凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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千空のターン。ただ一人称ではなく三人称で。


4 科学者と少女

 

 

 

 

 

 その少年、石神千空には3700年振りに会った幼馴染みは少し大人びて見えた。

 

 

 

 石神千空と左藤茉莉は物心ついた頃には隣にいた幼馴染で、千空からしてみれば第二の家族といっても過言ではない存在ともいえた。

 親同士もそれをよしとしていたし、気づけば短い足を必死に動かしてついてくる泣き虫な女の子、それが千空からみた茉莉の印象でもある。

 彼からしたらこれから先も何も変わることはなく、こんな関係がずっと続いていくのだろうと疑うことすらなかった。

 

 しかし日常が変わったのは、本当にひょんな出来事からで、誰も、それこそ神ですら予知する事はできなかったのだ。

 

「宇宙に行く」

 

 躊躇いなどなく言い放った将来の夢。いや、彼からしたら将来ではなく今すぐに叶えたい夢を語ったその日、茉莉は小さな悲鳴をあげて椅子から転げ落ちた。軽く頭を打ち失神した彼女に周りは驚いたが、千空からしてみればそれほど驚くべき事柄ではない。

 左藤茉莉は運動神経は悪くないものの、世間的にはドジっ子と呼ばれる行動を起こす事をよく知っていたからだ。よく千空の後についてまわり、転んで泣く。それが当たり前で転んだ後はケロリとして笑うのが千空の知る茉莉という少女でもあった。

 

 だがそんな彼女を知っていたからこそ、その後の行動が理解できなかったとも言える。

 

「おい、茉莉大丈夫か?」

「んー、うん、大丈夫かなぁー」

 

 何ら変わりない質疑応答。ただそこには微かな違和感を千空は覚えていた。

 いつも通りのケロリとした笑顔に見えるがどこかぎこちない。頭でも打って痛みを感じているのかと思いそっとしておくことをその時は選択したが、それが誤りであったと気付くのは遥か未来の話である。

 

 その日を境に茉莉は千空を避け始め、一ヶ月もすれば親までもが心配して仲を取り持とうと口を出してきたがそれすら失敗に終わり、逆に生暖かい目をする百夜を千空は酷く嫌悪しその原因を生み出した茉莉に怒りさえ抱いた。

 けれどもそれをぶつけようとしても茉莉は千空と目も合わせなければ挨拶も交わさない。

 身勝手に縁を切られたような行動にさらに怒りも溢れ出す。ならばもう知らぬと千空は彼女を同じように無視し始め、自分の探究心にのみ目を向けることとなった。

 

 

 それから一年二年と時が流れるにつれ幼なじみだったという記憶すら薄れ始めた頃、嫌でも彼女の名前を耳にする機会が増えた。

 それは千空が科学に没頭するように茉莉はサバイバル技術に没頭しているということ。それだけならまだ良かったが、それ故に変人扱いされてイジメの対象になっていると風の噂で聞いたのだ。

 一度、ほんの少し気になって彼女の様子を探ってみたがそこにはかつての泣き虫の姿はなく、目の下にクマを作りながらも不敵に笑う見知らぬ少女へと変貌を遂げていた。

 気にする事が無意味だったと、もうあの時の幼馴染みはいないのだと脳の奥底で認識し、左藤茉莉という少女のことを本当の意味で気にすることをやめたのである。

 

 それから二人の関係は幼なじみから顔見知りへと変わり、特に交わることのない生活を互いに送っていた。

 時折思い出したかのように百夜が話題に出すも知らないで通し、いつの間にか隣に住んでいる縁として知り合いになっていた大樹と杠にも聞かれる事があったが無視を決め込む。

 あれ以降のことは何も知らなかったのだから

 知らないというのは嘘ではない。

 

 何の進展のないまま中学を卒業し高校へ上がれば腐れ縁は切れるだろうと千空は考えていたが、何故だか同じ高校へと茉莉は進学していたことを千空は入学式で知る。

 千空が大樹や杠と合わせて高校を選んだせいもあるかもしれないが、茉莉と同じクラスになってしまった時には眉間に皺を寄せてしまったものだ。

 かと言って長年の関係が変わる事はなく、会話もなければ挨拶もない。

 時たま茉莉からの視線を感じることもあったが彼女から話しかけることもなく、大樹と杠が引き合わせようとするものの面倒臭いで逃げ回る。一度会ってしまった方が面倒ごとは減り合理的かと思考するも、やはり長年のわだかまりが邪魔をする。

 特にこのままでいても問題はないのだと今後もこの関係は変わる事はないのだと二人にも自分にも、言い続けていた。

 

 

 

 

 しかしながら運命というのは残酷で、3700年の時を超えて二人は対峙することとなる。

 

「3700年ぶりだね千空君、漸くお目覚めだね」

 

 そう言って笑う彼女の笑顔はどこかぎこちない。けれどそれ以上に気にかかったのは彼女の言った言葉である。

『3700年ぶり』という事は彼女は自分と同じように石化の最中に意識を保ち、時を刻んでいたという事実。この世界中のどこかに自力で石化を解いた人間がいる可能性は考えてはいたが、それが彼女、茉莉である可能性なんて考えてもいなかったのだ。

 

「ククッ、まさか俺より早く目覚めたのがテメェーだとは考えてはいなかったぜ。 で、現状は」

 

「んー、生活基盤はほぼ完成。 今は塩作ったり服作ったり備品増やしてる感じかな。 って事で服持ってくるから待っててよ、流石にそれじゃ怪我しそう」

 

 そう言ってツリーハウスへ向かう茉莉を見て、千空は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 幼い頃の面影を残しながらも目の前に存在している少女はもはや"少女"と呼べるほど幼くはない。そして何より己を見つめた瞳の奥に得体の知れないモノを感じたのである。

 

 

「私は科学なんてわからないからさ、やりたい事は好きにやっててよ。 生活は何とかできるけど科学に関しては指示がなきゃできない事が多いからそこは理解してね」

 

 衣服を整え無言の時間が終わると、ふと彼女はそう呟いた。

 彼女曰く、生きる事はできるけど発展させる事はできない。自分より三年より早く起きた彼女だけではこの生活が停滞する事があっても進む事はないのだと。

 まるで誰かが起きる事が分かっていたかのように用意されていた一人には多すぎる土器や保存食、石で作った武器に彼女では利用価値のない石灰。それらを自由に使って良いと彼女は笑う。

 

「そりゃありがてぇ。 生活はテメェに任せる。 まずは石化を解くルールを探さねぇとな。 で、茉莉テメェはどこで目覚めた?」

「んー、洞窟の真前」

 

 そういえば意味が分かるだろうと言うように不敵に笑う彼女にやはりそうなのかと千空は考えを巡らせる。

 目の前の少女、茉莉は既に石化を解く手掛かりを持っており、それを現実にさせる人間を、つまりは千空を待っていたに違いない。じゃなければ数千年ぶりの再会に動揺することもなければ当たり前のように接するなんて無理だろう。

 

 この世界で3年過ごしたからか、いや、それよりずっと前、3700年前から泣き虫な彼女は強く(したた)かになっていた。

 どんなことにも屈せぬ精神を持ち、自分ができる最善を出し切り時を待つ女へと変わっていたのだ。

 己と同じように、常に考え行動する、そんな人間へと変わっていたのかと驚きが隠せない。

 

 

 遠い昔に切り捨てた関係が遥かな時を超えてまた繋がり、この文明の壊されたストーンワールドで共に並んで歩ける存在なのだと感じさせずにはいられない。

 

「全く、唆るぜこれは」

 

 そんな小さな呟きは彼女の耳へ入る事はなかった。

 

 しかしながら彼女を高評価する石神千空は何も知らなかった。

 そう、何も。

 彼女は強かでもなければ泣き虫が治っているわけではない。むしろ好きで好きで仕方ない人達を観察してニヤけないように口角に力を入れている。

 

 彼が賢明な男だったからこそ、その全てがただの勘違いであると気付けやしなかったのだ。

 

 

 




千空さんは賢い故に勘違い。
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