凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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59 凡人、早口話。

 

 

 

 人間ってさ、いつだって後悔は後からくるもんなんだよ。

 

 あんなこと言わなきゃよかったとか、なんであんなことしたんだとか。

 今まさに私が置かれている状況がそれで、じっと見つめてくる視線に耐えきれなくて目を逸らしたが逃げ出せるならば逃げ出したい。

 まぁ、できないから困ってるんだけど。

 

「茉莉、テメェ──」

「初めてだよ、君がそんなに話すところを見るの」

「前々から思ってたけど、茉莉ちゃんっていきなりスイッチ入るよねぇ♪」

「フゥン、やはり貴様は頭が回るようだな」

「まぁ、たまに何言ってか分かんねぇけどよ」

 

「ハハ、サーセン」

 

 なんで私にお茶汲み頼んだのコハクちゃん。

 そのせいで私の精神ピンチです。

 

 

 

 

 

 

 

 思い返せば千空達がボートに乗って海に出たのがことの始まりであった。

 惚れ薬、もといガソリンを手に入れた千空御一行はその性質を確かめ、その後電波塔を生み出し起動。地上から強力な電波を垂れ流し、羽京の耳を頼りに電波の方角と強度で距離の概算。こんなことができるのは千空だけだよと私はのんびりと構え、にこやかにケータイに話しかけるルリを眺めていた。

 電波塔から流された電波をキャッチしたのはクロムで、私はひっそりと念願のクロルリが見れるかもと僅かに希望を抱いたのだまぁそんな事はあるわけ無く。私の知る未来通りにことは進んだのである。

 

 ルリとクロムの話の途中に雑音ではない膨大な電波の波が押し寄せ、羽京の耳ですらそれがきた方角なんてわかるわけがない。

 それは自然現象でもなければ、態々周波数を合わせてこちらへ言葉を知らせてきたのだ。

 

 ・ーー ・・・・ ー・ーー

 WHY

 

 何故?

 

 何度も何度もモールス信号で繰り返されるその問はまさに狂気そのもの。聞いていたものは皆、その目を見開いて千空たちのやりとりを見守った。

 

「だだだ誰なんだよ⁇その謎のおしゃべりって」

「海の遙か彼方に、生き残りの別グループの方でもいるのでしょうか……」

 

 陸に残っていたメンバーはザワザワと謎の信号について話しながらも木材を運び、彼らが帰ってくる前に会議室を作り上げる。

 その行動の速さに思わず見惚れてしまったが、カセキがいるのだから早くて当然なのだろう。千空達は帰るやいなや、早速それの正体について考察を始め私もその場から去ろうとした。

 

 そう、去ろうとしたのだ。

 

「茉莉、待ってくれ!これを五人に届けてもらいたいのだが」

「へ?私じゃなくてコハクちゃんでもいいのでは?」

「私にはあの五人についていけるほどの知識はない。まぁ、クロムも微妙なところだが……現場に立ち会ってしまったものだしな」

「んー、私もそこまで知識ないけど?」

「それでも私よりはマシであろう?茉莉は案外鋭いところに気がつくからな、お茶でも運びつつ会議に参加してくると良い!」

 

 そう言って私に手渡されたのフランソワが用意したであろうお茶。現代人だから話が合うとは限らないのだよとため息をつきかけ、それでも持たされてしまったのだからと会議室へと足を踏み入れた。

 

 会議室では羽京が過去に起きた出来事をクロムに説明し、龍水がソレに『ホワイマン』と名をつけ話を進めていく。

 果たしてそれは黒幕なのかどうなのか、私にも分からない。

 

 私がチラリと千空の姿を瞳に写すと、いつぞやか分からない記憶が溢れ出た。

 その記憶は私がまだ茉莉()でなかった過去のもので、その記憶を辿ってみればホワイマンについていくつか考察をあったようなのだ。

 

 その一、アインシュタイン説。

 これはその名の通り保存されていたアインシュタインの脳からなんやかんやでクローンを作りそいつが黒幕である、というもの。

 石化装置があるこの世界ならばあり得なくはない。

 

 そのニ、黒千空説。

 千空の声をボカロ化したことにより発生。描写されている前髪も一本であったことから、原作を進めている千空はクローンで前髪一本の千空(本物)がいるのではないかと疑われたもの。

 

 その三、千空の実の父親。

 千空は百夜の親友の息子、という情報から囁かれた説。これだけ科学っ子である千空の父親ならば、より一層科学に通じててもおかしくない。なんらかの目的により千空を百夜に預けて人類まるごと石化させたのでは?と考えられたものである。

 

 私としてはその三はなし寄りのなし。

 だって千空さんの父親は百夜さんなんだもの。異論は認めない。

 血が繋がってなくても心が繋がっていた幸せ親子だぞ。

 今更実父なんぞ出てきても流石に認められない。

 もしそうであったら千空の父親は百夜と叫んでやる。

 

 となるとその一かニが怪しいのかなともう一度千空を見やり、私はハッと気づいて口元に手を当て俯いた。

 

 アインシュタインがいたら千空パイセンのテンション爆上がりなのでは!

 推しが喜ぶ姿、とても見たい。一緒に実験とか始めてたら最高なのでは?

 何故石化したのとか謎は残るがそれはそれで美味しい。

 

 そして、問題はそのニ!

 もし千空が二人いたとすると私のHPはもれなくゼロになる。無論今ここで全人類まるっと救おうとしている千空さんは尊い。すごく頑張り屋さんで努力家で、みんなを頼る千空さんは大好きですが、もう一人の千空が仮にいたとして、その目的も人類を救うためだったら?もうどないしたらいいの?あ、メカセンクーのパターンもあり?

 性格が悪いパターンだったとしても元を正せば推しの派生。嫌いになれる気がしない。

 

 

 悶々と場違いにも程があるどうしようもないことを考えていた私は、こちらを見ている瞳に気付くことはなかった。

 だからこそ不意に声をかけられれば、思わず思ってもいない言葉が出るもので。

 

「んで、云々唸ってる茉莉センセェはどう考えてんだ?」

「へ、そのパターンもありかなと?」

「……パターン?」

「茉莉ちゃんのいうパターンて、どんな?」

 

 違う!

 これは話しちゃいけないやつや!

 

 考えろ、いい訳を。

 話を聞いていませんでした!とならないように、厨二ぽくもならないような言い訳を考えろ。それっぽい話をして、なんとか話を誤魔化さなくては。適当に単語並べておけばなんとかなるかな、なんとかするしかない。

 うん、がんばろ。

 

「えっと、ホワイマンが敵でも味方でも3700年って放置しすぎでしょ?それに黒幕が別にいたとして、果たしてそれは人間なのかなって。石化前でもそんな科学は進んでいなかったわけだし、ぶっちゃけ宇宙人説とかの方がリアルかなぁと」

 

 そんなこと千空さんも言ってた気がするもんね?

 

「人類滅ぼすつもりなら石化した後に石像ズタボロにできたわけじゃん?粉々にすれば制圧完了じゃん?それをしなかったってことは殺すつもりはなかったのかもしれないし、もしかして地球温暖化やらなんやかんで一回滅ぼしとこーってなった可能性もあり寄りのありなのでは。世界終末時計だっけ?後何秒で世界が滅びますよってやつ。それを踏まえれば一回人類が滅びれば環境がマシになるだろうし、環境改善後多少の人間は復活させますよーって計画だったら『何故勝手に復活した?』って意味にも取れる気もするし。てか、電波放つまで復活者がいるのに気づいてなかったってんならずっと人類を観察してるわけじゃないよね?一番使われてた英語のモールス信号使ってるとこから察するに、どこの国で復活したかもわかってないのかも。もしわかってるのなら日本語で伝えるでしょ。誰しもがモールス信号聞き取れるわけじゃないんだから、日本語で話してもらわないと困るわぁ」

 

 ペラペラと思ってもいないことことを組み合わせ、なるべく本当に考えていたことを隠し通せ。

 頑張れ、私。

 

「それにアレだよアレ。WHYしか伝えてこないってことは向こうもどうするべきか考えてる途中なのかも?一人だったら人間復活してるうぜー石化して確実にコロそーとかやりそうだけど、すぐにしてこないってことは考えるひとが多数いてできないかで今すぐに石化できない状況でもあるわけでしょ?

 そうなるとやっぱり石化の黒幕は人間じゃない何かの方が納得できるというかなんというか。まぁ、人類石化とリアルファンタジーを体験してるんだからSFファンタジーがあってもおかしくないかなーって、そんな感じですかね?」

 

 よし言い切った。

 全く違う考察をしていたのは絶対バレていないはず。

 よくやった私の嘘っぱちの思考。オタクなら誰でもやったであろう早口考察。理解される前に言い切れれば、それでオッケー!オールクリア!

 

 にへらと笑ってそんなことを考えてましたよとアピールしてみれば千空は赤いお目目を丸くして、そしてクククと笑い出す。

 

「茉莉、テメェにしては考えてんじゃねぇか」

 

 まぁ、即席ですが。

 

「初めてだよ、君がそんなに話すところを見るの」

 

 オタクの性分なんですよ羽京さん。いきなり語ってごめんあそばせ?

 

「前々から思ってたけど、茉莉ちゃんっていきなりスイッチ入るよねぇ♪」

 

 好きなものとか語りたいじゃないですかー。いや、今回に限りバレないように嘘つきまくっただけですけど?

 バレてないならオッケーです。

 

「フゥン、やはり貴様は頭が回るようだな」

 

 嘘をつくための頭なら回るんだなこれが。

 

「まぁ、たまに何言ってか分かんねぇけどよ」

 

 私にもわからないよ、クロム君。

 

「ハハ、サーセン」

 

 本当に申し訳なく思ってる。

 面倒くさいであろうオタ特有の話し方してごめんなさい。

 だから、そんな見ないでもらっていいですか?胃に穴が開きそうです。

 

「まぁ、茉莉の言い分もなんとなく納得できてしまうのが怖いのだけど、正体不明でどこにいるかもどこからくるかも分からない見えない敵か。最高にキツいね……‼︎」

「それだ‼︎ だったら話は早ぇ、見えねぇ敵を見てやりゃいい。科学の目でな……!そうすりゃSFファンタジーにも科学で勝てんだろ」

「そうだと、いいねぇ」

 

 もう何も言わない語らない。

 これ以上の失態を見られるわけにはいかないのだ。

 私は次のクラフトに取り掛かろうとする千空の背中を眺めて息を深く吐いて後悔した。

 

 あぁ、やっちまった。

 

 アレじゃマジもんのオタクの早口トークじゃん!

 

 

 

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