日本人ってさ、食に対しては変態的な国民種だと思うんだ。
美味しいならばと何故毒がなくなるのかわからないフグの卵巣糠漬けにして食べちゃうくらいに、生食すると激痛で悶える芋を石灰水混ぜて食べられるようにするくらいに食に対しての思いがべらぼうに強い。
千空だって猫じゃらしでラーメン作ってしまうんだもの、美味しいものは食べたくなるものだよね。そのための苦労なら厭わないわって精神がジーマーでヤバい人種が日本人なのだと私は胸を張って言える。
「って事でつくって閉まっておいたセイロ、満を持して登場」
帆船作業で出た要らない木材と、竹で作ったすのことセイロ。
これの作り方を私に仕込んでくれた爺様集には足を向けて寝られる気がしない。
そして何より、これは仕事ではない。
私の趣味だ。美味しいものを食べたいと願った、私の趣味の結晶としておけば千空に怒られない、と思いたい。
「……待ちに待った主食様の登場に、ついに歴史が動く」
なんて自分でも意味もない事を呟いてしまうくらい、私のテンションはマックスまで上がっていた。
石化復活から食してきたものに主食はなく、これでようやく美味しい炭水化物の食事にありつけるのだがら、そうなっても致し方ない。あきらめてくれ。
そうして私はニヤける頬に必死に力を入れ、米俵(のようなもの)を背負ったコハクの後をおったのである。
「今この瞬間から私たちは、自然の恵みを取るだけではなく、知恵と力で自ら食糧を創るのだ……!」
気球で見つけたのであろう小麦はもれなく栽培されていく。
だかしかし、その前にほんの少しだけソレを分けて欲しい。小麦を前にして我慢できるわけがないのだから。
「コハクちゃんコハクちゃん、麦を栽培しようとしてるのは理解しているんだけどね、その前に少し分けてもらってもいい?美味しいものを、食べたくて」
「なんだと……。茉莉、君はこの麦という作物の調理法がわかるのか?」
「なんとなく、だけども。やったことはあるし、猫じゃらしと同じ工程を踏めばより美味しいものがつくれる」
「ならやるしかないな!」
買収、完了です。
できればこそっと少量だけ作れたらと思っていたけれど、猫じゃらしラーメンの過程を知ってる人物はこの場でコハクただ一人。使える人材を使わない手はない。
小麦粉料理を作ってフランソワの復活を害するつもりはないし、長期保存のきくシュトーレンの作り方は全くもって覚えていない。
だってこの場にいる予定はなかったし、復活したとしてもそこそこ文明が発達した時期を想定していたのだ。作り方なんて知らなくても問題なんてなく、態々覚えようともしなかった知識の一つでもあったのである。
ならば何故小麦の挽き方から調理法を知っているかといえば、田舎のお婆様方の知恵を詰め込まれたからだ。
自家製小麦のパンは美味しいのよってよくお裾分けしていただいていたし、やはりどこかで誰かに無駄だといわれてしまう知識でも役に立つ日はくるものだ。石化後だけに限らずに。
私がのんびりと過去を思い出しているうちに小麦はパワーチームによって粉へと変えられており、ニコニコとした杠と大樹が私へソレを渡してくる。
私は粉を受けとると一度にへらと笑って頭を下げ、作り終わったらもってくるねとその場から逃げ出した。
別に麦畑を作る作業をサボりたいわけではない。むしろそんな作業したら千空さんから怒られる。
推しに怒られるとか誰得だよ、俺得だ。
とか言ってられる場合じゃない。蔑んだ目で監視されるとか、無理、しんどい。
だからこそ、仕事と思われる行動は謹んでギリ趣味と言い切れることをする。
決して言い訳ではない。
麦を手に入れたのならばセイロと鍋があれば割と簡単に蒸しパンはできるわけで、あと必要なのは毒のない葉っぱ。本日はサルトリイバラの葉を収穫して準備に取り掛かった。
作り方は簡単で小麦とふくらまし粉はお馴染み重曹さんで、砂糖も混ぜて葉に包んで蒸せばオッケー。なんて簡単なんでしょう。
一人でセワセワ用意しているといつの間にかスイカと未来がいて、チリチラとこちらを気にしてる人たちも多い。
蒸し始めれば甘い香りもしてくるし、バレないようにやるのなんて無理なのだ。小さめに量を作ってお裾分けするとしよう。
同じモブとしてよろしく。ただの賄賂です。
「ゴイスーいい匂いー!えー、茉莉ちゃん何作ってんの?」
「んー、蒸しパン。秋になればさつまいもとか入れても美味しいよ?」
「ジーマーでバイヤーなんだけど!茉莉ちゃんって唐突に飯テロかますよねぇ」
「でもまぁ、作れるものしか作れないけれどね」
出来上がったばかりの熱々のソレをゲンに手渡すと彼は嬉しそうに笑い食し、そして何やら悪い事を思いついたようにニヤリと頬を歪めた。
「茉莉ちゃん、コレ、使ってもいいかなぁ?」
「どうぞー」
一、二個だと思いきやゲンはごそっそと蒸しパンを持ち去り、私はゲンが何を考えてるのかを気にして後を追う。
彼が向かった先は大樹達が小麦畑を作ろうとしている場所で、やる気の無さそうなメンバーがチラホラと見てとれた。
「やーもー、限界じゃねコレ暑すぎて」
「なんだいだらしないね。自分らの食い扶持を作ろうってんじゃないか!」
「そんなマグマちゃん達に茉莉ちゃんからプレゼントだよー!っても数は沢山ないから一番頑張った人だけかもねぇ?」
と言いつつゲンは蒸しパンをパクつき、ソレを見ていた陽からは涎がたれた。
「──ゲン、それって」
「茉莉ちゃん特製、麦の蒸しパンだよ?ゴイスー美味しいなぁ。あ、俺が頑張って全部食べるのもアリ?ねぇ、茉莉ちゃん?」
「あー、うん?ありなんでは」
蒸しパンでやる気を出させる、というのはまぁ良い案かもしれない。
けれど、何かが違う。
何が違う?
知っているような、そんな気がするのに上手く思い出せない。
そういえば最近"記憶"を確認していない。
もう私には不必要だと思いたくて、読み込んでなかったのが悪かった。
「……なにも、変わってなきゃいいんだけど」
こんな急に不安にさせる何かが訪れるのならば、ちゃんとしておけばよかったのに後悔はいつだって後からやってくるものなのだ。
オリジナルパート入っても良さそうなので、時々入ります。