宝島までの旅路は困難を極めた、わけではなく、一部の人間がゲェーゲェー吐き出すくらいの難で済んでいる。
「オボェエェエェエ!きぼちわるぃいぃ」
その一部のいい例が銀狼と陽だ。
私はストレスで二、三度吐いたが別に酔ってはいないので、それなりに仕事をこなせているので問題はない。
船酔い対策の薬を作っている千空を観察しながらメモをとり、新たなクラフト集作成に勤しんだのである。
「すごいね、ストーンワールドに科学の医務室つきだ」
「こ、この船なら嵐が来たって行けるかもしれない」
「嵐?水の民がそんなもの恐れると思う?」
薬を飲んですっきりとした顔をした銀狼は最大にフラグを立て、私はこの後の展開に備えることにした。
生暖かい風とともにやってきた雷雨は海を荒らし、先程までと打って変わって高波が船を襲う。バランスの取れない者にはロープを配り、船と体を繋げるように伝令もした。
とは言ったものの、この船のどこかにいるであろうスイカは無事なのだろうか?
ここまで船が揺れるとスイカフォルムでとコロコロと転がってつらいのでは?
まぁ、そんなこと思ったところで居場所はわからないし、助けてあげる事もできないのだけれども。
ヨタつく人を助けながら歩いていると千空は大慌てに駆けずり回り、今がチャンスだと皆に伝える。
嵐の中島に近づくことができれば、住民に見つかる可能性は低くなるのだ。これを生かさないことはないと。
総員はその言葉で持ち場につき、望遠鏡、レーダー、GPSの三つの科学道具を使いその島を見つけ出すことに成功。
生まれ故郷だと泣くソユーズとは対照的に、百夜が宝を残した島に唆られる千空に思わずキュンとした。
そしてひっそりと『唆るぜこれは!』を聞いていた私は、心の中でもだえたのである。
だって久々のそそこれだったのだもの!
悶えないでどうするの!?それ以外に癒やしはないのに!
尊いはストレスにだって打ち勝つのだ!一時的にな!
「全員総出でお元気いっぱいなだれこみてぇところだがな!」
「島にいるのがどういう連中かも分からんのだぞ!」
お元気いっぱいに宝島に雪崩れ込もうとする陽と銀狼を金狼は宥め、どんな連中が島に住んでいるのかと頭を悩ませるものが数名。
そうですね、石化装置なげてくる連中ですね!とはさすがに言えないので、その他大勢のように黙って考えるフリに徹する。
それにソナーマンの羽京が問題がないと言っているのだがら、この島に科学文明が発達していないことは確かなことなのだ。
逆に言えばこっちの切り札は科学だけなのだが、科学チートな千空がそこにいてくれるから私はある意味安心しているわけで。
なるべく今後は石化して関わらないでいようと思いますマル。
私たちを乗せたペルセウスは天候が良くなる前に岩陰に姿を隠すことに成功したのだが、こっからが私の知るところの宝島編のスタートだ。
もうすでにおなか痛い。
たっけてドラえもん。といやしない空想ロボットに縋った。
「はっはー!見事に晴れたな!ギリギリ岩陰に滑り込んだぞ、皆の全力の操船の成果だ!全員に一万ドラゴずつボーナスをくれてやろう……!」
思わぬ臨時報酬にさらなるやる気を見せる乗組員とは反対に、千空は即座に偵察員の派遣を望んだ。
するとどこからともなくヒョコヒョコとスイカが現れて、それに気づいた龍水に樽を被され捕まっているではないか。
うっかりそれを目で追っていた私は龍水と視線が混じり合い、とりあえずにっこりと笑って誤魔化しておくことは忘れない。
「大人数で突入すれば即戦争だ、違うか!?メンバーは必要最小限で行く!」
「あ"ー、この宝島に来た目的忘れんじゃねぇぞテメーら。お目当ては石化復活液無限生産マシン、プラチナを箱からゲットする!!とっとと見つかりゃそれでよし、できなきゃ島民から場所聞き出すっきゃねぇ」
「フゥン、つまり偵察隊のメンバーは四人!」
そして選ばれたのは、私が知るところの四人であった。
プラチナが分かる千空に、記憶力パナイソユーズ。交渉担当のゲンと護衛兼視力のコハク。
彼らは小型ボートで陸へ向かい、残ったメンバーはそれを見送った。
しかしながら船にたった一つの問題が残っている。それはつまり、密航者であるスイカの処遇だ。龍水が樽からスイカを解放すればクロムやカセキはなぜここにと驚き、スイカはお役に立ちたいと懇願する。
だがしかし、子どもを危険な旅に連れてくる気のなかった龍水はその気持ちをも否定したのである。
「許可できん!船において密航者は出港地に強制送還と決まっている!貴様は日本に帰るまでそこで大人しくしていろ!」
あー、龍水さん龍水さん。私も強制送還してもらってよろしいでしょうか?
無理ですよねそうですよね?なんてってたって千空から許可とってますもんね!私の許可ではなくてな!
なんであのとき手を取ってしまったのだろうと何度目かわからない後悔をしながらスイカの元へ行き、そして一緒に掃除をしようと私は声をかけた。
「スイカちゃん、お掃除してお役にたってもらってもいい?」
「そうだぞ!心配するなスイカ!お役に立てることは他にもたくさんあるぞー!」
私に続き大樹がスイカにそう声をかければ、スイカは嬉しそうに笑いモップを取りに走り出す。
それを眺めながら私は後少しの辛抱だと深く息を吐いた。
皆んなには申し訳ないが、私はその時を今か今かと待っている。もう一度石化する時を、戦いから逃れられるその時を。
関わらずにこの島を抜け出すには、石化がマストなのだ。
そうして、待ちに待ったその瞬間はやってきた。
最初に動いたのは龍水だった。
見知らぬ人間の視線に気づいた龍水は瞬時にそれを攻撃だと理解する。
それと同時に羽京もまた上空に投げられたモノに気づくと弓を放ち座標をずらすことに成功。
龍水は思考を巡られせ、最良の手段をとったのである。
「龍、水……?」
それはすなわち、スイカをこの場から逃すこと。
だというのに、いつだって運命の女神とやらは私に不利なことをしやがる。
「マグマ!茉莉を海へ放り投げろっ!茉莉、スイカを頼んだぞ──!」
ブンっと体が宙を舞う。
なんでこんな時だけ素直にいうこと聞くんですかマグマさん?
龍水との間に何かありまして?
はっはー!さすがコハクちゃんと同じ民なわけありますね、思った以上に体が飛んできますわー!
なんて思ってる場合ではないんだが!?
ドボンと派手な音を立てて私の体は海へ沈み、うっすらと瞼を開ければ緑の光が少し手前で止まっている。なんてことをしてくれやがった龍水と憤りながらも、今後のことを考えた。
このまま船に戻ることは可能だが、ラボを動かすことに手を貸すことは必須条件となるしうっかり捕まろうものならば何をされるかも不明。下手すりゃ拷問も有り得なくない。
まだ一発即死ならいいけど、くっコロ展開がないとも限らず。
だって変態じゃん、あのおじさん変態じゃん!
私なんかに欲情しなくても痛めつけるためならやりかねないよあんな奴!多分痛ぶるの楽しむタイプだもん!同人誌みたいに!エロ同人みたいに!
なんてクソみたいな展開になるとは九割九分思ってはいないが、ともかく捕まるのは避けたい。泳ぎながらポーチを外し、それを頭に乗せる形で浮上する。誤魔化せるかわからないが、人だとわからなければなんとかなるだろう。
呼吸を整えつつ船を見ればロープをよじ登っている銀狼の姿があり、そこは物語通りだったと安心した。
万が一ここで銀狼が石化されていたのならば、私はその代役をこなさなければならない運命にあったのかもしれないのだ。
私というイレギュラーがここにいる以上、そうなる可能性も捨てきれない。
「ったく、もうやだ。折角の石化チャンスが……」
3700年前は怖くて仕方がなかったあの閃光は、今となっては私にとっての希望でもあったのだ。
関わりたくないからそうなってしまえと思うほどに、私は石化されることを願っていたというのに。だというのに、それすら叶わないなんて。
今ここで私がヘマをしてもう一度石化装置を放たれてしまえば、今度こそ銀狼も石化してしまうだろう。
そうならないためには、私は一旦ここから逃げ延びなければならないのだ。嫌だと思っところで関わりたくないと願ったところで、現状からは逃げられない。
私はそう考え泣きそうになりながらも岸を目指して泳いでいく。
革の服が水を吸ったせいかそれとも心が痛むせいかわからないが、いつも以上に体は重く泳ぐのが酷くつらかった。