凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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61 凡人、祝う。

 

 

 

 鬼のいぬまになんとやらというわけではないけれど、私は千空達がウィンタースポーツを楽しんでいる日を選んでフランソワの元へと訪れた。

 

「フランソワさーん、これ、差し上げるんでお願いを聞いて欲しいんですけど……」

「茉莉様、お久しぶりでございます。それでコレとは……、テンジャン、ですか?」

「正確にいうと違うんですが、まぁ、和製テンジャンですかね?醤油も然り」

「なるほど、これはご苦労なされたでしょう。ささ、こちらへ」

 

 私はフランソワに言われるがままレストランの中へと足を踏み入れる。室内は暖炉があるおかげか暖かく、出されたお茶も冷えた体を温めてくれて本当に彼はおもてなしのプロなんだなと一人感心して頷いた。

 

 体が温まったところで私は当初の目的であるフランソワとの交渉を開始する。無論それは味噌を納品する代わりに、とあるものの制作を一緒にしてほしいという願いを叶えてもらうため。

 そしてそれはもちろん──。

 

「……ラーメン、ですか?」

「そう、ラーメンです。本当は味噌煮込みうどんが食べたいんですが、ここはまぁ、万人受けがいいラーメンで行こうかと。それでフランソワさんには一緒に作ってもらいたくて」

「なるほど、そういったお願いでしたか。それでしたら私の方からもお頼み申し上げます。こちらのテンジャンを、レストラン・フランソワに卸していただけますでしょうか?」

「もちろんです」

 

 にこやかに笑うフランソワの手を取り交渉を成立させ、私達はそのまま調理に取り掛かる。キッチンにあるキノコ類等の野菜も使っても大丈夫らしく、いっそのことラーメンセットにしてしまおうと意見が合致した。

 

「ラーメンに使う猪骨(シシコツ)は豚骨よりもクセがなく、脂もサラサラしていますのでそれに合うように味噌より醤油をベースにいたしましょう」

「なるほど、そこから違いが出るんですね。勉強になります。じゃぁ、私の方はこの小麦と牡丹肉を使って餃子に取り掛かります」

「お願いいたします。キャベツはありませんが、こちらのケールと行者ニンニクをお使いくださいませ。下味も味噌を使ってみるとよろしいかと」

「了解です」

 

 何故ケールを使うか問えば、元々キャベツはケールと同じルーツをもつ野菜らしい。そのほかにもブロッコリーやカリフラワーもそうなのだとか。

 そりゃ3700年も経てば生命力の高い元の種に還るわなぁと納得しつつ、フランソワの持つ知識量にもさらに驚いた。

 本当に、フランソワがプロのシェフで感謝しかない。

 

 私はといえば牡丹肉ををひたすら挽肉にする作業を繰り返し、小麦粉から餃子の皮を作成。こちらも相変わらずオバ様方から入れ知恵されたもので、まさか原始の時代で餃子を作ることになるとは思いもよらなかった。

 しかしまぁ挽肉をつくる作業はパワーチームではない私には苦でしかなく、そのうち科学チームにミンサーを作っていただきたいものである。

 

 復活者と村人全てに行き渡るくらいの量を作るにはそれこそ時間がかかり、朝から調理を始めたというのに辺りはいつのまにか夕暮れに変わっている。匂いを辿ってここに来た者達もいて、ソワソワしながらチラチラとレストラン内を伺う復活組の姿も見受けられた。

 そんな中ひょこっと現れたのは銀狼で、何を作っているのと気安く声をかけてきたのである。

 

「茉莉ちゃん、コレってラーメン?でもなんかいつもと違うよね?」

「んー、これは猪骨ラーメンだからかな。後コレも使ってる」

「ふーん。って、うわっ、何コレ⁉︎」

「醤油と味噌」

「このうん──」

「みなまで言わないの。食べればわかるから」

 

 そりゃ見たことない調味料だもの、排泄物っぽいしね。

 何処かの金塊探しリパさんみたいな反応しちゃうのも致し方ない。

 

 ちょっと引いた顔をしている銀狼の口に熱々の餃子を放り込み、私も味見を食す。

 味噌味の餃子は食べたことはなかったが、なかなかコレも良いお味。

 ケール餃子、こりゃ売れるな。味噌と醤油の価格交渉はゲンに頼み込むとしよう。

 

 時間はかかったが日が沈む前にラーメンスープは完成し、ソワソワしている者の前に姿をみせたフランソワは開店の挨拶を告げる。

 そして同時に彼の口からは本日のオススメメニューが伝えられた。

 

「本日は猪骨ラーメンと餃子のセットメニューがおすすめでございます。数に限りがございますのでご注意くださいませ」

 

 そわりとする住民と、数に限りなんてあるのかと頭を傾げる私。

 そうした方が売れるから宣言したのかもしれないが、いかせん有能執事の考えはわかりゃしない。

 

「俺、ラーメンセット!」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 

 次々と注文が入りはじめ、私もフランソワを手伝い調理場を駆けずり回る。

 お有難いことにラーメンも餃子もバンバン売れてくれるので、作った甲斐があったものだ。

 

 作って作って、ひたすら作って。

 最初こそ味噌や醤油の見た目に不信感を持っていたコハク達も一度食べてみればウマウマとラーメンを啜ってくれて、見てるだけでニヤニヤしてしまいそうになる。

 やっぱり美味しいものは偉大です。

 

 ある程度客を捌き終えるとフランソワは私に休憩をいいわたし、ラーメンと餃子を手渡される。

 わざわざ人混みで混ぜるのは嫌だなと店の裏に逃げ込んで、ひっそりと夕ご飯にありついた。

 ワイワイガヤガヤと表側から聞こえる声に耳を傾けつつ、意識はラーメンに。流石プロのシェフが作っただけあって本当に美味しい。若干醤油にも癖があった気もするのだが、それが感じられないのがプロの技なのだろう。

 

 一人でのんびりとラーメンを啜っていると、カタンと音を立てて隣に誰かが座った。こんなところで食べるなんてフランソワかなと思ったが、店が開いている以上それはない。では誰がわざわざこんな所に来たのだと隣を見やれば、そこにいたのはなんとも微妙な表情をした我が推し。千空パイセンである。

 何故ここにと困惑しながらもチュルンと麺を啜り、一旦視線を外してはてと頭を悩ませた。

 

 何故に隣にすわる?

 表に席なかった?いや、フランソワが席を用意しないとかある?ないよな?

 じゃなんで、わざわざ裏方専用みたいな場所に?

 

 いくら考えたところで千空の考えなどわかるわけもなく、私は隣に座り目を煌めかせてラーメンを食べ始めた千空の姿を盗み見る。

 小声でウマッと囁かれた言葉を拾い上げ、思わずにやけそうになった顔を逸らして天を仰いだ。

 

 作ってよかった、ラーメン。

 美味しくできてよかった、ラーメン。

 ただし作ったのはフランソワだけど。

 

 それでも好物であろうラーメンを食べてる千空の姿を拝めて最高です。ありがとうございます。今後は味噌ラーメンを開発させていただきますね、フランソワが。

 

 脳内でニヤニヤしてしまうのはしょうがないことで、私は必死に表情だけは変えないように顔に力を入れた。

 

「……テメェがつくってたのは、コレか?」

「ん、まぁ、これの素ですかね?味噌擬きと醤油擬き」

「手間、かかっただろ」

「手間を手間と感じていないので問題ないかなぁ」

「──クク、そうかよ」

「そうだよ」

 

 味噌も醤油もソウルフードですからね、日本人にとっては。

 それに何より美味しそうに食べる顔をみれたのならば、それに越したことはない。

 

 私はズズっとスープを最後の一滴まで飲み込み、そして席を立つ。

 この後はまたフランソワのお手伝いが待っているのだ。流石にラーメン作りをお願いした手前、後片付けまで手伝わないと良心が痛む。

 

 あ、そうそう。

 一番大事なことを千空に告げるのを忘れていたと思い出して振り返り、私はにこやかに告げるた。

 

「千空君、誕生日、おめでとう」

 

 一ヶ月ほど遅れてしまったが、まぁそこは勘弁して。

 

 去年はゲン主体で天文台を送ったが、今年はひっそりとラーメンを送らせていただきます。

 べ、別に千空の為に作ったんじゃないんだからね!とか言うわけもなく、九割九分推しに貢ぎたい心情から作りましたが何か?

 それにどうせ、千空の為に作ったなんて誰も思わないだろうし、ただの私の自己満足だ。

 

 

 

 故に私は後方で目を見開き驚いている千空に気付くことはなく、フランソワの元へと戻ったのである。

 

 




元から考えていた誕生日ネタといただいたネタを合わせて書いてみた。ラーメンつくりはさせる気だったんだ。フランソワいりゃできると思って……
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