ペルセウスが出航するまでの約一年、私はフェードアウトするまで何をすべきかよくわかってなかった。
でも今ならなんとなくわかる気がする。
つまりは復活組と仲良くしまくって居場所作って、私という凡人を日本居残り組に紛れ込ませればいいのである。
何せいろいろあったが人類復興の一手は築かれた、ならば後は文明を進めていくだけ。さすれば今はちょっとばっかし抜き出てて役に立っている私の狩猟技術等々もいらなくなるわけで、私という存在がその他大勢に紛れるのは容易いこと。なんやかんやで復活してしまい千空達と微妙に仲良くなってしまったが、これ以上は役に立てる気もしない。
故に私は群衆に紛れるために行動したのだ。
まず初めに行ったこと。それは千空パイセンに頼まれた竈を作るために走り回った。そりゃもう材料収集からやらなければならないわけで、皆の邪魔にならないようにかけて回った。
そうするとなぜか司帝国時代に話したことがある子達が手伝いを買って出てくれて、順調に煉瓦造りがスタート。煉瓦造りが始まれば何を作るのだとさらに気にする人が増え、スピードもアップするではないか。
私は推しの布教をするつもりで千空がパン窯が欲しいと願っていた事を伝え、麦が収穫された暁には主食となることを約束し皆のやる気を増幅。
そして何より千空さんはみんなの事考えてるんだと、マジで復興させる気だからみんなで力を合わせて頑張ろうと内心ニマニマしてる心がバレぬよう細心の注意を払いながら笑顔を振り撒くことも忘れない。
みんな、美味しいご飯食べたいものね。私もだよ。
パン窯作りが順調に進みだしマンパワーが増えたところで、私は次に頼まれていた千歯扱きの製作を始める。設計はもちろん千空。
こちらもパン窯同様に麦が取れたら必要になると千空が言ってたからと皆に印象づけて作っていると、仕事の合間に木材を用意してくれる人や作ってみたいと申し出てくれる人が割といた。私はそんな彼らを快く迎え入れ、楽しいクラフト教室を開催していったのだ。
そしてこれが良かったからか、男女共に技術を教えて欲しいと相談してくる人間が増え出したのである。
最初こそパン窯作りやその他クラフトにていっぱいだからと断ったのだが狩猟の要であった司がいない今、冬を越すのに不安なものも多く切実な願いだった為、千空に相談をし許可を貰い臨時の青空教室が開かれることとなった。
勿論寝る時間は減らすなと注意は受けましたが。
千空は私のママンだった?いや、推しだったわ。さすが千空パイセン。そんなところも大好きです。
弓は使えなくはないが流石に羽京のような高度な技術はないので縄で作った投石器の作り方と使い方を教え、苦手なひとには魚を取るための籠、
ちなみにパン窯作りはいつの間にか終わっていた。
みんなのやる気しゅごい。思わず拍手してしまったよ。
美味しいパン、食べたいものね。私もだよ。
「ってな感じなのだけど、まぁ、パン窯作りも終わって保存食作りも始めたけど、そっちは?」
『あ"ぁ、こっちも漸く油田の手がかりが手に入ったからな。スイカ様様だ』
「お役に立つねぇ、スイカちゃん」
『ホントにな。で、テメェにはそっちでそのままセンセェをやっててもらいてぇ』
「……ちなみになんの?」
『パン作り、酵母も作れんだろ?』
「んー、了解。作り手は多い方がいいもんね、でも失敗は許してね?」
『何事もトライアンドエラーだ、気にしねぇでやれ』
電話越しに千空の声を聞きニヤニヤしそうな表情筋をひたすら殺し、私は次の指示をもらう。
本当に指示を出してくれるリーダーが千空さんでおありがたい。言うだけのリーダーなんてお飾りだしストレスが溜まるものだし、士気が上がらない。
みんなのこと考えてくれる推しは相変わらずの神なのである。
はー、みんなに布教しよ。
「あ、油田見つけたってことは当分イノシシは狩らない方がいいかな」
確か発見したのがスイカと仲良しのイノシシだったはず。
狩猟チームの腕が底上げされてしまった今、万が一そのイノシシを狩ってしまったらやばい。当分みんなで麦を挽くことに徹しよう。
私は狩猟チームと農耕チームにパン作りを始めると伝令をだし、そのうちに見つかるであろう油田を心待ちにする。
油田が見つかってガソリンができて、船ができたら私の役目は終わり。
あとは主メンバーで旅に出て、全人類を救って欲しいものだ。
宝島はまだしもアメリカへ行った後は不確かな未来しか私は知らない。本来人間というものは未来を知らないものだが、知ってしまっている私からすれば知らない未来ほど怖いものはないのである。
私という人間が存在してしまっている以上変化が起こらないと言い切れなく、現に変わってしまったものもある。
少なくとも影響がある事を認めるしかない。
ならばその影響をどこまで最小限にするかが問題だ。
今まではなんとか目を瞑ることはできた。千空の死も司の死も、氷月の裏切りも。
けれどもこの先誰かが傷つくとわかってて目を背けるのは心臓に悪い。本当に、悪い。それこそ私が死にたくなるくらいに。
折角ここまで生きて来れたのに、生かしてもらったのに。自分の存在を消したくなって仕方がなくなるほどに。
「────っ」
ガシガシと掻き回してそんな考えをかき消して、指の間に挟まったままの髪を握りしめた。
役立たずなのはわかっていたはずだ。
ここで今役に立てているのは、長年の経験があるから。ある意味この時のために行動していたのだから、役に立てていなかったらそれこそ笑える状況だ。
私が役に立てるのは、それでよかったのはペルセウスの出航まで。
それ以降は役に立てることはまずない。
何せ私には人より抜き出た能力はないのだ、船に乗ったところでできることはない。
だから──。
「……寂しいな」
そう思うのは間違いなのである。
「──髪、伸びたな。きろ」
失恋をして髪を切るというのならば、私はその邪な思いを断ち切るために髪を切ろう。悲しいことも辛いことも、全て私がしてきたことの結果なのだから。
こんな思いも断ち切って、いい加減前に進まなくては。
解けた髪をただ眺め、私は歯を食いしばった。
今月中には、出航したい。