「いやもう、何が起きるかわからないね、全く」
「本当によぉ、マジでビビったわ」
「そんなにビビることなくない?」
マグマに拘束されたまま横たわる私を見たゲンは大声を上げ、その声で目を覚ましたクロムも奇声を上げて最後にうるせぇと悪態ついて目覚めたのはマグマだった。一方叫ばれた私はそこでようやくマグマに解放されたので起き上がり、グッと固まった筋肉を伸ばしたのである。
まだまだやる事が有るというのに朝から元気な奴らだなと微笑みながら冷ややかな視線を三人に向ければ、ぐぅと誰かの腹が鳴る。ギャンギャン騒ぐ三人の横でさっさとお湯を沸かしカップラーメンの準備をし、さっさと食し私たちはまた司帝国本拠地へ足を進めた。
道中何度もゲンとクロムから今朝のアレは何だったのかと問われるも特に伝えることはないので私はただ首を傾げ、マグマは馬鹿が馬鹿をしてたから悪いと何故か全責任を押し付けてくる。ナチュラルにディスられてる気もするが、気にしたら負けだろう。
「そんなことより、ちゃんと連絡取れてるの?」
「そんなことよりって、まぁちゃんとモールス信号で現在地を送ってるし問題はないんじゃない? でもさぁ、俺からしたら今朝の出来事の方がゴイスー気になるのよ、ねっ、クロムちゃん」
「そりゃ気になるに決まってるだろ? あのマグマだそ? 茉莉嫌いが半端なかったマグマだぞ? 何があったんだっつーの!?」
「うわぁ、衝撃の事実。私そんなに嫌われたんですかねマグマさん」
「ケッ」
まぁ、好かれてはいないと分かっていたけどそこまで嫌われてたとは思ってなかったわ。
とは言っても嫌われてようが私がするべき事は変わらないし、むしろ嫌われる様な行動が多いのも理解している。
故に深く追及することやめておこう。
ある程度進んだところでゲンは私達にだけ見えるようにニヤリと笑い、小声でほむらが私たちを追尾しているようだと教えてくれた。もちろんその情報源は千空であり、ストーンワールドでの情報戦がすでに勝ったとも言えるだろう。
ゲンは森の中へ入り込むとマグマが背負っていた通信機を揺らし、困ったように眉を下げる。そしてほむらが居るなんて知りません、なんて顔でクロムに頼み事をしたのである。
「ダメだ、リームー。電波拾えなくなっちゃった。本体木の上からなんかに立ててみてクロムちゃん」
「おうよ!」
といってもクロムに手渡したのは道中私が必死こいて作った偽物電波塔。こうなる事は分かっていたので事前に道具を準備し、集めた木の枝を抱えてマグマの前を歩いて、バレないように作った工作品だ。
私が作るとは思っていなかったが一応ゲンに頼まれたものだし、流れを変えたわけではないから別に影響はないだろう。
クロムが偽電波塔を取り付け終えると私たちは一旦身を隠し、そこに現れるであろうほむらを待つ。有難いことに数分もしないうちにほむらは現れて"ちゃんと"確認してくれたようだ。
マグマと金狼の手で樹が折れて倒れ行く最中、彼女を拘束したのはメスゴリラことコハク。本当にいい働きをしてくれる。あの細い体にどうしてあの筋肉量が収納されているのか千空にそこを科学で判明させていただきたいものだ。
「ハ! たしかにいかに素早い敵でも現れる場所とタイミング! 全ての情報を制すれば無傷で確保も可能だな」
「ククク、唆るだろ。これが科学王国の情報通信戦争だ!!」
そんなやりとりをしている二人に、私は一人心の中で想いを吐き出した。
たしかに情報も大事だが、それを実行する人が居なくてはどうにもならないのも戦争なのだ。科学力の千空、行動力のコハク。そしてほむらを騙すことの出来たゲンが居たからできたとも言えるのだ。誰かが欠けていたら違う結末になっていたかもしれない。
それが本来人が歩むべき"未来"なのだろう。
私のように、知っている人間がいるのはやはり場違いだ。
その決められた"世界"に介入するなんて馬鹿げてる。
「ふぅ。とりあえず進もうか」
「おおおし! いよいよ情報戦最強武器ケータイのご到着だぜ、司帝国によ!」
今更悩んだところで既に私は存在してるしどうにでもならない。
ならせめてこの先はモブに徹しなくては。
ストーンウォーズに介入しまくって推しに怪我でもさせたらまじで死ねる。
その後の進行は順調そのものだった。
監視役のほむらはいないので騒がない程度なら会話もできるし精神的にも余裕があり、そのおかげか司の本拠地についたのはまだ日が明るい時間帯。
「着いたぜついに! ラスボス司の本拠地によ!」
「シーよ、そろそろクロムちゃん。司ちゃん軍に耳ゴイスーなのとかいるんだから」
「おぉぅ、悪い! ヤベー、せっかくここまで来て見つかったら……ッ!!」
ガシリと、クロムが掴んだのはとある石像の頭だった。
否、名前もわからない石化した人類だった。
額には血で33と書かれていて、少なくとも32人は復活しているのだろうと私にもわかる。
思っていたよりもペースが早いと冷や汗を流すゲンを横目で見ながら、私はその石像の中に見知った顔がないかだけを確認した。
しかしまぁ、私の見知った顔=ご老体なので司には殲滅対象になってそうだけれども、万が一に選ばれてたら技術的に嬉しいなとはおもっている。絶対にない、だろうけど。
「司軍の連中ガンガン仲間に引き込んでもよ、もっとガンガン戦士作られちゃ意味ねぇな!」
「うんそうだね、ちょーっとズイマーだねコレ……」
「でも奇跡の水を量産できないだろうし、ある程度のペースは決まっているのでは?」
「あ? んなもん今ここで番号付きの石像全部ブッ壊しちまえばいいだろが」
「あー、そういえばそんな人だったねマグマさん、うん、知ってたー」
目を見開く二人に挟まれた私は、ただ柔かに笑って頷く。
「それすらめんどくせぇ。腕でも足でも適当にバキバキちぎっときゃ、もう戦力になんねぇよ」
「エ……エグいなマグマテメー」
「自分の敵には容赦ないよねジーマーで」
「いやでもそうだった、そういう奴だった! なんか味方っぽくなったから忘れてたぜ、今朝のこともあったし……」
「俺なんか一回殺されてるしさ、忘れてたね……」
「でもそこまで潔いのはマグマさんの美点だよねぇ。じゃなきゃ生き残れないでしょこんな世界じゃ」
私、キャラ立ちとしてのマグマ嫌いじゃないもの。
ある意味すごく人間らしくて、とことんやれる強さなんだろうなと思うくらいに、嫌味らしいゲスいところが人間ぽくて好きだなと思う。
私一人云々と頷いていると何故かクロムが私の手を引いてマグマとの距離を開け、ゲンは私の方を一度チラリとみてから石像を壊す事が、今はベストなんだろうなと囁いた。
その言葉を聞いたマグマは持っていた斧を素早く振り下げ薙ぎ倒そうとするも、それは止めたのは壊すことがベストだと言い切ったゲンだった。
力の差が歴然としているのに、一度殺されかけたこともあるのにそれを止めるなんて、本当にゲンもすごい人間だと感じる。
「いや〜リームーリームー! な〜んにも悪くないからさ、この石像のみんなは。せめてド悪人とかだったらね〜。人間、リアリストぶってもさ、いざ自分がジーマーで手ェくだすってなるとね、弱いね〜実際! 弱い……。だからこそやっぱそれができちゃう司ちゃんはバイヤーすぎんのよ、止めないと──」
「まぁマグマも今、余裕で石像ブッ壊そうとしてたけどな」
「あ? こんな知らねぇ連中どうだっていいじゃねぇか!」
「マグマさんにとってはただの見慣れた人型石像なだけだしね」
「茉莉ちゃん、納得しないでね!? ほんと、味方でよかったジーマーで……」
「いやでも、マグマさんにとっちゃ知らない人間カッコカリで、石像だし、敵味方ないんじゃない?」
漫画でも石神村の誰かがあの石像が動いたんじゃないとかなんとか言ってた覚えがあるし、人と認識してない可能性もなくはない。
そう思えば本当に今目の前にある石像が人間だし殺人になるのかな、なんて考えることしようとしないだろう。
千空という存在を知っていたとしても、ゲンや私と出会ったからだとしても、実際にあの現象を、石化からの復活を見たわけでも体験したわけでもない人間がはいそうですかなんて信用できるはずもない。
それもあのマグマだぞ?
体験しなきゃ、本当の意味で理解出来るとは私は思わない。
かつての人類が石化したツバメを彫刻と疑ったように、疑うことが当たり前だろう。
「茉莉ちゃんって、案外マグマと気が合う感じ……?」
「エグいことしようとしても止めようとしねぇしな」
「ん? だって私じゃなくてゲン君が止めると思って。それにさ、邪魔だから排除する、は基本でしょ?」
だから私は、この世界からできるだけ私の存在を消そうと必死なんですけど。とは言わずにしておこう。
にっこり笑っておけばゴクリとクロムの喉が鳴り、何故かマグマからはよく分かってんじゃねぇかと褒められた。
いやね、ほんとは私モブになりたいだけなのだけれども。
予定調和を乱す私はさっさとモブ1になって、復興を陰ながら応援するだけにしたいいやマジで。
当初の予定ではクロムが捕まるとこまで行く予定だったのに……。
久々すぎて文章かけないよ