凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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55 凡人、決定付ける。

 

 

 もう正直逃げ出したい。

 なんでって?ニッキーは忙しいから来れないと思っていたのに、颯爽と現れたからだよ!カセキと南と一緒にな!

 

 戦車を改造してたであろう車にはカセキがスーツを着て乗っていて、南とニッキーはサングラスを着けている。到着したてのニッキーにあっちの仕事は大丈夫なのかと問えば、千空から呼び出しだと知った大樹が代わってくれたとのこと。

 おのれ大樹、この恨みいつか大杠で支払ってもらおうか!

 

「んじゃ茉莉、歌ってみろ」

「え、いやぁ?」

「その前に私の!私の願いを叶えるのが先でしょ⁉︎」

 

 千空に詰められているとちょうど良く南が間に入ってくれて、一旦ソレは保留となる。

 千空はソレもそうかとカセキにクラフト内容を耳打ちし、やる気は溢れたカセキは出来立てのスーツは破ってしまったのだがそれはお高かったのではなかったのかとほんの僅かばかり心配になった。

 

「ヨホホ、茉莉ちゃんは連れてくぞい」

「おー、そっちは任せた」

「え?急に仕事なの?」

「そろそろテメェも工作してぇ頃だろ?目につく範囲にいりゃ問題ねぇ」

「──ワーイ」

 

 監視付きのお仕事なんですね、千空さん。

 私、そんなに信用ありませんかね?

 

 内心悲しくなりながらもにっこりと笑ってカセキの後を追い、作り始めるのは大量のカメラ。フィルム部分は千空とクロムが作るらしいしので、私は大人しくカメラとなるべく木材を用意していく。

 

「──ホウ素炭素窒素、酸素フッ素ネオン」

「スルッと暗記」

 

 二人で作業する最中、どうやら歌を覚えてしまったらしいカセキが口ずさむ。私もそれに合いの手をいれるも、どうしてカセキまでもが覚えてしまっているのか気になった。

 

「ねぇ、カセキのお爺ちゃん。なんでそれ歌えるの?」

「だってみんな歌ってるんじゃもん」

「みんなとは?」

「みんなじゃよ?どーも頭に残ってのぅ」

 

 オホホもカセキは笑い出すが、私からすると笑い事ではない。

 スイカ達に教える歌をみんなが歌えるってどういう状況なんだよ。教えて偉い人。

 

 悶々とした気持ちの中十数個のカメラ本体を作り終えると、千空達はすでに鏡を完成させていて村の住人に配っている。自分の顔をまじまじと見たのは初めてだろう子供達の姿につい微笑んでいれば、千空達の話し声が聞こえてきた。

 

「鏡?南ちゃんが欲しがっていたのって」

「顔!美容‼︎すぐそれかよ」

「はっはー!無粋だなクロム、貴様は。女は皆美女だ、気にかけて当然だろう?」

「鏡も大事ですけどね、私が欲しいのは商売道具です‼︎」

 

「この鏡はな、フィルムだよ」

 

 どんな理屈で鏡がフィルムになるかを千空が説明している間に私は作り終わったカメラ達を台車に詰め込み、そのままコロコロとカセキと共に千空の元へと運ぶ。

 南の感動シーンを邪魔しないようにカセキに目で合図し、千空から彼女へカメラが手渡されるのを待った。数千年前にカメラを失った南はまたこうしてこの世界で商売道具と巡り逢えたことに感動し涙するも、それをぶっ壊していくのを得意とするのは我らが千空様なのだ。

 

「私、この一台で必ず撮るから!人類がゼロから文明を作ってく新世界の記録を──」

「あ"ぁ、撮れ撮れ。俺らも撮んぞ、気球から」

「まぁ、効率的に考えれば一台よりも沢山だよね」

「多っ‼︎」

 

 千空の後ろから大量のカメラを持って現れると南は涙を引っ込めて驚き、龍水はすぐに何故カメラが沢山いるのかに気付いた。

 流石五知将と呼ばれる未来がある男だ、察しがいい。

 

「空からの探索に、航空写真か……‼︎」

「目視なんざよか100億%話が早ぇ、その為にカメラ作ったんだよ!」

「そこは南ちゃんの為って言っといてよ。いい話した南ちゃんが馬鹿みたいになるじゃない……」

「せめて記念の一枚目だけは私に撮らせてぇー‼︎」

 

 それはまぁ、ごもっともです。

 その後は龍水が世界最初の一枚の権利を買うと言い出し、そのモデルに選ばれたのはもちろん千空だ。

 私は私でこの後の展開を知っている故にニヤけるのを必死に堪えて時が過ぎるのをただ待つ。

 だって見たかったんだもの。推しがノリノリの格好なのに顔が死につつポーズを決めるとこ。

 

 とっても眼福でした。ご馳走様です。

 

「あ"ーもういい、服なんざ気球の邪魔だ。撮りたきゃ勝手に撮れ!」

「せめてポーズとってよ!なんか!」

「それでは世界一有名な科学者のポーズなどはいかがでしょう」

「それ‼︎‼︎」

 

 そしてカシャリと撮られた最初の一枚はきっと後世に残るはず。

 でもいいのか?千空の舌ぺろ写真だぞ?

 複製できないかなとか、九割しか思っていない。

 

 一人ニマニマと歪もうとする頬を必死に押さえ込み、私は千空と龍水を乗せた気球が浮くのを眺めて行ってらっしゃいと手を振る。それを見た千空はニヤリと笑って、私へ向けて何度目かわからない爆弾を落としたのである。

 

「帰ってきたらソッコー聞かせろよ、元素記号!今のうちに練習しとけ」

「──ドイヒー」

 

 私はその言葉にがくりと肩を落とす。

 いい感じに忘れていると思ったのに、そう簡単にはいかないのねと。

 そんな私を慰めてくれたのはニッキーとゲンで、彼女達の手にはとある紙が握られているではないか。

 

 

「歌詞カード、ちゃんと作ってきたからね。千空を驚かしてやろうじゃないか!」

「俺も力を貸すからさ、頑張ろ茉莉ちゃん」

「──ニッキーちゃん、ゲン君。なら二人で歌えるのでは?」

「それはリームー♪」

「解せぬ」

 

 流石にいつまでも嫌々駄々をこねることはできず、結局私はニッキーたちと共に例の歌を歌う準備に取り掛かった。

 と言っても三人で歌い合って音程が合っているか、元素の読み方が合っているかの確認作業なのだが。

 ゲンは途中何かを思いついたようにフランソワの元へ向かい、フランソワもまたどこかへ向かう。

 その行動を謎に思いながらも練習を重ねていると、いつの間にかフランソワがオカリナを吹きながら合唱に混ざっていた。

 

 流石ですね、フランソワ。でも私と変わってくれてもいいんだよ?

 

 こりゃもう腹を括るしかないと練習し、千空達が帰ってきた頃には私の心はズタボロだった。

 だって推しの前で、しかも科学大好きっ子の前でこれ歌って失敗したらどうすればいい。私のHPはゼロになるに違いない。

 

「帰ってきたぞ茉莉!準備はいいな?」

「よくないけど、聞くんでしょ?」

「聞く」

「即答ですか……」

 

 スイカと未来に歌ってもらった方が可愛いと思うのにと呟いていると、フランソワの前奏が始まってしまったのである。

 

 水兵リーベ僕の船、ナナマガリシップスクラークか?

 平和な未来は元素から!

 

 我ながら完璧な合いの手を入れてやりましたよ、えぇ。

 ゲンとニッキーの歌がうますぎて、表情筋が死にそうです。

 これで満足かと千空の顔色を伺えば、推しは目をきらめかせているではないか。

 

「茉莉、テメェやるじゃねぇか!」

「ほほぅ、茉莉は作曲もできるのだな!是非とも欲しいぞその能力!」

「あ、間に合ってます。んで、これは私が作ったわけじゃないんだけど、千空君は知らない?」

「んなの知ってたらこんなに興奮してねぇ!」

「そっかー、うん。そっか……」

 

 つまりはこの曲を知るのは、私一人だけだと。

 

 いやまぁ薄々分かってやしたさ、千空がこの歌を私に歌えって言ってる頃から。もし知ってたらこんな歌か?って確認とかありそうだし、何せ科学の歌だよ。ドラえもん大好きな千空さんが元素アニメを知らないわけないじゃない。

 でも実際に千空はこの歌を知らないわけであのアニメを知らないわけで。私が別世界の人間だって決定づけられたようなものじゃないか。

 

「あー、千空くん。今日はちょっとお暇していい?色々久々で疲れたみたいで」

「──あ"ぁ、一人で問題ねぇか?」

「うん、一人がいい」

 

 最近は調子が良かったんだけど、ちょっと目の前が真っ暗になっただけだよ。

 

 だなんて言えるわけもなく、私はその場から逃げ出した。

 

 




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