「ねぇねぇ茉莉、なんか歌って欲しいんだよ!」
「そうだな! 何か新しい歌でもおしえてくれ!」
「えー、もう嫌だよ」
レコードを聞いてからというものもう一台のケータイ作りのBGMはリリアンの歌となったのだが、ここにきて私に災難が訪れる事となった。
それはつまり村人の知らない歌を教えろ、との無言の要求。ここ数日はもはや無言ではなく、子供達もコハクも暇さえあれば言ってくる始末だ。
千空やゲンに頼みなさいと諭してみても千空はもちろん、ゲンも逃げるので結局私のところに来てしまう。全くもって迷惑な話だ。
毎日の掛け合いとなってしまったやりとりをしていれば千空から声が掛かり、今後私たちが取るべき行動が下される。それは完成したケータイのうち一台を大樹と杠の元へと届けるというものであった。
「実行部隊は4人! エンジニアにクロム! 運搬にマグマ! 案内人にゲン! そしてサポートとして茉莉!」
「なぜ、私がサポート?」
「あ"? テメェは雪山登山とかやってんだろ、クロムとマグマはともかくメンタリストのサポートだ」
「ドイヒー! でもまぁこの装備で雪山とか慣れてないからしょうがないかぁ。よろしくね茉莉ちゃん」
私はしょうがなくないのだがな。
とは言ったものの確かに千空復活までの三年私は一人で冬も越してきたし、石化前も最低限装備で山籠りもこなしている。それを何故か知っている千空ならばゲンに私をつけるのも頷ける。
多分情報源はうちの両親と百夜だろうが確かめる術はないので黙っておくとしよう。
ケータイを届ける先は元東京の司帝国本拠地で、そこまでほむらにバレぬよう進まなければならない。普通に村を出てしまえばすぐにでも連絡を取られてしまう。
そのため千空は科学の力を駆使して爆鳴気、音爆弾を作り上げ、それの合図と共に武力vs科学の第一時stone warsの開戦となったのである。
「今だいけ! 逆サイド!」
三人とともに私も走り出すが内心村に残りたい気持ちでいっぱいだ。
ぶっちゃけ村でぬくぬくしていたい。だってヘマすれば弓使いさんに捕まるじゃないか。私、そんなに能力ない一般人よ?逃げられると思わないでほしい。
なんて考えている私の気持ちなんて知らない三人はさっさと進んでしまうし、ため息しか出てこなかった。
「チ! なんでこんなコソコソ出なきゃなんねぇんだよ!」
「いや、見つかったら尾けられちゃうでしょ」
「超〜苦労して作った極秘のケータイ作戦が全部バレて終わりじゃねぇかよ!」
「そして科学王国は壊滅となる」
「ちょっと茉莉ちゃんは変なモノローグいれないで!」
「サーセン、でも言い争いしてないで急ご。せっかくみんなが作ってくれた時間をダメにしたくないし」
言い争いって呼吸乱れて疲れるんだよとにっこりと笑って告げればマグマは眉を顰めながらも黙って進み出し、ゲンもクロムも頷いて足を動かしてくれる。
ある程度進んだところで私はカバンからとあるものを取り出してそれをそれぞれに配った。
「これ、カンジキね。雪の上歩いても沈まなくなる道具。あとそっちの板がプラスチック製ソリ、傾斜面はこれで滑って距離稼ぐよー」
「いつのまに準備してたんだ……?」
「んぁ? ソリは元々スイカちゃん達子供らと遊ぶように千空にお願いして材料分けてもらってて、カンジキは雪がつもり出した頃から作り始めたから持ってきただけだよ?」
「──千空ちゃんが茉莉ちゃんをサポートに入れたわけがゴイスーよくわかったかも」
カンジキの説明をしつつ足に装備してまた行き道を進み、傾斜でソリに跨り滑って下る。ソリはプラスチック製で猪とかに比べれば重くはないので使わない時は私がまとめて背負って歩く。クロムとゲンが私が背負うことに文句をつけてきたが、マグマが私の方が体力も力もあると謎のフォローをしてくれたので助かった。
そのかわり二人が少しショックを受けていたが、本当のことだし放っておくとしよう。
村からでてそこそこ距離を稼いだところで一度定期点検のためにクロムがケータイを一度組み立てると、ジリリリとけたたましいベルの音が響く。電話に出ようとするクロムをゲンが止め、そして眉を顰めてその真意を口にした。
「この段階でかけてくるってことは用件は一個しかないでしょ、見つかっちゃったのよほむらちゃんに。俺らは追われてんの。受話器で話したらケータイ運んでるのがバレちゃうからねぇ〜。俺らの仕事は今はそ知らぬ顔で進むこと……!」
「それに連絡のとりかたは一つじゃないしね」
「え?」
「え? ゲン君モールス信号、出来るよね?」
「できるけど、まさか俺がやるの?」
「それしかないじゃない? 私知らないし?」
普通に生きてる人間がそう簡単にモールス信号使えると思わないでほしい。
首を傾げて笑ってみればゲンは肩を落としながら了承してくれて、スイッチを片手にまた歩みを進めていく。
村からだいぶ離れたことだし今日中にほむらに追いつかれることはないだろうと考えてはいるが、どうなるかは分からないので距離を進めておきたい。
でも挟み撃ち作戦もあったと記憶しているし、そこまで進みすぎるのも良くないのかもしれない。
全くもって面倒なこの状況に泣きたくもなる。
ソリを使っている分早く進んでいると仮定して、私は日が落ちる前に三人に声をかけて早めに休息を取るように助言した。勿論三人はまだ進めると抗議してきたが、慣れない雪道で無理をするのは良くないと、ストレスから疲れがきてもおかしくないと適当に理由を並べて一日目の進行を止めることに成功したのである。
足を止めたならばまず先にやることは火をつけること。まだ夜は冷えるし、ぶっちゃけ私の足は霜焼けになっているのだ、早く温めたい。
鞄からガサゴソと鍋を取り出して雪を敷き詰め、そして用意した枯れ木と事前に持ってきておいた麻紐を使って"カツン"と火を起こす。
「なんだそれ!?」
「これ? ファイヤーピストンだけど? カセキのおじいちゃんに手伝ってもらって作ったんだ」
「はぁ? んなもん持ってんなら先に言え!」
「言っても火を起こすの私にはかわりなくない? あ、もしかして火打ち石準備してた?」
なんて雑談を交わしながら夜の定期点検をしている三人の横でお湯を沸かし、そして千空印のカップラーメンにお湯を入れる。ついでに魚の干物も焼くことも忘れやしない。
3分待てばカップラーメンは出来上がりで、干物の焼き上がりを待ちながらついでに食後のタンポポ珈琲を入れて暫しの夕食タイムだ。あっという間に夕食を完食した三人に足りなければ干し肉でも齧るかと問えば皆首を振り、私は珈琲を啜りつつ冷えた体を温めることに徹した。
「ほれ、寝るよー」
「は?」
「寝るよ?」
日が暮れるとリュックに敷き詰めて置いた毛皮を取り出して4人寝れるようにならべ、何故か拒否するゲンとクロムを突き飛ばす。マグマは寝れれば問題ないとそっぽを向いているのだが、いかせん二人が私がソコヘ入り込むのを拒否するのだ。
「待って、ねぇ待って茉莉ちゃん? ホラ、一応茉莉ちゃんは女の子なんだし少し離れて寝た方がいいんじゃない?」
「そそそそうだぜ? いくらなんでもくっつきすぎだろ?」
「ホー、つまりは私に凍傷になれと?」
よくよく考えてみていただきたい。
ほむらが村の監視のために一人で冬を越して入るが、今、この世界の日本の冬は3700年前より過酷なものとなっている。
彼らは知らないだろうが千空と大樹が目覚める前の冬なんて何度凍傷になりかけたことか。クロムもマグマも人数の多さから数で暖を取れたであろうし、ボッチの苦しさなんて知りやしないのだろう。ほむらが一人で冬を越すことが異常であって、雪山に一人だなんてたまったもんじゃない。
それにクロム、お前は別に純情キャラじゃないだろ気にするな。
ふぅっと息を吐いてにっこりと笑い、今一度二人に私を殺す気かと大袈裟に伝えてみれば渋々ため息を吐きながらも頷き、ゲンとクロムの間に私は入り込む。雪が降ってはいない分体が冷え込むことはないし、むしろ4人も人がいればぬくぬくとしてとても暖かく、冷え切った体が温まっていくのを感じる。
スゥスゥと両隣から寝息が聞こえてくる頃には頭上にはキラキラと星が輝き始め、吐く息の白さが際立った。
私は2人が寝たことを確認するとブルリと体を震わせて起き上がり、パチパチと燃えている焚き火に薪をくべる。三人を起こさぬようにお湯を沸かし、入れ立ての珈琲で再度体を温めた。
「テメェもさっさと寝ろ。足手まといにはなんなよ」
「……起きてたのか」
不意に私の入れた珈琲を奪い取ったのはまさかのマグマで、私を見下しながら舌打ちする。
ニッコリと笑ってさっさと寝ろとオブラートに包んで伝えてみればコレまた舌打ちをして、私の首根っこをつかんでポイとゴミを捨てるかのように寝床へと投げ込まれた。
「なぜ投げる!」
「寝ろ!」
「だが断る! ……てか寝れないから寝ないだけなので気にしなくてもいいんだけど? マグマさんも寝てなよ気にせずに」
「あ"ぁ、ビビってんのか? はっ、コレだから女は」
「いや、何にビビんのよ、それに女とか関係ないよね? 私が寝れないのは最早病気なんで気にせずにっ──て、そんなあからさまに距離取らなくても感染りませんが?」
病気と聞いて思い浮かべたのはルリの肺炎なのだろうなと思いつつ、精神的な病気だからと言葉を続ける。
寝れない理由を言っておいた方が後々面倒にならないだろう。
「死ぬ夢を、永遠に見るんだよ、ずっと。石化してた時も今でも、死ぬ夢をずっと見るんだ。だから寝れない」
「……あ"?」
「殺され続ける夢を永遠に、だから寝ない方がマシなんだわ。──火の番と見張りは私がするから寝てなよ。二、三日くらいなら死にゃしないよ。足手まといにも、ならない」
寝てみるこの"世界"に殺され続ける無様に死に続ける、嫌われ続ける振り払われ続けるばかりの残酷な夢。
それをみるよりは頭がガンガンと痛んでも体調が悪くなっても、寝ない方がマシなのだ。
残念だったなマグマ、私は睡魔に負けるほどやわではないのだよ。
「──寝ろや」
「え、話聞いてました?」
「寝ろ」
「え、無視ですか? だから寝れないって言ってんでしょが」
「…………テメェ、死ぬぞ」
「ソダネ、死ぬかもね」
ははっと乾いた笑い声を漏らせばバチっと私の頭をマグマが小突く。そして面倒くさそうにもう一度寝ろと不機嫌そうにつぶやいた。そして──。
「寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ」
「寝ないけど、コレはうざい」
寝ろ寝ろうるさいマグマに押さえ込まれるような形で横になり、しょうがなしに目を閉じる。
とは言ったものの結局寝れるはずもなく、夜が明けるまで私はただ星を見ていた。
あくる日マグマの隣にいる私を見てゲンが声を上げたのは言うまでもないだろう。
マグマさんは兄貴きしつな感じがする。