりは怪しかったのではないだろうか。
そう考えてしまうと、なぜだか急にお腹が痛くなったきた気がする。もしかして、私がいるせいでほんの少しの狂いが今になって出てしまっているのかもしれない。
全くもって私の存在が嫌になる。
ふぅっと一息ついてお腹をさすりながら三人を見送ると、これまたゲスい笑顔をしたゲンが何故か私の肩を掴んだ。
「やっといなくなってくれたねぇ〜、石神村から千空ちゃんがさぁ〜。みんな〜ちょーと聞いてよ! 素敵な話があるんだよー!」
「え? ちょっと離してくれまセン?」
「離すと茉莉ちゃん逃げるでしょ? だからダメー!」
無理矢理肩を組まされて、みんなの前で千空への誕生日プレゼントを作りたいとゲンは高らかに発言した。
「千空ちゃんの誕生日は三日後! それまでにプレゼントを用意したいんだけど何がいいと思うー?」
「え? 何がって天文台じゃないの?」
「え?」
「え?」
肩を組んだまま互いに顔を見合わせていると、コハク達は天文台とはなんなのだと私に問いかける。
もしかして、いやもしかしなくても、ゲンは望遠鏡を含めた天文台を作るとはまだ考えていなく、私が勝手に決めつけて発言したかのようにも聞こえたのではないか?
よく考えてみれば目の前にいるゲンが千空の誕生日を知ったのは今さっきで、そこからすぐ天文台なんてアイデアが出るとは限らない。
これは本当に、今更、私がいることによるズレが起こってしまったのではないだろうか。
こんな事があっていいのだろうと震える手を握り締め、私は顔を引きしめて天文台とは何かを皆んなに伝える。ここで違う何かになってしまったら、それこそ私がここにいる事が間違っている事の証明になってしまう。例え私の存在が間違いだったとしても、物語だけは変えるわけにはいかないのだ。
「とりあえずカセキはガラス二枚でレンズ作って、その他のメンバーで天文台を作ろう。ゲン君は望遠鏡任せていいかな?」
「茉莉ちゃんは何をするの?」
「私は必要になる木とか竹とか採ってくるよ。ホラ、便利なものもらったので」
そういって指さしたのは千空にもらった刃物セット。
この中には斧やらナイフなんかが数種類用意されているし、状況に応じて使い分けることもできるようになった。
「だからゲン君、任せていいかな?」
「──そっちも任せるからよろしくね?」
二人で頷き合って私は雪の積もる森の中へと足を向ける。
もちろん竹や木を入手しなきゃならないが、それよりも今は一人になりたい。パニックに陥っている頭を、思考を落ち着けたい。
村からだいぶ離れたとこまで足を進めるとその場にしゃがみ込み、ゆっくりと息を吐く。
よく見れば、寒さではないもののせいで手が震えていた。
あの時私がああ言わなかったらどうなっていたか考えたくもない。きっとうまい具合に物語通りにいった可能性はあるだろうが、そうでなかった可能性も五分五分。どう考えたって私がいるせいのズレがあるとしか思えなかった。
「ゲンが、考えたんだよ? 天文台だって。なのに、なんで……」
不意に目頭が熱くなる。
それが何なのか分かってはいるが、私なんかが泣いてはいけないはずだ。
「私なんかが側にいちゃ、やっぱり駄目なんだ……。所詮異物だもん」
自分勝手に生き残り千空と出会ってしまい、勝手に傷ついた果てに物語を狂わす異物、それが私なのだと、ここまで生きてきて初めて理解した。
いっその事生き残りたいと願わずに獣に食われて死んでいたならば、石化で意識を飛ばしていたのならば、もっとちゃんと千空から離れた場所で諦めて生活していたのならば、こんな事にはならなかったのかもしれない。
結局たらればの話にしかならないが、そう恨まずにいられない。
「いっその事──」
死んでしまおうか?
そんな考えすら脳裏によぎる。
私が死んだところで本来の正しい物語に戻るだけ。誰も損はしないし、何も変わらない。
ならばいっその事。
「──茉莉! 手伝いに来たぞ! 一人で木は運べないだろう?」
「……コハク、ちゃん?」
無意識にカバンの中の刃物を探し出している最中、私に声をかけてくれたのはコハクだった。コハクの後ろには金狼と銀狼もいる。
「いくら斧があっても茉莉には運びきれないだろう?」
「ゲンがさぁ、レンズってのはカセキのじぃさんがガラス作ってからじゃないと作れないからとりあえず茉莉ちゃんを手伝えって」
「一人でなんでもやろうとするな、私たちは仲間だろう? さ、千空を驚かせてやろう!」
そう言って伸ばされたのコハクの手。
重ねてみればひんやりとしているが無機物にはない温かさが感じられる。
「──あったかい」
「ん? 茉莉の手は冷たいな。手早く終わらせてあったかいスープでも食べよう」
「あ! 俺、茉莉ちゃんの作ったベーコンスープがいいー!」
「銀狼、我儘を言うんじゃない。あれは嗜好品だと言っていただろう、ルールを守れ」
「えぇー、いいじゃん。人数も少ないんだしぃ」
目の前で私の手を両手で温めるコハクに、くだらない事で言い争いをする金狼銀狼。
彼らは私からすればただのキャラクターだが、確かにそこにいて生きている。
そして私も同じように生きている。
彼らと私の違いは何なのかそんな事は分からないが、ただ一つ言えるのは彼らも私も今ここで呼吸をして生きているという事。
死んでしまおうと願ってしまっても、この温かさを振り解くことは私には出来なかった。
居ない方がいいと分かりきっているのに、彼等と生きたいと願う私がそこに居た。
別名、オリ主ズタボロ回