機帆船ペルセウスは無事出航したのだが、すでに私のメンタルはボロボロであった。
何故って?
当初の予定になかった行動を私がしてしまったからである。
いくら千空からのお誘いだとしても、この船に乗るわけにはいかなかったのだ。だってストレスの原因なんだもの。
出航してしまえばもう海の上で、逃げ場なんてありやしない。
もうオワタ。
目だけ死んだ状態でなんとなく笑みを浮かべ、私同様に逃げ遅れた銀狼に仲間意識を持つ。
銀狼は一旦逃げ切れたはずなのに欲を出してしまったのが悪いのだが、同じ穴の狢だろう。必死に泳いで追ってきたように見せかけたが体力馬鹿の大樹に捕まり、今は皆に囲まれて誉められている。
とりあえず心の中で合掌しておいてやろう。なむさん。
「で、まずはどこに向かうのだ?地球の裏まで一気に行くのか?」
「いや、目的地は決まってる。宝島だ‼︎」
そわりと、周りの雰囲気が切り替わる。
事前に聞いていたであろう龍水に変化はないが、その他大勢からしたら寝耳に水でしかない。
「島って……」
「どこのだ??」
「てか何しに……」
「全人類を救い出す神アイテムをゲットしに行く‼︎俺の親父どもが不時着した島にな」
宇宙船ソユーズが眠る宝島、そこに私たちは向かう事となるのである。
千空は全人類を助け出すと高らかに宣言し、それとともに復活液がどれくらい必要になるのかと頭を悩ませるゲン。奇跡の洞窟が氷月に潰されてしまった今、それを用意するのは容易いことではない。
それに何より、自然にできる硝酸を待っている暇もないのだ。
全人類を復活させるとなるとそれに伴って復活させる者の順番を決めなければならない。司が仕切っていた頃と違い武力重視で選べるわけもなく、何故どうしてとその順に文句を言い出す輩がいないとも言い切れないのだ。
ゲン曰く人間の脳が覚えていられるメンバーは150人ほどで、人が増えれば増えるほど意思はバラバラになり反乱が起こる可能性だってあるわけで。
よってちんたら復活液を作っている場合ではない。
「だがな、プラチナさえありゃもう復活の人数制限もクソもねぇ」
百夜が作り語りついできた百物語には鉱石の話ももちろんあって、その話は全て『宝箱に眠る』と締めくくられていた。つまりそこにあるプラチナさえ手に入れることができれば、人類丸ごと、石化から救い出せるのである。
そりゃ、百夜さんが残したお宝探しに行くよねぇ。
はぁ、親子愛、尊すぎん?
「おぅ、でもその宝箱ってどこだよ?」
「千空のお父さん達が鉱石類をとっておいてくれたにしても、無人島に何千年も保存できる箱なんて……」
「あ"ー、んなもん決まってんだろ。ガッチガチの防御力!科学の結晶で大気圏突入の高温にすら耐えまくる最強無敵の箱があんじゃねぇか‼︎」
「──ソユーズ、かぁ」
お空が青いなと思いながら、ボソリと呟いた言葉は何故かやけに響いた。
「あ"?」
「ん?」
「──ククク、大正解百億点やるよ。茉莉の言う通り宇宙船ソユーズが俺たちの探し出す宝箱だ!」
百億点もらえてちょっと嬉しいけど、羽京の視線が怖いんですが?
とりあえず百夜さんは知り合いだったからそうかなと思ってと、言い訳はしておく。
違うんだよ、私のお口は時々勝手に動いちゃうの。推理したわけじゃないから、知ってただけだから!
出そうになるため息をグッとおさえ、そしてチラリと視線を横に流す。
その先にいたのはキーマンとなる『ソユーズ』で、彼はその目に不安を宿していた。
それからしばらく経った頃、彼と対峙する事となった。
というか、ソユーズが話しかけてきたんだけどね。本当に、何が起こるかわからないものだ。
「あ、あの、その」
「うん、どったの」
「その、オレっ──、さっきの話を聞いて話さなくちゃならないことがあって」
「ほほぅ、じゃあ行こうか?」
冷や汗をかいてるソユーズに手を伸ばしてその腕を掴み、私達は千空達の元へと戻る。
せっかく話し合いから逃げてきたと言うのにこうも逃避できないと、私は何かに呪われてるのではないかと思い始めてしまいそうだ。ま、呪われているとしたら、私が見捨てた石像達にかもしれないが。
「ゲン君、この人がなんかさっきの事について話したいんだって」
「えーと、君は……?あれ?誰だっけ?」
「まぁ、それも含めて千空君達とお話し合いしなよ」
そう言ってゲンに任せようとしたのだが、あまりにも彼が体を硬直させるものだから僅かながらに親近感も湧く。
だってソユーズ君、必死に顔に出さないようにビビってんだもん。
なんとなくだが、心情は察する。
言いたくないけど、言わなきゃいけない。
それがどんなに辛いことか。私は言わない選択肢をひたすら選んでいるが、彼はそうはいかないのだろう。言い出すことが怖いに決まってる。
私は推しである千空に感化されたのか珍しく逃げ出すこともなく、千空へと声をかけるゲンに続いて室内へと入る。
本当はいなくてもいいんだけどね、なんとなく、ソユーズのことを考えると居た堪れなかったのだ。
「テメェは、誰だ?マジで名前が出てこねぇ」
「浮かばなくて当然だ。彼に名前はない」
「全員リストを作る時も困ったぞ。ひとまず名無しと書いたがな!」
それはどうかと思うけど、なんて首を傾げながら私は彼らの話に耳を傾ける。
ソユーズは自ら自身が石神村の人間ではないことを告白し、そして本当の名を告げたのである。
「オレの本当の名はソユーズ。あ、案内できるかもしれない、オレの故郷、宝箱ソユーズの在処に……!」
彼の出現で宝島が無人島ではないことが判明し、ついでにそこまで案内してくれるのだからこちら側としては利益にしかならない。が、それと同時に相手がこちらに友好的かどうかまでは分からず、更なる不安を仰ぐ事となる。
案の定、宝島の住民がホワイマンではないのかとクロムから疑問の声が上がり、コクヨウはソユーズに掴み掛かり声を荒げた。
「名無し改めソユーズ!何故こんな重要な情報を黙っていたのだ!貴様が石神村の本当の仲間でないという……」
「そう言われるのが、怖かったからだよ」
会話を遮ったのは私で。
その言葉はきっと、私が私のために吐き出したモノだった。
「拒絶されれば自分の居場所なんてなくなるし、信用してもらえるかすらも分からない。そんな状況になったら、自分を守るだけで精一杯なんだよ人間なんて。だから、ソユーズ君は何にも悪くないでしょ。ね?」
いつも以上に引き攣った笑みを浮かべて、私はただコクヨウを見つめる。
いらん事を言っちゃったなぁと思いつつ同意を求めればコクヨウは息を飲みこんで、そしてソユーズによく告白してくれたと伝えた。
その姿に私は自分を重ねるが、私が真実を告げたところでどれほどの人間が赦しをくれるのだろうか。
もしも石化すると分かっていたら、砕けていない石像があっただろう。もしも司や氷月の危険思想が事前に分かっていたのなら、違う選択が取れたかもしれない。
千空が一度死ぬ事もなければ、司を助けるために殺す必要だってなかったかもしれないのに。
信じる信じないはさておき、伝えることはできたはずなのに私はそれをしなかったし今後もする気はない。
だから、赦されるなんて考えることすら烏滸がましい。
いいな、ソユーズは。ちゃんと言葉に出せて。
いいな、ソユーズは。強い心を持っていて。
いいな、ソユーズは。信じてもらえて。
私もそうであれたのならば、良かったのに。
羨ましいな。
奥歯を食いしばって、私は笑う。
私の小汚い感情なんて、見せるわけにはいかないのだ。
私の感情なんて置いてきぼりにして、その後もソユーズと宝島の話は続いていく。龍水の声もソユーズの声も、千空の声さえも私の耳は拾わなくって、私はそっとその場を後にする。
頬の筋肉を固定して早く歩き、そしてトイレに逃げ込み胃に入っていた内容物をその濁った思いと共に吐き出した。
最近は調子良かったはずなのに、やはり船に乗ったのが不味かったのかどうも思考がすぐ落ちる。
どんどん嫌なことばかり考えてしまって、頭がおかしくなりそうだ。
とりあえず宝島に着いたら大人しく石化してもらおう。そして全て終わるまで意識をなくしておけばいい。
「──あれ?茉莉じゃないか。体調でも悪くなったのかい?」
「んー、船酔いかな?」
そうニッキーに嘘をついて、私はもう一度想いを吐き出した。