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「んで、テメーの目的はなんなんだ?」
必死に銅を集めている最中、ギロリと私を睨みつけたマグマは徐に口を開いた。
その言葉の意味を理解しきれない私はただ首を傾げるだけだったが、それすらも気に入らないマグマは激昂する始末だ。
「千空はまだ分かる、化学を使って司ってやつを殺っちまおうって考えてるってことはな。じゃあテメーは何のためにここに居る、テメーがそこまで村のために必死になる目的は何だ!」
マグマからしたら成り行きでも石神村の長になった千空がする事は合理的で苛つきはするが不安はない、でも私という存在がなぜ千空に従いマグマ達石神村の住人に指示を出すのか理解できずに気に入らない。というところだろうか?
私にマグマの考えなんて分かるわけないがこれはこれで面倒な事案ではある。
何ともまぁ面倒くさい。
一度深く息を吐きマグマに視線を向ければ、何故だがコハクも銀狼も真面目な顔をして私を見ているし、見当外れな事は言い辛い雰囲気でもある。
なら仕方ないと私はもう一度息を吐いて、私の思いを口にした。
「私の目的はただ一つ、君たちを生かす事だよ。当たり前でしょ」
「あ"ぁん?」
「それは、どういう意味? ちょっと俺にはわからないだけどぉ!?」
「そのまんまの意味だよ、本当に。だって石神村の人間は全員、おじさんの、百夜さんの血を引いている千空君の親戚だしね」
ただ、それだけ。
3700年という月日を超えて繋がれた、百夜の置き土産であり希望。それを失うことは、これ以上あってはならない。
「宇宙にいたクルーは全部で六人。その子孫が君達石神村の住人で、千空君に託された命。君達が思っている以上にその命は重く尊いものなんだよ? 気づいてる?」
「命は尊いものだが、なぜそこまで茉莉が気にするのだ?」
「科学知識のない現代人でもね、分かるんだよ。君たちの異常さが、そして危険さがね」
たった六人。
その六人からの血筋。
どう足掻いても変えられることのない遺伝子。何世代にも渡り繋がれてきた血脈だが、他所から異なる遺伝子を入れられない以上何かしらの障害が出ていないとは限らない。
「同じ血脈だけで増えていくとね、何処かしらに綻びが出るんだよ。見た目でわからないものだったり、生まれてきてすぐ分かるものだったり、そんな話、聞いたことない? もしかしたらコハクちゃんがそんなに強いこともそのせいかもしれないし、私たちが生きてた時代じゃ近親婚そのものは禁止されてたんだよ、遺伝子疾患が出やすいから。だからむしろ、ここまで君達が普通に暮らしていることが奇跡だと私は思ってる」
もしかしたら私が知らないだけで近親交配でも疾患が出ない論文でも出てたのかもしれないが、それを知る術は今はないし、確認できるはずもない。
故に私ができる事は、ただこの状況を維持する事だけだ。
この繋がれてきた血脈を、絶やす事なく次に繋ぐ、それが私の思いでもある。
「私はね、みんなに幸せになってほしいんだ。千空君がいればもう飢える心配も凍え死ぬ心配もないと断言できるから、その手伝いをしたい。私にできる事は限られてるって分かってるけど、そう願うのは悪いことじゃないでしょ? マグマさんが私が嫌いならそれで構わないけど、私はみんなが好きだし、君達のおかげで千空君は前へ進める。だから、役に立ちたい、ただそれだけ。支離滅裂で申し訳ないけど、本当にそれだけだよ、私の目的なんてものはない」
本当はこんな事話したくはなかったが、下手に嘘をついて嫌われるのはごめん蒙りたいのだ。
それにここには頭の働く人間はいないだろうし、私が話したところで遺伝が云々突っ込む奴はいないだろう。
じゃなきゃクロムとルリに関係するこんな話をするわけがない。
遺伝子云々は気になるところだがクロルリの邪魔は誰にもさせない、前科のあるマグマ、君には特に。
「茉莉は、私達のことが嫌いではないのだな?」
「むしろここまで良くしてもらって嫌えるわけないでしょ」
「──テメーの行動には裏がねぇとでも?」
「あったらもっと上手く隠してる」
「つまり茉莉ちゃんは俺がすすすすす好きっ!?」
「みんながねー」
全くもって面倒だな。
銅の詰まった籠を背負い私は一度マグマの目をじっと見つめ、そしてにっこりと笑ってみせた。
いつも通りの作り笑いだったが、無表情よりいくらかマシだろう。
「嫌いたきゃ嫌っててもらってもいいよ、問題ないし。ただ、村の為に働くのは利害一致してると思う。それに私なんてクソ雑魚人間君にならすぐ殺せるだろう?」
すんなりと殺されてやる気はないが、逃げる気は満々だが、力関係を見ればマグマの方が遥かに強いのだ、私なんかに警戒しないで頂きたい。
「────そりゃ、そうだな。テメーみてぇな雑魚いつでもぶっ殺せる」
「そうそう殺せる殺せるーってことで、この話はおしまい! さっさと帰って暖炉作ろうや、あったかいお家を作ってあげなきゃね」
そう言ってもう一度ニコリと笑いかければマグマは鼻で笑い、私より大きく量の入った籠を軽々と背負いなおした。
有難いことにその後の雰囲気は朗らかで、嫌な空気ではない。
籠いっぱいに銅を集めて帰れば、その後は当たり前のように暖炉作りに取り掛かることとなった。
ただ一つ、嬉しい誤算があるとすれば、あれだけ私を邪険にしてたマグマが割と積極的に手伝ってくれるところだろうか。
ああ見えて彼も石神村大好き人間なのだろう、私をすぐ始末できるという安心があれば村の為に頑張って働いてくれる良い若人である。
銅を溶かし、千空に助言を貰いながら無事に暖炉を作り上げれば爺さん婆さんからは物凄く感謝されたし、悪い気はしない。
千空センパイには良くやったとお褒めの言葉を頂けたことだし、本当に頑張ったのだと自画自賛した次第だ。
その後はゲンの手伝いでマンガン電池製作に取り掛かったのだが、残念なことにマンガン電池の歌は歌ってくれはしなかった。
直で聞いてみたかったのだが、やはりあれはアニメ仕様だったらしい。
たしかに現実世界で歌い出したらただのヤバい奴だと思い直したが、ゲンの顔を見て大きなため息をついてしまったのはいうまでもないだろう。
そんなこんなしていれば一台目のケータイが完成し、電話としての試験が始まろうとしている。
初めて電話を使うのはクロムとルリで、ゲスい銀狼の考えを必死ににやけないようにして私は聞き届けていた。
「向こうでルリちゃんが聞いてるよ。ほらぁ、クロムの本当の想い、言うチャンスなんじゃないのぉ? 今! ココなんじゃないのぉ!?」
緩みそうになる頬を力を込めてぐっと耐え、私は真剣な顔をするクロムを見つめる。
「通話スイッチ!」
「オンなんだよ!」
そして紡がれる、クロムの言葉。
「ルリ……! 見たかルリ、ヤベーだろ!! 科学はよ……!!!」
この空気の読めない馬鹿可愛い子は誰だ!
そうクロムだ!
本当に馬鹿可愛い良い子だよ全く。
背後で頭を抱える村人とは対象に私は吹き出して笑った。
この二人が結ばれるまで、死んでも死にきれなそうだ。
抑えきれなくプークスクスと笑っているとクロムは真顔になり私を見つめ、近くにいた銀狼までも意外そうな顔で私を見ていた。
含み笑いをしながらどうしたのかと尋ねてみれば、初めて見たからと意味のわからない言葉を漏らすだけ。
「茉莉ちゃんがそんなの風に笑うの、初めて見たなって思って……」
「そうだっけ? 私はいつもニコニコしてるけど?」
頬が緩まないようににっこりと、時折自分を保つ為に朗らかに笑っている気がする。
だがその笑顔とこの顔はどうやら違うらしい。
「なんかあれだな、そんな風に笑ってるとただの人間なんだなテメーも」
「──クロム君は私をなんだと思ってたの、一体?」
「意味わかんネェ奴」
「ソッカー」
あまりにも当たり前に言われるのでそうとしか答えられない。
意味がわからない奴と言われればたしかに私はそうなのだろう。
私だって私がなんなのかわかってないのだ、他人に言われて憤れるほどできた生き物ではないと思う。
言われてみれば、こんなふうに吹き出し笑いをするのはいつぶりだっただろうか。
石化する前か、それともこの世界を知る前か、思い出せないほど前には笑っていたような気もする。
生きる為に必死に学んで隠し通して、感情も思考もバレないように笑う事を選んでどれ程経ったのだろう。この生き方を選んだことに後悔はないか、ほんの少し疲れてきているのはたしかだ。
もっと自由に生きられたらなんて悲劇のヒロインになるつもりはないが、それでも"普通"に生きていられたらなんて思いたくもなる。
「──私だって、ただの人間なんだけどね」
幸か不幸か、いらない知識あるだけのただの人間。
けれど、この世界の住人になりきれてない出来損ない。
「私だって笑いもするよ?」
そう言って、私はまた朗らかに笑う。
先程までの笑顔とは違う、いつも通りの作り上げた笑顔で。
「……茉莉ちゃんは、さっきの笑顔の方が可愛いよ?」
なんて銀狼が困った顔で私を褒めてくれるが、それに応えることはまだできない。
いや、この先ずっとできないのかもしれない。
「笑えるようになったらちゃんと笑うから」
そうとだけ伝えて、私はまたにっこりと笑うのだ。
余談ですが、奥歯が痛くて辛いです。そして今更ながらコナンにハマって漫画全巻欲しいです。