季節というものはあっという間に巡るもので、鋼鉄作りをしていたと思ったらクワゴ取りに山に入り、水着を作って遊水し。
南のカメラから逃げまくっていると、あっという間に機帆船ペルセウスが完成していた。
船造りを開始したのが去年の九月だったから、ちょうど一年だ。
まさか本当に一年でできるとは、と船を眺めていると、後方から南の叫び声が聞こえてくる。
「だって!これでお別れなんだよ、残る組と船出組で!この一年がみんなで過ごせる最後の時間だったから、もう二度と会えないんだからせめて写真でって──!なのにっ、茉莉は写真撮らせてくれないし!なんでっ」
そこで私の名前を出した南に若干引きつつも、私はそっと人影に身を隠す。
これが最後じゃないと、必ず地球の裏から帰ってくると宣言する千空の言葉に同意しながら私は必死にその場を逃げ出した。
だってこのまま後にいたらどう足掻いたって写真に入り込んじゃうし、そうなったらその写真をどうにかして処分しなければならないではないか。
私がいた証なんて必要ない。
故の逃走なのである。
そっとその場から逃げ出せば、ありがたい事にその事に誰も気付くことはなかった。きっとフランソワがタイマー云々言っていて、そちらに気が取られているのであろう。私はそのまま人の目を避けるようにラボまで辿り着き、書き溜めておいたクラフト集に紐を通す。そうしておけば一冊の本として保管は可能であり、今後は誰でも見られるような場所に設置しておけば良い。
流石にこの知識を私一人が独占するわけにはいかないし、皆にも覚えてもらわなくては困るもの。是非ともみんなで共有していこう。
そのほかにもモールス信号の覚え方をまとめた本を二冊用意し、これは杠とクロムにプレゼントとする。
多分そのうち私にされたような無茶振りを千空はするだろうから、その時に是非とも役立ててもらいたいものである。
後は船に乗せるであろうものとそうでないものを小分けにし、私の私物はテントへと運び込む。
この先ラボを頻繁に使う予定はないが、何かあった時に誰かしらが使うだろう。その時に備え訳の分からんものは置いとくわけにはいかない。
カセキ達がいなくなる以上私は工作チームに分けられそうだが、フランソワもいなくなるし私はローテーションでレストランで働くようにしようかとも思っている。
そんなことを考えていると背後から名前を呼ばれた。
「茉莉、ちぃーと手伝え」
「んー、りょかーい」
船への運搬作業の手伝いかなと千空の後についていけば、やはりというかラボに辿り着く。
そしてそのまま言われたものを船へと運び込んでいれば、何処からともなく現れた南に捕まった。
「ちょっと!茉莉、貴方またどっか行ってたでしょ⁉︎写真にまた入ってない‼︎」
「あー、うん?私も忙しいので?」
「忙しくてもはいってよ!茉莉の写真だけ一枚もないのよ⁉︎その意味わかってる?」
「わかってるけど、写真嫌いだし。別に一人くらい居なくても問題ないでしょ?」
「そーゆーことじゃないの!千空からも言ってやって!」
「あ"ぁ、言っとく言っとく。だから仕事させろー、出航まで時間ねぇんだ」
「ってことで、またね南ちゃん」
「もう!」
プンスコ怒る南を軽くかわし、そのまま船へと必需品を運び込んでいく。
知っての通り船にはラボカーが設置されており、千空達科学チームの荷物の大半はここに運ばれた。
「茉莉」
「なーにー」
「テメェ、世界冒険チームだかんな」
「…………は?」
何をおっしゃって?
淡々と荷物整理をしている最中に千空はそんな意味不明な発言を落とし、私は思わず持っていた荷物を落としそうになる。
必死に抱えなおしつつももう一度なんて言ったのかと尋ねれば、千空は耳を掻きながら私が船出チームに分類されていると言ったのである。
「龍水に話つけてあっから、これは決定事項だ。ルリ達にもテメェがまとめた資料見りゃあ大抵のことはできるっつっといた。これでオメェは俺たちとお元気いっぱいに冒険に繰り出せるってわけだ」
「──なん、で?」
「なんでって、もとよりその予定なんだよこっちは。テメェの知識と技術はここ半年で他の復活メンバーに教え込んだし、テメェにも今後必要になるもん脳にぶちこんだだろ」
今後必要となるもの、と言われて思いつのはモールス信号である。
確かにそれは四月から脳に叩き込んで、ゆっくりでよければどちらの言語も聞き取りも発信もできるようにはなった。ただし英訳はできないけれど。
「でも、それなら私は日本に残ってたほうがいいじゃん。地球の裏側からの通信なんて、通話じゃ無理でしょ」
「あ"ぁ、無理だ」
「ならっ」
「通信手段だけで決めてんじゃねぇよ。オメェには今後もクラフトする度に資料をまとめんのを任せるつもりでいる。それにやる気次第でエンジニアもいけんだろ。あ"ーあと、フランソワと一緒に調理場にも入ってもらいてぇな」
「──千空君は、私をなんだと」
「器用貧乏、オールラウンダー。もしくは俺の助手」
「……なんて?」
「助手だ馬鹿。テメェほど使い勝手のいい人間はいねぇんだよ、手放せっか」
ゲロ吐きそう。
色んな意味で、ゲロ吐きそう。
千空は何を考えてるか分からない顔で私を見てるし、私はすでにキャパオーバーしている。
助手ってなんだっけ?助ける手って書きます?
あ、私がなんでもいうこと聞くからですね?そういう意味ですね、わかります。
でもここで頷くわけにもいかないんですよ私は。
ハクハクと言葉なんて出ない口を動かしていれば、千空は呆れたような目を私に向ける。
そして徐に右手を伸ばした。
「茉莉。テメェが必要だ、俺についてこい」
「──っ」
ゲロ吐きそう。
色んな感情が合わさって気持ち悪くて、吐き出しそうだし、泣き出しそう。
面と向かって私を必要としてくれたことが嬉しくて、それでも素直に頷けない自分がいて。
なんだか求められたことに嬉しくて涙が出かけた。
でもここで泣いたらもう終わりな気がするし、耐えなければならない。必死に歯を食いしばって、緩む涙腺に力を込めて。
自分でも分かってしまうほどに震えた声で、私は千空に問いかけた。
「役に立つと、思えない、んですが」
「あ"?今まで役にしか立ってねぇだろ」
「……他の人、ゲン君とか、いるじゃん。なんでもできる、人」
「アイツはアイツでやることあんだよ。テメェしかできねぇことがあっから必要だっつってんだ」
私にしかできないことってなんだよ。
そんなもの、何一つないのに。
それなのに。
「ん」
「……千空君の、人たらし」
その手を取ってしまったのは私自身なのに、理解できそうにない。
誰かに必要とされるのがこんなにも嬉しいことだなんて私は知らなかった。
当たり前のようにそばにいても良いと、そう思える日が来るなんて思わなかった。
ただ単純について行きたいと願った私がそこにいて、この先の事なんて後回しに考えている自分がいて。
結局のところ私は、この先で地獄を見る事になるかもしれないのにそれすらも踏まえて、千空の側にいる事を選んでしまったのである。
Q。千空は何に腹を括ったの?
A。茉莉を巻き込む事に腹を括った。守りたいならそばに居なきゃあかんのです。だから、危険かも知れなくても恨まれても連れて行く決意をしたのです。